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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第三章 おっぱい大脱走編
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第17話 対決! ササレクタ!! その5 

「まあ、別にそこまで大したことでは、ないんですのよ」

「ほう」


 したり顔から一転。謙虚な前振りを言いながら、ササレクタは、おどけた感じで肩をすくめる。


「まず、地面を砕いて土埃を撒いたのは、これは勿論、姫ちゃんの視界を奪うためですわね」

「どうやって攻め込むか見せないように、だよな?」

「ですわね」


 レイセインとの入れ替わり。グスコとの突撃を、投擲だと思わせるため。あとは、グスコの後ろに、隠れやすくするためだな。理由は、これくらいだろう。 


「それから、レイセインちゃんに姫ちゃんの状況を教えてもらいましたわ」

「あー。やっぱレイセインかー」

「う・ふ・ふ。ですわ」


 レイセインに目を向けると、彼女も頷いて肯定する。だよねー。元々私は、ササレクタに秘策があったと思っていた。それで居場所が分かって、グスコをぶん投げたんだって。でも、落ち着いて冷静に考えれば簡単な話だ。入れ替わる時に、レイセインから教えてもらえばいい。


 そして、これで私の間合いも大体分かったんだろう。さっきお互い一度入って打ち合いしたし、こいつなら居場所さえ分かれば、それだけで簡単に推し測れたはず。間合いってのはその中に入ると、ちょっと違和感があるんだよね。こう見られているっていうかさ。それで分かるんだ。


「あ。もしかして、この時点で作戦が決まった?」

「ええ。姫ちゃんは後ろに下がって動いてない。そう聞いた時、これに決めましたわね」


 うへぇー。考えてた作戦は一つじゃなかったって事かい。「これ」って事はつまり、私が違う動きをしていたら、別の指示を出すつもりだったという事だ。流石流石。これも豊富な経験の成せる業か。


 多分、まずレイセインにだけ、何をするか簡単に伝えたんだろう。時間的にそれくらいしかできない。すぐに飛んできたし。グスコには、その後で一緒に突っ込むと言えば済む。


 作戦を相談する時間はないと思ったが、この指示だけの方法ならいけるか。だけど、これはやはりグスコとレイセインだから出来たことなんだろうけどね。


「入れ替わりの際、レイセインちゃんには、二つお願いしましたわ」


 ああ、やっぱりあいつに指示を出してたか。ササレクタは、右手の人差し指を立てた。


「一つ目は、姫ちゃん目指して飛んでもらう事。姫ちゃんがそのまま動かないよう、空から攻め込んでもらったんですの。足止め、ですわね」

「はー……。そういう事かー」


 私の位置をその場に固定、確定させたんだ。これでササレクタは、レイセインに教えてもらった通りの場所に目掛けて突っ込める。


わたくしだと、飛んで撃墜しようとするかもしれませんけど、レイセインちゃんならわたくしの攻撃を警戒して、姫ちゃんは飛ばない。動かず待ち構える。それが、移動しなくても攻撃できる、格好の位置へ落ちてくるともなれば、尚更。――そうでしょ?」

「ああ、その通りだ」


 事実、私はこの読み通りに動いてしまった。しかし、こう筋立てて言ってくれると、中々分かりやすいな。ササレクタは中指も立てる。


「二つ目は、上手く足止めが出来たら、大声を出してもらうこと。これは、作戦実行の合図だったんですの」

「そうだな、合図だった」

「それに、姫ちゃんの大まかな位置も再確認できますし、わたくしたちが飛び出す時に出る音も、聞こえにくくなりますわ」

「うん、そうだと思ったわ」

「ええ」


 これは、分かったよね。そうだろうなって思ってた。レイセインが叫んだと同時に、グスコが突っ込んできたんだもの。


「もし、駄目だったら失敗って一言だけ言ってもらうつもりでしたわね」

「ほっほう……」


 一応、失敗も計算に入れてたのか。


「そして、最後にグスコちゃんを後ろから押すようにして、姫ちゃんの間合いに入る前に突っ込んだって感じですわね」

「やっぱり、グスコは投げたんじゃないんだな?」

「う・ふ・ふ。ですわ」


 ついでに言えば、ササレクタがあの時私に内緒だと言ったのは、混乱したままにしておきたかったからだ。答えが知りたいのに聞けずもやもやして、気持ちの切り替えの阻害となった。私はそれを逆手にとり、話を続け時間稼ぎをして何とか隙を見つけようと思ったんだけど、バレてましたー。


「姫ちゃんは、さっきグスコちゃんを投げていましたから。わたくしが、同じことをしたと思い易いじゃないかと考えたんですの」

「成る程ね。それで見せかけた、と」

「そうですわね」


 はあ、しっかり利用されてしまったな。私は、こいつの思惑通りに連想しているから、誤認させる良い手だったと言えよう。


「ちなみに、グスコちゃんにも、命中するようだったら気付きやすいように、叫んでもらう手筈でしたのよ」

「え? そうだったの?」

「そうですわ」


 奇襲を失敗させる行為だから、良くないって思ってたのに。あれは作戦の内だったのか。


「いやていうか、何で気付きやすくするのよ? 逆じゃない?」


 対処されたら駄目だなんだから、気付かれない方が良いでしょーよ。


「そうすれば、姫ちゃんなら紙一重で・・・・、躱そうとするでしょ?」


 そう言うとササレクタは、片目を瞑り軽く首を傾むけた。

 

「はー……。仰る通りです……」


 そして、お前は私を掴みやすくなる、と。ぐはあ、やられた……。――あ。てことはさ。


「じゃあ、飛び出す時の僅かに聞こえた音も――」

「ですわ。その僅かに聞こえたってとこが肝ですわね」

「やっぱり……」


 私を紙一重で躱させるための布石だ、これも。


「声を利用して音を消そうとしたと錯覚させ、ただの攻撃ではなく奇襲が始まると察知させる。そして案の定グスコちゃんが飛んでくる。しかも大声を上げながら。すると、これなら楽勝で避けられる。奇襲は失敗、残念でしたーと慢心が生まれる」

「うっ……」


「綺麗に華麗にと欲も出ますわね。だけど、レイセインちゃんもすぐそこ。撃墜しなければならない。じゃあ、姫ちゃんならどうするか」

「――動きを最小限に抑えて避ける。そして、そのまま私の所に落ちてくるレイセインを叩こうとするな……」


「そう。姫ちゃんはその場を殆ど動かない。見切る必要もありますけど反撃も受けにくい、ぶつかる寸前で躱すという選択をする――。この可能性は、非常に高くなりますわ」

「ぐへえ……」


 そう言って、がっくりと肩を落とす。完璧に読まれてるよ、私の心……。


「う・ふ・ふ! ま、こんなところですわねえー」

「はー……。なるほどねー……」


 これは、私の性格を知っているササレクタならではの作戦だ。何度もやり合ったことがあるからこそ、思い付いたのだろう。あと戦う時の癖ね。そこを上手いこと突かれたわ。


 そして、レイセインの特殊能力。それから、ササレクタの姿を隠せるグスコの厳つい鎧。地面。この場で使えるものも、巧みに利用している。いやー参った。こいつは大したことないと言っていたが、そんな事はない。実に見事な作戦でした。


「何か質問があれば、受けますわよ?」

「質問?」


 ふむ、そうだな……。――あっ、一個あるわ。私はビシッと手を挙げた。


「はい! ササレクタ先生!」

「はい、姫ちゃん」


 ササレクタは私を指さす。


「レイセインとグスコの演技は、先生が指示したんでしょーか?」


 あれにも騙された。そして、私の油断を誘い作戦成功に一役買っている。でも、そんな指示を出せる余裕が、あったのだろうか? ちょっと気になったんだよね。すると、ササレクタは口を手で隠しながら笑って答える。


「う・ふ・ふ。してませんわ。二人の即興でしたわね」

「おおーやっぱり」


 流石は長年苦楽を共にして来た友人同士ってとこか。だから、いきなりああいう事もできるのかもしれないな。あと、ササレクタと組んでいたというのも大きいだろうね。


 久しぶりではあるけど、やはり経験があるのとないのとでは、その差は雲泥だろう。自身にある種の慣れみたいなものがあるから、状況に合わせてああいった演技も、可能となり易かろうて。


「やるな二人とも」

「ありがとうございます……、殿下」

「えへへ、であります」


 レイセインとグスコ。彼女たちがいなければ、この作戦は成り立たなかっただろう。説明を受ければやり方は分かる。だけど、いざそれをその通りに実行するとなると、そう簡単にできるものじゃない。しかも、あんな急場でだ。


 まず息を合わせる事が難しい。すると、微妙なズレが生じ、どうしても違和感が出る。最悪、作戦は上手くいかず破綻していただろう。


 レイセインは、飛び上がる高さを考えなければならかった。低いと早く着くから、ササレクタが助走して飛び出す前に、私はレイセインへ攻撃できたかもしれない。そして、叫ぶのも突撃の速さを計算して、機を見る必要があった。下手に遅ければ、ササレクタたちが辿り着く前に、これまた私の餌食だ。


 グスコは、後ろにへばりついたササレクタの姿を、隠さなければならなかった。体の角度が違えば、私から丸見えになる可能性だってあったのだ。しかし、彼女たちはこれらの事を見事やってのけた。しかも、演技をするというオマケつき。


 うんうん。ホント良い連携だったよ。自分が嵌められたとはいえ、これは拍手を送りたい気分だわ。私が感慨に耽っていると、ササレクタがくすりと笑う。


「しっかし姫ちゃんは、ホントちょろいですわねえ」

「は?」


 何いきなり?


「この作戦だけでなくこの二人の演技にも、ものの見事に引っ掛かってましたものねえ」

「なっ!?」

「ホント、単純。お・馬・鹿・さん、ですわ。う・ふ・ふ」

「お、お前えええええ!」


 こいつだきゃあああああ!! 言うに事欠いて、この私を馬鹿だとおおおおお!? むきいいいぃいー!

 悔しさに握りしめた拳が、わなわなと震え出す。お前には拍手ではなく、この拳をくれてやろうか!


――くうっ、落ち着け! 悔しいが、ここで怒ってもただの負け惜しみ。益はない。そして、思い出せ。こんな言葉に心を乱さる様な愚か者ではないという事を。そう、私は自重が出来る大人の女。本能の赴くままに人を殴らない知的美人。決して馬鹿などではないのだ!


「――確かに、私は引っ掛かった。それは潔く認めよう……」


 私はぐっとこらえ、声を絞り出す。


「あら? 素直に認めるなんて。殊勝な心がけですわねえ」

「だが、やり過ぎだぞ、お前!」

「やり過ぎ?」

「周りを見てみろよ!」


 私はそう言うと、辺りの惨状に指をさす。ササレクタが飛び出してきた時にできた破壊の跡。ササレクタが石畳を爆散させた時に出来た瓦礫の山、穿たれた地面。そして、ササレクタが私を蹴り飛ばして叩きつけられた時にできた抉れた穴。それは、こいつがやりたい放題に大暴れした結果であった。


「どうすんだよ、これ!?」


 ホントどうするんでしょうかねえ? 誰が修理費出すの、ねえ? それは、この惨状を作り出した張本人! つまり、お前だあああああ!! くけけけけけけ!! ざまあみろ!


「う・ふ・ふ――」


 しかし私の言葉に、ササレクタは不敵に笑う。


わたくしは、陛下の命令に最善を尽くしたまでですわよ?」


 そして、しれっとこんな事を言い出した。


「何だと!? お前、そんな事が通用すると思ってんのかよ!?」

「通用するも何も、姫ちゃんが言うこと聞かないのが悪いんですわ。大人しく王宮に戻れば、こんな事にはならなかったわけですし」

「うぐ!? そ、それは――」

 

 ササレクタは両手を腰に当てて、ずいっと前に出る。


「それなのにそれを無視して、その指示に、つまり陛下の命令に従わず逃げようとして、姫ちゃんは暴れた――」

「なあ!?」

わたくしたちは、ただただそれを止めようとしただけですわ。ですから、全責任は姫ちゃんにあるということですわねえ」

「はああああ!? そんな訳ないだろうが!」


 私は、憤慨して声を荒げる。お前、なに都合のいいこと言ってんだよ!? ふざけんなよ!!


「はあ……。あのね姫ちゃん」

「ああん? 何だよ?」

わたくし、やる前に投降しなさいと言いましたわよ?」

「はあ?」


 それは、確かに言ってたけど――。


「投降しないなら、力づくで連れて帰るしかありませんものねえ」

「ああっ!」


 私はササレクタの思惑に気付いた。やられた……。だから私に言質を取ったんだ……。あれは保身の一言。ここで思う存分暴れても後で問題にならない様、責任転嫁の言い訳にするためのもの――! 私はササレクタをキッと睨み付ける。


「ずるい! お前はずるい!」

「う・ふ・ふ・ふ! 何がずるいのやら。わたくしには、とーんと見当がつきませんわ」


 ササレクタはにやりと笑うと、すまし顔になってそっぽを向く。


「お前は絶対自分の意志で、私と戦いたがってただろうが!」

「知りませんわねー。何の事やら、ですわ」


 こいつぅぅぅぅ!


「と言うわけで、ここの修繕費は姫ちゃんが払うのが筋。陛下とクロウガル様に怒られるのも姫ちゃんだけ。そうですわよね? レイセインちゃん、グスコちゃん?」

「はい……。仰る通りです……」

「そ、そうでありますね。小官達は何の責任もないであります……」


 二人は私から顔を背けながら、ササレクタの意見に賛同する。


「お前らああああー!」

「う・ふ・ふ。気に入らないのなら、陛下の前で弁明してみてはいかが? それでも、わたくしは勝つ自信がありましてよ?」

「ぐうううっ!」


 ちくしょう、こいつの言うとおりだ! 勝てる気がしない! 絶対私が悪いって言われる! 何故なら私が脱走してるからあああ! 


「う・ふ・ふ! わたくしは、姫ちゃんと違ってお馬鹿さんじゃありませんもの。ちゃーんと考えてますわー」

「ぐぬぬぬぬ……!!」


 おのれササレクタ! こいつはもう許さん! こてんぱんにしてやる! 


「続きだ! 続きをやるぞ!」

「いいですわよ。かかってらっしゃいな」


 私たちは再び構え始めた。すると――。


『きゃあああああ!! ササレクタ様、頑張ってええええ!!』


 ササレクタに向かって、若い女性たちの黄色い声援が飛び交う。着ている服は軍のものだが一般兵じゃないな。鎧を着けていない。演習が終わったのに何してんだろって事務員が出てきてるのかな。周りをよく見渡すと他にも沢山、似たような者達が見えた。


 そして、演習に参加していた兵達と一緒になって、遠巻きで私達を囲んでいる。気付けばこの場所は、訓練の場から見世物の場になってしまっていた。


『うおおおおおお!! 負けないでくだされええ、姫様ああああ!!』

「…………」


 ササレクタと違い私に向かってくるのは、先生や父様くらいの年代であろう兵たちからの野太い声援のみ。

 何でおっさん達にだけ人気あんのよ、私……。まあ無いよりましか。


「さあ、張った張った!」

「皆! そろそろ締め切るよん!」

「ん?」


 威勢のいい声が聞こえた。しかも、聞き覚えがある声だ。気になってそちらに目をやる。すると、二人の侍従官のしゃきしゃき動く姿を、私は発見した。 

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