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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第三章 おっぱい大脱走編
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第11話 リリシーナ包囲網を突破せよ! その2

 見覚えのある鎧だ。あれは確か――。


 その騎士は、門の近くで馬を止める。私も大声を上げれば、その声が届くくらいの距離だ。そして、武骨な兜を頭から外した。すると鮮やかな緑色の髪をした女性の顔が現れる。髪は後ろで一つに纏めて、うなじ辺りでお団子のようにしているようだ。兜を被るからな。そうなるか。


 きりりとした精悍なこの顔立ちにも見覚えがある。まあ、あんな厳つい全身鎧を着た女性なんて一人しかいない。

 私も良く知るその騎士は、一度敬礼すると子供くらいの大きさがある拡声器を、側面についている取っ手を持ちながらこちらに向け口へと当てた。


「えー殿下! おはようございます! 王都守護兵団、副司令官ジョーテッペ・グスコ・キャステオウルであります!」


 そう、グスコちゃんだ。

 空位である王都守護の全権を司る聖騎士将。その代わりに王都守護兵団の指揮を執る司令官、その左腕。『剛壁ごうへき』の異名を持つ女性士官である。


 私より年上だが、一個か二個くらいしか違わなかったかな? ま、同年代だ。グスコは、私が声は届いてるよと手を上げると、それを確認してか再び敬礼して話を続けた。


「えー本日は大変お日柄もよく、天気も青空が澄み渡る晴れ! 非常に素晴らしい訓練日和とあいなりました!」

「――訓練?」


 私とイルミネーニャは顔を見合わせる。


「今回の訓練は、実戦に近い状態で行うという事で、実行日の事前通達は司令官のみとなっておりました! しかしながら、それでも予想以上に軍の集結が完了し、陣の展開も迅速にできたのではないかと愚見する次第であります!」

「あ! これ軍事演習か!」


 私はハッとして思わず声を出した。この軍事演習は、色々な事態を想定してそれに対処できるよう、この兵団がよく行っているものだ。大規模なものは年に何回もないが、小さなものはちょくちょくある。


 思い出した。偶にやってるよな、こいつら。私も見かけたことがある。

 そうか! シビアナはこれを知ってたんだな! だから利用して――! 私は瞬時に合点がいった。


 グスコは、事前通達は司令官のみって言っていた。だから、兵達は訓練をやること自体は知っていても、いつやるのかはまでは知らなかったようだ。これなら、シビアナからの命令を受けた軍司令官が「今やれ」と指示を出せば、彼らは何の疑いもなく「ああ、これからやるのか」って思うはずだ。すぐさま行動に移すだろう。そして、そんな命令を軍司令官なんかに出せるのは、今の奴だからこそ。


「シビアナ、あいつ……。やっぱり使ってやがるな……」


 私は、はっきりと確信した。


 それは、軍の行動に侍従官が介入できているという、特異なこの現状に対する答え。

 トゥアール王国の国王である父様自ら、シビアナへ直々に授けた特待権限。


『王女代行執行権』


 緊急及び正当な理由があれば、王女であるこの私の許可を取らなくても、代わりに命令を出すことが出来る極めて強い権能である。軍事演習の口出しくらいなら、王女権限の範疇だ。問題なく出来る。シビアナは、この権限を、行使しているに違いないなかった。

 

 王族の側付侍従官には、他の側付とは違い色んな特権を持つ。例えば、出が平民であっても身分は貴族に相当するし、発言力もそれ相応に強い。王族に、堂々と諫言を言う権利もあるくらいだしね。


 しかし、いくらシビアナが王族の側付侍従官、その筆頭であっても、この権限は異例中の異例である。

 トゥアール王国の長い歴史の中でも、前例は一度たりともないのだ。王族でもないのに、王女の代わりが出来るわけだからこれは当然。


 だが、父様はこの権限を態々新たに定め、シビアナに与えた。この力はあいつの為だけにあるもの。専用と言うわけさ。王女代行執行権は、父様のシビアナに対する信頼の証でもあるのだ。


 とはいえ、王女の代わりに命令を出すわけだから、私的に流用すれば厳罰に処されることになっている。

 でも、今回は私の脱走を阻止するという大義名分がある。故に、権限の行使は余裕で使用可能であろう。


 しかもだ。この軍事演習は既にやることが決まっていた訓練だ。そう、訓練。

 だから、シビアナが勝手に軍を動かしたという事実はないに等しい。横暴な独断専行でもなんでもなく、責任問題なぞはなからありもしないのだ。また、こういった訓練は、民の皆にも理解があり、苦情の類はあろうとも中止を求めるような陳情まではなかったはず。


 いや、参った。道理で、臨戦態勢を敷いてまで私の脱走を阻止するなんて、そんな非常識なことが出来たわけだよ。これなら、どこから文句がでようとも、簡単に対処できてしまう。


「えー、狼煙玉の打ち上げ訓練の方も、無事終了であります! 元々は、狼煙玉を上げてからの召集の予定でありましたが、今回は打ち上げ練習を最優先にということで、急遽きゅうきょ全門における打ち上げ訓練に変更したであります! ですがこの訓練も、手際よく行えたと報告されているであります!」

「……はあ。そういう事……」

「姫姉?」


「ただ、演習全体として問題点や改善すべき点も発見できましたので、これは後日報告書に纏めてお伝えさせて頂く所存であります!」


 どうやら、狼煙玉やササレクタ達は、軍の集結には無関係だったらしい。そして、あの布陣の速さもこれで納得できた。やはり狼煙玉を打ち上げる前から、軍の準備は始まっていたのだ。加えて、狼煙玉なしという、このいきなりな変更。これも間違いなく奴が介入している。


 私が外壁門を逸れようとした時に上がった、あの白い狼煙玉はまず間違いなく。

 でも、その後のはどうだろう? あの滅茶苦茶な狼煙玉の色……。

 もしかしたら、シビアナの策は関係なく、ただ単純に打ち上げの訓練に使っただけかもしれないな。


 まあ、それでも罠を仕込んでいないとは断言できないか。

 いやむしろ、あったと思っていた方が正解なんだろうがな。


「えー殿下! 報告は、以上であります!」


 グスコはそう言うと、こちらに向かって敬礼をする。私は手を一振りしててそれに答えた。

 ありがとさん。おかげで、色々と謎が解けたわ。


「えっと、姫姉これどうなってるの?」

「んー……。シビアナが、何を仕掛けてきていたのか、少し分かったって事さ」

「え?」


 全部じゃないんだよね。未だに分からないことだらけ。

 ササレクタが、どうしてここにいるのかも意味不明だし。

 

「えええええええええ!?」


 わっ。ビックリした。

 脇から急に、ルミネーニャが驚愕の声を上げた。反射的に見てみれば、血の気がすっかり引いて顔面蒼白、先程より尚一層怯えた様子である。


「急にどした? 世界の終りみたいな顔して?」

「嘘……。姫姉、シビ姉にも狙われてるの!?」

「え? ああ、そうだけど」


 何を今さら。


「ききき聞いてない! あたし聞いてないよそんな事! 何でシビ姉と争ってんだよ!」


 …………あ。

 この子知らなかったんだっけ。


「えっと……」

「何考えてんだよ!? 一番敵にしちゃあいけない相手だろ!? あの二人より更に恐ろしい事に、なるしかないじゃないか!」

「い、いやそのな?」


 お前、なるしかないって……。確定済みかよ。

 でも、まずったあ……。シビアナの事言っちゃあいけなかったわ……。


「自首! 自首して! お願い、姫姉!」

「お、おい」


 今までとは勢いが全く違う。イルミネーニャは、必死の形相で私に懇願してきた。私が自首するなら、土下座でも何でもしますと言わんばかりだ。


「絶対無駄だから! それに、シビ姉怒らせたらどうなるか、姫姉が一番知ってるでしょ!?」

「お、落ち着けって」

「あわわわわ――! どうしよう! どうしよう!」


 ていうか、お前の中でシビアナってどんな感じになってるの?

 何だ、この狼狽っぷりは?

 

「い、嫌だああああ! シビ姉に怒られるううう! セイン姉ええええ!! 助けて、セイン姉ええええええ!!」


 しかも、錯乱して対岸のレイセインにまで、助けを求める始末。

 流石にこの距離では、あいつでも聞こえんだろうに……。って、おい! 暴れんな! またお尻叩くぞ!

 イルミネーニャが私の腕の中で、じたばたともがき始めた。


「離して! 離して! 離して! 離して――! いやあああ! あたしは無関係だあああああああ!!」

「ええい! だまらっしゃい!」

「うわああああん!」


 全くこの子は! もうちょっと度胸をつけなさいよ! シビアナがなんだってんだ!

 私は既に覚悟決めてんだよ! 後の事は何も考えない様にしてんの! そしたら、へっちゃらだろうが!

 シ、シビアナなんて全然怖くないんだからね! ふん!


「えーでは! 続いてですが、本日の訓練に新しく追加された、最終種目へ入らせて頂くであります!」


 私達がぎゃーぎゃーと騒いでいると、グスコの声が再び聞こえてきた。


「は? 最終種目?」

「ぐすっ。何?」


 まだ何かあるのかよ?


「ご存知だとは思いますが、ここで改めてご説明させて頂くであります! 報連相は大切であります! えー殿下のような達人級の武人が王宮に侵入し、人質を取って逃亡! これを外壁門前で待ち構え人質を救出するという、まあつまり、殿下と王都守護兵団の決闘であります!」

「……何それ」


――ああ。

 それで、こちらに向かって展開してるんだな。

 私の脱走を知ってのこの布陣だと思っていたんだが、どうやら最後に行う訓練のためだったようだ。


 もしかして軍の連中は、私が脱走した事について何も知らないのかな?

 副指令のグスコくらいなら知ってるかもだが。


 シビアナは、あくまで訓練の一環として捕まえるという体裁をとるつもりなのだろうか。まあ、お姫様が王宮を脱走して、それを捕まえるために軍が動いたってのは世間体がよくないか。


 しかし、そんなの私には関係ない。そしてこいつらは、みな倒すべき敵。実戦だろうが訓練だろうが同じことだ。ていうか、兵の相手をしなきゃいけないんだっけ。すっかり忘れてたわ。


「――え? 人質ってあたし?」

「そだよ」


 お前以外に誰がいる?


「ちょっ――!?」


 でも、この訓練の内容だと私を拘束できなくないか? 趣旨が違うよね。イルミネーニャさえ確保すればいいらしいし。ああ、その為のあの二人か。兵を囮にして、ササレクタとレイセインが私を捕まえるつもりなのかな。


「今回、真剣の類は使用しないであります! 使用するのは、捕縛道具を主とし、木剣や棍棒といった殺傷能力を持たない武器のみであります!」

「殺傷能力持たないって……」


 いや、それはお前だから言える事であって、普通にあると思うよ? 

 撲殺って言葉知らないの?


「勝敗のつけ方は単純であります! 殿下が外壁門に到達した場合は、殿下の勝ち! 逆に、殿下が外壁門に到達する前に、そちらの侍従官殿を奪取できたなら、こちらの勝ちであります!」

「はい! はい! あ、あたし投降する! もう降参する!」


 イルミネーニャが手を挙げて、即座に白旗を掲げる。

 また、この子は……。側は猫のようなのに、中身は本当に子犬だよな。

 仰向けに転がって、目を潤ませながらお腹を見せている――そんな姿を髣髴ほうふつとさせる。


 しかし、ふうむ……。そう……、だな。これは、案外悪くない選択じゃないか? 最初だけ適当に付き合って、それから失敗した振りでもしてイルミネーニャをすぐに渡せば、それまで。模擬戦は終了し、兵は撤収。しかも、ササレクタとレイセインも撤収。


 うーん。いや、こいつらは残りそうだな。私の確保が目的だろうし。まあ、あいつらが残るんだったら始末するまで。早々に叩き潰してしてくれるわ。ぎゅふふふふ。

 そしてそれが済んだら、グスコにイルミネーニャを返してもらい外壁門をとっとと抜ける。うん、これはいける。やはり、一万の軍がいなくなるのは大きい。本当に悪くないな。だが――。


「イルミネーニャ、ちょい待ち」

「い、嫌だあああ! あたしは嫌だあああ! これシビ姉が闇で操ってるんでしょ!? 投降するううううう!!」


 闇じゃなくて裏な。

 でも、妙にしっくりくるからあながち間違いでもないか。


「落ち着けって。これはそのシビアナの罠なんだよ」

「――え?」


 イルミネーニャを差し出す――つまり、私が態と負けるというこの選択。これは、シビアナの想定内だ。

 奴の目的はもちろん私の確保。その妨げになるようなこと、そんなことは許しはしない。私の逃げ道は全て潰しにかかってきているはず。――よし、ちょっと試してみるか。


「えー! これで最終種目の説明を終了するであります!」


 丁度良く、グスコの話も終わったようだ。私はまた手を一振りして彼女に答えると、門のきわまで歩を進める。そして、大きく息を吸い込んだ。


「トゥアール王国第一王女! トゥアール・リリシーナ・ヴァインである!!」


 私の言葉が辺りに大きくこだまする。周りは静まり返っていた。少し強い風の音が聞こえるのみ。

 イルミネーニャも大人しく黙っている。でも、こういう時ってさ、いつも思うんだけど噛んだら相当恥ずかしいよね。やり直し効かないんだもん。


「えー……こほん」


 ま、それはさておき――。


「解散!!!」


 私は大声で叫んだ。


「模擬戦は取り止めだ! 本日はこれまで! みな、大義であった!」


 兵を撤収させるというなら、何も戦う必要はない。これが一番手っ取り早い。

 さて、これでどういった結果を生むのか。軍がどういった反応をするのか待っていると、グスコが敬礼して拡声器をこちらに向けた。


「えー、殿下! シビアナ様より伝言を言付かっているであります!」

「だろうな」


 さあ、あいつはどういった方法で阻んでくるのやら。


「『模擬戦をしない、それから負けた場合は――』」


 ふむ、両方ともか。


「『一年間お小遣いなし!!』だそうであります!」


 …………。


「はあああああああああ!?」


 一年!? 今一年って言った!?  

 あ、あいつうううう! 人のお小遣いをそんな勝手に――!


 だが、私の小遣いをくれるのは太老院。そして、その長はクロウガルである。「そうですなあ、別に死ぬこともないですし、一年くらい要らんですな。よし問題なし!」とかなんとか言いそうじゃん! あいつはシビアナ派なんだよ! 間違いなく、私はお小遣いを貰えなくなるわ!

 

 ぐぬぬぬ……。まさか、こういう手で来ようとは! 大人しくおのが策に従い、素直にこいつらと戦わなければ、この私の懐に大損害を与える。さらには、決して負けることは許されないのだと、私を精神的に追い詰めるオマケつき――! 何という卑劣な手段――!


「ふっ。ふふふふふふ……」

 

 だが甘いな……。今の私を見くびらないで貰いたい。


「それで構わぬ! 解散せよ!!」


 身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。

 あいつの策を破るには、この身を削り更にその斜め上を目指すしかないのだ。だから、このくらいは覚悟の上なのだよ! どうだ! 参ったか! ふはははは! ――うわああああん! 私のお小遣いいいい!


「凄い、姫姉……」


 はいここで、イルミネーニャから尊敬の眼差しを頂きました!

 でもその対価は酷いものであります! 私は血の涙を流しておりますよ! 


「ふふん。まあな」


 やせ我慢をしながら、イルミネーニャにそう答えた。

 はあ……。まあ、いいさ。もう言っちゃったし。でも一年間は倹約生活だな……。


 元々私はあまりお金を使わない。宝石とか貴金属といった高価なものも、あんまり興味ないし。

 おかげで残ったお金を貯めることができている。それを切り崩していけば、何とかなるだろう。


 イルミネーニャとの約束も大丈夫。ちゃんと好きなのを買ってあげよう。


「じゃ、じゃあこれでもう、あの兵隊達と戦うことは無いんだね?」

「そういう事だ」

「はあ……。良かったあ……。一時はどうなる事かと――」


 それにまあ……。貰えなくても、他に当てがある。小遣い稼ぎをする手段があるのだ。

 最悪それをしてもいいしね。というわけで――。


 私の勝だ、シビアナあああ!! 

 おらおら! さっさと撤収しろ! うははははは! 


「えー、殿下! こういう時用にも、伝言を言付かっているであります!」

「――は?」

「『もし、この模擬戦に殿下が勝った場合――!』」


 私が勝った場合? そんな事決める必要なんかないだろ? 

 私にやる気を出させて、シビアナに何の利益があ――。


「『――テレルちゃんとお泊り! しかも外泊!』だそうであります!」

「何だと!!!?」

「ちょっ!? ひ、姫姉?」


 テレルとお泊り、お泊り、お泊り――。

 目を閉じた私の中で、何度も反芻はんすうされていくこの言葉。それは甘美な夢のような心地。心が躍り希望に満ち溢れ期待に胸が弾むこの昂揚感。最近やさぐれ気味だった私のくすんだ心を、綺麗に華やかに瞬く間に彩った。でへへへ。


「姫姉!」


 テレルと外泊、外泊、外泊――。

 目を閉じた私の中で、何度も反芻はんすうされていくこの言葉。それは――、え!? 外泊うううう!?


 我がまなこは、未だかつてないほどの強い意思を持ち瞠目された。


「姫姉ってば!!」

「とう!」


 そして、私は勢いよく門から飛び降りる。


「ええええええええ!?」


 地面に着地するとグスコに向かい合い、すぐさま我が不退転の決意を伝えた。


「よかろう! 心して掛かってこい!!」

「はっ! ありがとうございます!」

「姫姉ええええええええええええー!!」


 敬礼をしたグスコは、そのまま馬を走らせ元の陣へと戻っていった。


「姫姉の馬鹿馬鹿馬鹿ああああ!! どうすんだよ!? あんな数の兵隊に向かってこられたら、一溜りもないじゃないかああああ!?」

「心配すんな、イルミネーニャ」

「え?」

「一緒に連れてってやるから!」


 皆でわいわいやろうじゃないか!


「そういう事じゃないでしよおおおおお!!?」

「ふはははは! 完全勝利をこの手にいいいー!」


 私はこの澄み渡った大空に、力強く拳を握りその拳を高々と掲げた。


「聞・い・て! 聞いてよ! ねえ、姫姉ってばあああああ!」


 三つの陣の中心辺りが定位置だったのか、グスコは馬をそこで止めるとぐるりとこちらに回し、再び拡声器を口に当て私に向かい合った。


「えー、では最後に重要なお知らせをお伝えするであります! ――殿下!」

「何だ!」


 早くしろ! 私は急いでいるんだ。お前らを殴り飛ばしてさっさと先へ進むんだよ!

 そして、テレルと一緒に遊ぶ権利をも手に入れるのさ! しかもそれは、が・い・は・く! うへへへ!


 よもや、こんな所でこのような機会に巡り会うとは、思いもよらぬことであった。

 テレルとの外泊、これすなわちあの子との観光旅行なのである。絶対の絶対にもぎ取ってみせる!

 だから、今さら嘘でしたとか、そんな事冗談でも言ってみろ! お前は死ぬぞ!


「我らが勝利した暁には、賞金が出るであります! 全員に小金貨五十枚であります!」

「……は?」


 五十枚って……。ここに一万人くらいいるんだから――、おいおい!

 小金貨六十万枚くらいの賞金になるんじゃない!?


 小金貨が、五十枚あれば半年は遊んで暮らせるはず。そして、六十万枚もあれば、貴族街の一等地に豪華家具付きの大豪邸が建つ。

 ああ! だから、こいつらあんなにやる気を漲らせてたのか! 私は先程感じた軍の様子を思い出した。

 ていうか、そんな大金どこから捻出するんだよ!? 何考えてんだあのアホシビアナは!? 


「…………あ!」


 おい、まさか!? 私のお小遣いか!? いやでも、六十万枚なんて一年間のお小遣いより大分多い――。おいおいおいおいおいおい! 私はとんでもない事実に気が付いた。

 まさか、私の今まで貯めてきたお金も、全て根こそぎ持って行く気か!? それなら、その金額にそれなりに届くかもしれない。だけど、それじゃあ私はスッカラカン。スッテンテンの貧乏王女。出稼ぎ決定。最悪である。


 馬鹿なの!? あいつはホント、ホント馬鹿なの!!?

 とんでもない……。とんでもないよ! これは負けられん! 絶対に勝つしかないぞ!


「みんなあああああああ!! 賞金が欲しいでありますかあああああ!?」

『おおおおおおおおおおおおおおお!!』


 グスコの呼び掛けに、気合の入った雄叫びの大合唱が響く。そりゃ、小金貨五十枚だもんね。


「何としてでも、欲しいでありますかあああああ!?」

『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』

 

 ノリがいいなあ、おい……。

 何でうちの連中って軍とかそう言うの関係なく、こう調子いいんだろうかね?


「死ぬのは、怖くないでありますかあああああ!?」

『……お、おおおおおおおお……!』

 

 いや、死ぬのは嫌だろ? しかも、こんな訓練でさ。

 ちょっと間があったな……。声は揃わず、ばらついてるし。やるんなら最後まで合わせられる文句にしろよ。ったく。


「えーこの様に、皆やる気満々であります!」


 グスコは、自信満々に言い切った。


「ええー……」


 腑に落ちないわ。最後ので台無しだろ? 


「それで、殿下!」


 んだよ?


「帰ったらこの賞金で妻に指輪を買ってやるんだとか、結婚式を挙げるんだとか、そういう事を口走る者達が大勢いるのであります! ですので、こういった事情を察して頂きたいのであります! こちらは本気でやらせて頂きますが、どうぞ! 何卒! お手柔らかに! 決して死傷者がでないようお願い申し上げるであります! 本当にお願いします!!」

「知らねーよ!」


 何でそこまで気を遣わなきゃならんのだ!? 怪我したくないなら向かってくんな!

 それに、お前死ぬの怖くないとか言ったばかりじゃんかよ! 自分の言葉に責任を持て!


 私だって負けられないんだ。テレルと旅行するなんて、そんな機会滅多にない。必ず掴み取ってやる! あと、こんなしょーもない事で小金貨六十万枚なんて、そんな大金払うわけないだろうが! 


「ちなみに、殿下を万が一捕縛できた場合、その者には小金貨十万枚と勲章が、特別賞与として下賜されるであります!」

「はあ!?」


 何だよ十万枚って!? 高すぎるだろ!? 私は極悪賞金首か!

 ちなみに、私が知る限り賞金首にかけられた最高金額は、小金貨千枚である。


「それでは、始めたいと思うであります!」


 グスコはそう言うと、左手で拡声器を持ったまま、右腕をスッと空に向かって伸ばした。


「え? おい、ちょっ――!」

「全軍!! 突撃いいいい!!!」

『おおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 彼女が腕を振り下ろすと、一万人に及ぶ魂の喊声かんせいが周囲一帯に轟く。

 そして、三つの陣が私――じゃなくイルミネーニャ目がけて、一斉に怒涛の前進を始めた。


「いやああああああああああああああ!!?」


 最後に、今まで聞き流していたイルミネーニャから悲鳴が聞こえ、戦闘開始!!

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