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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第三章 おっぱい大脱走編
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第10話 リリシーナ包囲網を突破せよ!

 私は、中層と外層を隔てる内壁にある南門へ辿り着くと、その上に駆け登り、そこから外層の様子を見下ろす。

 ここに来るまでにも、兵の動きは見えることは見えていた。だが、外壁門に近づくにつれ内壁がどんどん高くなって死角となってしまい、外層の様子が殆んど分からくなってしまっていたのだ。


 だから、ここに登ってはじめて、その全容を知ることになった。


「本当に、集まってやがるな……」

「すん、すん……」


 もう、すごい数の兵が、外壁門の前に集結している。

 一言で言えば、壮観。一糸乱れぬ各編隊の様相は見事。よく訓練されている証左でもある。


 これを見れば、国の誰もがこの軍を誇らしく頼もしく思う事だろう。私だって、こんな時でさえなければ素直にそう思えるのだろうけど。


「はあ……。これ突破すんのかよ……」

「ひっく、ひっく……」


 超絶に面倒くさい。これが、今の率直な感想だ。

 分かってはいたけど、実際この眼で見るとその厄介さに、辟易してしまう。これなら外壁門を逸れて、父様とやり合った方が良かったかなあ……。


 王都には所轄ごとに大きく分けて三つの軍がある。やってることは皆似たり寄ったりだが、兵の数は大分違う。

 ここに集まっているのはその一つ、『王都守護兵団』という軍だ。平時は主に、王宮から外壁にかけての治安維持。そして、戦時にはその名の通り王都を守護する兵として戦うことになっている。兵力は一万人強。


 ついでに言えば、王宮内は『王宮近衛兵団』。王宮兵士と近衛騎士隊で編成された宮中を警衛する者達だ。カトゼの武人達は、軍人じゃないから含まれていない。


 規模は、ここが一番が小さいか。三千人くらい。とはいえ、王国最強の騎士と謳われる近衛騎士隊がおり、兵力だけでは測れないものがある。


 外壁の外は、『中央王国軍』という軍の管轄で、兵の数はここが一番多い。確か五万だったか。王都にいるのが三万で、他は周辺に散らばっているって感じだな。


 そして、本来これら全てを統括するのが、現在空席である『聖騎士将せいきししょう』となる。

 今はいないので、各軍の長が合議しながらのやり繰りだ。


「ていうかさ……。何か、すっごい注目を浴びているよね……」


 外層を見渡して気付いたんだが……。

 兵の視線が皆、門の上にいる私に向かっている気がする。顔がこっち向いてるし。しかも、こんな朝っぱらだというのに、全員やる気満々じゃないか? 何故だか知らないが、軍全体から異様な覇気を感じる。


 それにさ、なんか兵の数も多すぎる気がするんですけど……。私は、軍の規模にも少し違和感を覚えた。臨戦態勢は攻城戦を想定している。当然、外壁に門があるのはここだけなわけだから、兵の数は一番多く置かれる。でもだからといって、この広い外層で他の場所に兵を配置させないわけにはいかない。


 南に位置するこの外壁門の他に東、西、北にも軍事拠点がある。ここほどの兵力は置かないが、通常はそちらにも兵を配置するはずなのだ。


 とはいえ、外層はとても広い。実際の攻城戦になった場合、外壁の周囲全てに効率よく兵を分散させて配置するには、今の兵数でも全く足りない。でも、これは大丈夫。外壁の外にいる中央王国軍の兵達が、国民を外壁内に避難させつつ戻ってくるようになっているのだ。これで兵の数は三倍以上になる。


 でも、やっぱり籠城とかしたくないよね。夜にいきなり攻めて来られたらと思うと特に。それに、数か所からの同時攻撃になったら、兵が行ったり来たりしなけりゃいけないしさ。まあ、その補填のために、私がいるようなものなのだが。


 ちょっと、数えてみるか。えーと……。各大隊は、一つにつき五百人程度だったはず。その大隊は、今回四角になって編成されている。隣接する他の大隊と隙間を作っているから、綺麗に区切られていてそれがよく分かった。おかげで、大軍とはいえ幾分数えやすいか。


 陣形は、『三方包囲陣さんぽうほういじん』と呼ばれるものだ。軍を三つに分け、門の正面に向かって凸型で、左右にも向かい合う様に凸型の布陣。これで、門から入って来た敵を囲み、ボッコボコに出来るって寸法さ。


 場合によっては、この陣に加え囲いをするように手前へ柵を置いたりもする。敵の進行を止めるわけだ。そこに弓矢の雨を降らせてからの袋叩き、という戦法だな。今日は柵を見当たらないから、その戦法は使わないようだけど。


 そして、通常は外壁門に向かって展開するべきこの陣も、今はこの南門に向かって――つまり私に対して展開を完了している。どうやら向こうにも、私の脱走がバレている模様。でないと、こちらに向かって陣を配置するなんてことはしないだろう。


「ふむ、左右は同じ数か……。で、正面は――」


 兵の振り分けは、左右にそれぞれ二千五百ぐらいだと分かった。

 正面は、外壁門を守るように縦長で――、五千だ。無難な布陣である。兵は合計の結果、一万人強いるようだ。


「って、全部じゃん! 全部ここに集結してんじゃん!」

「ふぐっ。ふぐっ……」


 王都守護兵団、全兵力が来てた。正確には、ほぼ全部だろうけど。各門の開け閉めとかあるし。

 そして、そんな事を考えれる奴はただ一人。


 シビアナあああああああ!! 奴の差し金である事は、言うまでもない。

 おう、やったるわ! 覚悟しろよ! 私の前に立つものは、全て吹き飛ばしてくれるわ!


 あいつが軍に対して直に指示や命令を下すのは、越権行為である。狼煙玉だってそうだ。組織や命令系統が全く違う軍に、侍従官がそんな事はできない。――通常は。通常ではない今、あいつはそれを可能とする手段を手に入れているのだ。


 程なくして、足元から地響きのような音が轟き、私達の体を揺らし始める。

 三つの門口の王宮側と外壁側の出入り口にある、落とし格子を降ろしているのだ。これ上手くやれば、敵が入って来たと同時に降ろして閉じ込めることもできるんだよね。その後は、煮るなり焼くなりお好きにどうぞって感じだな。


 門にはこの格子の他に、両開きの扉もある。これは各門口に一つ。門の内側には左右両脇にそれぞれ扉がぴったりと壁にくっついていて、閉める時はそれを引っ張り出すのだ。王都の門は、かなり奥行きというか厚みがあるからね。だから、こういった構造になっている。今は開いた状態のままみたい。地面を引きずる音が聞こえなかったし。格子だけでいいのだろう。


 門の中央にある二つの格子が同時に地面へと落ち、一際大きな音が衝撃と共に周囲へと響く。これで外層と中層は完全に隔たれたか。恐らく他の門も同じように閉まっている事だろう。よって、兵の集結も終了。もう増えることは無いようだ。今眼下に見えるもの、これで全てらしい。


 しかし……、軍の展開も異常に速くないか? 既に兵の配置は、文句なしに完了済み。まるで、私が到着するのを待ってましたと言わんばかりだった。うーむ、これは……。


 遠くへ目をやるとその先には、百花門の倍はある堅牢な外壁門があり、門口三つ全て落とし格子が降りて、扉もしっかりと閉まっている。


 そして、外壁門と同じ高さの分厚い外壁が延々と聳そびえ立ち、その外壁の間と間にある塔がここからでも幾つか見える。この塔は内壁にも同じようにあるもので、壁の上に登るためのものだ。中に螺旋階段がある。それから尖端は、物見用の望楼になっているね。


 門や壁、塔などは『地剛石ちごうせき』という鉄より硬い白っぽい石で造り上げられている。

 だが、今は黒ずんでいるから、造られた当時とはまた違った姿となっていると推し測れよう。


 この王都が出来た頃からあるらしいから、そうなるのも仕様がない。

 でも、重厚さは今の方が増しているのではと思えた。白より黒の方がそういう印象を受けやすいよね。歴史も重みってやつも、あるのかもしれないな。


 だが、今の私にはそんな事は関係ない。

 ただの障害物以外の何物でもないのだ。そして、その外壁門の上には――。


「ササレクタ……。レイセイン……」


 ここからでは、何とか視認できる程度なのだが、小さく見えようとも姿や雰囲気で二人だと分かった。

 ササレクタからは、怒気のようなものもひしひしと感じる……。結構、機嫌が悪そうである。


 もしかしたら、あいつ等がここに来た時点で、臨戦態勢の命令が下っていたのか? 煙幕玉が上がって然程時が経っていない。その煙幕玉が上がる前に、通達から展開までが殆ど済んでいなければ、ここまで綺麗に陣を作れてないだろう。


 しかしまあ……。

 一体全体何をどうやったら、ここまでの事ができたのか。

 改めて、あいつの底知れぬ力の片鱗を見せつけられた心境である。シビアナは本当に恐ろしい奴だ。


「ううっ。ううう……玉ちゃん……」


 脇からは、がっしりと抱えているイルミネーニャの嗚咽がずっと聞こえている。

 先ほどまで、頑張って必死に逃げ出そうとしていたが、この私相手にそんな事ができるわけもなし。早々に体力を使い果たすと、頭と手足を垂らしてぐったりとしていた。


 だけど、何も泣かなくてもいいじゃない。そんなに嫌だったのかな?

 これじゃあまるで、私が誘拐犯、極悪人の様である。それに、この子のこの有様を見ていると、こっちまで悲しくなって胸がチクチクと痛む。これはいけないな。

 よし、じゃあちょっと元気づけてやろう。そう思った私は、イルミネーニャに優しく声を掛けた。


「イルミネーニャ」

「ぐすん、何……?」

「前を見てみろよ、凄いぞ」

「え……?」


 私の言葉に、涙目で鼻声のイルミネーニャが頭を上げる。すると、瞠目して眼前に広がる軍の姿に目が釘付けになった。

 そして、小刻みに体が震えだし、顔面が蒼白になっていく。ふふふ、見てると面白いね。この子の感情の変化が手に取るように分かるわ。イルミネーニャは、こちらへガバっと顔を向けると、再び泣きそうになりながら叫んだ。


「姫姉、何したの!? ねえ、何したんだよ!? どうしてこんな事になってんだよ!?」


 ふむふむ。事情を知らないこの子にとっては、全くもってご尤もな意見ですなあ。

 でも、どうして私が何かやらかしたって、真っ先に思うんだろ? 別の理由とか、あるかもしれないじゃん。


 イルミネーニャには、脱走している事は話していないし、多分、煙幕玉の取り決めた内容も知らないはずのだ。なのに、この子はこうやってすぐに私を疑う。ホント失礼しちゃいますわ! ぷんぷん!


「うーん。身に覚えないんだよねえ、全然?」

「嘘つくなよ! 絶っ対身に覚えがあるだろ!?」

「えー? そんな事ないよー」

「いーや! 絶対違う!」

「何だよー。信じてくんないのー?」

「当たり前だろ!? こういう時の姫姉は! 全っ然信用できないんだよ!」

「ちぇー」


 この子は本当に酷いわー。何の証拠もなしに、人を犯人扱いしてはいけないんだぞお?

 心の広ーい私だからいいものの、他の者だったらどうなることやら。一歩間違えれば、今後の人間関係に亀裂が入ること請け合いであーる。


「姫姉……」

「んー?」

「なあ、自首しよ? もうそれしか方法ないって。今、投降すればきっと罪も軽くなるよ? ね?」


 何故か慈しみの籠った優しい顔になって、私を説得し始めるイルミネーニャ。全く……。自首しろってそんな大層なことしてるわけないじゃん。


 やったのは、シビアナ。私はそれに巻き込まれちゃったの。はあ……。これどうやって弁明しよっかなあ。ホント次から次へと頭の痛い話である。


 ま、取り敢えず、これ以上自首を勧められては堪らん。この子を懐柔する事にしよう。本当はもう成功如何に関わらず買ってあげるつもりだったんだけどね。でも、ここは一つやる気を出して貰うために、買収工作も兼ねてちゃんと伝えておきますかな。


「イルミネーニャ」

「ん、自首する気になった?」


 するわけないでしょ。 


「あー……いや、その話じゃなくてだな。実は、レイセインに聞いたんだが、あいつがよく行ってる店に良い弓があるんだって」

「え……? 何いきなり?」

「ああ、ちょっとな。で、レイセインが言うには、なんとその弓は今まで見たこともない素材で出来ているらしんだよ。しかも、弓の反りが美しい曲線を描いてるんだそうだ」

「へ、へえー」

「あと、そこの店さ、可愛い矢筒とか他にも色々あるんだって」

「ふ、ふーん。そうなんだ……」


 イルミネーニャは、そわそわし始める。ふふふ、効いてるな、これ。

 この子って、こういうのに目がないんだよね。さてそれでは、ちゃっちゃと止めを刺しますか。


「で、私も興味があってな? どうだ、今度の休みにでも、それ一式買いに行かないか? レイセインも誘ってさ」

「セイン姉も?」

「そう。あいつの行きつけの店だからな。ああ、もしお前が気に入ったら買っていいぞ。費用はもちろん私持ちだ」

「え!? いいの!?」

「うんうん。いいともいいとも、本当だとも」

「わあ! ありがとう姫姉!」


 今までの涙顔から一転、花の咲いたような可愛いらしい笑顔だ。


「いいのいいの。ほら、お前にはいつも助けられてるし、これから協力してもらうじゃん? そのお礼さ」

「いやあ、助けてるなんてそんな……。でも、そっかあ、楽しみだなあ、どんなのだろ……? ふふっ。 ――ん? ――ん? 協、力……?」

「よおし、それでは今後の楽しい予定も決まった所で、頑張ってあの外壁門を突破しよーう!」

「……え?」

「さあ、行ってみようか!」


 そう言うと、私は外壁門に向かって歩き出した。


「無理無理無理無理無理無理無理無理! 無理だよ! こんなに一杯の兵隊どうしようもないよ!」


 しかし、イルミネーニャは、残像が出来るほど何度も素早くかぶりを振り、それを拒否。私は門から飛び降りる寸前で歩みを止めた。

 うーむバレたか。ノリでそのままなし崩し的に行こうと思ったんだが、そう簡単にはいかないなあ……。

 やれやれ、しょうがない。この私が、もう少し状況を分かりやすく説明して、説得したりますか。


「お前なあ……。ちょっと落ち着いて考えてみ? 私は誰?」

「え? えっと――、リリシーナ王女……。この国の姫様、だ?」

「そだろ? この国のお姫様だよ、私は。そのお姫様相手に、その国の兵が本気になって危害を加えるか?」

「う、うん。確かに……」


 場合によっては、そういう事はあるのだが。反乱とかね。だが、今この子に伝える情報ではないのだよ。


「それにお前も知ってるだろ、私の強さは?」

「うーん……。知ってるけどさあ……。でも、ササレクタ様とセイン姉もいるんだよ?」

「あ、そっか。まあ、あいつ等の事は置いとこうよ」

「置いとかないでよ! あの二人が一番やばいでしょ!? 一番置いちゃあいけない事案でしょ!?」

「まーまー」


 落ち着け落ち着け、どうどう。


「あの二人の狙いは私。お前に被害はいかないだろ?」

「あ!」

「だろ?」


 やれやれ、ようやく気付いたか。


「やっぱり、何かしでかしてんじゃないか! 狙われる理由があるんだろ!?」


 あちゃー。そっち気付いちゃったか。


「ははは。ま、とにかくさ、ササとレイセイン、それから兵たちは私を狙ってるわけだし、相手は私一人で大丈夫なわけよ。お前が怪我をする事はないからさ。気楽に行こうよ、気楽にさ?」

「ぶー……。まあ、それなら……。――ん? あれ?」

「どしたん?」

「じゃ、じゃあさ。あたし足手まといになるし、別にここまで来る必要なかったんじゃないの?」

「うん?」


 ふむ。言われてみればそうか。私一人の方が突破しやすいわな。

 イルミネーニャの獲物は、主に弓矢か若しくは投擲武器。戦闘の際は後方からで、後は援護や牽制がその任務となる。だけど、今は武器なんて持ってないから、戦力になるわけがない。近接戦闘は空っきしだし。


「――あ」

「分かってなかったの!? じゃあ何であたしを連れてきたんだよ!?」

「いやあ、つい……」

「つい!? ついって何だよ!? ついって!? もう……! なら、あたしいらないでしょ。降ーろーしーて!」

「ははは。分かったよ。すまんすまん」


 さっきは腹が立ってたから、そんなに深く考えてなかったんだよね。勢いで連れてきちゃった。てへ。

 とはいえ――、全然必要なかったわけでもないじゃないかな?

 外壁門を抜けた先でも、索敵してもらえるし。うむ、そうだそうだ。この子が一緒にいてくれた方がいいよ。――ん?


「待て。誰か前に出てきた」

「え?」


 イルミネーニャを降ろそうとしたが、その前に軍に変化があった。

 中央の布陣から、鎧に身を包んだ馬に乗ったこれまたごつい鎧に全身を包んだ騎士が一人、円錐状の大きな筒――拡声器を手に持ち、その馬を走らせこちらに向かって来ている。私はそちらに注視した。

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