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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第三章 おっぱい大脱走編
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第12話 リリシーナ包囲網を突破せよ! その3 水面下 その3

「はあ……。こっちにも、心の準備ってものがあってだな……」


 自分が賞金首のような扱いになっていたという、アホみたいな事実に気を取られ、気持ちを切り替えるのが少し遅れてしまった。私、一応これでもこの国の王女様なんですけどね。

 

「うわあああああ!? 来る、来る、来るううう!」


 今回の軍は、ほぼ歩兵で構成されている。騎兵は十数騎ばかり。恐らく大隊の隊長級以上の者が乗っているだけだ。

 その騎兵は動いてないのか、ここから見えない。よって、三方から迫ってくるのは歩兵のみ。それが、私達を取り囲むように、大挙して押し寄せてきていた。

 イルミネーニャはこれを見て、じたばたもがきながら悲鳴を上げている。


 兵達の手にあるのは、木製の武器。訓練用の木剣を持っている者もいるし、刺又を持っている者も沢山いた。一番多いのは棍棒かな。兵の身の丈より少し長めの細長い棍棒だ。


 グスコの言った通り、私を牽制してイルミネーニャを奪取することが、本訓練の目的みたい。


 弓を持っているような者は見えない。今のところ、だが。

 一応軍には弓を使った捕獲武器もあるのだ。矢尻の先が尖っておらず丸くなっていて、それを矢として使っているだけだけどね。


 ふむ。察するに、数にものを言わせて押し切るって感じなんだろうな。誰か一人で良い。イルミネーニャに飛びついてしがみ付く。そして、私の腕から引き剥がせば――。これが、軍の勝ちになる一番可能性が高いと。


 一万対一。

 確かに普通で考えれば、普通に可能だ。それに――。私は、向かって来る兵士たちに目を凝らした。


「…………」


 どうかな……。

 よく見たつもりだが、兵の様子に、これといった違和感は見受けられない。


「はあ……。まあ、いいさ」


 そう言うと、視線を遠くに見える外壁門にずらす。


 ササレクタとレイセインに、動きはない。

 そのまま、外壁門の上にいる。乱戦になってから行動に移すつもりか。


「ど、どどどどどうするんだよ、姫姉えええ!? に、逃げないと! 早く逃げないとおおお!」


 逃げるわけないだろ?

 テレルとの外泊がかかっている大一番だぞ?


「腹をくくれ、イルミネーニャ。軍の狙いはお前だ」


 そして既にもう、この勝負に勝つという以外の道はない。

 よって、お前の引き渡しは断固拒否。お前を逃がすのも絶対に駄目。どちらも、私が応じることは決して無いのだ! 

 

「そ、そんなああああ!」


 目に涙を溜めて絶望に染まった顔をしながら、情けない声が返って来た。

 しかし、そんな顔せんでもお前は大丈夫さ。何故なら、この!私がついているのだからな! はっはっはっは。


 軍の波はもうそこまで迫ってきている。すると、縄のようなものを、頭の上でぐるぐると回し始める者がどんどん出始めた。


「姫姉、『散弾錘さんだんすい』だよ! あんなにいっぱい! あわわわわ……!」

「おお、ホントだな」


 散弾錘さんだんすいというのは、縄の一端におもりをつけ、もう一端で二、三本束ねたもの。そして、それを相手に投げつけて体に絡め、動きを奪う捕縛用投擲武器だ。


 本来は、縄ではなく鎖を使用し、錘は鉄のような重くて硬い金属や石を使ったものを、純粋に投擲武器として用いている。また、鎖を手に持ったまま振り回して、勢いのついた錘を敵にぶつける――、なんて近接での使用も可能だ。


 今回持ち出してきているのは、錘が手に収まる程度の大きさの木の実の殻。多少弾力があるが硬くて丈夫で、そう易々とは割れない。重さを調節するように、中の実を取り出して砂が少し入っている。


 遠めだけど、錘がこの実の色である赤茶色で、振り回しているのも鎖ではなく縄だと分かったから間違いなし。近接で振り回して勢いよくぶつけるようなことをしない限り、殺傷能力はほとんどあるまい。本当に捕縛が目的の道具なのだ。錘が当たれば多少痛いだろうけど。私はそう感じたことは無いな。


 ただ、まあ……。ササレクタが使ったら話は違ってくる。あの怪力で振り回せば、十分凶器だ。

 あいつの場合、何を使っても大概そう成り得るがな。


 ちなみに、さっきシビアナが使ってきた捕縛専用の『シビアナ道具』は、これを参考にしている。

 そして、この他にも色々と参考にして掛け合わせた上で、えげつない改造を施しているのが、あいつの持つ道具である。


 私達に向かって来ている軍の最前列は、もう殆どの者が頭の上で、散弾錘をぐるぐると回し始めていた。

 隣合ったの者にそれを当てない器用さは、日頃の訓練の賜物であろう。


 よく訓練に励んでくれているようで、こういった状況でも何故か嬉しさが込み上げてきた。口角も上がる。そして、このおかげで軍の初手に、見当がついた。


「前方と左右全てから、一斉に投げつけるつもりか」

 

 沢山投げれば、どれかは当たる。成る程成る程。じゃあその前に、だな。

 私は、相変わらず涙目になっているイルミネーニャに顔を向ける。


「助けてえええ! ぎょくちゃあああああああん!!」


 遠くまで声が届くようにか、彼女は口に両手を当てそう叫んだ。

 おい、それは止めろ。玉を呼ぶのは止めろ。本当に来そうだから。


「イルミネーニャ」


 それに、玉がここに来るまでもないさ。


「な、何?」

「心配するな」


 何時如何なる時であろうとも、例えそれが誰であろうとも。

 私の大切な者達へ危害を加える輩に、私は一切の容赦をしない。

 

「姫姉?」

「ふっ。言っただろ? 怪我なんかさせないってな」


 だから、安心してほしい。お前には指一本、髪の毛一本触れさせない。私が必ず守る。ま、そういう訳で――。


「え?」

「ふううう……。すうううう……。とりあえず――」


 私は深呼吸して、脇に抱えていたイルミネーニャを、ひょいっと胸の前まで持ち上げる。

 そして、私の右手の上へ座らせるように、この子のお尻をその手に乗せると、そのまま前に向かって走り出す。


「え?」

「イルミネーニャああ! お前はああああああ! 空にぃぃぃ飛んでいけええええ!!」


 そこが一番安全だからなあああ!


「ええええええええええ!?」

「そうらああ! いちにぃぃのーーー、さああああん!」

「ちょっ姫ね、いっやあああぁぁぁぁ……」


 私は、イルミネーニャを軍のど真ん中目がけて思いっきり投げ飛ばした。彼女の叫ぶ声も、小さくなっていくその姿と共に、すぐに遠のいて聞こえなくなる。


 呆気にとられ、足を止め始める最前にいた兵士達。回していた散弾錘も回転を止め、兵士たちの兜にコンコンッとぶつかる音が続く。そして数瞬後、はっとして状況を理解したのか、


「上だあああああああ!」「そっち行ったぞおおおお!」「確保しろおおおおお!」


 と、何人もの兵達が振り返って、大声で後方に伝えようとした。つられて兵達は慌てて後退し始める。しかし、後続の兵達とぶつかり合って、思うように後ろへ下がれない。おかげで編隊は混乱。ぐちゃぐちゃだ。


 ふふふふ、いやあ、すまんすまん。すっかり出鼻をくじいてしまったなあ。だけど君たち……。飛んでいったイルミネーニャにばかり気を掛けちゃってさあ、こっちを無視するなんて寂しいじゃないか。――ふふん。こんな絶好の隙を、見逃す私ではないぞい。


「ふううううう……。すううううう……」

 

 私は、軍の狼狽する姿をじっくり観察しながら、深く深呼吸をして目一杯空気を吸い込と、


「ふっ!」


 足に力を入れ思いっきり地面を蹴飛ばして、疾風の如く走り出した。

 そして一気に兵達との距離を縮めると、拳に力を込め、兵達に襲い掛かる。


「おらおらおらああああ!」

「どあああああ!?」「うああああ!?」「ぎゃああああ!?」


 拳打による連撃を受け、上空へどんどん吹っ飛んでいく兵達。その数、七、八十人。

 それくらい放ったからな。お一人様一撃のみに、ございます。しかし安心しろ。峰打ちじゃ。


 グスコからのお願いだからではないが、こんな訓練で大きな怪我を負ったり、死んでもらっては困る。きちんと手加減はする。でも、結構吹っ飛んだから、鎧を身に着けているとはいえ、それなりに痛いだろうがな。ま、これも訓練訓練。先生の一撃に比べたら軽いもんよ! ふはははは!


「道をあけろおおおお!!」


 そこのけ、そこのけ、私が通ーる!

 兵を吹き飛ばし、大声を出して注意をこちらに引きつけると、兵の隙間を縫いながら外壁門向かって走り出した。途中、私が通り過ぎた場所から、散発的に兵達が何度も上空へと吹っ飛んでいく。


「ぐっはああああ!?」「ぬおおおおお!?」「ぼはああああ!?」


 目下、私の目的は外壁門への到達だ。よって、兵を吹き飛ばす暇があったら、さっさと先を急いだ方が良い。それなのに、何故こんな事をしているのかといえば、それは兵の動揺を煽るため。


 前の方で、兵達が吹っ飛んでるのを目の当たりにして、己自身に危険が及ぶと思わない訳がない。

 動揺や恐怖が伝播し士気が下がれば、必ず動きが鈍る。これが、私の狙い。


 しかも、あの子を捕まえる事だけ考えて動きたいのに、それができないわけだ。意識がイルミネーニャと私を行ったり来たり。注意が散漫になるのは必至だ。混乱に拍車をかけることが出来るだろう。


 無論、イルミネーニャに間に合わなかったら、元も子もない。

 あの子が落ちてくる場所に、ちゃんと辿りつけるよう抑えながらいく。

 

「え? こっちが姫様!?」「気をつけろおおお! 姫様、侍従官の服着てるぞおおお!」「何いいい!?」


 私の姿を見た者たちからだろう。そんな言葉が聞こえてきた。

 おやおや、こんな所でまでこの服が役立つとはのう。ほっほっほ。

 始めから気付いている者もいたかもしれないが、結構距離があったから服装までは分からなかったんだろうね。


 程なくして、上を見上げる。イルミネーニャが落下地点を確認しなければならない。

 彼女は前方上空。距離はある。だが、私ならこの調子で問題なく辿りつける距離。

 高さはまだまだ。外壁よりも随分と高い。


 イルミネーニャは、こちらに体を向け膝を抱えながら、風に任せてゆっくりと前後で回転している。だが、視線はずっと感じる。私の動きを見定めているようだ。ふふふ。流石は私の侍従官。泣きべそかいても、やる時はやる、やればできる子! 元気な子!


 目が合った。よし、あの辺りだな。私がそう思ったのと同時に、彼女は体の回転する速さを上げる。頭から落ちるのを防ぐ為だ。

 落下地点に見当をつけた私の方は、近くにいた兵士を十人程吹っ飛ばす。そして、その衝撃で手から離れた棍棒を数本を奪い取った。


「あそこに落ちるぞおおお!!」「急げえええ!!」「殿下が来る前に早くー!!」


 兵達も気付いた。イルミネーニャ目指して一気に集まっていく。

 イルミネーニャの落下する速さが、徐々に増す。地面にどんどん近づいて行った。そして、外壁の高さと同じくらいになったあたり。


 案の定、一般の兵士とは明らかに違う、高い跳躍を見せる兵――いや、騎士が数人現れる。

 白い外套の下に見える鎧が、兵のそれとは全く違う。


「やはりいたな! 近衛騎士隊!」


 シビアナが、ただ兵だけをぶつけて来る訳がない。

 近衛騎士が、兵に紛れて姿を隠していた。飛び上がっているのは、同時に三人。


 この訓練は、王都守護兵団が行うもの。それに、ササレクタもレイセインもいる。だから、他はいない。近衛騎士もいやしない。これを逆手にとってのこの策である。

 だが、これはあくまで訓練だ。王女代行執行権を行使すれば、潜り込ませるのに問題は無い。それに気付いていた以上、対処できない私ではないのだ。


 まあ、最初に近衛騎士と王都守護兵団に属する外壁門の守衛が、待ち構えているかもって思ったから気付けたんだけどね。ついでに言えば、管轄外の外壁門に近衛騎士を配置できる理由は、それが王族関連だったから。この理由なら、管轄の王宮以外でも融通が利くのだ。


「うらあ!」


 私は兵から奪った棍棒に捻りを加えながら、近衛騎士に向けてどんどん投げつけていった。

 しかし、騎士最強だけはある。迫ってくる棍棒に気付き、腕でいなしながら弾く。


 やるじゃないか、よくぞ気付いた! じゃあ、これはどうだ!?


「なあ!?」 


 最後に投げた棍棒を弾いた近衛騎士が、驚きの声を上げる。そりゃそうだ。眼前に、私がいるのだからな!

 棍棒を投げつけた私は、イルミネーニャに向かって飛び上がっていた。それが数瞬遅れてここに辿りついたという、ただそれだけの事さ。


 しかしまさか、私まで飛んでくるとは思わなかったのか。その驚きで、動きに転瞬の差を生む。だが、その一瞬の遅れが命取り。


「ぐああ!?」「がはっ!?」「ぐうっ!?」


 一人に蹴りを放ち、横にいたもう一人にぶつけて吹っ飛ばす。最後の一人には、拳打をお見舞いして、明後日の方向へ吹っ飛ばした。そして――。


「お帰り、イルミネーニャ」

「うわああん! 姫姉ええええ!」


 丁度真上から落ちてきた、相も変わらず涙目のイルミネーニャを抱き抱えた。


「酷いじゃないか! 投げるなら投げるで、もう少し早く言ってよ!」

「ははは、ごめんごめん」

 

 よしよし、怖かったねと私の胸にうずまった頭を撫でる。


「さて、それじゃあイルミネーニャ」

「ぐす。何?」

「もう一回、飛んでけええええ!!」

「えええええええ!?」

「おらああああ!!」


 私はイルミネーニャのお尻を手に乗せると、再び外壁門に向かって思いっきり放り投げた。

 

「姫姉の、ぶわっかあああぁぁぁぁぁ……」


 彼女は悪態をつきながら、再びお空の彼方へ飛んで行った。さらば、イルミネーニャ。また後で。

 ただ、足で踏ん張ってないから、さっきより飛距離は出ない。やはり、足場は重要である。


 でも、これでいい。何故なら、そろそろあいつの射程圏内だからだ。

 私は、落下しながら外壁門を見やる。ササレクタ――。レイセイン――。先程よりその姿は大きくなった。顔の輪郭や腕を組んでるのも分かる。

 

「しっかし、あいつら……。全然動きを見せないよな」


 訓練が始まって以来、一切変化を見せていない。不気味な静けさを感じる。

 それから、外壁門の前に兵が集まっているのにも気づいた。パッと見だが――。数は、前方中央に布陣していた兵の半分、二千五百ほど。それくらいに見える。


 成る程。だから、中央の編隊は、縦長にしていたのか。

 陣を前後で二つに分け、一方は前進。もう一方は、私の目的地である外壁門の守りに回したようだ。門を中心に半円を描くように布陣されている。


「おお、盾持ってんな」


 陣の外周には、兵の身の丈程ある長方形の盾が、隙間なくずらりと並べられている。

 しかも、それと同じように内側にも盾が並び、何層にもなっていた。

 ガチガチに防御を固めているようだ。


 これなら、前方の兵が抜かれても、外壁門の前で足止めをし、戻ってきた兵と前後で挟み撃ちに出来る。そう踏んだか。


「姫様! お覚悟おおおお!」

「ん?」


 声が聞こえてくる下を見ると、兵達が集まっていた。皆、棍棒や刺又を構えている。私が落ちてきた所を、攻撃するつもりだな。落下していては、普通どうしようもない。落ちた所を狙い撃ちできる。


 ああそうか。私にも賞金掛かっていたよな。ったく、シビアナめ。一国の王女を何だと思っているのかね。しかし、理由がどうあれ、例え相手が誰であっても臆することなく向かって行く。それでこそ、我がトゥアール王国の兵士である。うむ、大いに結構。

 でも、折角私の注意が外壁門に向かっているのに、自分たちが下で待ち構えていると、大声で知らせちゃあ駄目だぞ?


「うおおお!」「はああ!」「やああ!」


 気合の入った掛け声と共に、頭から落ちていく私に向かって、二、三十本程の棍棒や刺又が一斉に突き出される。

 

「せやあ!!」


 私は突き出されたその武器を、殴りつけて全て破壊。最後に残ったのは棍棒四本。そのうち二つは、難なく躱し、残った二本にはそれぞれ直線になるよう正面から合わせ、右と左の掌打を押し付ける。


 その衝撃に棍棒は兵の手を離れ、そのまま掌で地面へ刺し込むよう一直線に叩きつけられた。縦に亀裂が入って棍棒が木端微塵になる。だが、その反動で体をふわりと上へ持ち上げることができた。そして、破壊を免れた最後の二本を、右左別々で上から掴む。


 脚が上がり逆立ちになっているおかげで、唖然とした兵達の顔が沢山見える。ふふん。悪いが、その程度の突きをいくら突き出そうとも、有効打を当てることは出来ないのだよ。

 

「はあ!!」


 そして、兵士が握ったままのその二本を、中心から外側に向かって螺旋を描くように、体を捻って薙ぎ払った。


『ぐああああああああ!?』

 

 棍棒は耐え切れず、両方とも折れてしまう。しかし、あたり一帯の兵は吹き飛ばすことができた。

 そして、兵が薙ぎ払われて空白となった円に着地すると、イルミネーニャに向かって全速力で走りだす。


「順調ー順調ー」


 しかし、あの子はもう投げれないな。外壁門にも随分近くなった。下手したらササレクタに取られてしまう。次捕まえたら、そのまま脇に抱えて走るしかないか。でもなあ……。


 もう少ししたら、防御に徹している最後の陣に出くわすはず。私の攻撃に、思ったより士気が下がってないように感じるし、そこをイルミネーニャを抱えて素手で掻い潜って行くのは、やはりそれなりに骨が折れるだろう。


 それにあそこは、飛び越して行けないなしさ……。

 頭上には、トゥアール王国きっての投げ槍の名手、ササレクタが待ち構えている。その射程距離にばっちり入っているのだ。兵という障害物が無くなる盾の上を越えていくのは、奴の格好の的。止めた方がいい。それにあいつが直接私を狙って、素っ飛んで来る可能性だってあるし。


 何かいい武器があったら良かったよねえ。こう纏めてぶっ飛ばせるような奴がさ。

 木製の武器を分捕ってもなあ……。さっきみたいにすぐに折れるから、あんまり意味がない気がする。


――おや?


 私は前方に、鎧に身を包んだ馬に乗ったこれまたごつい鎧に全身を包んだ騎士を発見した。

 …………。……ああ! 私の中に閃きが舞い降りる。


「いいもん見いいいいつけたあああああ!」


 そして、この騎士に向かって走り出した。


「グスコちゃあああああん!」

「ひい!?」


 私の姿を見て悲鳴を上げる王都守護兵団、副指令。

 すぐに手綱を引き、馬を回転させるとお腹を蹴って、後方の陣へ向かい駆け始める。逃ーがーさーんー!


「ふん!」

「ごべろ、でありますっ!?」


  瞬く間に追い付くと飛び蹴りを食らわして、グスコを馬上から吹っ飛ばした。彼女は地面に亀裂を入れて叩きつけられる。 


「ふふふふふふ……」


 可愛らしい顔ごと頭全てを覆う頑丈そうな兜。

 そして、おっぱいの部分がふっくらとした、いやらしい頑丈そうな全身鎧。

 艶かしい頑丈そうな腰つき。エロい脚線美をもつ頑丈そうな脚――。

 お前は、良い体してんなあああああ? ええ、グスコ? くけけけけけけ!






◆シビアナ視点◆




「始りましたね」


 私は、先程まで殿下がいた門の上にいます。

 ここは、まさに特等席。軍の展開も殿下の動きも、手に取るように分かります。


「さて、殿下はどの様にこの兵達を突破するのか」


 もうすぐそこまで、兵が押し寄せてきています。ですが、殿下は動こうともしません。

――おや? イルミネーニャを手に乗せて……。ああ、投げるのですね。また、大胆な事をする方です。この勝負の報酬は、是が非でも手に入れたいはず。その鍵となるあの子は、心理的に手放したくないでしょうに。


 イルミネーニャは、また運が悪いといいますか、災難でした。それを利用している私も、あまり言えた義理でもありませんが。そうですね、あの子には今度何かお詫び、いえご褒美をあげましょう。


 弓は……、この前テオルンにお願いして作らせた、コンパウンドボウがありますから、別の物が良いですね。あの子はああいう物は好きですし、何本あっても困る物でもありませんが、もっと可愛いもの、女の子らしいものを考えておきましょうか。


 彼女はテオルンとは違い、日頃の仕事をそれはもう一生懸命にしてくれます。見ているこちらが微笑ましく思えるほどです。ですから、今後もその調子で頑張ってもらえるよう、やる気の出る物がいいですね。


「ふふふ……!」


 でもあの子は、プレゼントは何でもいいみたいなのです。何を渡しても本当に嬉しそうな笑顔をしてくれますから。おかげで、こちらも嬉しくなってしまいます。その笑顔が今から楽しみですね。


 イルミネーニャは、お皿を割ったり書類を撒き散らすのが日常茶飯事だった頃を思えば、随分と侍従官らしくなりました。そう言えば、よくお説教をしましたね。それもまた少し懐かしい。


 それが今では、年下のゼニシエンタ達を教えるくらい立派に。そして、多くの者に必要とされるようになりました。もちろん私も、助けられています。あの子の目の良さには特に。


 あの目は、夜目もきくので暗視スコープ要らずです。そして今、読唇術どくしんじゅつを覚えてもらってますから、今後活躍の場は更に広がる事でしょう。


 投擲技術、弓の腕も確か。その技で恐ろしい程正確に的へ当てます。あの目の良さも相まって、さながらスナイパーのようです。


 しかし、やはり特筆すべきは、あの運の悪さ。鳥のフンが頭に落ちてくるのは当たり前。財布も服のポケットに穴が開いてて落とす。典範院で本を読んでいたら、積み重ねられていてた本がいきなり一気に崩れ、その雪崩に巻き込まれる。そして今陥っているこの状況。


 運が悪かったとしか言えない出来事ばかり遭遇しています。

 ああそれと、じゃんけんは弱くいつも負けてますし、おみくじを引けば常に大凶です。


「ふふ。まあ結果を見れば、確かに酷い事が多いですね」


 これについてあの子も、ただ運が悪いと思っているようですが、しかしそれはどうでしょうか。

 私は違う様に思えてしまいます。何故ならば、その運の悪さがなければ、あの子はトゥアール王家の恩人に成り得なかったのですから。

 

 そして今あの子は、トゥアール王国の姫君の下で側付侍従官として働くという、普通では有り得ないことが出来ています。ですから私は、溜まり溜まったあの子の小さな不幸は、大きな幸運に繋がり一気に戻ってくる――。そんな感じがするのです。


「あたしは、幸せだ! だって家族が出来たんだもん! あ! これ姫姉には言わないでよ。絶対冷やかされるから!」照れながらそう言った彼女は、毎日笑顔が多い子になりましたから。


 そしてこれは、あの子が私達に『姉』とつける理由でもあります。畏まった公の場でもない限り、別に構いませんからね。彼女自身きちんと使い分けてますし。このままで問題ありません。


 イルミネーニャは、テオルンやゼニシエンタと同様平民の出です。ただ違うのは、彼女は孤児だということ。それを旅芸人一座に拾われて生きてきたのです。


「家族……。父親と母親。いないのは本当に辛い事です。寂しい事です。悲しい事です」


 どうしようもない親、というのも確かにいます。それもまた、不幸でしょう。

 ですがあの子は、親がどのようなものであるのかさえ知りません。両親と一緒にいた記憶がないのです。

 優しかったのか。怖かったのか。どのような家庭環境であったのかも知れない。どうやって別れたのかも聞かされていない……。


 ですが願わくば、あの子を大切に想う両親であったと思わずにはいられません。

 いえ、きっとそうだったはずです。きっときっと、そうだったに違いない。絶対に。


 そして、今でもあの子を見守っている。私の知るもう一つの世界は、そういう事は幻想でしかない。

 だけど、この世界はその幻想が現実となって溢れている。だからより一層そう思う。


 そして、いつの日か天寿を全うし、あの世に行ったらきっと会える。

 ずっと見守ってたよって、頑張ったねってそう言ってもらえる。そうだ。だから、私は――。


「ふう……。いけませんね。ついつい……」


 気付けば、拳を強く握りしめていました。少し痛みを感じます。


「おや?」


 軍の状況に変化が。

 兵が吹き飛んでいく回数が増えてきましたね。理由は何でしょう?


「――ああ、グスコちゃんが捕まってしまいましたか」


 グスコの鎧が振り回されているのが見えます。ここからでは、もうあまり分かりませんが、彼女の鎧は目立ちますので。

 これで、殿下の勝ちはほぼ決まってしまいました。

 ですが――、時間稼ぎは十分です。


「もうそろそろ、でしょうね……」


 私は、シドー様の研究所がある方向を見つめ、そう呟きました。

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