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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第二章 おっぱい前触れ編
35/101

第17話 一葉知秋の気付き

「――う・ふ・ふ・ふ・ふ!」


 …………。


 ササレクタは、目に涙を溜めて爆笑している。

 私は、それを耐える様に見ていた。


「う・ふ・ふ・ふ・ふ!」

「…………おい」


 お前、笑い過ぎだろ……。


 何故、こいつがこんなに笑っているかというと、私が『豊胸の薬』について話したからだ。

 王宮への帰り道――馬車の中では、この豊胸の薬については話していない。


 先生とローリエついて、私が知っている経緯いきさつの話はしたが、私がどうして先生の研究所に行ったのかは話していなかった。はぐらかしたんだ。


 まあ、結果があんなのだから、話したくなかったというか……。

 爺に知られたくなかったというか……。


 説教を受ける口実を、さらに増やしたくなかったし。


 それに、私だって年頃の繊細な女の子。

 やっぱり、こういう話は自ら進んでまで話したくなかったのだ。


 でも、ササレクタが聞いてきたんだよ。

「ところで、今日はどういう所用でシドー様の所に行ったんですの?」ってさ。


 最初は話すのを躊躇ってんだけど、気心の知れた私とササレクタの仲だ。

 シトエスカとゼニシエンタもいるけど、私もそこそこ気分よく酔いが回っているのもあって、つい言っちゃたんだ。 

 

 じゃあ、お酒の肴に実は――って。

 そしたら、これだよ。


「う・ふ・ふ・ふ――!」

「…………ちっ」


 大笑いしやがってさあ……、ホント失礼な奴さ。

 まあ、シビアナも笑いを堪えていたけど……。


 最初はササレクタも、豊胸の薬と聞いて神妙な面持ちではあった。


 だけど『豊胸の薬』のその正体と、その薬に何が使われたのかを聞いた途端、笑い出した。

 ササレクタもツボに入ったようだ。


「はあ……。ふう……。う・ふ・ふ! 笑わしてもらいましたわ。久しぶりに大笑いですわねえ」

「そんなに笑う事はないだろ……!」


 目に溜まった涙を拭うササレクタに、私は空になった杯へお酒を注ぎながら口を尖らせた。


「いえいえ、ここは笑う所ですわよ。ぷふっ……う・ふ・ふ」

「ったく……。言うんじゃなかったわ」

 

 私はそう言うと、イカちゃんを口の中に入れて、乱暴に噛み千切った。


 あー美味し! ホント美味しいわ! 

 イカちゃんホント美味しいわ!

 買ってきて良かったわー! ホント良かった!


 それから、自分の杯に入ったお酒をぐびり。


 先生のお酒も美味しいわー! 

 ホントこのイカちゃんと合うわー!

 へーんだ!


 そう不貞腐れながら、私は飲み干した杯に再びお酒を注ぎはじめた。


「う・ふ・ふ」


 ササレクタもそんな私を見て笑顔になりながら、自分の杯に入ったお酒をぐびりと飲む。

 そして、カンっと少し響く音をさせて、卓子の上に杯を置くと、


「まあ、これも自業自得」


 と、一言呟き、


「一人だけ、おっぱいを大きくしようなんて考えるからですわね――」


 細い目をギンっと見開らいた。


 ひいいいい!?


「怖い! 怖いから! 悪かったって!」


 抜け駆けしようとして、すいませんでした!

 出来心だったんです! ホントすいませんでしたああ!


「う・ふ・ふ。冗談ですわよ」


 ササレクタはにやりと笑うと、シトエスカに注いでもらったお酒を飲み始めた。


「いや、今のは絶対冗談じゃないだろうがっ!」

「う・ふ・ふ」


 笑うだけじゃあ答えになってないですけど……。

 ていうか、いきなり目を見開くなよなあ。ホント怖いよ。


「ふああ……」


 ん? 


 ――ふふっ。


「さて、お前たちはそろそろ向こうに戻って、仮眠でもしていろ」


 私は、ササレクタの両脇にいるシトエスカとゼニシエンタに、そう伝えた。

 何故かというと、


「はい、畏まりました」

「ふあい……、戻りまあす」

 

 シトエスカは大丈夫そうなんだが、ゼニシエンタがもう限界だ。

 目つきがとろんとして、瞼が今にも閉じようとしていた。


 ゼニシエンタが、さっき眠そうに欠伸をしていてたので気付けたんだ。


 あの子も沢山お酒を飲んだ。


 このまま夜遅くまで起きておくってのは、ゼニシエンタにはまだ辛いだろう。

 むしろ、よくここまで付き合ってくれたと褒めてあげたいよ。


「シトエスカ、すまんがゼニシエンタを頼む」

「ふふっ。はい殿下」


 私の言葉にシトエスカが席を立った。


「ああ、今日は私に付き合ってもらったんだ。シビアナに聞いていると思うが――」

「はい。心得ております」


 良かった。聞いているみたいだな。

 こういう時は、私が無理を言って宴会に連れ込んだことにして、彼女たちに責任がいかないようにしているんだよ。

 面倒くさいから、そういう事にしているんだ。


「ああ、無理せず休め」

「はい。畏まりました」


 寝ていても、私のせいにするようにさせている。

 たくさんお酒を飲まされったってね。


 そんで、私が寝ろって無理矢理命令したと口裏合わせしているのさ。


 これで問題は無い。


 例え万が一があっても、そこはきちんと対処できるようにしてあるからね。

 今日みたいな宴会とか関係なしでね。


 まず、廊下に続く前室の扉。

 これは頑丈にできている。そう簡単には壊れない。


 そして、この扉は施錠できるようになっており、さらにある細工が施されている。

 夜間は施錠だけでなく、この細工も仕掛けておく。


 これは外から開けると、鍵の開錠関係なしに前室と私の寝室で、鈴が鳴り響くようになっているんだ。

 この音を聞けば、私はすぐに飛び起きる。

 そうできるよう、子供の頃から訓練をしてきたんだ。


 火急の用件の場合は、外に備え付けられた取っ手を下に引く。

 この取っ手は、細工と繋がっている。

 同じように音が鳴る仕組みになっているんだよ。


 窓や衣裳部屋から侵入されても大丈夫。

 寝台はどちらからも離れているので、気配を感じて体勢を整える時間は十分にある。


 私もお酒は強い方だ。

 お酒は飲んでも飲まれるなを、きちんと守ってるし、深酒で不覚を取るようなこともないからね。

 これで対処が出来るってわけさ。

 

 最悪、壁でも蹴破ってそこから脱出って事も出来るしね。


 まあ、こんな感じで色々と厳重に警戒していてもそれ以前に、王宮内へ賊が入り込む事自体、至難の業だと思うけど。


「さっ行きますよ、シエンタ」

「ふあい……」


 シトエスカに支えられて、ゼニシエンタがふらふらと立ち上がった。


「ササレクタお姉様。申し訳ございませんが、私たちはこれで――」

「ええ、楽しかったですわ。また一緒に飲みましょうね」

「はい、お姉様。ほらシエンタも」


「――ふあい。ササレクタ様おやすみなさあい……」

「う・ふ・ふ。お休みなさい」


 ふふふっ。ゼニシエンタはもう半分夢の中なんだろうな。

 ていうか、シトエスカはどんな酒癖出てたんだろ? 


 見た感じ、さっきのちゅっちゅ魔神の様な勢いはないよなあ。

 なんか普段のシトエスカと同じに見えるよ。


 最後までササレクタの事をお姉様って呼んでるし、酔ってはいるんだろうけど。

 そういえばササレクタは、その呼び方を平然と受け入れてたな。


 なんかいいな。 

 私も一度くらいリリシーナお姉様って呼ばれてみたいなあ……。


――あ、そうそう。聞くの忘れてたわ。


「シトエスカ」

「はい、何でしょう?」


 ゼニシエンタの体を支えてたシトエスカが、私の方に顔を向ける。


「月に青い光がちらつくやつって何て言ったっけ?」

「はい?」


 言われた意味が分からないのか、シトエスカが目をぱちくりする。

 ああ、ごめん。そりゃそうなるよね。何の脈絡もないんだもの。


「ふふ、いきなりですまん。ちょっとど忘れしてな。知っていたら教えてくれ。現象の名だよ。ほら、お月様を見る時に、青い光がちかちかしてる時あるだろ?」

「ああ」


 シトエスカは得心がいったように何度か頷いた。

 そして、


「『静寂せいじゃく調しらべ』です。殿下」


 と、教えてくれた。


「ああ! そうだったな。ふふ、ありがとう。おかげで喉のつっかえが取れた気分だよ」


 そうだ、そうだ。

静寂せいじゃく調しらべ』って言うんだよ。

 

「ふふっ。いえ、お役に立てたのであれば幸いにございます。――そうですね、雨が降らなければ、今夜見ることが出来たと思うのですけど」

「そうなの?」

 

 そりゃ、残念だったかな。


「はい。ああ、そういえば最近『ロック教団きょうだん』が、その名で曲を作ってましたね」

「え? それは初耳だな」

「はい、中々に美しい曲でございました」

「へえ……」


 流石はシトエスカだ。色々知ってるねえ。


 シトエスカが話していたこの『ロック教団きょうだん』というのは、トゥアール王国で広まっている宗教の一つだ。

 歌って踊る宗教さ。


 まあ、変な奴も多いが、大抵の奴はいたって普通だ。

 音楽が大好きな奴らだよ。


「ああ、すまん。呼び止めてしまったな。もう休んでくれ」

「はい、では殿下」

「ああ、お休み」


 お辞儀をするシトエスカに、私は頷いて返した。


「ひめさまあ、おやすみなさあい……」


 ふふっ。目を瞑っているから、まるで寝言の様に聞こえるな。


「ああ、お休みゼニシエンタ」

 

 私は、ゼニシエンタのそんな言葉に、苦笑いをしながら答える。

 そして、シトエスカと彼女に肩を貸してもらったゼニシエンタは、ゆっくりと大広間から出て行った。


「――ここはいつも賑やかですわね」


 パタンと扉が閉まると、ササレクタが感慨深そうに呟いた。


「そうか?」


 私は、シトエスカとゼニシエンタだってのもあると思う。

 他の侍従官だったら、別の印象を受けるんじゃないかな?


「私もここで雇ってもらおうかしら」


 いきなり何言ってんだよ、こいつは。


「やめろ。シビアナにお前まで加わったら、私の手におえんわ……」


 本当に勘弁してください。


 シビアナだけでも酷い有様なんだよ?

 これ以上私に優しくない奴が増えたら、私は心労で倒れてしまうわ。


 ていうか、ササレクタとシビアナが一緒になって働くって、想像しただけでも恐ろしいんですけど。

 私は、二人が非常に仲が悪かったのを思い出した。


 シビアナの謀略にササレクタの暴力。酷い組み合わせだよ。


「う・ふ・ふ。その点は大丈夫ですわ。――私があの女と一緒に仕事するわけないでしょ?」

「――え?」


 それってどういう意味だ?


「思いつきで言った事ですけど、中々どうして案外いい案ですわね。こっちの方が将軍やってるより面白そうですし、本当に悪くないかもしれませんわねえ……」


 そう言うと、ササレクタは何度も頷きながら、手に持った杯を傾けた。


「お、おい。何言ってんだよ?」


 こいつ、もしかして本気で言っているのか?


「ササ? お前――?」

「……う・ふ・ふ・ふ」


 え? 何その笑い。超怖い。

 冷たい。背中がぞくぞくするんですけど。


――やばい。

 何かやばくないか?


 私は、言い知れぬ凍えるような恐怖を感じていた。


「お、おい、お前何をする気なんだよ?」


 シビアナと一緒に働く気がないって事は、それはつまり――。

 あいつを追い出すって事か!! 


 おおう、何という恐ろしい事を考えるんだ、こいつは!! 

 いや待て、できるのか!? 相手はあのシビアナだぞ? 無理だろ、それ……。


 私が一人で結論に達していると、ササレクタの手がゆっくりと動き出す。

 そして、


「う・ふ・ふ……」


 その手を首元に持ってくると、そのままくいっと横に掻っ切った。


 …………。


 え? 始末すんの? 


――おい! 

 冗談じゃないぞ!!


「いや、駄目だから! 絶対に駄目だからな!? やめてくれよ! 私そんなの見たくないからな!?」


 シビアナは、あんなんでも私の大切な侍従官だぞ! 

 それにテレルもいるんだ! あの子が母親を失ったらどう――。


「冗談ですわよ」

「だから、冗談に聞こえないんだよ!」


 私は声を荒らげた。

 お前ふざけんなよ! 性質が悪すぎるわ! 

 

「う・ふ・ふ」

 

 ササレクタは、微塵も悪びれることなく優雅に笑った。






「――ああ、そうそう。イージャンの鍛錬いつからしますの?」


 ササレクタの性質の悪い冗談を聞いて少し経った頃。

 シビアナ繋がりで思い出したのか、彼女はそう尋ねてきた。


「そうだなあ……」


 えーと?

 私っていつ暇だっけ?


 私も一緒に見たいから、私の予定に合わせてもらわないといけない。


 ああ、しまったな。

 シトエスカに予定聞いておけば良かった。


「私は、明後日からなら大丈夫ですわよ」

「あれ? 仕事は?」


 私は首を傾げた。

 王都でやらなければいけない仕事があったはずだけど。


 父様への定期報告とか謁見とか……。顔を出しときゃいけない所は他にもいくつかあったと思う。

 それに、将軍が目を通さなければいけない事務処理もあるだろう。


 忙しくはないが、日数は取られるはずだ。


「明日で、粗方終わりますわ」

「…………そうなの?」


 おい、何でそんなに早く終わるんだよ……。

 無理しなきゃ、そこまで早く終わるわけないだろう。


 こいつ――もしかして、何気にイージャンとの鍛錬を楽しみにしていないか?

 馬車の中じゃあ、あれだけしぶしぶだったのに……。


「何か問題でも?」


 ギロリと睨まれた。ひえっ。

 

「ないです……」

「よろしい」


 余計な事は考えまい。見透かされてそうだ。

 ん? 待てよ。

 明日で仕事が終わるって事は――。


「じゃあ後は休暇になるのか?」

「そうなりますわね」

「えー!? ……いいなあ。あーん。私も遊びたいよおー」

「う・ふ・ふ」


 いいよなあ、将軍職ってさあ。まとまった休暇を公式で取れるんだもなあ。


 ササレクタといった将軍は、定期報告の期間中、王都に滞在しなければならないようになっている。

 実はこれ、休暇を取らすようにという王家からの計らいの面もあるんだ。

 

 将軍は、東西南北の都に一人ずつで、計四人。

 王家直轄地である各都を、王家に代わって守護することを任せている。


 規模は小さいが、王都で行われいるまつりごとと同じようなことをしているんだよ。

 だから、そんな大役をやってもらっている感謝を込めてってとこかな。


 将軍職は、特に忙殺されかねないからね。

 こうでもして、無理矢理にでも休ませないと参ってしまうだろうって事で、そうなったらしい。

 もちろん各都は、この定期報告に合わせて機能を維持できるように調整されている。


 期間は大体、一カ月強かな。

 王都の戻ってきた将軍は、定期報告やら顔見せやらで十日前後取られはするが、後はのんびりするのが恒例になっているね。


 定期報告によるこの王都滞在は、強制力は確かにあるが基本自由にしていい。

 用事があれば、申し立てて各都に戻っても構わないしね。


 ただ、これは父様が良いと言わなければ駄目なんだけどね。

 でも、こういう事では無茶を言う人じゃないから大丈夫だろう。


 ちなみに私は不定期休暇であります。

 おかげで、予定が立てにくいので何とかしてほしいであります。


「――で? どうするんですの?」

「イージャンの方と予定を調整する必要があるだろうから、決まったら伝えるよ」


 あと、私との予定ともね。私も見物したいのだ。


 イージャンは、近衛騎士隊の副隊長だから、昨日今日で調整はできんだろう。

 ササレクタのやる気には申し訳ないが、少し待ってもらうしかない。


「――分かりましたわ」


 ササレクタはそう言うと、杯に残ったお酒をくいっと飲み干した。


「ああ、確認ですけど――、鍛錬は『カトゼ大神宮だいじんぐう』でやるんですわよね?」

「ああ。まあそうなるな」


 『カトゼ大神宮だいじんぐう』は、武術の神様『カトゼ』を祀る大きな神社だ。


 王都の東北にある、とても大きな神社さ。

 武闘大祭は、『カトゼ大神宮だいじんぐう』のお祭りの一つとして、ここで開催されているんだ。

 専用の闘技場があるんだよ。


 ここにはこの闘技場の他に、大きな屋外鍛錬場がある。

 まあ、他には何もない広場みたいなもんだけど、至極天を振り回すには丁度いいんだよね。


 イージャンの鍛錬は、ここを使おうと思っている。


 この鍛錬場を使うのは、それだけが理由じゃない。

 『カトゼ大神宮だいじんぐう』には、使われていない至極天が納められているんだ。


 至極天の使い手たちにも由縁が深いの場所さ。


 だから、至極天の扱いを学ぶには、何かと都合がいいんだ。

 すぐに使えるしね。


「はあ、鍛錬には丁度いいんですけどね……」


 ササレクタがうんざりとしたように溜息をつく。 

 ああ、然もありなん。


 エロ爺がいるからな、あそこ。

 このくそじじいは、隙あらば若い女の子のおっぱいを、揉もうとしやがるのさ……。


「まだ生きてんぞ」

「ふう……」


 しかもカトゼの最高責任者が、そのくそじじいなんだよ。


「相変わらず元気でしたわねえ、あのお爺ちゃんも……」

「変なことしやがったら容赦しえねよ……」

「ええ」


 私たちは頷きあった。


 さっさと孫にでもその座を譲ってほしいよ。

 あの子は真面まともだからな。

 

 まあ、何かちょっかいを出して来たら、私が直々に引導をくれてやる。


――ん? 

 相変わらず元気だった?


 ササレクタはくそじじいと会ったのか? 

 『カトゼ大神宮だいじんぐう』に行って来たのかな?


 てことは――。


「ササ、至極天持って帰ってたのか?」


 持って帰った至極天を、王都で正式に置く場所が『カトゼ大神宮だいじんぐう』なんだ。

 至極天はバカでかい。

 王都でも置くところが限られてくるからね。


 ササレクタは至極天を持って帰ることを、あんまりしたがらないんだ。

 面倒くさいんだと。

 他の将軍は持って帰るんだけどね。


「ええ、シカルアヒダの護衛がありましたから。武力の誇示も兼ねて、持って帰りましたわ」

「ふふっ。珍しいと思ったら、そういう事かい」

「ですわ」


 ミーレちゃんは、さぞかしビックリしたことだろう。

 ふふっ。あんなものを持ち歩けるササレクタにもびっくりだろうな。


 あっ。

 先生はローリエと婚約したって、ミーレちゃんに言ったのかな?

 くくく。もしそうだったら、それもびっくりしたに違いない。


 私は、ビックリしたミーレちゃんの顔を思い浮かべながら、海葡萄をほうばった。


 ミーレちゃんは、先生のこと大好きみたいだったから、一体どんな反応をしたのかな?

 その現場を見てみたかったねえ。


 まあ、先生が言ったとしたなら、だけどさ。言ってないかもしれないし。


「ねえ、姫ちゃん」


 私が海葡萄をパクついていると、ササレクタが話し掛けてきた。

 少し真面目な顔をしている。


「もぐもぐ……。何だ?」


 ん? どうしたんだろ?


「姫ちゃんの髪の色、全然変わりませんわね」

「え?」


 ………………。


 おお。そうだな。

 確かに変わってないわ。


 私は、耳の辺りにあった髪の毛を、手に取った。


 今の私の髪は、頭の後ろに大きなお団子を作っている。

 シビアナが西黄服に着替えたときにしていた、うなじが美しく見えるようにしたものと同じような髪型だ。


 私は、今日一日の記憶をできるだけ思い返してみた。

 おそらく、先生の所で暴れて、赤髪になってからそのままだろう。

 

 私も変わったら気付くよな。……うん。

 自信はないが、まあ多分。


 髪は下しておさげにしてたし、自分の髪の色は良く見えていたはずだ。


「そういえば、そうだな」

「大丈夫なんですの?」


 ササレクタが、不安そうに声を掛けてくる。


「ん? 何が?」

「いえ、何かこう……。違和感を覚えますわね」

「まあ、コロコロ変わっていたからな」

「ええ」


 まあ、言いたいことは分かる。

 一旦変わりだすと、強い感情でコロコロと色が変化していく私の髪。


 それがないんだもんな。

 そりゃあ違和感はあるだろう。


 でも、この強い感情でってのが重要だ。

 弱い感情では変わらないからな。


 つまりだ。


「ふっ、ササ。私は、自分の感情を抑えることができているのだよ」


 ふふふ……。

 ササレクタに言われて気付いたが、実は今の私って凄いんじゃない?


 父様に言われている銀髪を維持することも、もはや時間の問題なのではなかろうか。


 鍛錬に明け暮れていた頃。

 昨日までできなかった事が、その翌日になって急にできるようになったってのは、よくあることだった。


 これは、それと同じことなんじゃないのかな、ササレクタ君?


「そうかしら?」


 ササレクタの目が、胡散臭いものを見る目に変わった。

 あっ。失礼なやつめ。


 私は長椅子の上に立ち上がる。


「ふふん。そうだとも。私は日々成長しているのだよ! はっはっはっは!」


 そうさ、私は常に成長をし続けている凄い王女なのだ!

 だから、おっぱいも大きくなる可能性だって残っている筈なのだよ!


「ササ! こんな私を褒めてくれてもいいんだぞ!?」


 私は、両手を腰に当て堂々と胸を張った。


「はあ……。何だか急に、どうでもよくなってきましたわね」

「おい! そりゃあ、どういう意味だ!?」


 ここは「姫ちゃん凄いですわ! 最高、素敵、抱いて!」とか言う所だろうが!

 まあ、私にそんな趣味はないけども! 


 とにかく私を褒め称えろよ! 

 よくぞ感情の高揚を抑えれるようになったってさ!


 酔ってるんだから、それくらいは言ってもいいじゃない、ねえ!? ササレクタお姉様よおお!


「さて、わたくしはそろそろ寝ますわ」


 …………。


 えぇええー……。うそお……。


「お前さ、興味無くすの早すぎない?」


 シビアナに匹敵する早さだわ。

 急激に冷え込んだよ。

 

「ほら、姫ちゃんも寝なさいな」


 しっしっと手を振ると、ササレクタはそのままゴロンと横になって目を瞑った。


「……聞けよ、おい」


 シビアナといいお前といい――何なのお前ら?

 王女だよ、私は……。敬う心とかないのかね?


「すー……」


 ササレクタは、寝息をたてはじめた。

 早い、早いよ。寝るのも早いよ。


 …………。


 ササレクタが眠りについたことで、大広間に静寂が広がってしまった。

 私はそんな大広間にぽつんといます。


「はあ……。私も寝よ」


 まあ時間的にそろそろお開きだったしね……。


 私はとぼとぼと自分の寝室に向かった。






「ん……」


 視界が白く明るい。

 瞼は閉じているのに、眩しいと感じた。


 私の寝室に朝日が差し込んできたようだ。


 眩しい……。


 私は眩しさから逃れるよう寝返りを打った。

 すると、


「――ふんご!」


 体が浮かんだと感じた瞬間、堅いものにぶつかった。この感触は覚えがある。

 私は寝台から落ちてしまったのだ。


「んだよ……」


 寝台から落ちた衝撃で、急激に目が覚めていくのが分かった。


 またやっちまったか。

 寝相が悪いんだろうな。


 私は寝ている間、ごろんごろんとよく動いているみたいだ。


「ふぐぅ……」


 床に転がってしまった体を気怠く引き起こすと、そこに座り込んだ。

 すると、何かが顔に覆い被さってきた。


 髪だ。

 目を瞑っていてもすぐに分かる。


 私は寝る前に、頭の後ろで作った三つ編みのお団子を解いていた。

 それから、ただの三つ編みにして寝たのだが、その三つ編みも解けていたようだ。


 私の寝相が悪いからか、偶によくある。


「ふぁああ……」


 私は欠伸をすると、目をこすりながら瞼を開く。

 そして、目にかかった前髪を横に払った。


 だけど、俯いていたから、払った髪の毛は再び私の顔にかかってしまう。


 はあ。


 私はもう一度、髪を払おうとして、


「――え?」


 そして、気付いた。


 目の前に髪の毛が掛かっている感触があるにも関わらず、目の前に化粧台が見えていることに。

 

 そして、気付いた。


 化粧台の鏡に映った自分の姿に。


 私の髪の毛が透明になっていることに。


 

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