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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第二章 おっぱい前触れ編
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第8話 王家の掟

 テレル今何してるのかな?


 馬車は内層辺りに差し掛かり、のんびりと。

 少し勾配が急になった坂道進んでいる。

 その馬車の窓から眼下に見下ろした住宅街に、シビアナの家が見えたからか、私はふと気になった。


 イージャンが言ったように、元気よく走り回っているんだろうか。

 あの家の庭は面白いことが色々できるから、子供のテレルが遊ぶにはもってこいなんだよね。


 テレルに会うのはこちらの都合上、殆ど王宮になってしまっているんだが、それでも私はテレル目当てで二、三回程シビアナの家を訪れたことがある。


 シビアナの家は居住区の中では大きい方で、テレルが走り回るには充分な程の庭付きの邸宅だ。

 その庭にはシビアナ考案イージャン作の遊具があり、それは大人の私でも十分遊べるものもだった。


 初めて見たときは驚いたもんだ。

 代表的なのはそうだな……、滑り板かな。


 斜めに滑り降りるっていう単純なものなんだけど、まず私の身の丈倍以上はある踊り場まで階段で登り、そこから手摺の付いたつるつる滑る板の上を座って滑降していくのだ。


 目新しいというのもあったんだけど、これが中々に面白い。

 滑り降りるなんてこと日常生活で味わったことがないからなんだろうけどね。

 テレルを後ろから抱っこして、きゃっきゃ言いながら一緒になって何度も滑ったよ。


 しかしシビアナはよく思いつたものだ。あんなもの見たことが無い。

 母親がシビアナって事が大きいのだろうけど、これも子を思う母ゆえの独特な発想なのかねえ。


 シビアナはこの他にも、単純だが子供が喜びそうな面白い道具を考案して、それをイージャンが時間があるときにこつこつと作っている。


 鳥の羽を突き刺した堅い木の実を、板で打ち合いする道具とか。

 私もテレルとやったが、木の実を落とさず打ち合いを続けるのってのは思っていたより楽しかった。


 テレルは何度か板に当てることができなくて、木の実を地面に落としそうになってたんだけど、そこをすかさず私が後ろに回って打ち上げるってのがツボに嵌まっちゃったんだよね。


 ちょっとした瞬発力を養う訓練だったわ。

 あれは癖になりますな。


 他は……。

 一本の縄の両端を左右の手でそれぞれ持って、ぴょんぴょん飛び跳ねるやつとかかな。

 ただこれは道具というよりも遊び方って言った方がいいかもね。


 両手を交差して跳んだりとか、縄を後ろから回して跳んだりするんだ。

 私は縄一つで色々遊べるもんだなあと感心してしまった。


 まあこんな感じで色々作ってんるんだよ、あの夫婦。


 これ上手くすれば商売になりそうだけど、シビアナはそんな気はないみたい。

 自分の娘が喜べばそれでいいんだそうだ。

 ふふっ。愛されてるよねえ、テレル。

 私もあの夫婦がテレルの事を一番に考えているような気がして何か嬉しかったな。


 そんな愛されテレルは外に出て走り回るのも好きだが、本を読むのも好きだ。

 私も何冊か贈呈したよ。

 ただこの本を読んでいる場所ってのが、ちょっと変わっていた。


 今も見えているのだが、中層の居住区には結構背の高い大きな木が幾つも生えている。

 その中の一つがシビアナ邸の敷地内にあり、そこがテレルの本を読むときに行くお気に入りの場所なんだそうだ。

 テレルはその木に登ってはその上で、長い事本を読んだりしているらしい。

 おやつなんかを一緒に持って上がったりしてね。


 ちょっとしたテレルの隠れ家なのかな? 

 お菓子以外にも色々と持って上がってたりして、自分だけの秘密の場所にしてるのかもね。


 住宅の陰に隠れているから天辺の葉が少し見える程度だけど、ここからもその木が見える。

 もしかしたら今日のテレルは走り回らずに、あの木に登って本でも読んでるかもしれないな。


「――ん?」


 私は馬車の窓にぽつぽつと水滴が付いたのに気付いた。

 雨が降って来たようだ。


 遂に降って来たか。まあ先生の研究所に行く前から天気悪かったからな。

 これじゃあもう外で遊ぶのはもう無理だろう。


 木に登ってたとしたら、慌てて降りてるかもしれないな。

 本を読んでる時って時間が経つのを忘れて集中しちゃうから、天気の変わり様なんて気付けないだろうしね。


 そうそう。

 実はこのテレルの木登りついて、一悶着あったんだ。


 木登りの事を知ったイージャンが、危ないから止めろって怒ったらしい。


 シビアナは特に気にしてなかったみたいだけどね。

 これは我が子に対する過保護な父親と放任主義の母親の差なのかな。


 私はシビアナ寄りの考え方だが、イージャンの言い分も正しいとは思うね。

 父親として子供の身を案じているわけだ。至極もっともな事を言っている。これは分かるわ。


 木から落っこちてテレルに怪我をして欲しくはないってのは、私もそうだしシビアナも勿論そうだろう。

 これだけならイージャンは別に過保護とか思われないんだけど……。


 あいつ、その木ぶった切ろうとしたらしいんだよね。


 確かにそれで危険はまるっと排除できるけどもさ。でもそれは幾らなんでも潔過ぎだろう。


 イージャンもテレルのことになると極端な思考をする。

 そして、正に禍根を根元から断ち切ろうとしたあいつのこの即断、これがいけなかった。


 テレルが物凄く怒ったんだよ……。イージャンと全く口をきかなくなったらしい。

 まあ自分が大切にしている場所を、有無を言わさずいきなり壊そうとしたからね。


 イージャンもこれには参ったみたいだ。

 日に日に元気がなくなってきてますねってシビアナが笑ってたな。

 そう、長期戦になったんだよね、これ。


 しかし、イージャンもテレルの事を考えての行動だ。

 テレルに対して下手に出てまで許してもらう気はなかったそうだ。

 テレルもテレルで自分が正しいって思っていたらしく、そのせいでこの喧嘩はどんどん長引いていった。

 静かなる意地と意地のぶつかり合いさ。


 でもまあ、最終的には見かねたシビアナが動いた。 

――私は飽きたんだと思うがね。

 とにかくシビアナがイージャンを諭し、きちんとテレルと話をさせてやって仲直りできたそうだ。


 イージャンは、自分の意見をきちんと自分の娘であるテレルに伝えることが出来た。

 テレルも、自分の意見をきちんと自分の親であるイージャンに伝えることが出来たんだ。


 そしてその結果、テレルは木登りを許され、その代わり落ちても怪我をしないようにと鍛錬をすることになった。

 これ雨降って地固まるってやつで、それからのテレルとイージャンは今まで以上に仲が良くなったらしい。

 お互いの意見を言い合えるようになったのが良かったんだとか。


 うん、親子仲良く。それが一番さ。

 良かった、良かった。


 めでたし、めでたし。


 って普通はそうなるんだけどねー。

 これには後日談があるんだよ。


 ここからが過保護親父イージャンの本領発揮だったんだ。


 テレルの木登りを許したとはいえ、やっぱりイージャンは心配だったみたい。

 家に帰ってくるとどこか上の空だったり、木をじっと見ていることが多くなったらしい。

 ちょっと怖いよね。


 そして、イージャンのそんな様子が続いて何日が経った頃。

 シビアナが仕事を終えて自宅に帰ってくると庭を方が騒がしい。

 何があったんだろうと様子を見に行くと、そこには嬉しそうにはしゃぐテレルとその様子をニコニコと見ているイージャン、そして職人らしき男たちの姿があった。


 それから、その男たちの奥に見えた木を見て、シビアナは珍しく驚いたそうだ。


 あいつ大工雇って、手摺付の螺旋階段を作りやがったんだよ。

 木の周りをぐるぐると回る様にね。それはもう頑丈で立派なやつだ。


 これには流石にシビアナも呆れて物が言えなかったみたい。そこまでやるかと。

 落ちても大丈夫なようにと鍛錬しているその意味が無くなった瞬間でもあったね。


 この件の事をシビアナは知らなかったらしいから、やり過ぎたイージャンは間違いなく折檻を喰らっている筈だ。


 ほんと過保護な奴さ。まあ私はイージャンのこの行動を好ましく思うけどね。

 笑わしてもらいました。


 でも思うんだけどさ、イージャンの過保護は置いとくとして、普通ここまで子供に歩み寄るような親なんて、いないんじゃないのかな。

 私も親子関係というものについて、そこまで詳しく知っているって訳じゃないけど、こういうのは大体親が一方的に言ってそれでお終いだろう。


 それなのに親と子がそれぞれ自分の意見を言い合うことまでして、その上で親が納得できたら子供のしたいようにさせてやってるんだよなあ。

 こういう話は聞かないよ。

 だからかこの話を知っている者の中には、シビアナの家は変わっているなんて言う奴もいるがね。


 ま、何であれ、私としてはテレルが健やかに成長してくれればそれで良しだけどさ。


――ふふっ。


 親子とか人の子の成長なんかをあれこれ考えるなんて、私も随分と変わったな。

 もともと子供が苦手だったからね。

 今じゃ考えられないが、最初はテレルも苦手だったんだ。


 話がテレルとイージャンの過保護についてばかりになってしまったから、シビアナの事も少し。

 シビアナは放任主義ではあるが、ほったらかしって訳ではない。

 言う事は言うし、叱るときは叱ってるみたいだね。

 それでもあいつは、叱ることはあっても怒ることは滅多にないそうだ。


 でもね、お母さんが怒ると滅茶苦茶怖いんだよとはテレルの言。

 この事を話していた時のテレルはその恐ろしさを思い出してか、泣きそうな顔してた……。


 私もシビアナとは付き合いが長いから、怒らせるとどうなるか知っている分、その様子は想像に難くない。

 今日なんかもそれに近いものだったしね。


 お互い気を付けようとテレルと頷き合ったけど、シビアナの場合に限らずこういうのは、やらかす時はやらかすからなあ。


 良いことが起きる時は別にいいんだけど、悪いことが起こる時は何か分かりやすい前触れが欲しいよね。

 重樹じゃないけどさ。予兆、みたいな? 心づもりとか対策を練りたいじゃない。


 まあそんな都合のいいこと起こる訳ないって分かってるけどさ。

 でもせめて被害は最小限に抑えたいわ。これは切実に思う。

 面倒事を華麗に受け流す能力が欲しいよねえ。


 今まさにそれだよ。


「――聞いておられるのですかな、姫様?」

「聞いてるって……」


 ササレクタに締め上げられた後、何故か爺の説教魂に火がついたのだ。

 私は延々と結婚についての説教を受けてる真っ最中だった。


 長過ぎ。


 アホらしくて聞いていられないっての。

 私はテレルに思いを馳せながら適当に聞き流していた。

 これシビアナだったら説教なんか受けずに済むんだろうなあ……。


 ササレクタは爺の説教が始まった途端、私を抱き枕にして居眠りを始めていた。

 後ろからむにゃむにゃ言ってるのが聞こえてくるわ。


 王女である私を抱き枕にできるのはお前くらいなもんだよ。

 抱き心地はどうかね? すぐに眠りこけれるんだ、素晴らしいだろう?

 ホント良い御身分です事! 私もさっさと解放されたいよ。


――ていうかこいつ、私の頭に涎垂らしてないだろうな?


 ササレクタはこんな状態だが、それでもこいつから逃げれる気がしやない。

 勘がいいんだよ、こいつ……。


 試しに拘束を引き剥がそうと、ササレクタの腕にゆっくりと手を伸ばす。

 これで、もし万が一にでも逃げれれば願ったり叶ったりだが――。


 う!?


 私の手がササレクタの腕に触れようとしたその瞬間、一気に拘束が強くなった。


「――う・ふ・ふ。今のは、なーに?」


 はーい。ササレクタ起きましたー。

 しかも私が動くことを予測してたかの様なこの反応……。寝ながら良くできるな、こいつ。


「いやいや別に? 何か気持ちよさそうに寝てる奴がいるからさ。ちょっとあっだだだだ!?」


 ササレクタが私の体をさらに強く締め始めた。

 ああっ! しまった! さっき気を付けようと心に誓ったばっかりだったのに!

 いだだだだだ!


「姫ちゃん……。自分が置かれている状況を、きちんと把握することは大切なことですわよ?」

「ごめん! ごめんって! 調子に乗りました! ごめんなざい゛ー!」

「まったく」


 ササレクタは溜め息交じりにそう言うと、腕に込める力をやっと緩めた。


 ううっ。

 痛いよー。腕がジンジンするよお。

 ていうか、さも当然の様に王女の体を締め上げるってどうなのよ……。


「――姫様?」


 爺の眼鏡がきらりと光る。

 ああっ。こっちもやばい。雷が落ちる寸前だわ。

 よおし、こうなったら――。


「爺の言いたいことは分かった。それを踏まえ私の結婚について、こちらからも言いたいことがある」


 私は眉間にしわを寄せ努めて真剣な声で、爺に訴えかけた。

 雰囲気が大事さ。ふざけた態度だと聞く耳なんて持ってくれないし、このまま雷が落ちてしまうからな。


 とにかくテレルの事を考えて何とか耐えていたが、もう限界なんだよ。

 話の隙間をついて話を変えてやる。


 それに、結婚について私も言いたいことがあるっていうのは本当だ。

 前々から思ってたことだし、丁度いい機会だからこの場で話しておこうか。


「ふむ? 何ですかな?」

「あら、何かしら?」


 爺たちもこちらの話に興味が出たようだ。私に話を促してきた。

 よしよし。それでは発表しようではないか。

 私の結婚問題なぞ恐るるに足らんという事をな!

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