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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第二章 おっぱい前触れ編
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第7話 婚活事情

 私が乗せられた馬車はゴトゴトと揺れながら王宮に向かっていく。


 私の激しい抵抗などササレクタの前には無意味だった。

 身体強化は使わずにではあるが、腕相撲しても勝った事は一度もないこいつの馬鹿力は健在。

 西黄館を出る頃には体力を使い果たし、ぐったりと首を垂れる始末だ。


 血統の力が使えないのならササレクタの拘束はどうしようもない。

 至極天を扱うには、まず馬鹿力がなければ使えないというのもあるが、こいつは特に恐ろしい力を持っている。

 流石は西方将軍、千手戈音せんじゅかのんササレクタ。

 私は観念して爺どもが乗って来た馬車に大人しく座るしかなかった。


 今、私の向かいにクロウガルが。ササレクタは私の後ろに座っている。

 私? 

 私はササレクタの膝の上に座っているんだよ! がっつりと後ろからぎゅってされてるわ。


 まるで母親と幼い子供のよう。今の私はテレルで、ササレクタが母親シビアナか。

 何これ? ぷにぷにして座り心地最高だわ。

 こいつの体は、ひんやりしてるから暑苦しくもないし、それに何か爽やかな良い香りもする。これは香水だな。


 シビアナの太股もこんな感じなのかね。

 でもササレクタより色んな意味であいつの方が肉付きが良いから、もっと凄いのかもしれんな。


 まあ、シビアナのむちむち太股とかササレクタのぷにぷに太股とかそんな事はどうでもいい。

 ササレクタの乗り心地が良くても私の気分は最悪であった。


 おつまみを没収されただけではなく、先生から貰ったお酒も失い、このまま説教部屋じじいのしつむしつ行きだ。

 正直泣きたい。


 私の寝室には隠し部屋がある。

 ま、物置ともいうのだけど。

 寝室にある本棚をずらすと、この隠し部屋に入ることが出来る。


 ここには、私が今までに集めた趣味全開の収集品の数々が沢山置いてあった。

 面白い顔をした小さな猫と銅像とか、実用性皆無のカッコいい小剣、ああそれに先生からのお土産もあるな。


 とにかく色々だ。奥に行けばいくほど昔に買ったものがあって、私の嗜好変遷が分かる年代記みたいになっていた。

 その中に、頻繁にという訳でもないんだけど、ちょくちょく出し入れしている物がある。


 私ご自慢の簡易料理道具だ。

 野外で料理をするときに、これさえあれば簡単な料理なら何でもできるよっていう触れ込みが気に入って購入した。


 包丁、お皿、まな板、お鍋……。これら一式が一つの鞄に入っている。

 これが結構役に立つ。今回の酒宴にも大いに役に立つはずだった。

 特に、焜炉がな。


 ちょっと凝ったつくりをしている陶器製の黒い焜炉で、両手を合わせたぐらいの大きさをしている。

 普通の焜炉に比べると小さめなのだが、ごつごつとした形が実に渋くていい感じなのだ。

 その焜炉の上に金網を敷き、今宵の主役たるイカちゃんを始め、数多くの干物を炙るつもりだったのだよ。


 王宮に帰ったら冷たい井戸水を汲んできて、先生から貰ったお酒と一緒に大きめの桶に入れる。

 さらに夕食を食べた後にも同じことを繰り返し、お風呂に直行。

 熱めのお風呂にじっくり入り、ここで今日の疲れをゆっくりほぐす。


 心と体を癒しながら汗をだくだく流すのだ。

 水分は一切取らない。ここは我慢だね。

 風呂から上がったら、調理場から火種をくすね、体が水分を欲する状態を維持しつつ寝室へ向かう。


 私は自分の寝室に土足で入らない。いつも入る前に靴を脱ぐ。

 これは以前シビアナもそうしていると聞いたからだ。


 その方が寝室を綺麗に使えるし、長椅子にごろんと寝転がっても問題ない。

 成る程確かにそれは素晴らしい、という訳で私も採用した。


 素足で寝室に入ったら、机の上に火種を入れた焜炉を設置。お酒の入った桶も設置。

 そして、その机の傍にある長椅子にドカッと座り、満を持しての一気飲み。

 冷えたお酒をからからの喉にぐびぐびと注ぎ込むのだ。

 

 その後はお酒を一つずつ飲み比べ。

 そして、焜炉の網の上に乗ったおつまみをちまちまと炙りつつ、すでにいい具合に焼けたものやローリエのお菓子、海葡萄なんかを机の上に広げ、舌鼓を打ちながら一人静かな夜を過ごすつもりだった。

 弾力のある座布団を背もたれに使い、長椅子に寝ころんで、のんびりと寛ぎながらね。


 こんな感じさ。


 こんな感じでやる予定だったんだ。


「ぷっはー!」って言いながらゴロゴロするつもりでいたんだよ。「ぷっはー!」ってさ。


 それがこの様だよ。はっ!


「何で私が西黄館にいるって分かったんだよ?」


 無言の馬車に私の声が響く。

 商館街を抜けた頃。

 私の計画を台無しにした目の前いるこの憎たらしいくそ爺に、思いっきり恨みがましく尋ねた。


 腹立たしいが私の敗因でも聞いておこうじゃないか。ええ?

 王宮に帰るまでどうせ暇だ。今から説教を聞くのも鬱陶しいな。


「偶然ですな。儂は姫様の代わりにミーレ様へご挨拶をと思いここに来ただけですからの」


 爺は、すまし顔でそう答えた。


「はあ? それにしちゃ用意周到だったじゃないか。ササレクタまで連れてきやがってさ」


 近衛騎士は分かる。うちの近衛騎士は王族だけでなく、爺みたいな要人警護もその仕事の範疇だ。

 だけれども、爺はササレクタを使って私を捕獲しようとしていた。

 そんな事は私がいることを知らなかったらやらんだろうが。


「これも偶然。ササレクタはミーレ様を護衛しながら王都に戻ってきましたからな。ついでに西黄館まで付いて来させたのです」

「おい、それじゃあ答えになってないだろうが。どうして私が西黄館の三階にいると分かった?」


 私はお前らが罠を張れた理由が知りたいんだよ。


「あら、別に分かっていたわけではないですわよ?」


 私の後ろでササレクタが答える。


「へ? そうなの?」


 どういう事? 私を見つけたのも偶然だったとでもいうのか? 

 でもお前は扉の前で待ち構えていただろう?


 私の疑問に爺がササレクタの言葉を継いで話を続けた。


「見覚えのある馬車が西黄館の傍に停まっていたことで、姫様が商館街にいることが分かりましたのでな。取り敢えず近くにあった商館を二、三確認したら、姫様名義で買い物されておったのが西黄館だと判明したのです」

「確認したのかよ……!」 

「う・ふ・ふ」


「先程も言った通り、儂は元々ミーレ様にご挨拶をするだけが目的でしたからな。姫様の捜索はササレクタに任せ、一階からしらみつぶしで探させただけですじゃ。一階、二階といない訳ですから自然と三階にいるのが分かっただけの事」


「勿論ササレクタが探し損ねても問題ない様に、姫様が乗って来た馬車は別の場所に移動させて確保済みでしたがの」

「そんな事してたのか……」


 ササレクタが遅れて三階に来たのはその為か……。私を探していたと。

 しかも馬車を確保するってどんだけ私を捕まえたかったんだ、こいつら。別に王宮でもいいじゃんよ……。


――まあ……王宮だと逃げるんだけどね、私。

 でもどのみち最後には捕まるしかない。そこまでの経過が長いってだけだ。


「西黄館にいなければ馬車の前で待ち構えていたでしょね。それだと自由に動ける分、逃げ果せたかもしれませんけど。ま、運が悪かったですわね」

「捕まえれる時に捕まえておきませんとな」

「はあ……。分かった、分かった。よく分かりましたよーだっ」


 捕まった理由が分かってすっきりしましたともさ! ふん!


「う・ふ・ふ。あら可愛い」


 そう言うと、そっぽを向いた私にササレクタが更に密着し出した。

 やめろ。私にそんな趣味はない。


「うらあ! 私の頭で頬ずりすんな!」

「あら、いいじゃないですの。腕が使えないんですし」

「そういう事じゃないわ! ていうかササ、お前通達出すの端折んなよ!」


 今となっては別にどうでもいい。

 だが、こいつのこの態度が腹立つ。

 一言言っておくことにした。


「はーい。御免なさいですわーぐりぐりー」

「……おい」


 私も言えた義理ではないが、全く反省をした様子をみせないよね、お前さ。

 頬ずりを止めようともしないこいつには、私が王女とかあんまり関係ない。


 私の事を『姫ちゃん』なんて恥ずかしい名前で呼ぶし。

 これはいくら言っても直さないから諦めている。


 私の事を軽く見ているって訳じゃないんだが、ただ――。


「何でお前が将軍なんだよ……」


 見た目は氷のような冷たい印象を受け近寄りがたいのだが、中身はこんなだ。

 シビアナとは別方向で自由人だよ。将軍をちゃんとやっているのか心配になる。

 

「ほっほっほ。ま、強いからですな。この一言に尽きますのう」

「そりゃあ分かっているけどさ」


 至極天が使えるから将軍って訳でもないんだよね。

 でもまあ強いってのはその通り。


 西方の諸外国に睨みを利かせることが出来ているのは、ササレクタが西都にいるからだ。

 ただ万夫不当の強さを誇るこいつとやり合う国はもうない。居るだけでいい状態だ。

 そのため、ササレクタが西方将軍として西都に派遣されているのは、現状もう一つの違った理由によるところが大きくなっている。


 西北の大平原のさらに向こう、万雷山脈ばんらいさんみゃくを越えた先にあるという霧の大地。

 ここからやってくる岩と植物でできたでっかい化け物――重樹じゅうきっていうんだけど、それをぶっ潰すことが目下こいつの最優先任務だ。

 害獣駆除ってやつだな。


 普通の軍が討伐するとしたなら大きな被害が出るだろう。

 でもササレクタがいると全く問題がない。

 こいつら大体小さな砦ぐらいの大きさしてるから、ササレクタが使う至極天のいい的なんだよね。

 まあ、至極天がなくてもササレクタなら時間をかければ、ぶっ潰せるんだろうけど。


 それと、ササレクタがこうやって王都に定期的に戻ってこれるのは、重樹じゅうきの出現には周期と予兆があるからだ。


 奴が帰ってくるこの時期に重樹じゅうきは今まで現れたことがない。

 ああ一応、いつ現れても大丈夫なように対策はしている。

 西都に一番近い北都にも連絡が行くことになっているしね。

 あそこには北方将軍カンビノーセがいるのだ。


「姫ちゃんの赤い髪って久しぶりに見ましたわねえ」

「久しぶりって、お前王都に帰って来たのも久しぶりで、私と会うのも久しぶりだろうが」

「そうでしたわねえ。でも眼鏡とおさげは新鮮ですわ」

「まあな。それにこんな恰好も普段しないからな。ササは私の変装にいつから気付いていたんだ?」


 変装には自信があったんだけどなあ。でも何かバレてたみたいだし。

 どこがいけなかったのか参考までに聞いとくかな。


 すると、ササレクタが頬ずりを止めて顔を離す。

 気になった私が後ろに顔を向けると、ササレクタが何か悲しそうな顔をしていた。


「姫ちゃん……。流石にわたくしにはその程度の変装、通用しませんわよ?」

「ええ!? 駄目なの!?」


 まさかの初見看破!? 


「すぐに分かったのか!?」

「まあ……姫ちゃんって独特の雰囲気がありますしねえ」


 嘘だろ……。


「クロウガルは!?」


 私は爺の方へ顔を向けた。

 爺は私の事気付くの遅かったはずだ! 初めから私の事見向きもしなかったし。

 イージャンの妹を演じたときに気付いたんだよな? そうだよな?


「ほっほっほ。西黄人の中に一人だけ赤髪は目立ちましたな。ミーレ様と一緒だというのは少々驚きましたがの」

「そっちかあ……」


 状況が悪かったって事か……。

 私がクロウガルに気付く前に気付いてたんだな。


 確かに言われてみればそうだよなあ。

 肌の黒い西黄人に一人だけ色白赤髪美少女だもんな。遠くからでも違和感あるわ。

 私が西黄館にいるというのは知っていた訳だし、すぐに結びついたのか。


「甘いですわねえ」

「甘いですなあ」

「ぐぬぬぬ……」


 こ、こいつらああ……!

 そもそも私はお前らを想定して変装していた訳じゃないんだからな!

 他の人間にバレなきゃ良かっただけだしー!

 別にお前らにバレても良かったしー! 


「ていうか、ちょっと執務サボったぐらいで大袈裟なんだよ! お前らは!」


 私は二人に噛みついた。


「あらあら」

「いいじゃないか別にさー。ちょっと寄っただけだろうが!」


 普段は真面目に執務をやってるんだから、偶には息抜きさせろよ!


「ふー……」


 爺がやれやれといった感じで溜息をつく。腹立つー!!


「儂が咎めておるのはこの事だけではありませぬぞ」

「じゃあ何だよ?」


 他に何があるってんだよ? 最近は大人しかっただろうが。


「シドーの所に人をやった時に、報告を受けましてな……。随分と元気よく、はしゃがれたそうですな、姫様?」

「…………え」


 私の勢いは止まった。


「血統の力を何だと思っておいでかな? じっくりと話す必要がありますな」

「いや、その何ていうか……」

「あの中庭を直すのにどれくらいかかりますかな? 公費の無駄遣いについてもお聞きしましょうか、姫様?」

「…………はい」

「自業自得ですわねえ」


 私の首は再び垂れた。






 馬車の中が一段と暗くなった。


 私は垂れた首を元に戻し、外の様子を窓から確認する。

 王宮の外壁門に到着したようだ。


 ここから王宮に近づくにつれ平坦だった道が少しずつ坂道になる。

 王宮は丘の頂上にあるのだ。

 

 先生に言わせれば、うちの王宮は結構規模が大きいそうだ。私はここしか知らないんだが、先生は色んな所を見て回っているから比較が出来るんだよね。


 王宮はそれを中心に、水堀に囲まれた外壁と内壁で四層に分けられている。


 外壁に一番近い外層には、軍事関連の施設が多い。


 中層は主に宮廷内で働く侍従官や兵士等の居住区だ。飲食店とか服飾店などのお店も色々ある。

 シビアナの家があるのもここだね。


 内層はクロウガルみたいな古くから王家に仕えている貴族の邸宅がある。

 それと食糧なんかを備蓄している大きな倉庫が幾つも軒を並べている。


 それで、これらの中心に王宮があるってな感じ。


 外門を抜けると、軍関係の施設が多いだけに兵士の姿を多く見受けられるようになった。

 こっちに気付いている者もちらほら。中には敬礼をしてくれる兵達もいる。


 私の事に気付いたからのではなく、ササレクタとクロウガルに気付いたからなんだろうけどね。

 しかし、人の目が多くなると流石に、ねえ。


「おい、ササ。そろそろ離せ。もうここまで来たら逃げんよ」


 私はササレクタに処遇改善を求めた。乗り心地は良いがやっぱりこの格好は恥ずかしいよね。

 人目もついてきたことだし、もういいじゃない。


「昔そう言ってわたくしが腕を離したら、馬車の扉蹴破って逃走したのは誰かしら?」

「…………けっ。つまらん事を覚えてやがる」

 

 失敗か。ササレクタの拘束を解くこと能わず。

 しかし懐かしいな。そんな事もあったっけ。ササレクタが言っていることを私も思い出した。


 あれはいつだったか。


 日々の激務に追われ休暇など一切取れなかった私は、我慢の限界を迎えるとぷっつんして大脱走を敢行したのだ。

 しかしササレクタ達にあっけなく捕まり、今みたいに馬車で連行されてしまった。

 だが、私は諦めなかった。


 嘘泣きして上手い事同情を買うことに成功すると、その隙を突いて血統の力を使いササレクタ達を拘束し、脱兎のごとく逃走したのだ。


 お蔭様で一日中遊び呆けることができました。えへへ。


 この時、捕まった後の爺から受けた説教時間は最長記録を叩きだしている。滅茶苦茶怒られたな。

 しかし私は後悔などしていない。実に楽しい一日であった。


 後、罰として馬車の修理を自分でさせられた事によって、馬車の作りに造詣が深くなったのはいい思い出だね。


 私も昔は色々やったんだよなあ……。


「ササレクタ離すでないぞ。このまま儂の執務室まで連行するのじゃ。逃走されたら面倒だからの」

「はーい」


 どんだけ信用がないんだよ、私は。


――まあ、逃げるつもりだったんだけどね。


 昔の私と一緒にしてもらっては困る。私も成長しているのだよ。ふふん。

 力を使わずとも居住区に逃げ込み、シビアナに接触するのは容易いと言えるくらいにはね。


 とはいえ拘束が解けなければ意味はないがな。

 

「それと姫様……。何ですかなその喋り方は? 直すように言ったのをお忘れか?」


 爺の説教が始まってしまった。「覚えてやがる」って言ったのがいけなかったらしい。


「ふん!」

「全く。シドーもそういう所は直せと言っておっただろうに……」

「別にいいだろうが。公務では上品に話してるわ」


 おほほって言っときゃあ大丈夫なんだよ。一々うるさい奴め。


「普段の話し方が、ふとした瞬間に出るものなのですぞ? それが命取りになることもあるのです。それにそもそも姫様のしゃべり方は上品などというものではありませぬ。淑女には到底程遠いもの。男勝りなのもいい加減にして頂かなければ――」

「ふん!」


 けっ無視無視!


「結婚なぞできませぬぞ?」


 あっ!? 禁句を言いやがったな、くそじじい!!


「爺、お前それ言う? それ言っちゃう? 大体私が結婚できないのは、お前が選んでくる奴らが根性無いからだろうが!」


 むきぃいいー! どいつもこいつも私を馬鹿にしやがってえええ!  

 私のせいじゃない! 

 相手が悪すぎるんだよ! どいつもこいつも腰抜けばかりなんだよ!


「何を言っておるのですかな? そもそもの原因は姫様が武闘大祭で優勝などするからです」

「うぐっ!」

「そのせいでこの国で一番強いのは姫様だと国中に広まってしまったのが一番悪い」

「ぐぐっ!」


「『王女は自分より強きものを夫に迎えるべし。これに従わぬ事決して許さず』 この王家の掟をお忘れか? おかげで国外での婿探しをしなければならなくなった儂の身にもなってほしいですな」

「くううう……!」


 私の言い分は見事に粉砕された。


 そう。優勝しちゃったんだよね、私。

 若気の至りってやつさ。


 武闘大祭はトゥアール王国で開催される武術を競う大会で、爺が言ったようにこの国で一番強いのは誰かってのを決める大会だ。

 口の悪い者達はこの大祭の事を『コロシアエ』なんて言ってるらしい……。

 怖いよ。

 そこまで物騒じゃないんだけどなあ。


 人気はあるんだよね。大祭が始まると王都は本当にお祭り騒ぎになる。


 私が武闘大祭に出た理由は単純だ。

 先生がね、優勝したっていうのが羨ましくて、出場が禁止されてたのに出ちゃったんだよね。

 私も優勝したいなあって感じでさ。

 

 勿論、禁止されているわけだから変装して出場した。

 あの時は男装したんだ。

 顔も分からないように覆面つけて、髪も後ろで纏めて布を使って隠したんだけどね。


「しょうがないだろ! 覆面が取れるなんて思ってなかったんだよ!」


 髪の毛を隠してた布も一緒に取れちゃったんだよねー。

 しかも優勝が決まった瞬間にさ。ぽと、ぱさりってね。


 そしたら、観客席から大喝采の嵐。観客全員にバレてそのまま国中に私の優勝が伝わった。

 

「その様な言い訳は通りませぬ」

「へんっ!」


 そうでしょうとも。まあ分かってたけど。


 ともかく私は武闘大祭に優勝したことが国民に知られた事で、国内で結婚を決めることがほぼ出来なくなったのだ。

 この国民が知ったっていうのが非常に良くなかったんだよね……。

 王家の掟は国民も知っているから、誤魔化しが効かなくなっちゃった。


 出場しなければ、国内のそこそこ強い奴でも私の結婚相手になったんだろうけど、出場して優勝しちゃったからね。

 あの優勝は国内で私と結婚できるものはいないと宣言した様なものだったんだ。


 そのため、私の結婚相手に求める条件に家格と強者に続いて、国民がその見合い相手のことを詳しく知らない事ってのが追加された。

 詳しく知らなければ、優勝した私とどっちが強いかなんて判断のしようがないからね。

 だから、国民が良く知らない外国の人間に外交という名の縁談を申し込んだりしているのだ。


 しかしこれが上手くいっていない訳で……。

 相手が武芸に秀でいているってのは事前に調査済みだ。

 一応強いって言われている奴らを選んでるんだよ?

 なのに、どうしてあんなに根性のない奴らばかりなんだろうかね。


 世界は広い。

 私より強い奴なんていくらでもいるんじゃない?

 

 そう思うんだけどねー。

 だからさっさと見つけて来い、くそじじい。


「う・ふ・ふ。でもあれね、準々決勝ぐらいで、もう姫ちゃんって疑われてましたわ」

「げっ……。そうなの?」

「会場がざわついてましたもの。姫ちゃんじゃないかって。ああ、わたくしや他の将軍には最初からバレてましたわよ?」


 またかよ!


「あれも駄目だったのかよ! あの変装は結構頑張ったんだぞ!」


 私には変装の才能がないのだろうか……? 何でこう、いとも簡単にバレてるんだよ。


「う・ふ・ふ。確かにあの男装は可愛かったのですけどね。あれも雰囲気で分かりましたわ。それに姫ちゃん、自分が戦っている時だけ会場に見当たらないんですもの。確認取ったらすぐでしたわね」

「……ササ、それ本当?」

「ええ。すぐにいないって報告来ましたわよ?」

「……そっか」


――シビアナよ。

 お前自分に任せろって言ってたよね? 

 私が戦っている時に必要となる対策とか何もしてなかったの? 私の身代わりを用意するとかさ、色々あるじゃん。


 私が武闘大祭に出る為の最大の難関はシビアナだと思っていた。

 あいつをどうにかしなければ大会なんて出れるわけがない。何とかこちら側に引き込む必要があったのだ。


 しかし、予想に反してシビアナはノリノリで私を送り出してくれた。

 勿論、幾ばくかの見返りを要求されはしたがな。こちらからお願いする形でね。


 結局、自分のせいで正体がバレたしササレクタ達にもバレてたんだから、今さら別にいいけどさ。

 でも、今度ちょっと聞いてみようかな……。

 お前は何してたんだって。


「陛下もバレなければ問題ないからやらせてみよ、と申されてのう……。あれが良くなかったわい」

「父様も知ってたのかよ……」


 何てこったい。

 父様も知ってたって事は王族関係者や上層部の連中も、みーんな知ってたのかよ……。

 私よく止められなかったな。

 ああいや、あんな事ぐらいで父様の決めた事に意見をいう奴もいないか。


 しかし、何だな。私の知らないところで色々あったんだな……。

 誰にもバレてないと思ってた自分が恥ずかしいわ。


「次回はわたくしも出場しようかしら」


 何気に爆弾発言をかますササレクタ。

 アホか。お前が出たら滅茶苦茶になるわ。

 何故なら、


「お前は、至極天使うから駄目だろうが」


 あんなもん会場で振り回したら、全てが木端微塵に崩壊するわ。

 大会どころじゃなくなるのは火を見るよりも明らかだ。


「勿論使わずに、ですわ」

「うーん」


 それでも駄目なんじゃないかなあ? 常人との差があり過ぎるんだよ、こいつ。

 そんな奴が大祭に出たら面白くなくなるんじゃないか?

 お前に匹敵するぐらいの奴が出場すると言うなら話も違ってくるだろうけどさ。


 私の時はイージャンとかカンビノーセがいたしなあ。


 それにそもそもだ。既に最強の一角であるこいつが態々武闘大祭に出場する意味あるのか?


「それに姫ちゃんの結婚相手を見るのに丁度いいでしょ?」

「……はあ?」


 確かにこのままいけば次の武闘大祭まで私の結婚は決まりそうにない。

 そうなると、次の大祭の優勝者が男性だった場合になるが、そいつが一番私のお婿さんになる可能性が高いだろう。

 その前に観衆の面前で、私と闘り合って勝ってもらう必要があるがな。


 でも何でお前は上から目線なんだよ?

 お前も結婚してないだろうが!


 私の事よりもお前は自分の結婚相手を探せよ、馬ー鹿! 

 と、言いたかったがどうなるか分かってたから言うの止めておく。


「あだだだだ!? お、おいササ! 何すんだよ!?」


 ササレクタが笑顔で私の体を締め上げだした。

 私の心でも読んだのかよ!


「あらあら、ごめんあそばせ? おほほほ」

「こ、こいつ……!」


 洒落にならんな、ササの馬鹿力は……。

 拘束が解けない限り、こいつのやりたい放題だ。

 あまり刺激を与えないようにしておこう……。

 大丈夫だとは思うが間違っても怒らせないようにしなければな。


 結婚。男。婚期。年齢。そして、おっぱい。

 この辺りの言葉は絶対に使わないようにしよう。

 いや、思わないようにしよう。

 殺されるわ。


 しかし、馬車は中層の辺り。

 恐怖の拘束が解けるであろう王宮に辿り着くのはまだまだ先であった。

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