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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第二章 おっぱい前触れ編
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第5話 黄金の瞳を持つ者

 西黄人は、その外見に特徴がある。

 肌が浅黒いこと。髪が金髪であること。

 そして、瞳の色が青いこと。

 この3つの特徴が揃っている者は、まず間違いなく西黄人だと言っていい。


 しかし、シカルアヒダの王族には、この3つの内1つだけ当てはまらない異なった特徴がある。


 それが、この黄金色の瞳だ。


 シカルアヒダの王族にまつわることで、この瞳の色は有名な話。

 大黄洋に沈む夕陽を写したような、その美しく輝く黄金色の瞳は『黄昏の瞳』と呼ばれ、王家の血を引く者の証とされている。


 証に成り得る理由は、何もただ美しいからだけではない。

 この瞳はとても珍しく、シカルアヒダの王族以外に持つ者はいないなのだ。

 それはトゥアール王国や他の近辺の国々にあっても同じ。

 むしろ、こちらの事実の方が王家の証としての意味合いが強いだろう。


 シカルアヒダの王族しか持つことを許されないという希少性。

 その希少性をさらに際立てるかの様に、瞳は黄金色に美しく輝く。


 こうして、この黄昏の瞳は王家の証としてこの上ないものとなっている。


 そして今、そんな大層な瞳を持つシカルアヒダの王族が、何故か私の目の前にいた。





 

――しかし本当にきれいな瞳だな。


 私は目の前に現れた女の子の双眸をまじまじと見た。


 黄金色の瞳というだけで、こうも西黄人に対する印象が変わるとはね。碧眼とは全然違う。

 この子が可愛いのも相まって、何やら神秘的なものまで感じてしまうよ。

 

 私は黄昏の瞳を初めて見る。今まで実際に見たことはなかったんだ。

 シカルアヒダの王族がこの国の王都にわざわざやって来ることも稀だし、やって来た時も私は王都にいなかったからね。

 黄金色の瞳が王家の証だと言う事は、先生から少し聞いていた程度だった。

 

 それなのに、この子の瞳を見た瞬間、これは黄昏の瞳だとすぐに気付いてしまったよ。

 それほどまでに他の瞳とは明確に違う。

 王族なのは間違いないね。

 

 よく見れば、この子が着ている白い西黄服も、非常に高価なものだと分かる。


 袖口や襟幅に沿ってあしらわれた青い海草の模様に、小さく砕かれた多種多彩の宝石が、ふんだんに縫い付けられている。

 緑色の腰帯は、金糸を使った花柄の模様が施されて煌びやかだ。

 同じようなものを2階でも見たが、金糸が使われている割合が多いし、模様もさらに複雑で手が込んでいる。


 宝飾品の類は胸元だけだが、精巧にできた金細工の中央に、青い宝石がはめ込まれたものを着けていた。

 宝石は小さいが、幼いこの子にはそれがかえって上品に見える。


 一般的な西黄人の特徴である浅黒い肌に金髪。王家の証たる黄昏の瞳。

 さらには着ている服や宝飾品は非常に高価ときたもんだ。


 ここまで揃っている。シカルアヒダの王族であることは疑いようがない。


 うーん。

 疑いようがないのはいいんだが……。


「どうしたの? お姉ちゃん?」


 目の前の女の子が不思議そうに首を傾げた。

 

「ああ、ごめんごめん。何でもないよ。ははは……」

「?」


 どうして、こんなところに一人でいるんだ?


 近くを見てもこの子の護衛らしき人間はいない。私とこの女の子だけだ。

 それに私はシカルアヒダの王族が来るなんて聞いていない。

 お蔭で驚いてしまったが、それよりも黄昏の瞳を持つシカルアヒダの王族を――しかもこんな幼い女の子を一人にするとか……。

 有り得ないですけど。

 

 私は、この子が一人でいるこの状況に、憤りを覚えつつ疑問に思った。


 …………。


――いや、違うみたいだな。私に対して行動を監視している奴らがいる。


 疑問に思ったのも束の間。

 私に向かって視線を送っている者達がいることに気付いた。

 はじめは分からなかったが、私がこの子に興味を示したことで、一気に警戒態勢に入ったようだ。

 緊張している気配が、視線を通じて伝わってきたので察知できたみたい。


 こいつ等がこの子の護衛か? 

 何がしたいんだよ……。はじめから傍にいろよ。


 しかし、この子が私に話しかけて来てから今まで、護衛らしき連中は動きそうな気配をみせてない。


 はあ……、まあいい。来ないのなら来ないでこちらも好都合だ。

 取り敢えず、この子に不審と思われる前に、事情が聞けるか試してみようか。


 私が王女であることを話してもいいが……。早計だな。

 状況がよく分かってないし、もう少し様子を見よう。

 私の正体が分からないからこそ、得られる情報があるかもしれないし。


 やれやれ。

 このような事が起こるとは思ってもみなかったが、視察に来て正解だったのかな。


「えーと……。お嬢ちゃん暇なの? 暇ならその間、お姉ちゃんとお話ししない?」


 そう言いながら、同時に私は素早く辺りを観察し始める。


 数は押さえておきたいんだよね。護衛じゃないかもしれないし。

 さてさて、何人ぐらいいるのかねえ……。


「うん! 良いよ!」

 

 ありゃ、全く警戒されないね。あっさりと頷いてくれた。

 

 もし話が出来なければ、それでお終い。

 私の正体を明かしてシビアナ達を呼び寄せるつもりだったんだけど。

 でもそんなに簡単に言われると、いつか誘拐とかされるんじゃないかと心配してしまいますよ、お姉ちゃんはさ。


 何の疑いもなく私の誘いに乗ってくれたことに、多少の罪悪感を感じつつ話を続ける。


「ありがとう。ささ、どうぞお隣に。可愛いお嬢様」

「はーい!」 

 

――3,4……7人いるな。

 お嬢ちゃんが私の隣に座っても、こちらに向かってくる気配はないようだが……。

 確実に私を警戒してるね。


 視線を向けないように様子を窺ったら、こちらを見ながら動きに不自然な静けさがある者達を見つけることが出来た。

 他の客はシビアナの方を見ているので、簡単に見分けられたよ。


 まさかシビアナがこんな形で役に立つとは……。助かったのは確かだが、何か腹立つんですけど。


――っておい! シビアナの奴、上着脱いでんのかよ!


 遠く離れた二人を見れば、上着ふういんを解いたシビアナが、宝飾品を装備しイージャンに止めの一撃を放っていた。

 周りには若干、人だかりができている。しかし、どうやら2階で起きたような大惨事には至っていないみたいだ。

 と思ったら、床に倒れて悶えている人が既に数人にいた。


 お前は本当に我欲の為なら、周りに被害が出ても構わないよなっ?


 他人いしころなんて気にしない。夫を手玉に取る為なら全力で行く。それがシビアナだ。

 

 と、不意にシビアナが口許に右手を置いて、私に向かい笑顔を作る。

 そして、左手をゆっくりと振る仕草を見せた。


――はあ……。

 何だ一応気付いているのか。


 左手の振り方で分かった。あれは私とシビアナしか知らない合図だ。

 どうやら、あいつもこちらの雰囲気がおかしいことは気付いていたらしい。


 ま、お前らは買い物済ませてから来てくれればいいさ。勿論、お前はそのつもりだろうがな。


 シビアナが動けることが分かったところで……さて――。


 私は隣に座った女の子に笑顔を向けながら、これからどうするか思案する。


 おおっ。この子無茶苦茶可愛いな。ちょこんって座っている姿が実良い。

 ――はっ。いやいや、違う! そんな事を考えてる場合じゃないわ。


 えーと……。 


 トゥアール王国とシカルアヒダ王国の仲は良好だ。きな臭い事情ではないと思いたいが、どうだろうね。

 私に通達が来ていないってのが気にかかるだよなあ。ま、どのみち王宮に帰ったら即確認だな。


 とにかく、状況が知りたい。この子がどうしてここに一人でいるのか。

 後、何の目的で来たのか、どういう立場なのかを聞ければ尚有難い。


 それと、周りの連中がどう反応するかも見ておきたいね。

 万が一この子に危害を加えるような輩だった場合は――、私が問答無用で叩き潰すことにしようか。

 最悪、私に襲い掛かって来たことにすれば、後でどうとでもなる。


 よし、こんな感じだな。


 私はこのお嬢ちゃんの身の安全を図りつつ、探りを入れることに決めた。






「――お嬢ちゃんは……ここには一人で来たのかな?」


 さあて、事情聴取の開始だ。まずはこの子に、この状況をご説明頂こうか。


「ううん。あっちで何か難しい話してたから出て来たんだよー。居てもつまらないし」


 と、売り場の一番奥にある扉を見ながら、口を尖らせる。


「ああ、そうなんだね」


 私もつられて奥の扉を見た。あそこは確か迎賓室だったか……。

 一際豪華な装飾が施された扉が私の記憶を呼び起こした。


 でも良かった。どうやら売り場にいる連中とは別に臣下がいるようだ。

 後で、あそこに連れて行けばいいな。


「お父様やお母様とかご家族の方と一緒じゃないの?」

「うん。一緒じゃないよー」 


 他に王族は来てないか……。

 ていうか、この子あっけらかんとしてるね。

 このくらいの歳なら、傍に親がいないと寂しいような気もするが。


「そっか。あ、私の名前はリンっていうの。お嬢ちゃんのお名前は?」


 シカルアヒダの王族の名は一応頭に入っている。分かると非常に有難い。


「リン?……お姉ちゃんっていうんだ。私はミーレ!」


――ミーレ。


 この子が本当のことを言っているのなら、心当たりはある。

 シカルアヒダ・ミーレ・モーサ。

 現シカルアヒダ国王の第2子――第1王女シカルアヒダ・ユーノ・モーサの御息女だな。


 先生から聞いたことがあるぞ……。

 第1王女は女傑であると。女傑の子か……。思い出した。


「そうミーレちゃんっていうんだ。ミーレちゃんはシカルアヒダから来たの?」

「そうだよー!」

「あ、やっぱりそうなんだ。いつ来たの?」

「お昼前だよ! だから昼食は王都で食べたの! ふふっ、王都の料理ね、食べたことなかったけどおいしかった!」


 お昼ってことは今日かあ。成る程、ついさっき着いたわけか。

 お昼頃に王都に到着して、それから王宮に向かったのなら入れ違いになってたのかもな。

 事前に使者を寄越さなかったってことは、非公式か。

 公式だと私の耳にも必ず入る。

 

 ミーレちゃんは王族だが王太子ってわけではないはずだ。王位継承権も4番目か5番目かもっと低いくらいだろう。

 それくらいだと、そこまで公式非公式に拘る必要がなくなる。

 ミーレちゃんの場合、非公式で来たのなら王都に着いたときに、王宮へきちんと連絡してくれれば問題はないんだよね。シカルアヒダとは仲も良いし。


 ただまあ、非公式でも王族が来たなら、この国に入った時点で国境を警備しているとこから通達を出すんだけど。王族の方がこれから王都に行きますよって。


 ――あ、いや待てよ……。


「ふふっ。そう、王都での食事は初めてなんだ。でも気に入ってくれたんなら、お姉ちゃんも嬉しいな」

「うん!」


 ササレクタの奴、通達出すの端折りやがったな……。

 あいつが責任者だったのを思い出した。


 ササレクタは西方将軍。奴がいるのはシカルアヒダ王国に一番近い西都だ。西側の国境に関する通達はここを必ず通って、重要な案件はササレクタが判断する。

 

 案外ミーレちゃんはササレクタと一緒に来たんじゃないか? 


 定期報告で帰ってくるはずだし。

 通達を出さない代わりに、警護と監視も兼ねて自分が同行すれば別にいいだろうってね。

 元々そこまで形式に拘らないんだよな、あいつ。非公式なら尚更だ。


 まあ一緒に来ようが来まいが、ササレクタが端折ったっていうんなら、重要な案件じゃない訳だし……。

 ということは、この子普通に観光でもしに来たんじゃないの? 


 通達が来てない理由にまで目星が付くと、何だかどんどん緊張感が無くなって来た。


「じゃあミーレちゃんはここにお買い物をしに来たの?」


 といっても観光するならここじゃないよな?

 この国に来たばかりの西黄人が西黄館でお買い物?


「違うよー。シークリッドが王宮から帰って来るの待ってるの。帰ってきたら出発だよー。」

「そうなんだ」


 王宮! これでもう間違いなさそうだな。

 西黄館は待ち合わせに利用しているってわけか。

 そうか、ここの商館の人間にシカルアヒダの王族は顔が利くんだったな。であれば、同郷でもあることだし比較的安全だ。


 シークリッドという名前は知らないが、こいつが王宮で連絡やら手続きを行ってるんだろう。

 ミーレちゃんは王宮には行かずにここで待っているんだね。


「はあー。早く帰ってこないかなー、シークリッド。待ちくたびれちゃったよお……。あ! 今はお姉ちゃんと話せてるからいいけどね! ふふっ」


 あら! 嬉しいこと言ってくれるじゃないの。

 さっきのよいしょといい、この子からの好意をひしひしと感じますわ。おほほ。


「ふふっ。ありがとっ。ミーレちゃん」


 はあー……。


 やれやれ。

 普通だこれ。普通に遊学に来てるんだ。

 拍子抜けだったなあ。まあ、それでいいんだけど。


 どうやら私の取り越し苦労だったようだ。


 この後は……そうだなあ……。

 ミーレちゃんには行先を聞いたら、シビアナ達が戻ってくるまで一緒にお話しを楽しんでしまおうかな。

 そのあと迎賓室に連れて行こう。


 周りにいる奴らはシビアナに伝えてもらって、もし向こうが何も知らなかったら、イージャンに妻の前で良い格好でもさせよう。どう見てもイージャン一人で事が足りるわ。


 よし! それじゃあミーレちゃん、これが最後の質問です。


「それでミーレちゃん。ミーレちゃんはこれからどこに行くの?」


 数日は滞在するだろうし、もし都合がつけば私も同行できるようにして貰おうかな?

 ふふっ。私を美人のお姉さんと慕ってくれる女の子だ。最高のおもてなしをしようじゃないか。

 あ! その時にでも私がリンお姉ちゃんって正体明かして驚かせるものいいかもね。

 

 なんて調子に乗って気を抜いていたら、


「シドーおじ様のとこだよ!」

「――え!?」


 先生の名前が飛び出してきた。






 私は先生の事を完全に失念してた。


 もうすっかりミーレちゃんは遊びに来たんだとばかり思っていた。

 

 シドー先生は我がトゥアール王国が誇る英雄だ。

 その英雄の功績には、シカルアヒダ王国と関係するものがある。


 まだトゥアール王国とシカルアヒダ王国に正式な国交が無かった頃。

 その当時、シカルアヒダ王国近辺の海に出没していた海賊を、先生がぶっ潰した。


 大陸と島との海路を塞がれたりなんかして結構被害を被っていたそうで、シカルアヒダ王国は海賊を殲滅した先生に相当感謝したらしい。

 これが転機になって、シカルアヒダ王国と正式な国交が結ばれたそうだ。


 つまり、トゥアール王国とシカルアヒダ王国の今があるのは、先生のお蔭なのだ。


 そんなんだからかシカルアヒダでも先生は人気があるみたい。

 この手の話は痛快だから、無理もないけどさ。


 先生はシカルアヒダの王族とも、これがきっかけで色々付き合いが出来たみたいだから、ミーレちゃんが訪ねてきたというのは不思議ではないのだ。


 私はこの事をすっかり忘れていた。

 仕方ないじゃない。だって私はシカルアヒダに縁がないんだもん。行ったこともないしさ。


 しっかし、やっちまったなあ。大したことないって思ってたらこれだよ。

 ミーレちゃん、先生に何の用だろ? 

 

「お姉ちゃん、シドーおじ様の事知っているの?」


 あう。私の反応にミーレちゃんが、しっかり食いついていた。


 しまったあ……。誤魔化さねばっ。

 ていうかおじ様って……。その呼び方は初めて聞いたな。なんか変な感じ。


「あーええっと……。まあ、有名人だからね。この国の人なら大抵知っていると思うよ」

「おお。そうなんだ。おじ様すごい!」

「はは……。私が知っている人だったらね」


 ほっ回避できたな。


「おじ様とは、ひっさしぶりに会うんだー。元気してるかなー。ふふっ」

「へ、へえ。それは楽しみだね」

「うん!」


 ミーレちゃんは先生に面識があるのか。

 先生も色んな知り合いがいるからなあ。ミーレちゃんもその一人だったか。


 ああ一応、先生で合っているか聞いとこうか。間違ってるとは思えないけど念のため。


「えっと……。シドーおじ様ってどんな人?」

「ハゲ!!」


 おおう。

 何て屈託のない笑顔をするんだ君は……。

 

「あっ。これ言ったら駄目だった」

「――うん。駄目だね。心、傷つけるからね」


 私もさっき言ってしまったが。

 私の脳裏にあの頭が浮かんできた。きらりっ。


「ご、ごめんなさい……」

「ははは……」

 

 にしてもミーレちゃんは先生大好きなんだなあ。

 ハゲって言った時の目が輝きが違うよ。

 それに今まで話してて思ったが、とっても元気な子だ。何だか王族っぽくないね。

 この歳くらいなら、もう少し落ち着いた感じになってもおかしくないんだけど。


――ふふっ……。テレルとは違うな。まあ当たり前だが。

 テレルはどっちかというと恥ずかしがり屋さんなんだよね。


 テレルは6歳、ミーレちゃんは多分――12か13歳ぐらいだろう。

 歳で考えると倍以上違うんだけど、私と仲が良い子供なんてテレルくらいだったから、自然と比べてしまった。


「うー。失敗失敗。てへぺろこっつんこだよー」


 何か変な言葉が聞こえてきた。


 …………。


 てへ……? 


 あ、ああ。意味は何となくね、何となく分かるわ。失敗って言ってるからね。


 西黄人はこんな感じで何というか……一瞬意味が分からない言葉を使う。

 全く意味が分からないものもあるけど。


 えーと。てへぺろこっつんこ……。


 気になったので少し考えてみた。


 てへはあれだろ、こう失敗したときとか、あと照れたときにも言うよね。

 ぺろこっつんこは……。ぺろこっつんこ? ぺろと、こっつんこが別か?


 こっつんこは、失敗を誤魔化しつつ自分の可愛さを見せつける女の子専用の高等戦術だ。自分の頭を軽くこつんと拳で叩くんだ。私もさっき失敗したときにイージャンに使ったな。

 この子はそれらを繋げて言ってるんだよ。多分?


 あれ? じゃあぺろは?

 ぺろ……? ぺろって何だ?


「お姉ちゃん?」

「ん? ああごめん、ごめん」


 いかんいかん。つい没頭してしまった。


「その……シドーおじ様って、他にどんなところがあるの?」


 もうちょっとシドー先生のことが聞きたくなってきたので、質問してみる。


 すると、ミーレちゃんの顔がパーッと明るくなった。

 あら? 


「シドーおじ様はね、ハゲだけど超カッコいいんだよ!」

「え!?」


 いや……それはどうだろう。ていうか、またハゲって言ってるね。


 ミーレちゃんの勢いは止まらない。


「しかもね、ガチで大きいんだよ! それで筋肉がやばい! 最強のガチムチなんだよ!」


 そう興奮しながら自分の両手をめいっぱい広げる。


「ほ、ほう……」


 ミーレちゃんは、何度も円を描いて私に先生の凄さを伝えようと頑張ってくれた。

 でも私はよく分からない。

 それよりも私はミーレちゃんの言葉が気になってしまった。


 何だよ、がちって!? がちむち? 

 くっ……。こんなことなら先生にシカルアヒダの言葉をきちんと教えてもらっとけば良かった……。

 ていうかミーレちゃん、いきなり使い出したな。

 

「ふふ……。でもね、苦手な物があるの」

「――ん? 苦手な物?」


 あ、もしかして――。


「それはね――なんと女の子が超駄目駄目なんだよ!」

「そっかあ」


 ミーレちゃん知ってたかあ。  

 尚、先生は女の子が苦手だということは、遠くシカルアヒダまで伝わっている模様。


「それでね、面白いお話があるの! ふふっ。可笑しいんだから! 女の子に言い寄られてね。逃げ出したんだけど、その子が崖まで追いかけてきちゃって。ふふっ。そしたらおじ様そこから飛び降りたんだよ! 海にどばーんって! そのまま泳いで帰ったんだよ! ビックリ!」

「…………そう」


 何やってんだよ、あのおっさんは……。

 崖まで追いかける子もどうかと思うけど、どんな状況だったんだ?

 まあでも、これで間違いない。おじ様は先生のことだわ。こんなアホな事やってのけるの先生しかいないよ。


 でもね、ミーレちゃん。そんな先生が婚約したんだよ?

 びっくりするだろうなあ……。


「他にも色々あるんだよ!」


――ほう?


 ミーレちゃんは、どうやら先生の面白い過去をまだまだ知っているようだ。


「へえ……。どんな話かな?」


 おやおや……? まさか先生の弱みを握る機会になるとは……。

 良いのがあったら、面白そうだからローリエにも教えてみるかねえ……。けーっけっけっ。


 ミーレちゃんの用事はもういいかな! 後で先生に確認しよーっと!


 よくよく考えてみれば、先生に対処してもらえば別に問題ない。

 シビアナ達と合流したら先生の所に人をやろう。

 先生一人なら別にいいけど、ローリエがいることだし、そこはしっかりと安全を確保しておく必要がある。


 私はミーレちゃんから先生に会う目的を聞き出すのを諦めた。


「えっとね――」

「ふむふむ」


 こうして、私はミーレちゃんから先生の昔話を仕入れるのだった。

 





 先生の話で盛り上がっていると、しばらくしてミーレちゃんの視線が3階の出入り口の方へ向いた。


「あっ帰って来たみたい!」

「そうなの?」

「うん!」


 ミーレちゃんがそう言って嬉しそうに扉を見ながらうなずく。

 すると、その扉を通ってぞろぞろと人が入ってきた。

 西黄服の上から軽鎧を着け剣を腰に携えた者達や、文官が着るようなゆったりとした服を着た者達だ。


 その中の2,3人が、売り場をうろついていた西黄人に話しかけていた。

 私が怪しいと思っていた連中だ。


 何だ、やっぱり護衛かよ。でもちょっとシカルアヒダの護衛の仕方はおかしい――。

――あれ? うちの近衛騎士隊もいるぞ?


 西黄人の一団の中に、王宮兵士や見知った近衛騎士隊の面々もちらほら確認できた。


 何で?


「シークリッドー!」


 私が疑問に思っていると、隣に座っていたミーレちゃんが入って来た団体に向かって手を振った。

 すると、文官風の男が一人反応した。


 金髪を後ろへすき上げた若干疲れたような顔をした30代くらいの男だ。


「――!? ミーレ様!?」


 声の主を探してか、きょろきょろ周りを見ていたが、こちらを向くとギョッとして慌てた様子で駆け寄ってきた。


「お帰り、シークリッド。どうだった? もう行けるの?」

「え? あ、はい。これからすぐに向かえますが、その前に――って、こんなところで何をなさっているのです!?」


 うん。あんたの意見はもっともだよ。


「暇だったから、ちょっとねー」

「ちょっとって、ええぇえー……。――あ、こちらの方は?」


 シークリッドと呼ばれた男は二の句が継げないようだったが、ミーレちゃんの隣にいる私に気付いた。

 私は軽く会釈をする。


「リンお姉ちゃん! 私とお話ししてくれていたの!」

「は、はあ、そうですか。あ、いえその申し訳ありません。少し取り乱してしまいましたね」

「いえ、お気になさらず」

「その……ミーレ様とはどういった御関係でしょうか?」


 シークリッドは、遠慮がちに尋ねてきた。

 ああ、私が西黄服を着ているからか。自分が知らない関係者だと思ったのかな?


「えーと……。ちょっとそこで話してただけなんですけど」

「えっ!?」


 まあ、その反応もわかるわ。


「ふふっ! すっごく楽しかった! シドーおじ様のお話してたんだよ!」

「ええぇえー……」


 王女が見も知らない美女と、近くに護衛もつけずに話してたら、そりゃあね。

 良かった。どうやらこの男は、普通の感性を持っているようだ。

 ミーレちゃんとのやり取りを見るに、信頼のおける近しい間柄の様だし。


 ミーレちゃん! 後できちんと説教を受けるように!

 あとあんたも、護衛の仕方をきちんと考えるように! 


 私はそのせいで、変に勘ぐる羽目になったんだからな!


 唖然としていたシークリッドだったが、はっと何かに気付いた顔をすると、


「ネルルーサは何処に?」


 そうミーレちゃんに尋ねた。


「あっち」


 尋ねられた彼女は、さっき言っていた売り場の奥にある迎賓室の扉を指さした。


 ネルルーサって名前も知らないな。責任者か何かかね。


「ええぇえー……」

「どうしたの?」


 きょとんとした表情で首を傾げるミーレちゃん。


「いえ、どうしたのって。いえ、そ、ええぇえー……」


 何か苦労してんだな……。

 さて、ミーレちゃんとの楽しい時間は終わりだな。


「じゃあミーレちゃん、私はこの辺で」


 私はミーレちゃんにお別れの挨拶をして、ここから離れるように促した。

 もしかしたら、また会えるかもね。

 その時の私はこの国の王女リリシーナとしてだけど。


「うん! お話してくれてありがとう! リンお姉ちゃん!」

 

 私の意図を分かってくれたのかな?

 シークリッドの傍まで寄ると、嬉しそうに手を振ってくれた。

 可愛い笑顔で手を振ってくれる彼女に、私も笑顔で手を振りかえす。


 その時だ。


「ほっほっほっ。何やら予想外の事が起こっていたようですな」


 シークリッドの後ろから老齢の渋い声が聞こえてきた。


「はっ……。お騒がせしてしまい申し訳ありません」


 シークリッドがその声に反応して振り向く。


 お、おい。まさか……。


 私は聞き覚えのあるその声にゆっくり顔を向ける。


 げえええええ!? じじい!?


 そこにはトゥアール王国宰相クロウガルがいた。

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