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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第二章 おっぱい前触れ編
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第4話 異国の商館でお買い物 その2 

「それでは、支払いを済ませてきますね」

「ああ、分かった」

「……はーい」


 私は2階の受付近くにある長椅子に腰を掛け、ぐったりとしていた。


 おつまみとテレルのお土産を買いに来ただけなのに、どうしてこうなる……。


 煽てられて調子に乗ってたらこの様だよ。試着なんて本当にするんじゃなかった……。

 勝利宣言からの完全敗北がかなり堪えているみたいだ。ちょっとここを動きたくない。


 まさかシビアナがあそこまでやるなんてね。完全に想定外だ。

 髪型をいじるだけでもびっくりしたのに、何なのあれ。これ、ただの試着だよ?

 化粧まで直すとかさ。なんで化粧道具持参なんだよあいつ……。どこに隠し持っていやがったんだ。


 まあ、シビアナの事は置いておくとしてだな……。


「おーい。お兄ちゃーん……。こっちに来て一緒に座ったらどうかなー……」

「…………」


 …………。


「おーい……」

「――本当に綺麗だ……」


 お兄ちゃんが中々正気に戻らないんだよ。シビアナの虜になったままだ。


 受付への移動中も、こいつはずっとシビアナの事ばかり見ていた。今も私からちょっと離れた所で、シビアナの後ろ姿をこうしてぽーっと見とれていやがる有様だよ。


 妹かつ王女であるこの私を無視だ。

 お兄ちゃんは本当にいい度胸をしている。本当にね……。


 腕を引っ張ったり、体を揺さぶってみても良いいんだが……。

 今の私にそんな事をする気力はない。というか面倒くさい。立ちたくない。


 というわけで、私はこいつが自然と正気に戻るのを待つことにしていた。


 歓声を上げていた客――いや男どもは、一緒に来ていた妻や恋人らしき女性たちに、頬やら鳩尾あたりにグーで重い一撃をめり込まされて、その場でごろごろと床を転がりながら悶絶中だ。


 ふん。私も蹴りの一つでも入れてやりたかったわ。

 受付に向かって歩いていると良い位置に男どもが転がっているから、そのまま頭を蹴り上げて天井に突き刺してやりたいという、そんな黒い衝動に駆られてしまった。


 まったく……人妻シビアナの色香に惑わされやがって。

 確かにシビアナの本気は強烈だったし、私も惑わされたけども。いや、惑わされたっていうか戦慄を覚えたっていう方が近いか。私の場合は、さらに自尊心とかも木端微塵にされたがな。


 シビアナは確かにすごい美女だ。そんな奴が気合を入れて着飾れば、周りがああいう反応をするのは分からんでもない。

 でもやっぱりね、あのおっぱいが全ていけないんだよ。そうに違いない。


 私だってこの国で一番可愛い美少女、若しくは美女として評判の王女様なんだよ。

 そう、この国一番の美少女と美女の称号は私のものなのだ。シビアナは美少女じゃなくて美女! 二番目くらいの美女なの! 僅差で私が一番なんだよ! 

 なのに何? あの反応の差は! 甲乙つけがたい美女二人に、どうしてこうも差が出るんだ!?

 

 色気か? 確かに大切なだよ色気もな。それは分かる。でもそうじゃないよな、違うだろ?

 その色気を発生させている大本があるよな?


 おっぱいだろ? やっぱりおっぱいが、あるか無いかなんだろ? 

 それしかないじゃない! 


 私だってなあ! くうぅぅ。私だってあれさえあればなあ! 色気をばんばんまき散らして、今頃結婚の一つくらいできているんだよおお!


「はあ……」


 あのでか乳おっぱいがプルンプルンして、禍々しい本性を剥き出す度に私の人生は狂わされている気がする。

 この私に大怪我を負わすことのできる恐ろしい凶器だよ。しかも鈍器の類さ。

 私の体よりも大きいおっぱいの形をした鉄球――そんな感じのやつ。

 それをシビアナが、どんどん私にぶん投げてくるんだ。

 悲鳴を上げる私を真正面から捉えてふっ飛ばし、そして心をバキバキに砕いていくのさ。


 他の女の子たちもそんな感じだっただろう。

 それなのに、隣で自分の夫や恋人がシビアナを見て、歓声を上げながら喜んでいるんだもんな。そりゃあ殴るよ。


 未だ惨状と化している売り場の方へ目をやると、女性陣は男どもの呻いているその姿を、無言で見下ろしていた。その目はとても冷たい。


 ああ、あれゴミを見る目だ。


 この後きっと修羅場なんだろうな……。

 シビアナが本気を出した結果、甚大な被害を周囲に与えることになっていた。

 これから連鎖的に二次三次と被害が拡大していくことだろう。家庭崩壊までいくかもな……。


 ちなみに、そんな罪づくりなシビアナお姉ちゃんは、自分が引き起こした惨状など気にもせず完全に無視だった。

 夫以外眼中にないようで、もがき苦しんでいる男どもに一瞥もくれてやることもなかった。

 夫からの称賛が欲しかっただけ、と言わんばかりのその態度はいっそ清々しいわ。


 そして、イージャンの熱視線を背中に受けて今もご満悦の様子。

 一見澄ました顔をしているように見えるが、私には分かってしまう。相当嬉しそうだ。


 だが、お前の蹂躙に巻き込まれた私たちは、たまったもんじゃない。

 ていうかお前、こうなること分かっててやっているだろうが! 

 もっと周囲に気を遣えよ。余裕でできるだろ、お前ならさ。そして私にも優しくしろ。


 でも、こいつが夫一筋で良かったよ。これは本当にそう思う。

 もしも魔性の女だっりしたら、この国がやばかったんじゃないか?

 傾国の美姫ってやつだろ。

 

 


 

 ピクッ。


 イージャンの体が震えた。

 やれやれやっと正気に戻ったか。


 自分の背中に当たる私の生暖かい視線に、ようやく気づいたようだ。


 おら、さっさとこっち向けよ。私を無視した言い訳があるなら聞こうか。

 私が納得できると良いな。まあ、そんな事は絶対に無いだろうがな。


 イージャンは、恐る恐るといった感じでゆっくりとこちらに振り返った。


「そ、その殿下……」

「…………」


 私は君の可愛い可愛い妹様だと、何度言えば分かるのかね?

 私が王女であると周囲にバレたら、大騒ぎだよ? それなのに殿下だなんて言ってちゃあ駄目だろう。

 

 さらにこの私を無視して妻といちゃこらしていたんだ……。護衛の役割を放棄してねえ!

 これは大問題だよ君ぃ。本当に取り返しがつかないことをしてしまったねえ。


 剣の腕は確かにいいが、こんな体たらくではこれ以上の昇進は望めそうもないなあー。

 いやあ困ったなあ。リンちゃん困っちゃったなあ。妹が兄の昇進を妨げることになるんだもんなあ……。ああ困った困った。


 それに責任――というものがあるよねえ? 君にもそれくらいは分かるはずだ……。けじめはつけないといけないよねえ。示しがつかないもの。

 君はそこんとこ、どー思っているのかね? ん? ちゃんと聞こうじゃないか。


 周りに人はいないから殿下でも構わんさ。そのまま話を続けたまえよ。


 私は心の中で一気に毒を吐いた。

 口に出さなかった私の優しさに感謝しろ。


「あの……」

「…………」


 おー目が泳いでるねー。顔色も悪いなー。

 んーどうしたのかなー?

 ああそうか、私の顔が怖いのかな? はははっごめんねえ、無表情で。

 それじゃあ笑顔で、お話ししましょうか。


 私が笑顔を作ると、お兄ちゃんの顔が引き攣った。


「ねえ、お兄ちゃん……」

「は、ははいぃっ!」

「妹を蔑ろにする……大事にしない兄なんて……この世に必要なのかな? かな?」

「ひっ、ひ必要ありません!」

「そう……。分かってるならいいんだよ。分かっているんなら、ね……?」

「はっ!申し訳ありませんでした!」


 うむ。いい返事だ。妹に対して謝罪もきちんと言えるお兄ちゃんで私は嬉しいよ。

 それにお兄ちゃんと私は、どうやら同じ価値観を持っているようだ。

 これなら私の命令も素直に従ってくれるだろう。


「悪かったと思ってるんだ……。じゃあ、私からお願いをしようかな? お詫びのしるしとしてさ。それを聞いてくれたら許してあげる」

「はっ。ありがとうございます! 何なりとお申し付けください!」


 ほお……。何でもいいんだ。それはそれは……。


「………そっか」


 どうしようか……。お兄ちゃんは元々扱き決定だったし、もっときついのが良いんだよね。

 妹を大切にしない兄は死すべし。

 お兄ちゃんもこの意見には賛成してくれたし、それなりに酷い目に合ってもらおうか……。


――ああ、あいつそろそろ帰って来るな。定期報告の時期だ。


「イージャン、お前ちょっと西方将軍のササレクタに喧嘩売ってこいよ」

「…………え?」


 ササレクタは、私と同じ独身の女性だ。おっぱいは私と同じぐらい。

 うーん。まあ私の方が若干大きいかな。

 今は西方の守りに就いているから王都にいないけど、帰って来た時は一緒にお酒を飲む。

 歳が近いからか気が合うんだよね。


 酒も強いが、腕っぷしも強い。トゥアール王国最強の戦闘能力を持つ一人だ。


「そろそろ帰って来るんだよ。定期報告でさ。丁度いいから訓練とでも言って喧嘩吹っかけて来い」

「えええ!? ササレクタ様にですか!?」

「そうだ」

「いや、それはあまりにも危険と言いますか、その――」


 ふふふっ。お兄ちゃんたら分かってないなー。


 私は死んでこいって言ってんだよ。


「ああ、それと戦う前にな『公共の場で殿下をずっと無視しちゃいました。妻に見とれてしまって。いやあ、やっぱりシビアナのたわわに実ったおっぱいは最高ですね! 結婚して本当に良かったです!』 って爽やかに言って奴を挑発しろ」

「挑発!? ちょっと待ってください殿下!」

「はっはっは。ちょっとした洒落だよ。あいつも笑ってくれるさ。こっちが挑発だと思っていても、向こうはそうとは受け取らないよ」

「そ、そうですか……」

 

 そんな訳ないわ。お前は私たち持たざる者――独身者の深い闇を知らない。

 ササレクタは確実にキレる。

 お前は全身穴だらけになって、この世からおさらばするんだよ。

 残ったシビアナとテレルの事は任せとおけ。二人とも私が大事にするし問題はないから、安心してあの世に逝くがいい。


「なんだよ。勝つ自信ないのか? なあに。お前ならいい線いくだろう。大丈夫ー大丈夫ー」


 ま、無理だがな。私なら問題ないがイージャンだとまだ勝てないだろう。


「いえ……。そうでしょうか……? あれ? え? 本当にやるんですか?」

「ああ。『胸を貸して下さい』って言ってこい」


 初めにこの一言を言って若干の嫌悪感を抱かせて、さっきの挑発をかませば本気で殺ってくれるさ。

 

「本当に……?」

「お兄ちゃん、私のいう事何でも聞いてくれるって言ったのに……。あれは嘘だったの?」

「うっ…………分かりました」

「うん! 挑発もちゃんとお願いね!」

「はっ……」


 くっくっくっ……。すごい嫌そうだな。まあこれくらいの反応はして貰わないと私の気が済まないからな。

 とはいえ、やる気は出してもらわないと面白くない。私の保身もきちんとはからなくては。

 シビアナがどう反応するか分からないし、もしイージャンの代わりに逆襲でもされたら本気でやばい。


「お前には『至極天しきょくてん』の仮使用申請をしといてやる。黒い刀のやつな」

「なっ!? よろしいのですか!?」

「ふっふっふ。よろしいとも」


 イージャンの表情がパーッと明るくなった。現金な奴め。

 まあ無理もないか。憧れの武器が使えるのだからな。


 『至極天しきょくてん』というのは、トゥアール王国が誇る巨大な武器のことだ。

 およそ人が使うものとは思えない程の大きさで、大昔に巨人が使っていたという説もあるくらいだ。

 剣や槍とか形態も色々。


 これを扱える者は漏れなく、この国最強の一人として数えられている。ササレクタもそうだな。

 トゥアール王国には現在10体あり、所有者は6人。

 イージャンには所有者がいない残り4つの内、あいつの剣術が活かせそうな刀を使わせる。


 イージャンの反応は上々。

 ここで私は、さらにやる気がでるように話を続ける。


「なあ、イージャン……」

「はい?」

「――もし所有者として本決まりになったら、シビアナはお前をどう思うかなあ?」

「……!?」


 イージャンが7人目に選ばれれば、地位や給金といった諸々の扱いがガラリと変わる。破格の待遇ってやつだ。

 それに、こいつは王宮の警備を統括している近衛騎士隊の副隊長だ。

 所有者として認められれば、王都守護の全権を任せられる可能性が高い。

 そうなれば、妻であるシビアナの鼻も高いだろう。

 

「惚れ直すだろうなあ、間違いなく。今でもお前一筋なのに、さらにすごい事になるかもなあ」

「はっ……。い、いえ、その……」

「満面の笑みで『おめでとうございます、あなた』なんて言われるんだろうなあ。羨ましいことだ……」

「……!!?」

「テレルも……。ああ、すっごく喜んでくれそうだなあ……。はしゃぐ姿が目に浮かぶよ」

「………………ごくり」


「…………」

「…………」


「…………頑張れ」

「はっ! ありがとうございます!!」

「ああ、シビアナには黙っておけよ。びっくりさせたいからな」


 妨害とかされないよう念のため。


「はっ!」


 ちょろいなーお兄ちゃんは。俄然やる気が出たみたいだ。シビアナとテレルの事を出せばイチコロなんだよね。

 ただ、ササレクタの本気はなあ……。容赦ないからな、あいつ。

 まあ、お前なら死ぬ事はない。心置きなく、ぼこぼこのずたずたにされて来い。

 

「真面目な話、お前には経験を積んで欲しいんだよ。今の状態はある意味良くない。近衛騎士隊の副隊長だから、日常業務で手一杯になりがちで訓練不足だしな。今回ササレクタとやるのも経験を積んで『至極天しきょくてん』を使いこなすための、その一環だと思っていてくれ」

「はっ!」

 

 これで私の保身も完璧だな。

 全てはイージャンの未来の為、私は素晴らしい機会を作ってやったんだよ。うんうん。

 決して私の憂さ晴らしではないのだ。


 後はササレクタが帰ってきたら、それとなく伝えておきますか。

 楽しみにしておこう。ふふふ……。

 





 しばらくすると、シビアナが支払いを済ませて戻ってきたので、私たちは3階に向かった。


 イージャンが正気に戻ったことだし、別に行く必要もなかったんだけど、まあ付き合ってやることにした。

 シビアナには服装に合わせて宝飾品を選べるように、支払いのついでに私たちの服を預かる手続きもしてもらったしね。

 なので、私たちが着ている服は西黄服のままだ。


 この商館では、私たちみたいに2階の服を着て3階に行く者がいるので、服の預かりも受け付けているんだ。

 ただし、後で問題にならないように貴重品の類は受け付けていない。

 

 シビアナは、そのままだと目立ちすぎるので、別に1枚上着を買って羽織ってもらっている。

 それでも目立っているがな。こいつのせいで私に注意が向く事は一切なかった。

 

 まあね。私はお忍びで来てるんだ。むしろ好都合だよ、目立たないのはさ。

 でもやっぱり釈然としないのは、決しておかしくはない自然な感情だと思う。


 ちなみにシビアナの服はイージャンが買った。勿論、宝飾品も買う。

 シビアナは家計の実権を握っている。イージャンは月々決まった額のお小遣いをシビアナから貰っているらしく、今回の出費はそこから捻出するそうだ。


 つまり、シビアナの懐は痛まない。

 本日シビアナは自分のお金を一切使わず、私から夕食の食材をせしめ、イージャンから服と宝飾品をせしめたわけだ。


 流石である。



 3階はこの商館の最上階だ。

 階段を登りきると、眼前には両開きの鉄格子でできた大きな扉が開いており、その両脇に屈強そうな大柄な男が数人見えた。

 貴金属や宝飾品を取り扱っているから、警備も厳重だ。

 

「私はあそこで待ってるね」


 鉄格子の扉をくぐったところで、私は二人に壁際にある長椅子の方を指さして、そう伝えた。


 長椅子は大人5人くらい座れる長さで、3つ壁に沿って並べられている。

 座っているのも左端の長椅子に子供が一人だ。

 これなら特に気も使わずゆっくりできる。


「リンちゃんは見なくてもいいの?」

「うん、大丈夫だよ」


 シビアナはこう言ってくれるが、遠慮しておこう。

 

 西黄服を着てはいるが、私はシビアナと違い、単に着替えるのが面倒くさかっただけだ。

 お兄ちゃんに選んでくれって言ったのも聞こえてなかったし、今さら頼む気もない。

 それにあまりこういった宝飾品に興味がないんだよね。今持っているので充分だ。


――と、まあそういうことにしといて。

 

「お兄ちゃん、荷物置いてきなよ。流石にそれじゃあ格好悪いって」

「えっと……。良いの、か?」


 3階は両手に食材なんかを持って、うろちょろする場所ではないからね。

 警備の人間も何やら言いたそうに、こちらを見ている。

 シビアナがいるから何も言われないだろうけど、ここは私に預けて二人で買い物を楽しんで来いよ。

 

 荷物を持って歩けない以上、誰かが荷物番して待ってなくちゃならない。

 大切なおつまみちゃん達に変なことをされてもつまらんから、預ける気もないしな。


 とはいえ、王女である私に荷物番なんて事させるのは、まず有り得ないんだけど……。

 今日の私は妹でもある。大好きなお兄ちゃんの為に、気を利かせようじゃないか。


――ってことで一つ宜しく。


「いいからいいから。ほら、さっさとそこの長椅子に置いてきて。そんで、お姉ちゃんに綺麗なの選んであげなよ」


 私はイージャンの背中を両手で押して、長椅子の方へ行くよう促す。

 イージャンは照れた顔をすると、ぎこちない歩き方で長椅子に向かっていった。

 私もそのままイージャンの後ろについて行こうとしたが、シビアナが近づいてきて小声で話しかけてきた。


「ありがとうございます。殿下」


――こいつは素直に私が気を使ったと思っているのか、それとも気を使ったと見せかけていると思っているのか、どっちだろうな……。


――ふっ。

 

 ふふふ……。分かってるよ。どっちかなんて、そんな事はな。

  

「気にするな。ま、高いものでも買ってもらえよ」

「ふふふっ。はい」


 夫の為にそこまで気合入れたんだ。見合った戦利品を勝ち取って来るがいい。

 私はその間に心を癒す。


「取り置きの方を頼んでおりますので、すぐに戻って参ります」

「…………へ? そうなの?」

「はい。以前来た時に、3つ程お願い致しました」


 こいつ元々買う予定があったのかよ。そんな話、馬車の中でも一言も聞いてないんだが。


 …………。


 もしかして、これもお前の策略の一つだったんじゃないのか?

 取り置きしてるって言われたら、何かそんな気がしてきたわ。

 夫に宝飾品を買わせるよう仕向ける作戦だったとかさ。だから気合入れて着替えたと……。


――あれ?


 適当に考えたつもりだったが、妙に的を得ているような気がした。

 すると、私の中で疑惑が確信へと、どんどん変わり始めていった。

 

 いや間違いないだろ、これ。

 

「ふふっ」

 

 シビアナが私の顔を見て、口許を押さえながらにっこりと笑う。


――ああっ!? こいつ……! やっぱりそうだ!

 

 私はシビアナの笑顔を見て、自分の考えが正しいとはっきりと確信した。 


「気に入ったものを見つけたのは良いのですが、どれか1つを選ばなければなりませんでした。少々値が張るものばかりでしたので、自分の我がままで全て買うのは躊躇われたのです」

「お、おお。そうか……そうなんだ」


 私の考えに補足するかのような言い回しだ。こいつは私が気付いたのを分かっているな……。

 ていうかお前、自分の我がままでって言ってるけど、単に自分の金で買うのが嫌なだけだったんだろ?

 

「結局その場で選ぶことができなかったので、後日夫に選んでもらおうと取り置きをお願いしたのです。しかし夫と買いに来るその前に、このような絶好の機会が巡って来るとは思いませんでした。殿下、ありがとうございます。いい買い物が・・・・・・出来そうです・・・・・・

「――!? お前……もしかして……!」

「ふふふっ」


 私は戦慄した。

 さっき私にありがとうと言った意味が分かったからだ。

 こいつは私が気を使ってたとかそんな事で感謝したんじゃない!

  

 何も知らないイージャンが、ののほんとしながら戻ってきた。


「ん? どうしたんだ?」


 イージャン!! 逃げろおおー!! こいつ、お前に全部・・・・・・・・買わす気だ・・・・・


 しかし、イージャンに私の心の声など聞こえるわけがない。

 

「それでは行ってきますね、リンちゃん」


 いい笑顔してんな、おい。

 全て自分の思うとおりに事が運んだと満足している顔だよ、その顔は。


 はあ。


 イージャンに宝飾品を買いに行こうと言わせた時点で、シビアナの勝利は確定していたんだな……。

 あの反応を見て、全部いけると踏んだんだろうなあ。


「ま、まあ、ゆっくり買ってきなよ……。シビアナお姉ちゃん……」

「ふふふっ。ありがとう」


 そう言ってシビアナはイージャンと仲良く歩いて行った。

 そして私から離れた所で、自分の両腕をイージャンの左腕にゆっくりと絡ませて、その大きなおっぱいをむにゅうっと押し付けた。


 イージャンは落ちた。


 駄目だあれ。イージャン全部買っちゃうわ。


 イージャン。いやお兄ちゃん……。

 シビアナお姉ちゃんは……、お兄ちゃん限定で魔性の女です。


 私はシビアナに連れられて行く、イージャンの幸せそうな後ろ姿を見ながら、そう思った。





 

 二人と別れた私は、特にすることもないので右端の長椅子に腰かけて、遠くに見えるシビアナ達をぼんやりと眺めていた。

 周囲の人間が見れば、腕を組んで歩いているその姿は、仲良く買い物を楽しむ恋人に見えることだろう。

 しかし、もはや私には違った見方しかできない。

 イージャンを逃がさないように、取り置きしている場所へ誘導しているようにしか見えない。


 ゆっくりとこう少しずつ、自分が張った罠に誘い込むような自然な動きだぜ、シビアナお姉ちゃん……。

 


――しかし、シビアナの奴にまんまと便乗されてしまったな。

 化粧道具を持って来たということは、すでに馬車の中であいつの色仕掛け作戦は始まってたんだ。

 ここへ来ることさえ、あいつが誘導していた可能性がある。


 いや、そうなのだろう。

 私が商館街に視察へ行こうといった時点で、この作戦を開始したんだ。

 それにこの作戦は、失敗しても問題なかったはずだ。2段構えの作戦さ。


 元々、イージャンを連れて買い物に行くって言ってたからな。

 それで、イージャンにどれか1つ選んでもらうと言ってたが、あいつなら全て買わせることが出来るはずだ。

 あいつにしてみれば、今日でも別の機会でもどっちでも良かったんだろう。

 あわよくば、ってことか。で、上手くいったわけだ。


 私には試着するよう仕向けてきたわけだな。自分も一緒になって試着するために。

 まだ時間があると言いい、これ見よがしに西黄服を手に持ってさ。


 西黄館で買いたかったものはその時すでに揃っていた。

 時間の関係はシビアナが家に早く帰れるように設けたものだから、シビアナが良いと言えば、私はもう少しここにいようと考えるのは分かってたはずだ。


 それにもしも私が試着をせず、別の場所に行ったりそのまま帰ろうと言っても、シビアナは止めることが出来た。

 こう言えばいい。


「テレルとお揃いの西黄服を着てみませんか?」ってね。私は間違いなく着る。

 今着てるのだって、ちょっとそこら辺を意識したものだ。


――本当はお揃いがいいなって思ってたんだ。

 でも、自分から言うはちょっと恥ずかしくてさ……。


 まあ、これらに関しては、証拠はないがな。私の推察だ。だが、あいつならやりかねん。


 でもさ。やっぱりあれだよ。私が被害を受けるっていうはどうよ?

 イージャンを落とすのが奴の目的だったわけだが、その過程で敢えて私を巻き込んでいってないか、あいつ?

 試着もさ、自分だけすればいいじゃん。私必要ないじゃん。

 絶対わざとだろ。

 あいつは、本当に自由自在に私をおちょくってくれるわ。


 テレル大丈夫かな……。将来こんな奴にならないでくれよ。

 私はそれが心配だ。






 さて、シビアナの行動についての愚痴はこの辺りにしておいて……。

 ちょっと困ったことが出来ちゃった。


――見られている。

 

 さっきから、ずっと視線を感じているんだよね。

 左端の長椅子に座っている子からさ。

 うーん。なんなのかな? 今の私はあまり他人と関わりたくないんだけど……。


 はっ! まさか私のおつまみちゃんを狙っているのか!?

 いや、これは駄目だ! これは絶対に渡さないぞ! 

 ううっ。でもまあ海葡萄の1房くらいなら……。


 そう思っていたら、その子がとことこと私の方へ歩いてきた。

 私はその子を見ないようにしながら、注意深くその行動を意識する。

 危険な感じはしないが不測の事態に備えて体が自然と反応した。


 その子が私のすぐ傍まで来るとそこで止まった。


 …………。

 何かなあ? どうしたのかなあ?

 そこで止まって黙っていられると、なんか気まずいんですけど……。

 

 すると、

 

「お姉ちゃん、すっごく綺麗な髪だね!」


 いきなりそんな事を言われちゃった。てへ。


「私そんな綺麗な赤い髪初めて見たよ!」


 私へのよいしょが止まらない。良い子! この子良いだよ! 

 でもなー髪だけじゃなー。

 もっと褒めるとこあるんじゃないかなー?


「お姉ちゃんもすっごい美人さんだー」


 えっ!?


 ほう! すごい美人、とな? この子、中々分かっているな。

 えへへへ。

 うむ、苦しゅうない。もっと近う寄れ。暇なら私が話し相手になってやろうじゃないか。

 今なら海葡萄も一緒に奮発しゃうぞ?


「ふふふっ。ありがとう」


 そう言って私は笑顔で振り向いた。

 良く見れば、可愛らしい西黄人の女の子だ。


 10歳くらいかな。テレルより少し大人びている様に見える。

 肩まで伸びた波打った金髪で碧眼の――。


 …………。


 いや……この子の眼……黄金色だ。


 おいおい。


 なんでシカルアヒダの王族がここにいる?


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