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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第二章 おっぱい前触れ編
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第1話 リン

 シドー研究所を後にして、しばらく馬車に揺られていると、お酒のおつまみを買うことを思い出した。


 危ない危ない。忘れるところだったわ。

 ローリエお手製のお菓子もあるけど、それだけでは物足りないんだよね。


 今夜は自分の慰労も兼ねて、ちょっとした一人晩餐を催したい気分なのだ。

――決してヤケ酒を飲みたいわけではないんだ。

 今日は精神的に疲れることが多すぎたってだけさ。本当に、それだけだとも。


 そう自分に言い聞かせつつ、私の脇に置かれている籠の中にある酒瓶に目をやる。


 何本あるのかな?


 ふと疑問になったので、実際に数えてみると15本程入っていた。

 きついお酒ばかりだったら今夜だけでは全部飲みきれないかもしれない。


 せっかく先生からこんなに異国のお酒を貰ったんだし、おつまみも色々揃えて十分に堪能したいよなあ。


 王宮で私が頼めば別に問題なく、おつまみの様な料理は作ってくれるんだけど……。


 こういう時はやはり外で買ったものが良い。

 誰にも言わずに内緒で買って帰ったものを、こっそり食べるって感じが好きなんだよね。

 という訳で、買いに行くことに議論の余地なし。

 いっぱい買って帰ろうじゃないか。ぐふふふふ。



 うーん。何がいいか……。


 私はどうすれば最高の晩餐にできるか考えを巡らせた。


 うーむ。そう……だな。

 こう何ていうか……。お肉とか魚介類とか塩気があって、がっつり頂けるものがいいな。

 甘いものはローリエのお菓子があるし、今回は買わないでおこうか。

 あ、でも美味しいそうなのがあったらどうしようかな。迷うなあ。

 ま、いっか。買っちゃおう。

 お酒によって合う合わないがあるだろうし、色んな種類があった方がいいだろう。

 

 買って帰る量に関しては、夕食を食べるということを考慮しても特に気にしなくてもいい。

 多分逆に、足りないはずだ。今日は体を思いっきり動かしたし、力も使ったからね。

 栄養補給はきちんとしないとな! うんうん。


――っと、いかんいかん。王宮に着いてしまうな。


 私は我に返ると、馬車の窓から外の景色を確認した。


 えーと……。

 今どの辺りにいるのかな?

  

 空の方を見ると、見慣れた王宮の外壁にどんどん近づいているのが分かった。ここならもう王宮まで随分近い。


 ここまで戻ってきたとなると買い物をする場所は商館一択になる。

 この商館というのは、取引商館街のことだ。



 王都には、商いを行っている場所が大きく分けて2箇所ある。

 一つは所謂、庶民の市場。

 王都の外壁正門近くにある中央広場を中心に、その規模は周辺の道にまで及んでいる。

 ここでは、食材を始めとした庶民の日常を支える様々な商品が売られている。

 また定期的に太市と呼ばれる規模がさらに大きくなる市や季節による催し物、祝祭などもやってるね。

 朝から晩まで賑やかな場所だ。

 

 私は結構好きなんだけど、ここからだと相当遠回りになるから今回は行かない。


 今から行こうと思っているのは、もう一つの場所、取引商館街だ。

 国が有料で提供している大きな商館が、幅の広い石畳の通りに沿って幾つも立ち並ぶ。

 王家の関係者や宮廷貴族、裕福な商人たちが主に利用する区画となっている場所だ。


 王宮の近くにあるため管理が厳しく、また取引されるものが高価であることが多いため、この区画に入るには検問所を通過しなくてはならないようになっている。

 身分や商品を確認して、いらぬいざこざを未然に防ぐ為だ。

 入場するのに時間が掛かるが、このお蔭で区画内の治安は安定している。


 相手をするのが概ね身分の高い者達になるので、その者達の趣向に合いそうなものが沢山置いてあるのがここの魅力の一つだな。

 値は張るが、運が良ければ変わったものがあるかもしれない。


 

 さて、このままだとすぐに王宮に戻ることになるし、さっさとシビアナに商館に行くことを伝えますか。

 こいつ素直に行くことに賛同するかね……。


 シビアナはさっきから目を瞑り静かに座っている。

 呼吸も規則正しく、すーすーって……あれ?


 私は違和感を覚えた。

 

 シビアナは姿勢正しく座ってはいるが、起きている感じがしない。


 もしかして、こいつ寝てる……? 

 耳を傍立ててみる。


「すー……すー……」


 寝息にしか聞こえないんですけど……。

 馬車が道を通る音とこいつの寝息のような呼吸しか聞こえない。


 いやいや待て待て。

 流石にそれはない。それはないよ。

 仮にも私の筆頭侍従官だよ? 

 王女である私の目の前で眠りこけるなんて、そんな失態を犯すとは考えられないさ。


「すー……すー……」


――おい、本当に起きてるのか?


 一縷の望みに賭けて話しかけてみよう。

 これでもし寝ているのが確定したらどうしてくれようか……。


「シビアナ、少し視察していこう」

「視察、ですか?」


 シビアナは目を開けてすぐに答えてくれた。

 ああ、良かった。やっぱり寝てなかったよ。

 こいつもそこまで自由人じゃなかった。疑って悪かった。

 よし、これで私の威厳というものが保たれたわ。


 私が一人で満足しているとシビアナがごそごそし始めた。

 そして、手巾を取りだして何食わぬ顔で口許に当てる。


 ……。


――私には分からなかったが、涎でも出ていたのかな? はははは……。


 疑念を拭いきれなかったが今はそんな事より、おつまみだ。

 気を取り直して話を続けよう。

 

「あ、ああそれでな、このまま王宮に帰ってもいいが……。昼から執務も碌にしていなかったから、それもどうかなあーって」

「…………」

「そこでだ。商館街に寄って様子を見ておこうと思う。帰り道だし良いだろ?」

「…………」

「まあ視察と言っても長いこと居るつもりはない……ぞ?」

「…………」


 シビアナは笑顔でずっと黙ったまま私の話を聞いていた。

 

 私はゆっくりと目をそむけた。

 まあ、ばれてるよな。私の思惑なんて。

 納得のいく言い訳としては、今のは軽かったか。

 

 ちらり。


 もう一度シビアナを見る。

 それよりも私は早く家に帰りたんですがと目が語っていた。

 ですよね……。

 

 王宮に帰ってもすぐに帰れるわけではない。

 父様への報告とか修繕の手配とかするんだろうし、商館街になんぞ寄りたくないのは分かる。

 

 みっともないのでする気もないが……。例え私が強権を振るっても軽くいなされるのが落ちだろう。

 こっちも命令として家に早く帰れって言っちゃてるし。

 あいつ絶対あの命令覚えてるよな。それを盾に王宮へ帰る算段をつけていそうだよ。

 

――無理をする気はない。ここは穏便にシビアナを懐柔しよう。それが上策だ。

 

「…………」


 シビアナが無言で私を見つめる。

 

「はあ……分かった、分かった……。私持ちでいいから夕食の材料でも一緒に買うといい。これでどうだ?」

「はい。ありがとうございます。では参りましょうか」


 ころっと態度を変えるよな、お前。

 まあ、いいけどさ。


 ただでは動こうともしない女――それがシビアナだ。

 私を自分の良い様に上手いこと使ってくれる……。

 ともあれ懐柔成功だ。深くは考えまい。


「今日の失態に対する詫びだとでも思ってくれればいいさ」

「ありがとうございます」

「あ、テレルにも何か買っていいか?」


 先生からのお土産もあるけど、折角だ。私もテレルに何かあげたい。


「はい。勿論でございます」

「すまんな」

「いえ。テレルも喜びます」


 ああ、それとこいつの事だから――。


「変装用の服、この馬車にも積んできたんだろう?」

「はい」 


 よしよし。やっぱり持って来てくれてたか。


 私は結構顔が知られている。有名人なのだ。

 だから騒がれたりされるのが嫌な時は変装をするようにしている。


「じゃあ、着替えるからイージャンに商館へ行くことを伝えておいてくれ」

「はい。畏まりました」


 シビアナがイージャンに行先の変更を告げると、馬車の窓に備え付けれている遮光幕を全て閉めた。 


 




 検問所は時間は掛からず、すんなりと抜けた。

 近衛騎士隊の副隊長が御者やってたから何の問題もなかったね。


「殿下、到着いたしました」

「分かった。ありがとう」


 馬車を専用の駐車場に停めると、イージャンが扉越しに知れせてくれた。

 こちらも既に変装完了で準備万端だ。

 さあて、美味しいものを探しますか!



「じゃじゃーん。どうよ?」


 私は馬車を降りると可愛らしくそこで一回転。着替えた茶色のスカートがふわりと広がる。

 

「え? 殿下……なのですか?」

「ふふん。まあな」


 イージャンが訝しむのも無理はない。

 私の出立は、まさに町娘そのもの。ここの商館街で働いているような女の子だ。

 髪は一旦全部おろしておさげにした。さらに眼鏡も着用している。

 衣服も派手すぎず、装飾品の類は外した。

 今は赤髪だってのもあるしな。普段の銀髪と違って随分と雰囲気が変わって見えるだろう。


 これで私がリリシーナ王女とは分かるまい。


「設定はどうしようか」


 これが大事だよな。


「設定……ですか?」

「ん? イージャンは知らなかったか……。私が変装するときは王女とは別の人物を演じるようにしているんだよ」

「なるほど……」

「今日はそうだな……。イージャンとシビアナがいることだし……」


 この状況に二人を使わない手はないだろう。

 どう設定に活かそうかな。


 うーん。そうだな……。


「――よし! 私はイージャンの妹ということにする」

「え!?」


 我ながら良い設定だ。


「名前は……リンでいいな」

「いや……その……で、殿下?」


 良く使う偽名の一つだ。

 リリシーナという名を縮めた感じが気に入っている。


「知り合いに会うと面倒だな……。遠く離れた場所にいたことにするか……」

「殿下……。あの……」

「よし、では設定を発表する!」

「…………」


 私は二人に向かって宣言した。


「私はイージャンの妹、リンだ。歳は18。遠く離れた町から観光がてら大好きな兄に会いに来た。今日はその兄の家で久しぶりの再会を祝して宴会を行う。その為の食材を買いに、ここへ来た――という事にしよう」


 即席だから雑な設定だ。

 でも、長居をする気もないしこれで良いだろう。


 よーし。設定も決めたことだし、イージャンの妹になりきりますかね。

 気分はどこぞへ潜入する間諜の様だ。

 ふふふ。乗って来たぞ。


「こほん……。じゃあ、よろしくね!お兄ちゃん!」


 イージャンに向かって笑顔で言ってみる。


 リンという妹の役柄を演技するため、喋り方と声を少し変えてみた。

 媚を売るような若干高めの声だな。あと、お兄ちゃん大好きーな感じを表現して――。


「ひぃっ!?」


 イージャンが引き攣った声を上げた。


 …………。


 何その悲鳴。


「おい……。何だ今の反応は……」


 声を地声に戻して殺気を込めた。


「はっ申し訳ございません!」


 …………。


「酷いよお兄ちゃん。悲鳴を上げるなんて……。すっごく傷つくな……。私、今度の訓練は容赦できないかも……」


 確認の為、声をリンに戻してイージャンを責めてみる。


「ひっ! もも申し訳ございません! 殿下!」


 許すわけないだろ?


 また悲鳴を上げたな、おい。

 私の妹役がそんなに不服かね? ああ?


 お前は扱き決定だ。覚悟しとけよ……。


「もー殿下じゃないでしょ! ちゃんとリンって言ってよね。本当お兄ちゃんってばこういうのに融通利かないんだから……。ねー? シビアナお姉ちゃん」

「そうですよあなた。ごめんね? リンちゃん」


 シビアナはきっちり乗って来た。

 流石シビアナ。夫をおちょくるこの好機を逃すはずもない。


「え!? ちょっシビアナ……!」

『ねー』


 二人で仲良く声を合わせる。完璧だな。


「ええー!?」

「じゃ、行こっか! お兄ちゃん!お姉ちゃん!」

「ええ、そうね」


 そう言うと私はイージャンの右へ、シビアナは左に移動した。

 それからお互いがっしりとイージャンと腕を組んだ。


「え?」


 左腕にシビアナ。右腕に私。イージャン両手に花だな。

 光栄に思うがいい。はっはっはっ。


「よーし! しゅぱーーつ!」

「え? 殿下。いや……リン……様? これは――」


 理解が追い着いていないことを無視して、私たちはイージャンを仲良く商館に連行した。


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