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リリシーナ王女殿下おっぱい爆発事件  作者: 粟生木 志伸
第五章 おっぱい暴走編
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第8話 事の真相

「やらかした……」 


 自分としては、四本の意味が聞ければ良かった。しかし、それに反し、何やら事が大きくなりそうな気配。その気配が集約されたであろう言葉を、私は思わずぽつりと呟いた。えーと……。今、そう言ったよね? 


「ああ、その通りだ」

「は、はあ……。そですか……」


 やはり、聞き間違いではないらしい。父様は、すぱっと言い切る。それから、何故か強めの口調で、念を押してきた。


「いいか、リリシーナ?」

「え? はい。何でしょう?」


 答えると、何故か父様の顔が酷く真剣で、神妙な面持ちになる。


「ここからが、お前たちの母の真に恐ろしいところだ。心して聞け」

「…………」


 ええー……。こんな事で、と言うべきか現状定かではない。だが、敢えてこんな事でと言おう。私は、こんな事で、いきなり覚悟を求められ唖然とする。


 いや、そりゃ唖然もするよ。だってさ、そういうのは何て言うか、重大な真実を厳かな感じで伝える時とかにするもんだよね? それが、これ? これなの?


 使い所を間違っていないかと、思わずにはいられない。だが、違わないのなら、つまりそれは母様のやらかした事が、私の髪や呪いより上って事になるんじゃなかろうか。今聞いた悪戯の延長くらいで、話は終わらないのだ。 


「よいな?」

「え? ――ええ。まあ、はい……」


 いや、分かったけどホント何、その言い方? 不穏この上ないんですけど。父様の口振りには、まるで今までの話は余興。ここからが本番と言わんばかりの、危険な気配が満ち満ちている。そんな気もして、更に不安が押し寄せてきた。何やったんですか、母様……。


「ふふっ」


 シビアナから笑いが零れる。どうやら、ここら辺の事情も聞き知っているようだ。


「ううむ。自分で尋ねといて何だが……。今度は、本当に嫌な予感がするぞ、ジャムシルド……」


 胸の前で腕を組みながら、先生が渋い顔をして唸る。さっきと同じような言葉なのに、真剣度合いが雲泥の差。私には、まるっきり違って聞こえた。だが、今回はその言葉に、賛成せざるを得ない。本当に嫌な予感がする。


「ふー……。シドー、それで間違いない。大当たりよ」


 父様も、さっきみたいに笑って返さない。代わりに、話す前から既に断言。そして、


「うむ。大当たりじゃな」

「ええ。大当たりね」


 爺とステライも、同じく断言。三人とも、ばっちり確信があるようだ。


「ふっ。いやはや、そう自信を持って答えられると、本当に聞くのが怖くなるな。何と言うか――、エラクツォーネの執念をひしひしと感じるのだが……」

「流石だな、よく分かった。それも大当たりだ」

「大当たりじゃな」

「大当たりね」


 気後れ気味の先生に、腕を組んでいる父様が頷くと、爺とステライも頷いて答えた。いや、ホント何やったんですか、母様……。


「もうそれで、大方の予想がついてしまったな……」


 つくんだ、先生……。


「ま、まあ。聞かせてくれ、ジャムシルド……」

「分かった。答え合わせといくか」

「うむ。頼む」

「ああ」


 あんな風に脅されたのもあって、私は覚悟を決めていたが、先生も決まったらしい。そして、ステライが空になった父様の湯呑に、土瓶に入ったお茶を注いでいく。それが終わって土瓶を卓に戻すと、話が始まった。


「さて――。では、前提を変える。瓶が複数あったとして、それから応接間であいつに遭遇した所まで、まず話を戻す」


 初めから話をし直すのか。やれやれ。一体どんな話に変わるのやら……。私は耳を傾けた。


「あの時――。あいつは、応接間に入り込み、余を見ると微笑んでから逃げ出した。そして、寝室で瓶を取り上げられ詰問されても、最初は従わず後になって渋々白状した。それから、必死になって、毒の検査をしろとしつこく迫り――。あとは、その検査が終わってからも、瓶を返せとしつこく迫って来た。そう話したな?」

「うむ」


 先生と一緒に、私も頷く。うん。そうだったね。


「確かに、それで間違っておらぬ。前提が変わろうとも、やっている事は同じだ」


 ん? じゃあ、何で最初からなんだろ? 二回話すのに意味があるんかな?


「だが――」


 私が不思議に思っていると、父様は瞼を閉じて一息間を入れる。そして、瞼を上げ目を開いてから言い放った。


「それらは全て偽り。あいつの取った行動は、余たちを騙すための演技だ」

「へ?」


 え、演技?


「そうなるだろうな……」

「え?」


 先生を見上げれば、自分の予想もそれだと言いたげな納得の表情。


「つまり、あの時あいつが見せた動きは、次の様に言い換えることが出来る」


 父様は、自分ではなく母様視点で話を始めた。


「まず、薬を持って応接間にわざわざ侵入する。そして、運悪く鉢合わせた体を装い、微笑んでから逃げ出してみせる。これで、自分の癖を余に思い起こさせ、嫌な予感を抱かせた。さらに、見慣れぬ箱も手に持っておるぞと見せつける事で、必ず後を追うよう仕向けたのだ」


 は? 


「そして、薬を飲む振りをして、ぎりぎりの所で取り上げさせ、それが何であるかを渋々伝える。そこから、形振り構わず毒の検査を懇願する事。後日、早く飲ませろと怒り狂う振りをする事で、尋常ではない激しい執着も演出してみせた――、となる」

「…………」


 何それ……。さっきと同じ事をしているずなのに、受ける印象が全く違う。しかも、自分の思わぬ方向だ。おかげで、口が半分ほど開いていたらしい。これに気付き、一度口を閉じてから尋ねる。


「と、父様……。母様は、一体何のためにそんな演技を――」


 やる意味が分からない。あと、唐突過ぎて、それを考える気も起きない。


「理由は二つだ。一つ目は、さっきも言った通りだな。毒の検査を余に確約させる事。これが、まず一つ」


 腕を組んだまま、右手の人差し指を立てる。


「だが、この確約は演技をしようがしまいが、そこに然程変わりはない。前提がどちらでも、あの薬を安心して飲むための、謂わば絶対条件のようなものだからな」

「は、はい……」


 確かにそうか。演技どうこう以前の話。どのみち飲むために必要になると。


「それから、もう一つ。これは、今言った通りだ。そして、これが演技をしてみせた理由よ」


 父様は、中指も立てた。


「あの薬に強い執着があると、余たちに思わせる――。これよ。これが、演技をしてみせた理由。そして、これが、あの時、必死に懇願してみせたその裏に隠し、あいつが狙った真の目的だ」

「執着が、真の目的……?」

「ああ」


 ど、どういう事……?


「しかも、その演技は、あいつがしでかした、事の一部にしか過ぎぬ」

「え? 一部、ですか?」

「そうだ」


 そう言うと、父様は目を瞑る。眉間が忌々しそうに歪んだ。


「あいつはな、前もって狡猾な策略を、用意周到に練り上げていた。そして、それを誰にも悟らせる事もなく、じわじわと密かに蜘蛛の巣の如く張り巡らせ、余たちを欺き操り嘲笑いながら足蹴にし、その策略へ嵌め陥れたのだ……!」


 言い方が、滅茶苦茶酷いんですけど。母様のお腹がどす黒く、ごるんごるんに渦巻いているとしか、聞こえないんですけど。さっきの比ではない。言葉の選択が、非常にえげつなくなっている。


「やれやれ……。やはり、その様な感じか……」

「ほっほっほっ!」

「ふふふふ!」


 先生がげんなりして呟くと、その顔を見て爺とステライが笑う。おいおい、どーゆー事なの? そんな話、今まで一度も聞いた事がないよ、わたしゃあ。母様って一体どんな人だったんだ? 狡猾。策略。嘲笑。陥れたって……。


 あと、演技ね。そんな恥ずかしい真似をしてまで、執着を見せなければならなかった意味って何なんだろう……? 


「ジャムシルド」

「ん?」

「エラクツォーネが、薬を持ち応接間に侵入して、そこにおったのは――。つまり、演技をする場所をそこからに決めたのは、まずお前一人に事を露見させ、最初の発見者に仕立て上げるため。毒の検査をお前だけではなく、他の者にも必ず認めさせるためか?」


 答え合わせなのだろう。先生が父様に向かってそんな事を投げ掛ける。それが耳に入ってきて、関心の目がそちらの方に向いた。――はい? 仕立て上げる? 


「ふん。あいつの言い分では、部屋に侵入したのは、余が不在である隙にあの薬をミストランテから一時的に隠すため、だったがな。まあ、尤もな理由だと当時は思った故、殆ど気に留めなかった。逆に、それがいきなり破綻し、慌てて薬を飲もうとしたのだろうと、納得したくらいだ」


 母様は、ある意味での盲点を狙ったとしたのか。王の私室は、お婆の手が届かない。で、窓から侵入できるんだ。父様が不在の時を狙えば、取りに行けるわけね。結構大胆だけど、これは私も納得できる。


「だが、そうではない」


 父様は首を振った。


「お前の言う通りだ。一番確実な方法を、あいつは取った。王である余に狙いを定めたのだ」

「そうか。そして、更に確約を取りやすくするため、誰の妨害も受けず二人だけで話ができる、寝室へと逃げ込んだわけだな。結果、演技もして見事勝ち取った。この検査だけなら、後で誰が何と言おうと必ずやらせただろう?」

「ああ。一度やってやると口にも出した以上、検査はさせていたな」

「ふむ。しかし、お前が一番初めに発見しなければ、事が拗れた可能性は大いにあったな?」


 先生が、にやりとして言う。


「当然だ。報告であれば、あいつからの言い分も聞く事はなかった。即、廃棄処分だと命じていただろう」

「ふっふっ。そういう状況から、だからな。エラクツォーネにとっては、演技するより色々と骨が折れて面倒だ。それを避けたかったか」

「はあ……。そういう事だ」


 なるほど……。確かに、確約さえ取れれば、検査はそれで問題なくすぐにでも出来たはず。王の命令は最優先で絶対的だ。しかも、毒の検査は、無茶でも何でもない。そして、父様のこの性格。うん。必ずやっただろうね。


 そのための交渉が上手くいったのも、二人っきりだったからって事か。他に誰かいれば、横槍が入っていたかもしれない。それがなくても、他に目があれば気になる。


 体面もあって、中々認めないかもしれない。難航していた可能性があったと。お婆とか爺なら、駄目だったかもね。だけど、父様が一旦認めてしまえば、それすらも話は別だろう。


 で、父様自身が今言った様に、もし最初――つまり直接発見せず、間接であの薬の事を聞いたとしたら、確約は取れない。改めて、母様が直に交渉をしなければならなかったはずだ。しかも、身構えているから、相当不利だったんじゃないかな? 多分、皆にもばれてるし。


 まあ、新しい薬を買いに走るって言ってたから、それを防ぐため毒の検査は結局しただろうけど、時間も労力も掛かかるのだろう。演技をしながら二人っきりで交渉するよりも。


 こういった理由があって、父様を最初でたった一人の発見者に仕立て上げたのか。これが、毒の検査を間違いなくさせるための、母様にとって一番最適な方法だったと。


「ジャムシルド。前室に侍従官はいたのか?」


 続けて、先生が尋ねる。


「いや。一人もいなかったな」

「ふむ、一人もか」


 ああ、やっぱり誰もいなかったんだ。うーん。これはちょっと怪しいよね。都合が良いような気がする。ただ、こういう事は、私も偶にあるからなあ。侍従官たちの仕事が、夕方いきなり入ったりすると、皆で執務室に残るのよ。で、その仕事に、私が必要ないと一人で帰る。だから、どうだろ? 


 ちなみに、こういう時どうやって部屋に入るかって言えば、もちろん鍵を開けて中に入る――と言いたいんだが、多分、父様は違う。空震音叉を使ってる。


 あの部屋の鍵は特注品。鍵穴に指を当て、そこから拍動を何種類か順番に当てると、開くようになっているんだとか。


「まあ、侍従官が、全員不在だったのは――、あまり関係ないな。奥の寝室に逃げて、そこでやる気だったのだ。ならば、どの道入って来ない。前室にいなかったのは偶々か。だが、これは多少運が良かった事になるかもしれん」


 先生が湯呑を手に持つ。


「応接間におるのだ。演技をする前に、何かの用事で扉を開けられれば、自分の存在が知れる。お前が戻れば、それを伝えられてしまうからな。これで、多少なりとも影響が出るか。いると分かった上で、応接間に佇んでいるのは、より不自然に思える」


 そこで一旦止めて、一口飲んだ。


「故に、この方法は取らぬだろう。偶然を装うのが既定なら、それを踏まえた上で、他の方法を取る必要がある。例えば、お前が戻った時に合わせて、奥の部屋で敢えて音を鳴らし、誘き寄せる。そして、そのまま気付かない振りをしつつ、ごそごそとしている所をわざと発見させる――、等だな。となると、佇むよりはちと面倒になるか」


 ふうむ……。声は、奥に入ったとしても、喚き散らせば届くかな。だから、侍従官たちが前室にいれば、何かあったのかと不審に思ったかもね。でも、国王と王妃――夫婦なんだ。喧嘩くらいなら、呼ばれない限りは気を遣って入って来ないだろう。うん、先生の言う通りかな。都合が良いと思ったが、関係ないみたい。


 それから、同じく侍従官がいれば、公務が終わって帰ってくる父様のために、部屋の手入れ、例えば花瓶の花を変えるとか、椅子や卓なりを綺麗にしておくってのはあったかもしれない。確かにこれで、変更を余儀なくされる可能性はあったね。これも先生の言う通りだ。


 でも、だとすると、今度はちょっと甘い気がする。危険を排除しきれてないっていうか、運に頼っているみたいでさ。まあ――、こう厳しく感じてしまうのは、その可能性も綺麗に潰してくるような奴が、傍にいるからってだけだろう。


 侍従官がいなかったから、前室の隣にある応接間にいたのかもしれないし。要は、不意を突かれた感じで、鉢合わせすればいいんだよね? だから、先生が言ったのでも、後はそうだねえ――。


 窓の外に潜み、父様が扉を開けた瞬間部屋に入り、それを演じて見せてみる、とかでもいいんじゃない? これなら、面倒でもないでしょ。こんな感じで、遣り様は幾らでもある気がする。


「――ふっ。と、まあこう言いたいのだがな。偶然なわけがないか……」


 私の考察の意味が無くなった。先生が、自分の発言を翻し、湯呑を置きながら一言付け加えた。え……、違うの?

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