↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜叉と白夜 〜闇に仕える二人の鬼神〜  作者: ななお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

第三話 間合い

夜叉と白夜《びゃくや》は、地上へ降りていた。


眷属として何を見て、何を判断し、どこまで手を伸ばすべきか。

夜叉は務めを共にしながら、その在り方を白夜へ教えていた。

導言《しるべごと》や言霊の使い方も、一つずつ確かめさせる。


刀については、初めから学び直すことになった。

白夜にも扱う心得はあったが、これまで本格的な教えを受けたことはない。

眷属となって得た力に、技が追いついていなかった。


夜叉は構えから教え、刃を交えては、身体の運びを直した。

ただし、夜叉の得物は薙刀だった。


その日も、白夜は刹那《せつな》を構え、夜叉と向き合っていた。

二人の間には、薙刀の永劫《えいごう》が横たわっている。

白夜が踏み込もうとすると、その切っ先が胸元へ向いた。


足を止め、横へ回る。

夜叉は柄を動かし、白夜の進む先へ刃を合わせた。

近づこうとするたびに、切っ先が行く手を塞ぐ。


白夜は眉を寄せた。


「これでは、刀が届かない」


「だから、どう近づくかを考えるのだ」


夜叉は永劫を構えたまま、白夜の足元へ目を向けた。


「そこから打ち込めるのは、私だけだぞ」


白夜は柄を握り直した。

刹那で永劫の刃を払い、踏み込む。

だが、夜叉が引いた刃はすぐに戻り、白夜の肩口へ迫った。


刀を立てて受ける。

金属の擦れる音とともに、白夜の足が止まった。

押し返そうとする間に夜叉は離れ、二人の間に再び長い柄が渡される。


元の距離に戻っていた。


白夜は息を吐き、切っ先を上げた。


今度は刃を払うだけでなく、力を込めて大きく打ち込む。

永劫ごと押し退けようとした一撃を、夜叉は柄を引きながら受け流した。


刹那が空を斬る。

前へ出た身体を戻そうとした時、低く回された永劫の柄が足を払った。


白夜は片膝をついた。

すぐに刀を戻したが、顔を上げた先には薙刀の刃がある。


夜叉は切っ先を引いた。


「力を込めるほど、次の動きが遅くなっている」


白夜は膝についた土を払い、立ち上がった。


「押し切れると思った」


「受け止めてやるとは限らぬ。私がそこにいなければ、お前の力はどこへ行く?」


白夜は振り抜いた刹那へ目を落とした。

力を増すほど、外された時に身体まで持っていかれる。

夜叉は白夜の一撃に抗わず、その勢いを利用して足を払ったのだ。


「……もう一度、頼む」


夜叉は永劫を構え直した。


白夜はすぐには踏み込まなかった。

刃先だけでなく、それを操る夜叉の手と、足の動きを見る。

近づけば切っ先が向き、離れれば、追うように伸びてくる。


一歩、半歩。

距離を変えながら、その動きを確かめた。


夜叉が永劫を突き出す。

白夜は刹那を合わせ、身体を横へ外した。

刃を大きく弾こうとはせず、胸元を通り過ぎさせる。


そのまま前へ出た。


ようやく刀の届くところまで入れた。

白夜が刹那を返すと、夜叉は柄を立て、その刃を受けた。

二人の間で、刀と薙刀の柄が噛み合う。


夜叉の顔が、先ほどより近くにあった。


白夜は押し込もうとした。

だが、夜叉が柄を傾けると、刹那の刃筋が逸れる。

同時に肩を押され、白夜は一歩後ろへ下がった。


夜叉は追わず、永劫を下ろした。


「今の入り方はよかった」


白夜は刀を下げ、近づけた距離を振り返った。


「中へ入っても、まだ届かないのだな」


「薙刀は、刃だけで扱うものではないからな」


夜叉は永劫を持ち直した。

長い柄を握る手の位置が変わる。

遠くから刃を向けていた時と、間近で刀を受けた時とでは、その扱いも違っていた。


白夜はそれを見つめ、口元を緩めた。


「先ほどから、お前に都合のよいところでばかり戦っている気がする」


「気づいたなら、次は自分の間合いへ持ち込め」


白夜は笑って、肩をすくめた。


「簡単に言う」


夜叉も笑った。


「私も、それをさせぬように動いているのだ」


白夜は刹那を構え直した。

夜叉の足が動く。

白夜もそれに合わせ、今度は正面から追うだけでなく、横へ踏み替えた。


永劫の切っ先が向きを変える。

その動きを追って刀を出しかけ、白夜は途中で刃を引き戻した。

受けに回ろうとした夜叉の手が動いたところへ、改めて踏み込む。


刹那が夜叉の脇へ迫った。


永劫の柄が間に入り、刀を受け止める。

白夜は刃を押しつけたまま、夜叉を見た。

あと少しで、神衣《カムイ》に届くところだった。


夜叉は白夜の刃を外し、距離を取った。


「今のは、考えて動けていたな」


「少しは届いたか?」


夜叉は、刃の止まった脇へ目を落とした。


「先ほどよりは」


白夜は笑い、刹那を下ろした。

柄を握っていた指を緩める。

眷属の力を振るうよりも、その力をどこで使い、どこで留めるかを考える方が、はるかに難しかった。


夜叉は永劫を下ろし、白夜の刀へ目を向けた。


「なあ、道場へ通ってはどうだろうか」


白夜が顔を上げると、夜叉は自分の薙刀を示した。


「刀は、私の得物ではない。教えられることもあるが、刀を使う者から学んだ方がよいことも多い」


闇から命じられる務めもある。

夜叉がいつも白夜について、稽古を見ているわけにはいかなかった。


地上の並の者と戦うなら、今の白夜でも十分に戦える。

しかし、世には種族の違いを超え、眷属に並ぶほどの力を持つ者も現れるという。

力だけで押し切れない敵と向き合えば、今日のような隙は、そのまま傷となって返ってくる。


白夜は手にした刹那へ目を落とし、考えを巡らせた。


「そうだな。鬼神族は、他者から教えを受けることを嫌う。王に仕える者でもなければ、武術も学問も、学べる場所がほとんどない」


夜叉は頷いた。


「それに、様々な種族から学べるのはよいことだ」


「ああ」


白夜は刹那を鞘へ収めた。

眷属となっても、知らないことは多い。

夜叉と地上を巡るたび、自分がこれまで見てきたものの少なさを知った。


「まずは人の暮らすところへ行き、学問と武術を学んでくる。その後、竜族のもとで刀を学ぼう」


その夜、二人は人の街を見下ろす丘の上にいた。

夜叉は腰の瓢箪《ひょうたん》を外し、杯を二つ並べた。


「地上の酒だ。眷属になっても、味は分かる」


夜叉が白夜の杯へ酒を注いだ。

白夜は杯を持ち上げ、一口含んだ。

喉を落ちていく熱に、目を瞬かせる。


「……鬼神族の国の酒より、甘いな」


「人の酒だからな」


夜叉も自分の杯を傾けた。

眼下の街には、まだ灯りが幾つも残っている。

白夜はその灯りを数えかけ、やめた。

あの一つ一つの下に、誰かの帰りを待つ者がいるのだろう。

そう思っても、もう胸は痛まなかった。


白夜は杯を干し、夜叉へ差し出した。


「戻ったら、また注いでくれ」


夜叉は瓢箪を傾け、白夜の杯を満たした。


「次は、お前が注げ」


白夜は笑い、満ちた杯を掲げた。

二つの杯が、月明かりの下で触れ合った。


こうして白夜は学びのために旅立ち、夜叉は闇の務めへ戻った。

別々に地上を巡りながら、折を見て交代で宮へ帰るようになった。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。