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七日目: 言葉の外側

朝、春が何かを言った。

フランス語だった。

意味は分からない。

ドイツ語なら、分かる。

専門の文献も、問題なく読める。

だが、これは分からない。

その事実が、少しだけ引っかかった。

「日本語で言え」

そう言った。

春は、少しだけ黙って、

それから、言い直した。

「あとでいい?」

頷いた。

午前中、研究室に行った。

春は、静かにしていた。

時々、こちらを見ていた。

何かを言いたそうだった。

だが、言わなかった。

午後、菓子を作った。

今日は、少しだけ手順を変えた。

理由はない。

春が、不思議そうに見ていた。

「こういうやり方もある」

そう言った。

納得した様子ではなかった。

それでも、何も言わなかった。

夕方、外を歩いた。

並木道の途中で、

春が立ち止まった。

花びらを、見ていた。

何かを言った。

また、フランス語だった。

今度は、聞き返さなかった。

分からないままでも、いい気がした。

それでも、少しだけ迷った。

このままでいいのか。

言葉が分からないまま、

この子と過ごしていいのか。

正しくない気がした。

だが、離す理由にもならなかった。

夜、春が隣に座った。

少しだけ、距離が近かった。

何も言わなかった。

それでも、伝わるものがあった。

それでいいのかもしれないと思った。

いや、よくないのかもしれない。

分からない。

今日は、それだけだ。

――理

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