六日目 : 同じ時間を聴く
朝、春が先に起きていた。
台所に行くと、
窓を開けていた。
風が入っていた。
少し、冷たかった。
閉めろと言った。
春は、少しだけ考えてから、閉めた。
何かを言った。
聞き取れなかった。
もう一度、言った。
フランス語だった。
意味は分からない。
それでも、どこかやわらかかった。
「ここでは、日本語だ」
そう言った。
春は、少しだけ笑った。
理由は分からない。
午前中、研究室に行った。
今日は連れて行った。
白衣の袖を、また掴まれた。
前よりも、自然だった。
薬品棚の前で止まった。
何も言わなかった。
触らなかった。
覚えていた。
代わりに、ビーカーを渡した。
光にかざしていた。
昨日と同じだった。
午後、菓子を作った。
今日は、最初から手を出してきた。
卵を割った。
少しだけ、うまくなっていた。
殻は入らなかった。
「上手だ」
そう言った。
春は、少し驚いた顔をして、
それから、また少し笑った。
その顔を見て、
一瞬だけ、間が空いた。
同じだった。
だが、同じではなかった。
夕方、外を少し歩いた。
風が弱かった。
光が、やわらかかった。
春が、何かを言った。
また、フランス語だった。
「分からない」
そう言った。
春は、少し考えて、
ゆっくりと言い直した。
「きれい」
頷いた。
確かに、そうだった。
夜、春が眠る前に、
小さく笑った。
理由は分からない。
だが、悪くなかった。
今日は、それだけだ。
――理




