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四日目 :まだ触れない距離

朝、研究室に行く準備をしていた。

春は、窓の前に立っていた。

光を見ていた。

声をかける前に、名前を呼ばれた。

「おさむ」

振り向いた顔が、

一瞬、重なった。

春水に。

すぐに、目を逸らした。

今日は、研究室に連れて行かなかった。

理由はある。

説明はしない。

一人にした。

鍵はかけた。

危険なものは、届かない場所に置いた。

問題はない。

そう思った。

昼過ぎ、講義が終わった。

少しだけ、帰る足が速くなった。

理由は分かっている。

部屋の前で、一度止まった。

中は、静かだった。

鍵を開けた。

春は、いなかった。

一瞬、何も考えられなかった。

部屋の中を見た。

台所、寝室、浴室。

どこにもいなかった。

外に出た。

名前を呼んだ。

返事はなかった。

心拍が、上がっていた。

キャンパスに向かった。

あの子は、あそこを歩いていた。

迷わない。

だから、余計に。

並木道を走った。

石畳の道を抜けた。

いた。

講義棟の前で、

ひとりで立っていた。

何もしていなかった。

ただ、立っていた。

近づいた。

声をかけた。

春は、こちらを見た。

少しだけ、首をかしげた。

その顔が、

また重なった。

手を掴んだ。

強く。

「どこに行っていた」

声が、少し荒くなった。

春は、少しだけ考えて、

小さく答えた。

「ここ」

言葉にならなかった。

手を離さなかった。

帰り道、何も話さなかった。

春も、何も言わなかった。

夕方、菓子は作らなかった。

その余裕がなかった。

夜、春はすぐに眠った。

寝顔を見た。

やはり、似ていた。

認めたくなかった。

守る、という言葉が、

昨日よりも、はっきりと残っていた。

逃げられないと思った。

今日は、それだけだ。

――理

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