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十日目 : 拒絶の向こう側で

朝、春の様子が少し違っていた。

言葉が少なかった。

呼べば、頷く。

それだけだった。

朝食も、あまり進まなかった。

理由は、分かっている。

分からないふりをした。

午前中、研究室には行かなかった。

今日は、行かないと決めた。

理由は、説明できる。

必要なことだった。

昼前、春が突然、言葉を強くした。

フランス語だった。

意味は分からない。

だが、分かった。

拒絶だった。

何も言わなかった。

しばらくして、

春が声を上げた。

初めてだった。

泣いていた。

言葉は、混ざっていた。

フランス語と、日本語。

「ちがう」

「ここ、ちがう」

それ以上は、聞き取れなかった。

距離を詰めた。

一歩だけ、近づいた。

手を伸ばした。

止めなかった。

抱き上げた。

軽かった。

震えていた。

何も言わなかった。

言うべき言葉が、なかった。

そのまま、しばらく動かなかった。

泣き声は、少しずつ小さくなった。

午後、外には出なかった。

カーテンを少し開けた。

光だけ、入れた。

菓子は作らなかった。

代わりに、音楽を流した。

あの曲だった。

春は、何も言わなかった。

だが、離れなかった。

夕方、落ち着いたあとで、

水を飲ませた。

ちゃんと飲んだ。

それで、十分だった。

夜、眠る前に、

少しだけ手を握った。

離さなかった。

今日は、研究も講義もなかった。

問題はない。

優先順位を、変えただけだ。

今日は、それだけだ。

――理

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