表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/13

九日目 : 触れた手の意味

朝、春が珍しく話しかけてきた。

フランス語だった。

途中で、止まった。

言い直そうとして、やめた。

少しだけ、考えてから、

日本語で言った。

「ここ、いい」

頷いた。

それだけで、十分だった。

午前中、研究室には行かなかった。

理由はない。

いや、ある。

午後、菓子を作った。

今日は、春が最初から手を出してきた。

砂糖を、少しだけ多く入れた。

何も言わなかった。

「前のほうが、よかった」

春が言った。

少しだけ、驚いた。

「昨日のほうがいい」

頷いた。

その通りだった。

夕方、窓の前で、春が話した。

断片的だった。

「おばさん」

「うるさい」

「わかんないのに」

そこで、止まった。

それ以上は、言わなかった。

意味は、十分だった。

何も聞かなかった。

聞くべきではないと思った。

それでも、残った。

夜、音楽を流した。

あの曲だった。

春が、隣に座った。

しばらくして、小さく言った。

「ママ、ひいてた」

頷いた。

それ以上は、言わなかった。

だが、理解した。

あの人は、あの音を弾いていた。

知っていたはずだった。

忘れていたわけではない。

見ないようにしていただけだ。

春が、少しだけ寄ってきた。

手が、触れた。

離さなかった。

初めてだった。

守る、という言葉が、

はっきりと形になった。

今日は、それだけだ。

――理

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ