DAY 60 クロワが記憶に刻みたかった思い出と3連続チューだった日
「いやぁ昨日はお楽しみだったようですなぁ、あっははは!」
翌朝八時、料亭西崎の保養施設の食堂にて朝食をいただく。
サンドイッチに紅茶にフルーツというおしゃれメシ。
以前の俺ならこれら全てを肉で巻いて喰う、みたいな豪快な男だったが、ダイエット計画で生まれ変わった俺は「フルーツが美味い」と笑顔で言う少年になった。
西崎華さんのお姉さん、楓さんがニヤニヤ顔で俺を小突いてくるが、まぁ、この施設は綺麗だし、海で遊ぶのは最高だし、昨日はとても健全にお楽しみましたけど。
「はぁ……そうだと良かったのですが……ふぅ……」
「あれあれ~? もしかして美山君が予想以上のガンガングイグイ系で華の体力もたなかった感じ~?」
西崎華さんが溜息で応えているが、俺がガンガングイグイ?
「無念……無念ー! 3人で仕掛けてもダメとか、どうすりゃいいんだー!」
「こいつ、昔っからそうなんだ。あまりに紳士すぎる」
「ええ? 3人同時に相手、しかも体力無限の桃世ちゃんもいたのに美山君ってば紳士フェイスで余裕の行為だったの? ほぇ~、若いのにすごいのね美山君~……って若いからすっごいのかぁ~。グフフ……お姉さんちょっと興味出てきたな~、ねぇ美山君~、ちょ~っと浮気してみない~?」
「楓姉さん! まずは私たちが満足してからですってば!」
……女性4人が盛り上がっているが、よく分からないのでスルーするぞ。
楽しい時間とはあっという間で、今日のお昼には帰ることになっている。
それまでは各自自由、存分に海を堪能してもいいし、食堂に突撃し料亭西崎でも出されているデザートを喰いまくってもいい。
俺はどうするか……まぁ滅多に来れる環境じゃあないので、個人的な写真や動画の素材に使えそうな風景動画等を撮りまくるか。
「マジでどこを撮っても絵になるな、なぁボス」
「ボッス!」
白い砂浜、青い海、本当に海外のリゾート地みたいな環境だぞ、ここ。
砂浜を歩くカニを撮るだけでも、動画のアイキャッチとかに使えそうだ。
愛犬ボスの散歩も兼ねて砂浜を歩く。
しかし夏休みにこんな素晴らしいところに来れるとか、ダイエット計画を始める前には想像もしなかったなぁ。
「……! ボッス!」
「あ、おい、急に引っ張るなって」
海の写真を撮ろうとしていたら、足元の愛犬ボスがグイグイとリードを引っ張ってくる。
「……何してんだ」
愛犬が行こうとしていた方向から声が聞こえ、見ると、大きな麦わら帽子に白いワンピース姿の女性、伊江里クロワさんが俺に近付いてきた。
「え、あ、クロワ。うん、帰る前に、使えそうな動画と、個人用の思い出写真でも撮ろうかなって」
改めて思うが、マジでクロワってスタイルとか最高に良いよなぁ。
金髪ロングに麦わら帽子、うん、すげぇ似合う。
「……撮ってやるよ。お前、私たちばかり撮って、自分の写真撮ってないだろ」
「あ、うん、じゃあお願い出来るかな。ボスと海でツーショットの写真が欲しいんだ。ほらボス、座って座って」
「ボッス!」
伊江里クロワさんが携帯端末をよこせ、と右手を出してくる。
「……撮るぞ」
「うん、ありがとうクロワ。これで夏の良い思い出が出来たよ」
1枚写真を撮ってくれ、伊江里クロワさんが携帯端末をじーっと見ている。
「……良い笑顔……これ、私に送れ」
「え? うん、いいけど」
俺とボスの写真が欲しいのか? 特に何も映えない写真だと思うが……。
「旅行、楽しかった。うん、すげぇ楽しかった。今までで一番、楽しかった。……お前は……どうだった」
ささっと操作し、撮った写真を送っていたら、ぐいっと伊江里クロワさんが近付いてきた。
「それはもちろん、すっごい楽しかったよ。まさかチームで海に来れるなんて思っていなかったし、本当にみんなには感謝しているよ。あのとき、クロワが俺をダイエット計画に誘ってくれなかったら、こんな最高の夏休みは送れなかっただろうなぁ。うん、やっぱりクロワにはキチンとお礼を言わないとね。ありがとうクロワ。君のおかげで俺はとても記憶に残る夏休みを過ごせているよ」
高校の男子トイレの横でダイエット計画に強制参加させられたときは、マジでビビったけど、おかげで痩せることが出来たし、なにより伊江里クロワさん、藤浪桃世さん、西崎華さんという最高の友人が出来た。
「そうか……。私も、この夏休みのことは一生覚えていると思う」
伊江里クロワさんが大きな麦わら帽子を取り、じーっと俺の目を見てくる。
「私はもっと記憶に残したい。お前と過ごした、高校一年生の夏休み、一生記憶に刻みたい」
さらに一歩、俺の超至近距離に伊江里クロワさんが踏み込んでくる。
え、ちょ、クロワの大きな胸が俺に当たる寸前みたいな距離なんですが、その……。
「スタンプ、残り全部押してやる」
伊江里クロワさんが、俺の首にぶら下げている『夏休みスタンプ台帳』をピンと指ではじく。
「え、いいのかい? それは嬉しいなぁ……」
「ただし、その……チュ……チュ……チューかハグかどっちかをしろ……! い、今すぐだ!」
伊江里クロワさんが真っ赤な顔で目を閉じ、顔をグイっと上げてくる。
え…………チ、チュー……?
「早くしろ! スタンプ欲しいだろ、早く、あいつらがデザート食べ終わっちまうだろ!」
俺の腰をガツーンと掴み、グイグイ顔を近付けてくるが……ああ、藤浪桃世さんと西崎華さんは食堂でデザートを食べているのか。
「え、あの……」
伊江里クロワさんが目を閉じて、完全にその、チュー待ち、みたいな感じなのだが……ハグも選択肢にあるんだよね……?
スタンプは押して欲しいが、さすがに勢い任せのスタンプの代償ではな……クロワは俺の大事な友人だし、こういう形では……。
「あーーーーー! クロワがミャーマに激迫りしてるーーー! 急にデザートかっこんで外走って行ったと思ったらー! ずっる、ずっるいー!」
「あらぁ、こんな状況でもされるのを待つとか、クロワったら乙女ねぇ……、ふふ」
施設のほうから大きな声が聞こえ、藤浪桃世さんが砂を巻き上げ、とんでもない速度でこちらに走ってくる。
あれ、西崎華さんに藤浪桃世さん。
つかこっわ……砂漠に潜むモンスターが迫ってきた、みたいな映像だぞ、これ。
「ああああああああ……! お前おっせぇんだよ! チッ……今度ちゃんとお前からしてこいよ……!」
「え、あ……」
伊江里クロワさんが砂浜を激走する藤浪桃世さんに焦り、俺の左頬に唇をつけてくる。
え……これって……
「スタンプ! これで今回は許してやる! 次はねぇぞ、今度はお前から来い、じゃなきゃ……許さねぇからな!」
伊江里クロワさんが俺のスタンプ台帳に連打のようにスタンプを押し、ダッシュで施設の中に入っていった。
「ああああああー! チューしてったー! クロワずっる! 私もするー!」
「あら、じゃあ私もしないと不公平ですよね。そぉれ」
何が起きたのか理解できずに棒立ちしていたら、藤浪桃世さんと西崎華さんが左右から同時にチューをしてきた。
え、え……?
「よぉし、台帳の裏にもスタンプ押してやるー! 何でもするから、抱きたくなったら言えー! 気絶するまで満足させてやるぞー!」
「はい、追加でスタンプ30個です。私はまったりとしたのが好みですね。長く、たっぷりと楽しみましょう。あ、3人同時でもいいんですよ? ふふ。それじゃあそろそろ帰りましょうか」
二人がスタンプ台帳の裏にスタンプを押し、施設の中に入っていった。
「…………」
何が起きた……
俺は状況が理解できず、しばらくその場に棒立ちしていた。
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影木とふ




