DAY 33 深夜、すれ違いだった二人が真相を知った日
「じゃあおやすみなさい、みんな」
「……ああ、部屋借りるぞ」
「おやすみなさい、美山君。寝ている所を撮りにきたらダメですからね? ふふ」
「どうしてものときは来ても良い……が、撮られたら撮り返す、それだけだー! フハハハ!」
夕飯の片付けも終わり、夜23時過ぎ。
今日は学校祭があったので疲れているだろうし、もう寝ることに。
夕食後は、出店ランキング戦の優勝賞品でいただいたアクションカメラ一式をみんなでワイワイといじっていた。
さすがに撮る特化の高級品、携帯端末のカメラ以上の性能でびっくり。
試し撮りでは、藤浪桃世さんによる『新旧変身ヒーローのポーズ集』とかいう、よく分からないものを撮った。
さすがにタンクトップに下着一丁姿では撮れないので、ちゃんとジャージを着てもらったけど。
みんながそれぞれの部屋に入っていく。
俺は居間のソファー。
……ここ、俺の家なんだけど……おかしいな。
いや、疑問に思うのはそこじゃなくて、なんで学校祭終わりで疲れているだろうに、女性三人が俺の家に泊まるのか、だな。
マジでどうして?
しかも俺の愛犬ボスも、伊江里クロワさんにくっついていったし。
まぁいいや……明日は学校祭の片付け登校だし、早朝マラソンもあるし、寝よ──
──カタカタ……
…………ん、なんだ……物音が……ボスか……?
今何時……深夜一時過ぎ……足音……俺の家に誰かいる?
……って、そういえば女性三人が今日も泊まっているんだっけ……
「…………」
誰だろう……なんか俺の側に座ったけど……
「……ん、あれ……どうしたの……伊江里さん」
ゆっくり目を開けると、そこには金髪ヤンキー女子、伊江里クロワさんがいた。
「ぁ、ちっ……起きてたのかよ」
つか顔近……! よく見たら、目の前に伊江里クロワさんの顔があるじゃないか。
「ふぁぁ……疲れているだろうし、明日も早いから寝たほうが……」
「……分かってる。でも……なんか興奮して寝れなくてな……」
俺がぼーっとしながら起き上がると、俺が寝ていたソファーに伊江里クロワさんが静かに座る。
興奮して寝れない……? ああ、学校祭とか出店ランキング戦の優勝とかあったから、それでかな。
「…………」
「…………」
二人、何も言わず、ソファーに座り続ける。
眠い……伊江里さんはまだ部屋に戻る気が無いみたいだし……どうしようか……。
「……大丈夫か」
「……え、大丈夫……? 何が?」
ぼーっと前を向いていたら、伊江里さんがボソっと呟く。
「その、一人暮らし……大丈夫か」
一人暮らし……?
「え、あ、うん……親からの仕送り頼りだけど、なんとかやっているよ」
「……そうか」
俺の家は四月から親が東京に転勤が決まり、家族で引っ越していった。
でも俺は高校も決まっていたし、環境が変わるのが嫌で、わがままを言ってここに残らせてもらった。
最初はアルバイトをしようと思ったんだけど、掃除洗濯料理とか、家の管理で手一杯で時間が作れなかったんだよね。
「最初は不安でさ、でも好きなお肉がいつでも食べられる、って変な方向に興奮はしていたね、あはは。ダイエット計画で痩せた今では考えられないけど」
十六歳での一人暮らし、それは不安しかなかった。
でも毎日冷蔵庫の肉たちを眺め、勇気をもらっていたなぁ。
……一人暮らしを始めてさらに太ったけど、不安と寂しさを誤魔化そうと必死だったのかもしれない。
もしあのままの生活を続けていたら……俺は不摂生とかで倒れていたかも。
そこは伊江里クロワさんに感謝だな。
高校でいきなり声をかけられてビビったけど、今は、ダイエット計画に誘ってくれて本当にありがとう、と言いたい。
……そういえば、どうして伊江里さんは急に俺に声をかけてきたんだろうか。
「その、伊江里さんとは、小学校のころ仲良かったよね」
「……ああ」
家が近いから、よく一緒に公園で遊んだり、俺の家でゲームをしていたなぁ。
格闘ゲームが得意で、勝つとすっごい良い笑顔で笑う、そんな少女だった。
思い返すと、その頃から俺の愛犬は伊江里クロワさんにベッタリしていたな。
「でも……その、中学以降は……疎遠になった、よね……。伊江里さん、ドンドン綺麗になっていって、すっごいモテていて……近寄れないぐらいだった。正直に言うと、太っている俺とは住む世界が変わったし、二度と話すこともないんだろうなぁ、と思っていたよ。だから、高校で急に話しかけられて驚いた。周りのイケメン差し置いて、なんで俺にって、あはは」
中学に入ると、伊江里クロワさんは見違えるぐらい成長し、出るとこドッカリ出ている、すごいグラマラスボディになっていた。
見た目も元から綺麗だったのだが、どんどん大人びた美人さんになっていって、常にイケメンたちに囲まれている状況だった。
太っていて、冴えない俺なんかが近寄れる雰囲気ではなかった。
伊江里さん、急にヤンキーみたいになって、怖かったのもあったけど。
……そういえば、中学以降、笑っている伊江里さんを見たことがない。
高校でも、いつもムスっとした顔だし。
最近は……ちょっと緩んだ顔も見せるようになっただろうか。
「……名前、なんで呼び方変えたんだよ」
伊江里さんがじーっと俺を睨んでくる。
え、名前……?
「名前って……? ああ、確かに小学校のときは気軽にクロワって呼んでいたけど、さすがに中学で女性を呼び捨ては……。その、冴えなくて太っているやつが、ドンドン綺麗になってモテている伊江里さんを呼び捨てとか、おこがましいかなって……。小学校では許されたけど、中学以降それを継続するのは勘違いだって、嫌われるだろうなって思って……」
周りのイケメンたちが伊江里さん呼びなのに、たんに小学校からの知り合いって理由だけで、太っている俺が呼び捨ては、おかしいだろう。
自分の容姿ぐらい、分かっているさ。
「……はぁ……お前なぁ、どこまで卑屈なんだよ。お前はお前だろうが。私が生まれて初めて友達になってくれたお前を、嫌いになんてなるわけがない。私はお前がいたから笑っていられたんだ」
伊江里さんが大げさにため息をつき、俺の頬をぐっとつまんでくる。
いてて、俺が生まれて初めての友達……?
「……知っていると思うが、私はアメリカ人の母を持っていてな。髪は地毛で金髪、身体も、小学生にしては大きくてな……それはそれは周りに奇異の目で見られたもんさ。小学校のときなんて、クラスの女どもにまぁ虐められたな」
伊江里さんが少し悲しい目で言う。
……そういえば小学校の時、伊江里さんはずっと俺の側にいたな。
女友達と楽しそうにしている姿、は記憶に無い。
「抵抗したり、睨むようにしたら、そういうのは減っていったんだけどよ、まぁ孤独でよ。だーれも話しかけてこないのに、お前だけがヘラヘラと話しかけてきて、ゲーム買ったから遊ぼうとか、家に行ってみたら、お肉好き? とか笑顔で聞いてきて、思わず笑っちまったよ」
そうか……小学校の時、俺の前だけ、笑顔だったのか。
「中学に入ったら、私の見た目と身体目当てで男どもが寄ってきてよ、ウッゼェけど、まぁちょうどいい女避けにはなったよ」
中学校に入ると、マジで伊江里さん、モデルさんクラスの美人さんになっていったからなぁ。
いつもイケメンに囲まれていたけど、そういえば周りにいる女性は少なかったな。
「しかしアイツ等、毎日のように女がどうだの、やっただのやってないだの……まぁ話が壊滅的につまらなくてよ。しかも中学に入った途端にお前、話してこねぇし。小学校の時、あんなに積極的だったのに、中学でもう歳で萎えたのかよ」
いや、積極的とかじゃなくて、小学校の時は、伊江里さんとゲームするの楽しかっただけなんですけど……。
中学で歳で萎えるって……俺、どういう目で見られてたの。
「いくら待っても来ねぇから、こっちから話しかけたら……すっげぇキョドって逃げ腰で『ごめん伊江里さん……』って走って逃げられたんだよ。あれは効いたなぁ……初めて出来た友達に、呼び方変えられて走って逃げられるとか……思い出すと、いまだに心がズキってなる」
あ……その、俺って太ってたし、美人でクラスの一軍さんに親し気に話しかけるのは何か違うような気がしたんだよね……。
でもそうか、俺が拒否したように見えてしまったのか……。
「それ以降はマジで近寄って来なくなりやがって……まぁムスっとした顔でいた私も悪いんだけどよ……。気が付いたら中学卒業間際とかで、お前が引っ越すかもとか話に聞いて、まぁ慌てた」
その、言い訳ですが、伊江里さん、マジでヤンキーっぽくて怖かったんですって。
え、なんで俺の引っ越しの話で伊江里さんが慌てるんだ。
「色々周りに調べてもらったら、お前はここに残ってそのまま高校に進学って話になったとかで、本当に安心した。マジでお前が引っ越したら、私の人生の拠り所がなくなるっての。……そこで改めて気付いたんだよ。やっぱ私の心には、ずっとお前の笑顔があって、お前が笑うから、私も笑えていたんだなって。マジでお前が側にいない中学時代は地獄だった。周りの男の言うこと、一っつも面白くねぇんだ。ジロジロと身体を見てきてよ、あからさまに身体目当てなんだよ。つまんねぇ、ドキドキもワクワクもしねぇ。本当に冷めた目でしか見れなくて、ずっとムスっとしてた」
小学校のときの伊江里さんの笑顔、マジで可愛かったなぁ。
中学校時代の伊江里さん、マジで見た目怖かったなぁ……。
「私はすぐにお前と同じ高校に決めて、ここに入った。そしてお前は、高校に入ったら一人暮らしが始まる。お前太ってたからよ、体調が心配で心配で……。多分、絶対に毎日肉食ってんだろうなって。そんなんじゃ、近いうちに身体壊すだろ。話したいんだけど……でも中学で拒否られてっし、また逃げられるのも嫌だし……。運良く高校では華とか桃世とか、似たような境遇の知り合い出来てよ。一人だと怖いから、そいつら巻き込んで、お前の体調管理用に色々調べてダイエット計画ブチ上げて、拒否れないように強引に参加させた」
伊江里さんが俺を真っすぐ見て言うが、なるほど、そういう経緯だったのね。
俺としましては、疎遠だったヤンキー女子にいきなり絡まれて、ビビり散らしましたよ。
そうか、俺を心配してくれていたのか……。
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影木とふ




