悪人です。
水滸伝の登場人物はたくさんいます。
なにせ、百八人の豪傑が出てくるわけです。まあ、たいした出番のないやつもいますが。
なぜ百八人かと言うと、実は彼ら、仙人の住む龍虎山の「退魔殿」に封印されていた百八の天界の魔神の生まれ変わりという設定なんですよ。
だからそれぞれに前世名とか、持ってるのです。
厨ニ的に、萌える設定ですよね。
例えば総大将の「宋江」は「天魁星」とかね。前回出てきた「武松」は「天傷星」とかね。←ググりました。
まあ、そこはさておき。
要するに彼らは決して正義のヒーローじゃないんですよね。
封印されてたんですよ、しかも「退魔殿」に。
そこを役人の「洪信」が、好奇心からこじ開けちゃったわけですね。その結果、金色の光を放って四方に散っていったもの達が、水滸伝百八の豪傑、ってわけです。
無条件の正義の味方じゃなくて、不良のゴロツキ集団だけど、ちょいと情に厚い奴ら、くらいに思っていたほうが幻滅しないで済むでしょう!(笑)
農民の酒を奪って飲んだりしますし、殴って肉屋を殺してしまったりしますし。ええっと、肉屋も悪いやつでしたけどね。酒飲んでゲロまみれになってみたり。暴れて寺の門を破壊しちゃったり。どうみても悪者の振る舞いです。
あと、よくあるパターンが。根は素直ないいヤツだったりするんで、困っている人を助けてやろうとするんですけどね、蓋を開けてみると、困らせていた相手が、知ってるやつだったり、知ってるやつの友達だったりするわけですよ。何しろ山賊ですから。
「あ、あなたは○○さんじゃあありませんか!」
「なんでえ、おまえだったのかよ! やめろよ、こういうの」
「は、わかりましたっ!」
わっはっは!
酒飲む。
問題解決! 無問題!
というようなパターンも、結構あるわけです。
それから、役人だったり、庄屋だったり、体制側だった人間が、落ちぶれて山賊になっていくというパターンも結構あります。
その中でも豹子頭林冲の落ちぶれ具合は、結構衝撃でした。
八十万金軍(皇帝を守る軍)の指南役、棒の達人だった林冲が、農民の酒を奪って飲むわ、泥酔した挙げ句に農民にボコボコにされて吊るされるわ……。
イメージがガタガタと崩れます。
でもここでまた、知り合いパターンです。
林冲が門の下に吊り下げられているところに柴進という大旦那がやってくるのです。柴進も、百八人のうちの一人で、林冲と知り合いでした。
「おや! 林冲先生。どうしてこんなところに……。百姓にやられるなんて情けない」
ボロボロの林冲の姿にびっくりする柴進。
「あややや、こいつ、大旦那様のお知り合いでしたか、そりゃあ、えらいご無礼をしやした……」
きまり悪げに林冲を門からおろしてやる農民。
「うむ。私も悪いところがあった。謝る」
酔いも醒めたのか、素直になる林冲。
問題解決! 友達の友達は、皆友達!?
それでいいのか! 百姓たちよ!
という展開です。
でもこういう、林冲のような男が落ちぶれていく過程をじっくり描写するというのも面白そうですよね。
理不尽な理由で追われる立場になり、罪人として牢に送られた林冲は、逃げも隠れもせずにその罰(自分は悪くないのに)を受けようとします。にもかかわらず、彼を待っていたのは暗殺という仕打ちです。
自分が寝ているはずだった小屋がめらめらと燃えているのを木陰から眼にした時の、林冲の心。
あかあかと燃える炎の中に浮かび上がる三人の人影。
一人は牢番長、二人は自分を陥れた高御曹司の家来たち。
林冲の手にした棒が、一直線に牢番長の胸元へ向かって放たれる――。その瞬間、林冲は正義であることを捨てたのでしょう。
山賊たちは決して正義のヒーローではない。彼らは悪事を働く。人を困らせもする。けれども、正義を行うような顔をしながら、腐り果てている奴らがいるではないか。
退魔殿から放たれた彼らが、可愛くさえ見えてきてしまうほどの悪人が。
なんてことを、感じたりするわけでした。