第二十五話「勝利を呼び込む風」
第二十五話「勝利を呼び込む風」
「各の違いを教えてやるよ」
ソラの荒々しい言葉遣いに困惑を示す面々。声で彼とわかっていても驚きは隠せない。
黄の龍の超戦士と新種のカラミティモンスターは互いに睨み合う。
先に動いたのは全長約三十ミール(約三十メートル)もあるカラミティモンスターだ。自身の体と同じ大きさのクチバシを開いて、鳴き声で威嚇する。
両腕を振り上げ自分の大きさを誇示した。が、龍の超戦士は微動だにしない。
カラミティモンスターは両腕を振り下ろし龍の超戦士を潰そうとした。稲妻が走り大きく後退。攻撃は空を切る。そのまま地面に直撃。土埃を巻き上げ、大きく窪ませた。
ソラはアオイをバーナードたちの元に投げた。
「終わらせるから下がってろ」
カラミティモンスターは巨大なクチバシが地面を連打しだす。
そのままクチバシ突付きながら前進。ソラたちを突き刺そうとしているのだ。
しかし、攻撃は届かない。否、すでに終わっていた。雷光が走ると、カラミティモンスターの首は上空を舞っていた。赤い奇跡と共に弧を描き、地面に落着。
血飛沫を吹き出しながら、巨大なカラミティモンスターはその生命を終える。
「強すぎる」
バーナードは無意識に言葉を零す。
鎧熊ですら、倒すのに苦労する彼らは、別次元の戦闘を目の当たりにして呆然としていた。
雷鳴が轟くと同時に霧散し、中からソラが現れる。
「皆さん大丈夫ですか?」
「え、あ。ああ、大丈夫です」
いち早く気を取り直したのはウェルダーだ。彼は短く顛末を話した。
ソラそれを聞いた後、今後の予定と彼に命令を下す。
機兵兵団が全軍ここに来ること。合流したら、なるべく早くここに簡易でいいので砦を建築し、ここを死守することを命じる。
その際の指揮はバーナード、オスヴァルトとエヴラールはその補佐を務めるという内容だ。
「後は、大樽にミスリルを詰めてください。それとカラミティモンスターの調査もお願いしますね」
「あの、代官は?」
バーナードがソラに問う。彼もようやく会話できるまでに落ち着いたようである。
「俺はこのまま王都に向かいます」
そうだとソラは思い出したように言う。
「ここらへんの地質の再調査をお願いします」
「わかりました」
バーナードは言いながら次なるカラミティモンスターの襲来に警戒していた。
機兵兵団が全員来るとはいえ、先ほどの三十ミールを超すカラミティモンスターに対応出来るとは限らないのだ。それを気にして、彼は表情を暗くする。
が、目の前で雷光が閃く。ソラは用はすんだと龍の超戦士となったのだ。バーナードたちは威圧感をその身で感じる。
しばらく歩くと、彼は上空に顔を向け――。
「――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!」
――咆哮をあげる。それはドラゴンの咆哮。聞いたものの心臓を鷲掴みにし、冷たい氷で冷やしていくような錯覚を覚えさせた。
全員が突然の事態に唖然としていると、彼は振り返る。そして力強く言う。
「これでしばらくはカラミティモンスターもこないはずだ」
言い終えると龍の超戦士は王都に向かって飛んで行く。雷鳴引き連れながら。
バーナードたちは口を開けてそれ眺めるだけしか出来なかった。
王都では激しい舌戦が繰り広げられていた。
シャルロット・シャルル・ブランシュエクレールに対峙するは、グレートランド皇国の第三皇子、オレンジ・アックス・グレート・オーランドだ。
シャルロットの側にはシャルリーヌとガエル・ブークリエ。オレンジの側には守護将軍のエレン・トワイライトライン。
オレンジには余裕の笑みはない。発する言葉も幾分か切羽詰まっていた。
「強情なお人だ。あれはパスト公爵の独断です。我々が望んだことではありません」
「抜け抜けと言う。感知しようしまいが、あんたたちの国の貴族でしょうに」
「その通りですが、今回のことは彼からの賠償金で住んだことと判断します」
「こっちはしてないっての」
「強情なお人だ」
「よく言われるわ」
オレンジの要件は食量だ。それを求め王都ブランシュエクレールに訪れたのである。
エメリアユニティ、そしてマゴヤに対して対応するために、どうしても必要となったのだ。
とはいえ、はいそうですかと差し出せるほどシャルロットはお人好しではない。グレートランド皇帝の謝罪なりを文章で提示されるなら納得しようと言うものであった。
彼女の隣にいるシャルリーヌは、困惑したように姉を見ては、睨めつけられて口を挟ませてもらえていない。
「帰りませんからね」
「どうぞ。今宵は宴を催します。どうぞご列席ください」
オレンジはもちろんと答えると、エレンと共に部屋を後にする。
「待たせてしまったわね。次を呼んで頂戴」
「すぐに」
ガエルは応えると、部屋にいた高官に目配せした。高官はすぐに部屋を出て、どこかへと向かう。
「いささか頑なすぎるかと」
「かと言ってすぐに頷くわけにもいかないわ」
「それがわかっておられるなら、私からは何も言うことはございません」
二人の会話に驚いたのはシャルリーヌだ。二人を交互に見て、どうしてと問いかける。
食量を供出する用意があるのなら、すぐに渡せばいいのではないかとシャルリーヌは考えたのだ。
「すぐにあげると、足元見られるの。今回は先の内乱のこともあるから延ばすわよ」
「ですがそれでは……」
シャルロットはわかっているわと応じ、先の二つの会談を思い出す。
ひとつはブランシュエクレールにとって対処するのは簡単だった。むしろ喜ぶべきことだろう。
シャルロットはその案件をソラに投げるつもりでいた。
だがもうひとつは、対処の仕方を間違えるとグレートランドとの戦争に発展しかねなかった。
「相応しい貴族いるかしら?」
シャルロットはガエルに目線だけ向けた。ガエルはかぶり振る。
「公爵殿がご存命なら……」
奴隷商船が難破し、その中にいたのは龍ノ峰島のエルフたち。その中にエルフの姫がおり、彼女は自分の身を捧げるので。時が来たら助けて欲しいと申し出たのだ。
受ける場合エルフの姫に相応しい相手を用意しなくてはならない。が、それに釣り合う公爵は先の内乱で亡くなっている。
「ミュール伯爵には大きな話すぎます」
「裏切るかもしれないわね」
彼の領地の懐事情はシャルロットもよく理解していた。この時の彼女は、ミュール伯爵にまだ反旗を翻す可能性があると考えていたのである。
「アソー子爵は?」
「わかってて言っているでしょう?」
「失礼しました」
ガエルは恭しく頭を垂れる。
扉が叩かれた。シャルロットとシャルリーヌは服を整え、姿勢を正す。ガエルもまた背骨を真っ直ぐにした。
「おまたせしましたわね」
「まったくですわ」
開口一番に相手は文句を並べていく。
こっちは時間がないと、急いでいるんだと自分の都合を並べた後に名乗った。
「申し遅れました。わたくしディートリンデ・ミツルギ・フォン・ロートヴァッフェと申します」
シャルロットはディートリンデに清々しさを感じる。
取り繕うことをせず、堂々とモノを言う。その姿勢に幾分かの共感を抱く。とはいえ、ここではそうはいかない。
政を行う場である。
顔を固く引き結ぶ。
「要件は魔道具の譲渡。の代わりに兵糧の援助。それと、知恵を貸していただきたく」
シャルロットは肩透かしを食らう。上手く相手の引き出そうとしていたのだ。交渉の場に置いて如何に優位に立つかが重要である。その戦いを放棄し、今もディートリンデは頭をさげた。
その様子にシャルロットは察する。
「状況は?」
「良くないですわ」
「いいわ。出してあげる」
ガエルとシャルリーヌは驚きの声をあげた。
「そ、そんなに簡単にあげては……」
国の沽券に関わると言おうとした口は、手で制される。ガエルは目だけでも抗議する。
お願いされて簡単にモノを提供しては、国として軽く見られてしまう。
もちろんシャルロットもそれを理解しており、当初は彼女も跳ね除けるつもりでいた。
しかし、相手が交渉の優位性も放棄し、頭を平に下げてきている。シャルロットはディートリンデの背後に厳しい状況を垣間見たのだ。
「先日の魔王の話を忘れたの?」
カンウルスの動きが活発化していると、シャルロットも魔王から聞いていた。そして目の前の姫はロートヴァッフェの姫である。そしてロートヴァッフェはカンウルスと国を接していた。
ガエルは唸って黙りこむ。
ディートリンデは長期的な戦闘を考慮している。
撃退は可能なのだが、長期に渡る戦闘は間違いなく自国の瓦解を招かない。。
「武器はあるのですが、士気のほうが問題で」
兵糧が圧倒的に足りない。民から巻き上げても、その先が続かなくなってしまう。そうディートリンデは説明する。
「しかしロートヴァッフェまでどうします? 今のグレートランド――いえ、パスト公爵なら巻き上げるか奪いに動きますぞ」
「それが知恵を貸してほしい点でございます」
「そうそう簡単に策なんて提供できないわ」
と、不意に風が窓を叩く。突然のことでシャルロットは窓の外を眺めた。緑の風が窓を撫でている。
シャルロットは目を見開くと、勢い良く立ち上がった。そのまま窓に飛びつく。
突然の事に全員が呆然となった。
彼女は窓を開け放つと、大声で叫んだ。
「ソラ! こっから入りなさい!」
しばらくして緑の風が部屋に吹き込む。風は強く、机の上のモノを多かれ少なかれ動かしていく。シャルリーヌとディートリンデは小さい悲鳴をあげる。乱れる髪を抑えながら身をかがめた。
そんな中、シャルロットは風を心地よさそうに浴びる。
「遅いわよ」
「すいません」
風が止み、部屋にはひとりの少年が現れた。シャルロットは目付きの悪い少年を迎えて笑顔で言う。
「ソラ知恵を貸して頂戴」
~続く~




