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第四章⑤

マーブル財団の現ボストン支部のビゲロ邸までルッカたちは箒で飛んだ。ビゲロ邸は駅から北東、明かりの多く、先ほど桃色の花火が打ち上がった賑やかな繁華街の手前に位置している。敷地の形は正方形。その中央には丸い噴水。門は南側にあり、そこから幅広く石畳が敷かれていて、噴水を通過して、邸宅まで伸びている。白い石材が使用された邸宅はさながら神殿のようで、空から見て、ボストンの街並みのそこだけが、異彩を放っている。周囲には黒くて太い、高い柵。そのすぐ内側は緑が濃く茂っている。

 マロリィは門へ方向を向けている。「結界が編まれているようだわ、空からじゃ無理ね」

 ルッカ、ガブリエラ、ネイチャ、マロリィは門の前に降り立つ。

「久しぶりね、」ガブリエラは門の右に立つ守衛に向かって言った。この邸宅を警備しているのは彼だけのようだ。「元気? 少し太ったんじゃない?」

 守衛は何も言わず、帽子を目深に被り、門を開けた。

 そのタイミングで門の向こう側から蹄が石畳を叩く音が聞こえた。馬車が来る。かなりのスピードだ。

 ルッカたちは馬車の進行方向から退いた。

 馬車が門を抜けようとした時、マロリィが声を上げた。「アリス!?」

「マロリィ様!?」馬車は急停止し、ゆっくりとこちらに正面を向けた。

 馭者は少女だった。山高帽子を右手で押さえながら、左手で手綱を操っている。帽子から溢れるアッシュ・ブラウンの軽くうねった髪。ルッカと同い年くらいだろうか?

 マロリィは彼女に駆け寄って言う。「アリス、どうしてここに!?」

「えっと、すいません、マロリィ様、急いでいるので、詳しいことは、後で」

 アリスは帽子を取って軽くお辞儀をして、馬の頭を繁華街の方へ向け、馬車を走らせた。

「ふうん、」マロリィはアリスを見送りながら、腕を組み、息を吐いた。「まあ、いいか、とにかく、行きましょう」

「あの子は?」ルッカはマロリィに聞く。

「マンブルズ家の使用人よ、何でもしてくれる女の子、性格も良くて、猥褻なことをしても怒らないんだけど、でも、魔女のことになると少し面倒臭くなる女の子、アリスよ、」マロリィは言って首を傾げる。「でも、本当に、なんでボストンに?」

 門は馬車が通り過ぎても閉まる様子はなかった。守衛は手を前で組み、門の右側に立っているだけだ。

「ありがとう、フィル」ガブリエラは守衛に言う。

 フィルという守衛はガブリエラの頭を乱暴に撫で、口元だけで笑った。

 四人が敷地の中に入ると、フィルは門を閉めた。ガブリエラはルッカが気になる目を向けているから教えてくれた。「ああ、彼はね、私が産まれた時からビゲロ家の使用人で、何でもしてくれる人だったの、どんなに私が乱暴なことをしても怒らない優しい人」

 石畳を歩き、楕円形の噴水を迂回して、邸宅の扉へ続く階段を登った。真ん中が膨らんだ柱の間を通り抜け、三つある内の一番右の扉をガブリエラは押した。施錠はされていない。滑らかに扉は向こう側へ開く。

 中は薄暗かった。銀の月の明かりがあった外の方がまだ近い場所の細かなことをよく見ることが出来るほどだ。天井の高い玄関ホール。靴の底が床を踏むと高い音がなる。玄関ホールの右手奥に階段があって壁に沿って緩い傾斜で高い位置まで伸びている。その階段を照らすようにランプの明かりが上に向かって斜めに点々と続いていた。階段の手前に扉があり、それは開いていてその先は真っ暗だった。

「エラリィ!」マロリィは玄関ホールの真ん中くらいまで歩き、辺りを見回しながら声を張り上げた。「エラリィ! ねぇ、いるのでしょう?」

「はい、います!」

 マロリィによく似た声がして。

 次の瞬間。

 無数の細かな炸裂音がして。

 視界が急に明るくなった。

 頭の上から光だった。

 ルッカは視線を持ち上げる。

 今まで気付かなかったが天井にはシャンデリアが吊り下がっていた。

 シャンデリアの数えきれないほどのロウソクの火が、それを囲むクリスタルを透過して煌めき、ホールを照らし出した。

「ここにいますよ!」階段を登った踊り場にピンクの髪の少女がいた。顔立ちはマロリィに似ているがずっと幼く、背もずっと小さい。しかし、彼女のピンクの髪の毛はおそらく彼女の身長よりも長くて、声のボリュームだってずっと大きかった。「エラリィはここにいますよ! お姉ちゃん!」

 エラリィは階段の手擦りに飛び乗り、重力に従って滑り降り、そのままマロリィの腕の中に飛び込んだ。

 

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