第三章⑤
大陸横断鉄道、本日最終列車の蒸気機関のトラブルのおかげでルッカたちは一等車のチケットを購入することが出来た。原因不明のトラブル発生。そのアナウンスが一等車のチケットを持つ老夫婦に旅のキャンセルを選択させたのだった。チケットを手に入れたマロリィはご満悦だった。箒を軸に回転しながらステップを踏み、ホームを爪先で歩く。
「はしゃいじゃってさ、バカみたい、」小さなトランクを後ろ手に持ったミケが鼻声で言って、首を竦める。「ピクニックにでも行こうっての?」
ルッカ、マロリィ、ガブリエラとネイチャの中に混ざってクァンドのピアニストのミケも一緒に歩いていた。彼女はボストンに用事があるらしい。細かいことを何も話してくれないけれど、とにかくミケは大陸横断鉄道のチケットを持っていた。だから一緒に歩いているのだ。並んで歩くと、なんとなく彼女が一番、魔女らしい。
「あら、」マロリィはミケの方に振り返り、片足でバランスを取って言う。「ピクニック気分じゃいけない? 会いたい人に会いに行くんだから、ピクニック気分でもいいよね、ねぇ、ルッカぁ」
「う、うん、」ルッカはぎこちなく頷いた。「そうね、そうよね」
「ルッカ、どうしたの?」ガブリエラがルッカの顔を覗き込んで心配そうな目をする。「何かにビビってる?」
ルッカは立ち止まった。皆がルッカに視線を集める。ルッカは皆の向こう側に見える黒くて太くて硬くて重そうな蒸気機関車を見て、息を飲む。「私、機関車に乗るの、そういえば、初めてだった、」ルッカはガブリエラに聞く。「乗り心地は?」
「まぁ、箒には敵わないよね、」ガブリエラは口元に手を当て言ってから、不敵に微笑んで言う。「……っていう、私も実は初めてだったりして」
「私も初めて、」ネイチャはルッカに密着して言う。「マロリィは?」
「この私が初めてなわけないでしょ、」マロリィは起伏のなだらかな胸を張って言う。「蒸気機関車は、二回目よ、二回目、ミケは?」
「ファーファルタウでは毎日乗っていたよ、」ミケは先を歩く。「蒸気機関車に何回乗ったかなんて、なんのステータスにもなりやしないよ、マロリィ」
九番線に停まる蒸気機関車の先頭にはつなぎを着た整備士たちが集合していた。トラブルの解消のため、難しい顔をしている。ルッカたちは彼らの横を通り、一等の四号車に向かった。その三号室がルッカたちの部屋だった。六人が座れる座席があり、ソファは柔らかく、天井は高く、快適だった。通路の反対に、どうやらベッドが設置された部屋があるようだ。
「じゃあ、おやすみ、今日は昼寝をマロリィに邪魔されたから、眠いや」ミケは欠伸をして向こうの部屋に行った。
そして。
なぜか。
四人とも黙った。
窓際にマロリィとルッカが座っている。
マロリィの隣にガブリエラ。
ルッカの横にネイチャ。
そういう配置で狭い空間に四人。
髪の色が違う四人。共通点の少ない四人。
そして突然、景色の動かない窓の外を見ながらマロリィが聞く。「ルッカは未来のことをしっかり見てる?」
急にそんなことを言うマロリィに、正直ルッカは戸惑った。ふざけているわけでもないだろう。真剣なわけでもなさそう。マロリィはルッカの目をしっかり見て、そして未来のことを話し始めた。マロリィが考えている未来は、しっかりとした輪郭があって、色があって、愉快そうで、そしてその回転はすでに始まっていた。
その回転に。
ルッカは巻き込まれたいなんて。
思ったりして。
「何もかも解決したら、」マロリィは僅かに首を傾けて答える。「ルッカは私に会いに来てくれる?」
「分からない、分からないよ、いろいろ、きっといろいろあると思うから、」ルッカは首を横に振った。「でも、マロリィに誘われたってことは忘れないと思う、絶対」
「ありがと、」マロリィは可愛い顔をして言う。「私から会いに行ってもいい?」
「それは、日本に、ってこと?」
「うん」
そのとき。
今までしーんとしていた隣の部屋から盛大な笑い声が聞こえてきた。
「トランプでもしてるのかな、」ガブリエラが言う。「楽しそうだね」
「じゃあ、隣に負けないくらい楽しいことをしましょ、」マロリィは破裂するくらい明るい声で言う。「私たち、四人でなら、きっと出来るわ」




