表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/15

第九話 順調、か?

 デンボウ村の大規模な引越しも無事終わり、村長や村人はそれぞれの新生活をこの商業街テグニアで迎えている。


 俺たちは、村の子どもたちを無償で学院などの教育施設へ受け入れ、さらに大人たちにも市場での出店を許可した。

 最初の俺は、引っ越してきたばかりの人間が少しでも街に馴染みやすくなれば――その程度に考えていた。


 だが、シアはその先まで考えていた。


 人が増えれば市場は広がる。

 市場が広がれば商売が生まれる。

 さらに教育によって人材が育てば、その広がりは連鎖するように加速していく。


 俺は当初、遠方の村人たちを一箇所へ集めたのは、魔物の脅威から守るためだと思っていた。

 だが実際は、それだけではなかった。


 人を集め、経済を回し、街そのものを発展させる。

 そこまで見据えていたとは、正直驚かされる。


 いや〜侮れないですな、シア姫。


 ――セオドール! この前は引越しありがとうな!

 ――セオドールさま、シア王女によろしくね!

 ――いつになったらまたシア王女に会えるのだ!


 とりわけ、この街に活気が戻ったのは、たしかである。


 この人たちが無事に日々を過ごせているのも全てシアのおかげだ。

 

 税と人の集約は彼女の提案だ。それがうまくいってるようで、なによりだ。

 

 君がいなければ、俺も、ここにいる人たちもこうして楽しく笑い合ってはいない。

 そう思うと、彼女が俺の婚約者としてこの辺境地に来てくれたのはとても良かった。

 

 俺は、そろそろ散歩をやめて屋敷に帰ることにした。


「経営難ですよ?」


 シアにルンルンな気持ちで、順調だな!と声をかけるとそう言われた。


 真顔で。


「…………え?」


 てっきり順調だと思っていた。

いや、かなり順調だと思っていた。


 だが、シアは大量の資料を並べながら、平然と続ける。


 制度の未整備。

 教育水準の低下。

 収入源の不足。

 他、多数。


 全然順調じゃねえ。民の生活を表面的にのぞいただけであって、


「そもそも私たちの領地には、"産地原産のもの"がありません」

「産地原産?」


 シアは、まず取り組むべき問題として、それを挙げた。

 

「他領には必ずしも一つはあるんです。

 たとえば隣接のダルケル領なら広大な土地からなる穀物、王都付近のウェスパリルム領なら銀鉱脈といった鉱物資源、といったように」

 

 言われてみれば、当然の話だ。

 領地というのは、何かしらの特産品を売って利益を得ている。

 

 だが、バルト辺境には――。

 

「……魔物しか、いないな」

「ええ」

 

 シアも、苦々しく頷いた。

 

「昔はこの土地でも高価な薬草や果実が採れていたそうですが、現在は土壌が魔力汚染されています。魔物が頻繁に出入りする影響ですね」

「まあ、ここは魔王城が近いからな」

 

 長年にわたって魔力に晒され続けた土地は、地味が落ちて、普通の作物が育ちにくくなっているという。


 自然条件は人間の力ではどうにもならない部分が大きい。

 運良く産物豊富な土地を引き当てれば、それだけで莫大な財産になる。

 

 つまり立地というのは、経営にとって決定的な要素なのだ。

 

 逆に言えば。

 

 俺たちの引いた札は、最悪の貧乏くじだったわけだ。というより、国王様に強制されたので、くじも何もないんだが……。

 

「土の浄化はできないのですか?」

 

 部屋にいたエルバスが、口を挟んだ。魔法使いであるエルバスにとって、土壌浄化は専門分野の一つだ。

 

「可能です」

「お、じゃあ――」

「ただし、かなり時間がかかります」

「う、うん、そうですよね」

 

 即答でシアに否定されたエルバスは「まあね」とでも言いたげに頷いていた。だが明らかに知ったかぶりが顔に出ている。

 

「ここは魔王城近郊。土壌は深部まで魔力汚染を受けていると見るべきです。広範囲の浄化となれば、年単位――」

「――年単位。ですよね?」

「え、ええ。

ですので、土壌改善は徐々に進めるとして――まずは、別の収入源が必要です」


 シアが言い終えるより先に"年単位"を被せて、いかにも分かってました感を醸し出す高難度テクニック。エルバスの必殺技だ。

 

 だがな、エルバスよ。

 女の前では、変にカッコつけて自分をよく見せようとするより、そうなんですね、と正直に反応したほうがむしろ好感度はあがると思うぞ?

 

 にしてもバルト辺境の収入源となる特産品か……。


 俺とエルバスは、椅子に座りながら考え込んだ。


 バルト辺境は一応、海に面してはいるが、土壌と同じく海産物も魔力影響を受けていると考えてまず間違いない。

 

 あとは金や銀などの鉱物系。だが、そんなのが仮に湧き出ていたとしてこの辺境地はここまで荒んでないだろう。

 

 なら、今から探すっていう手はどうだろうか。

 

 おなじみ聖剣エクスカリバーで山を叩き割って中身を確認するか? その方が手っ取り早いよな?

 

 ……いやいやいや、待てよセオドール。すぐに脳筋ルートに走るな。お前の悪い癖だぞ。

 

 しかし――。

 こうして悩んでいるのも全部、魔物のせいだ。

 

 魔物がこんなにも湧き出てくるから、こうなる。


 代わりに金が湧き出ればいいのに。

 

 うちは魔物が、産物のようなものか。

 

「魔物を売る、か……」

 

 ぽろりと口に出してしまい、しまったと思った。エルバスもシア姫も、揃って俺を見る。

 

「あ、いや、その、魔物を売るっていうか、その、なんていうか――うちには魔物しかいないんだから、いっそ魔物を産物にしちゃえばいいんじゃ……ないかなって、はは、冗談だぞ、冗談――」

 

 話している途中で、自分のアホっぷりに気づき、語尾がどんどん小さくなる。

 

 エルバスが、バカにする目で、こっちを見つめている。シアは無言。呆れてんな。


 ――と思えば。

 

「いいですね! そうしましょう、セオドール様!」


 シアは声をあげて賛成してくれた。

 

「……ほんとか? 魔物を売るんだぞ?」

「ええ、本当です」

「……」

「ですが商品は、正確には"魔物素材"です」

読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価、感想、いつも励みになっています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ