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第八話 触れてしまった

 エルバスが言うには、シアが俺のことを褒めていたらしい。


 ――すごいです、とか。


 だが、思い返しても、俺は別にすごいことなんてしていない。


 剣を振ったわけでもないし、

 魔物を倒したわけでもない。

 この村に来てからというもの、裏で村長と移住交渉していたことがバレてしまったり、ダサいとこばっかシアに見られてる気がする。


 何がすごいかは検討がつかないが、褒めてくれていたのであれば、なんであれ嬉しいことだ。


「謎な子だ」


 そんなことを考えながら、俺たちは村の引っ越し作業を進めていた。


 荷車を用意して、荷物をまとめ、運ぶ。

 単純だが、人手がいる作業だ。


 シアも当然のように手伝っていた。


「よい、しょ……!」


 小柄な体で、大きな木箱を抱え上げる。


「王女さま、それは俺たちがやるから!」

「そうですよ、冗談で頼んだだけですって!」


 村人たちが慌てて止めるが、


「いえ、やります!」


 シアは真剣な顔で言い切った。やる気があるのはとてもいいことだ。

 だが、さすがに頑張りすぎじゃないか?


 そう思い俺も引っ越し作業を進めていると、村人の慌てる声がした。


「王女さま、さすがにそれは無理がありますって!」


 何事かと視線を向けて、俺は固まった。


 シアが、タプタプ入った酒樽を二つ重ねて抱えていた。


 ――なんで持てるんだ、それ。


 いや、正確には持てていない。全身で支えているだけだ。いまにも細い腕と肩が潰れそうになっている。


 樽の中の酒が揺れて、シアの足取りもそれに引っ張られてフラフラしてる。


「シア、重すぎるだろ? ゆっくり下ろして」

「だ、大丈夫ですっ!」


 全然大丈夫じゃないシア。

 シアはそのままふらついた後に倒れそうになり、俺はとっさに彼女を支えた。


 ――だが、

 

「……っ!?」


 あろうことか、思いっきり彼女の尻をぎゅっと掴んでしまった。


 サイズ感は小さい。

 だが、服の上からでもわかる赤ちゃんの肌のような感触がとても――いい。


 じゃなくて……!!!


「す、すまない!! 今のはわざとではなく! 助けようとした不可抗力で!!」

「…………」


 俺は必死に謝るが、シア姫は顔を真っ赤にしたまま固まっていた。

 また嫌われたな。

 

 そう確信していたのが、

 数秒後、彼女は小さく首を振った。


「い、いえ、私のせいですので。

ちょっと休憩してきます……」


 そのまま俯いて、小走りで去っていってしまった。


 だがいま思い出しても、かなり柔らくていいものだったな。

 シアのおしr――。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉいいいいいいいい!!!!!」


 そんなことを思っていると、遠くから大きな声がした。


 ピピだった。

 その手には、荷車を持っている。

 

 そういえば、こちらもかなりの人手不足なので、引っ越しのための追加要員を呼んでいたのだった。

 シア姫の柔らかくて小さなモチモチのお尻に気を取られて、完全に忘れていた。


 まあそれは置いといて……この村には、大きな坂道があり、そのちょうど坂の頂点でピピは両手をぶんぶんと振っていた。


 そう、ピピは両手をぶんぶんと振っていた。

 ん?

 なら荷車に手は……?

 

 坂の頂上。


 もちろん。


「あ」

 

 荷車が坂をゆっくりと下り始めた。


 みるみる加速し、ちょうど俺の方角に向かってくる。


 だが、俺はまたもや気づいていた。


 フェイクドジだ、と。

 

 正直、ピピに手を出したくなった。

 いやらしくじゃなくて、ぶん殴るという意味で。


 なんてったって荷車はちょうど俺の方に転がっていくようにちゃんと計算され尽くしていた位置に置かれていたからだ。


 もう一度言うが、こいつのドジはフェイクである。

 戦士時代は、あの大陸最強とも言われる聖騎士団に戦略の指示を送っていたくらいの切れ者が、こんな初歩的ミスするわけがないのだ。

 

 だが、文句を言っていても、荷車は止まらない。むしろ加速を続けている。


 止めるか、と足を地面にぐりぐりと埋め込ませて、構える。


 だが、最悪なことに、車輪が地面の石にぶつかり、荷台はぐわっと方向を変えた。


 その先にいたのは――。


 休憩中で、お茶を飲んでいたシア姫だった。


「シア!!!」


 彼女に向かって大声で叫ぶと、彼女は状況もわからずにこちらを見る。

 きょろきょろと周囲を見回し、ようやくとんでもない速さで迫ってくる荷車に気づいたようだ。


 だが、もう遅い。


 避けられない。


 そう思ったのかシアが目を閉じて、身体を小さくしたとき、俺は強く地面を蹴った。


 そのまま畑に刺さっていた鍬を抜き、一瞬で荷車の前へ飛び込む。


 ――轟音。


 荷車が木片になって吹き飛び、積まれていた荷物が空中に舞った。幸い、一つも木片はシアに当たらなかった。


「大丈夫か?」


 俺はすぐさまシアの元へ向かい、反射的に彼女の手や肩を確認した。


 腕に傷はない。

 足も無事。

 頭も大丈夫そうだ。


「……あの」


 ……そう言われて気づいた。

 また普通に身体を触ってることに。


「す、すまない!!

また許可なく触れてしまった!!」

「い、いえ。問題ありません」


 すぐにシアから距離を取ると、彼女は少し驚いたあと、ふっと笑った。


「ありがとうございます」


 そう言って、小さくお辞儀する。


 なぜか少し嬉しそうだった。


 理解できなかった。

 

 こんな危ない状況、何がそんなに面白いのかはわからない。


 ◇◇◇


 ちなみに戦犯のピピは、普通なら解雇されてもおかしくなかった。


 だが、ピピがシアに地面に埋まるくらいの土下座を見せると――。


「――大丈夫です。私も不器用なので、気持ちはわかりますよ」


 とシアは優しく言った。

 

 その代わり、俺が本気で叱った。

 シアに迷惑はかけるな、

 もう命や健康に関わるドジはするな、と。


 猛反省したピピは、引っ越し作業の重労働の刑を自らに処した。


 とても反省しながら、だがとても効率的に引越しをするために、村人に指示を出しながら、引越しを進めていったおかげで引越しは予定よりかなり早く終わった。

読んでいただきありがとうございます。

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