第四話 デンボウ村
それから、穀物類の税収をまるっきりなくすことにした。
シアによれば、それが経済的に大きく影響するかと言われれば、そうではないらしい。
高額な税収により、穀物への需要と供給が機能しなかったせいで、穀物類からなる我々の収入はもともと微々たるものだったとか。
シアは再度、資料を引き出して俺たちに細かく説明してくれていた。
簡単に言えば――税率を上げ過ぎると、人々の経済活動そのものが止まり、結果として税収が減るのだという。
逆に税を撤廃すれば、村人は穀物を売り買いできるようになり、市場が回りはじめる。回りはじめれば、別の取引や物流から自然と税が落ちる。
……経済とは、そういうものらしい。
だが、驚くことにシアはこれらをすべて、わずか数分で大量の資料から読み取り、その上で最善手を提案したのだ。
――これのどこが無能だ?
そう叫びたくなった。
やはり貴族基準だと、これでも実力は足りないというのか?
いや……そんなわけない。
勇者時代、俺は貴族からの魔物討伐の依頼を、嫌というほど受けてきた。
依頼の席で貴族たちと顔を合わせる機会も多かった。
だが、正直なところ。
彼らの一人として、賢いと感じたことはなかった。
自慢の息子だ、と紹介された貴族のガキンチョにかぎって、「僕ちゃん」などのはしたない一人称を使ってきたり。
それと比べれば、シアの言動、一つひとつに明らかな賢さを感じる。
どちらにしろ、無能と呼べる要素が見つからん。
なにはともあれ、税の撤廃は辺境復興のはじまりに過ぎない。
安全なまちづくりはまだ序章もいいところだ。
税撤廃の効果が出るにはおおよその時間がかかる。
まずすべきは、撤廃の知らせをいち早く各市町村、そして商人に届けること。
「セオドール様、ここは騎士団に任せましょう」
「ああ、そうだな」
シアがそう言って、俺は頷いた。
この近くに本部があるバルト領直属の騎士団とは、討伐の旅以来の付き合いで、彼らの団長・クラウツとはとても仲良くしている。
あいつらに伝達を頼めば、人馬を含めて最も効率的に動ける。
俺はそう判断し、すぐに伝令を飛ばすと、すぐさま快い返事が返ってきた。
承知した。 団員総出で各村へ通達を回そう、とのこと。
団員総出というとてもありがたいご厚意つきだ。
こいつは昔から律儀で、義理堅い男だった。団長という肩書きが付いても、それは変わってないようだ。
「クラウツさまからの許可も得ましたので、私たちは次の段階に進みましょう」
「あぁ、そうだな!
今度こそ、俺が聖剣エクスカリバーを使う時が――」
「いえ、エクスカリバーはしまっていただいて結構です」
次の段階とシアの口から出ると、俺はついに戦闘パートだ、とやる気になって聖剣を鞘から抜き出すが、丁重に断られてしまった。
「人口を、都市テグニアへ集約させましょう」
「なるほど……!」
シアがそういうと、今まで経営について全くわからなかった俺は強く共鳴した。
「人を一か所に集めたら、その一か所だけを監視していれば、俺らも簡単に民を守れるからな!」
「はい、そういうことです。
魔王城近辺の村の多くをここから南西に位置する都市テグニアへ迎えさせます。
テグニアは元々この領地で最も栄えた街でしたが、過疎化が進んでいる今なら、受け入れ余力は十分にあります」
俺のざっくりした説明を論理固めで再度説明してくれると、
シアは地図をばっと広げた。
そこには、明確な戦略が書き込まれている。
「街に集約することで、防衛効率が上がり、騎士団の巡回も最小限で済みます。食料や物資の配給も一元化でき、行政コストが下がる。同時に、人口密度が上がることで市場が活性化し、経済活動の自然回復にもつながります」
「お、おう。
つまり、民を守れる効率よく守れる上に、お金も回るってことか。って、最高じゃねえか!」
――ただし、問題がひとつ。
そうシアが言うと彼女は地図の端、魔王城に最も近い
村を指した。
「デンボウ村。この村は、おそらく移住を拒みます」
「なぜそう思う?」
「人口統計です。何度も魔物の襲撃があったにもかかわらず、村人は一人として逃げていません」
「なるほど。だが、なぜ逃げないんだ。魔王城付近は今でも魔物の脅威は凄まじいはずだろ?
「ええ。つまり、村に残る強い理由を持っているはずです。先祖代々の土地、生業、文化――そういった土地への愛着が、合理性を上回っている可能性が高いです」
文化や信仰の類なら、正直かなり厄介だ。
人が死ぬ危険性をどれだけ並べても、きっと話が通じないだろう。
こりゃあ困った。
なにはともあれ、デンボウ村。
――向かうしかないようだ。




