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第三話 税収

「穀物類の税収をなくしましょう」

 

 魔物に被害が出されている以上、村人の安全確保が優先される。

 てっきりそれが満場一致の意見だと思いきや、シアはあろうことか税収の話をした。


 だが、彼女の話を最後まで聞くことにした。


「えっと、反論とかしないんですか?」


  おずおずと、シアがこちらを窺うように聞いてくる。

これもまた王都であれば、反論を重ねた熱い討論になったかもしれん。


 だが、税収という得体の知れないパワーワードがでたのだ。反論なんてできるかー。


「……いや。だが、今は実際に魔物被害が出てるんだろ?

だったらまず、村の安全確保が先じゃないのか?」

 

 しかしそう乗せられたからには一応言ってみる。実際、そう思うし。

 

 すると、シアは小さく頷いた。

けれど、さっきまでのおどおどした第三王女の姿は消え、まるで別人のようにも見える。


「報告書によれば、魔物被害は“すべて怪我”で済んでいます」

「……なに?」

「普通ではありえません。魔王城近辺の魔物に襲われた村なら、全滅していてもおかしくないんです」

「つまり、どういうことだ? この村人たちは――」


 ――本来なら魔物に対抗できる力を持っていた?


「はい」


 シアは今度、自信満々に頷く。そして机の資料を指先でなぞる。


「この地域の住民は、長年ここで暮らしてきました。魔物への対処法も、逃げ方も知っている。

だから今まで生き残れていたんです」

「だが最近になって怪我人が増え始めた、と」

「ええ。そして原因は、おそらくこれです」


 シアが取り出したのは、三ヶ月前の税制変更の資料だった。


「前領主は破綻寸前の財政難に陥り、最後の手段として穀物税を大幅に引き上げています」


 俺は資料を見る。

 一月前と比べれば、5倍は差異がある。

 王都の民ならまだしも、こんな辺境地、村人もやりくりしてたときに、5倍の値段はどうあがいたって払えなくなるはずだ。


 こりゃあ酷い。

 

「村人たちは蓄えを切り崩して生活していたのでしょう。ですが、一般家庭の穀物備蓄は平均で二ヶ月程度。

 つまり三ヶ月経った今になって、栄養不足が表面化した」

「体力が落ちて、魔物から逃げ切れなくなったってことか」

「はい。簡単に言えば――」


 シアは真っ直ぐ俺を見る。


「“魔物が強くなった”のではなく、

“村人が弱くなっていた”ことになります」


 そう聞いて俺は納得した。


 俺やエルバスならこんなこと気づかずに魔物をどうにかしようと思ったはずだ。

 なのに、シアは誰も気づかなかった問題を、たった数枚の資料から見抜いたのだ。


 俺は思わず、顔をしかめた。


 王都では"無能姫"と呼ばれていた第三王女のはずだ。

だが、目の前にいる彼女は――無能のかけらもない優秀な王女だった。

 

 噂が勝手に独り歩きしていたか。

それとも、王都ではこの程度の実力ですら無能扱いされるのか。

 どちらにせよ、今目の前にいる彼女は――間違いなく有能だった。


 関心していたその時だった。


「あわわわわっ!?」


 背後から、聞き慣れた間抜けな声。


 嫌な予感がした。


「ピピ、お前――」


 振り返るより早く、大柄なメイドが突っ込んできた。


「きゃあああっ!」

「うおっ!?」


 コケたというより、身体を狙ったタックル。

完全にタックルだった。


 避けきれず、俺の身体が前に押し出される。

その先には不覚にも――シア。


「……っ」


 シアにぶつかった勢いで、彼女の身体がぐらりと傾く。


 反射的に、俺は彼女の腕を掴み引き寄せていた。

支えるように腰を抱く形になる。

 

 ふわり、と銀色の髪が舞った。


 そして驚くほど近い距離で、シアの顔があった。

 透き通るような白い肌。

 細いが、柔らかい肌の感触。

 綺麗な顔立ち。


「……綺麗だ」


思わず口に出ていた。


「は、はい……?」

「いや、すまない! 今のは忘れてくれ!

それより大丈夫か?」


 慌てて距離を取ろうとする。


 俺は何を言っているんだ。


 婚約者とはいえ、初対面に近い相手にこれはまずい。

完全にやらかした。


「ご心配なく」


 一言告げたシアは、何事もなかったかのように、席へ戻る。


……嫌われた。完全に嫌われた。

 まだ会って初日なのに。


 しかし、心なしか――シアの耳だけがほんのり赤い気がした。

 


――その頃。


「ふ、ふぇぇ……申し訳ありませんぅ……」


 両手で顔を覆いながら謝るメイド、ピピ。

だがその指の隙間から、たしかに笑っていた。


 ――許すまじ。


 聖剣エクスカリバーの餌食になるのは魔物ではなく、こいつになることが今決定した。

読んでいただきありがとうございます。

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