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第二話 ピピというメイド

 うちにはピピアンというメイドがいる。


 赤髪で、スタイル美人だが、どこか幼児っぽさがある27歳のメイドである。

 こいつには致命的な欠点があった。


 メイドとしての才能がをないのだ。


 お茶を入れるにも、外の落ち葉を拾ってティーポットに入れるし、

 廊下を歩けば、何もないところでこけたりする。


――ごめんなさいご主人様! ドジが出てしまいましたわ!


 と謝りはするが、俺は確信している。


 こいつはこれを()()()やってると。


 ピピアン――通称ピピ。


 この女、実際メイドでもなんでもない。


 正体は、勇者パーティ屈指の超頭脳派タンクである。

 どこに立っていれば、うまく俺たちを護れるかを常に考えるような女だ。

 勇者パーティの頭脳は、こいつと言っても過言じゃない。


 そんな奴がドジだと? 笑わせるにもほどがある。


 そういえば以前、勇者をやっていたころに、それぞれにもしも冒険者をしていなかったら、何をしてたかと聞いたことがある。

 エルバスは無難に聖職者だと。

 そしてピピはメイドと答えればいいものを()()メイドと答えた。


 聞けば、巷で話題の物語というものに出てくるドジメイドに憧れているのだという。

 

「ドジはなりたくてなるものじゃないだろ」


 俺が言えば、


「私は! 絶対に! なってみせます!」


 と断言して聞かないのだ。


 だから、幸か不幸か、俺が辺境伯に就任した時、ピピは(ドジ)メイドになりたいと誰よりも先に言った。


 わざと、外に落ちてる落ち葉でお茶を作られたりするが、それ以外は別に害はない。なので、そっとしておいていた。


 27歳にして引退した冒険者には、十人十色の余生の過ごし方がある。

 彼女もつらい経験をいくつも乗り越えてきた。

 大蛇に巻かれたり。

 ドラゴンに飲まれ込んだり。

 ゴブリンに囲まれたり。

 そんな彼女には自由に余生を過ごしてほしい。


 だから、別にドジメイドの件についてもとやかく言うつもりはなかった。


 だが、そんな彼女にも、強く言う時が来た。

 

――シアには、ドジを見せるな。


 国王に捨てられたとはいえ、シアが王女であることは変わりない。

 なら、そんな権威ある人の前でドジなんかして、怒らせてみろ?

 即処刑だってありえる話だ。

 

 いや、だがピピも、皮を剥がせば、天才的な戦略家だ。


 そんな可能性、こいつがわかってないはずは……。


「ドジはなりたくてなるものじゃない、と言ったのはセオドールさまじゃないですか〜」

「……ないか」


 ニヤニヤしながら言うピピに、俺は無言で睨みつけた。


「わかってるよな?」

 

 そう念を押すが、ピピは「はいはーい」とスキップをする。

 すぐさま、なにもないところで足を滑らせ、短いスカートの中の派手な下着をわざと見せてくる。


 まったく呆れたものだ。


 ともあれ、シアの屋敷案内はピピに任せた。

27歳だし、空気くらい読めるだろう。たぶん。


 もちろん、できれば俺が案内してやりたい。ピピに変な真似されるより、その方が何倍も安心だ。


 だが今は、それどころではない!

 

 まずは、書類の山という大きな問題を解決するところだ。


「セオドールさま、ちょっとこれを見てください」

「病院からの報告書か」

「はい、北部村落の今月度の負傷者です」


 エルバスが渡してきた一枚の書類を読んでみる。


 ――めっちゃ怪我人増えてんだけど……?


 先月以前だと、この村に限れば、怪我人の数は2〜3人程度だったのが、今月は40人近くだと。

 

「それにほとんどが魔物による被害ですよ」

「あぁ、こりゃあまずいな。

いったいどうしたもんだ」


 ゴォン、と近隣の教会から正午を知らせる鐘が鳴る。気づけば昼時だった。


 話し合いは一旦中断。

俺たちは昼食を取ることにした。


「なんだか、いい匂いがしますね」


 食堂に向かっていると、エルバスがそう言った。

 食卓を見てみれば、その理由が分かった。


 焼きたての肉料理に、湯気の立つスープ、色鮮やかな果物や大きなケーキまで並んでいる。


「うっわースッゲー! 超おいしそうっすね、セオドールさま!」

「あぁ! こりゃあすげえ。

いつもはこんな豪華じゃねえからな!」


 というのも、普段の料理はとても質素なものばかりなのだ。

 豪華なのは、シアがきているから、というのが大きい。


 うちには料理人と呼べるやつらが数人いる。ピピとは違い、元領主時代から仕えているちゃんとした使用人だ。

 ただ、優秀な料理人は引き際をわきまえており、魔物の侵攻が始まった段階で使用人を辞めていた。


 つまり残っているのは金目当ての腕の未熟な料理人ばかりで、貴族に仕える者にしては、料理の質もたいして高くない者ばかり。


 それでも今日はシアが来るということで、本気を出せと伝えておいた。

 とはいえ期待はしていなかったので、出来栄えには少し驚かされている。


 まあ、味わっている暇などあるはずがないのだが。


「魔物を倒すとなるとかなり負担がかかるんで、まずは魔法で足止めしとけばいいのでは?」

「そうだが、それは一時的な話だろ?

魔法で足止めしといても、数日後にはまた魔物からの被害は出る」

「じゃあ一気にドカンって倒すのどうっすか?

久しぶりにセオドールさまの聖剣が火を吹くところみたいな〜」

「ま、まあ、そうだな……?

魔物たちも、魔王を倒されて、勢力を増やしているようだし、俺の聖剣エクスカリバーで、いっちょ――」


――必要ありません。


 エルバスの調子に乗られて、気分よく話していると、誰かに話を遮られた。


 いたのはシアだった。


 エルバスとの会話に夢中で、いるのに気づかなかったが、ピピと一緒にご飯を食べていたようだ。


「必要ないというのは?」

「す、すみません! いまのは忘れてください」


  シアに聞くと彼女は、やってしまった、という顔を浮かべて、慌てふためく。


「私はただの見損ないの王女ですので、発言を取り消します……」


 そう自らを卑下するようにいう。

とてもおとなしく、さっきの発言が嘘のように静かになった。


 そして、女の私なんか政治の話に口を出せませんし、とぶつぶつ言っている。

 

「男女がどうこうとか関係あるのか?」

「は、はい?」


 政治の話をするべきなのは男だけだ、とかそんな文化が王都にはあるのだろうか? と思いながら、そう聞くとシアは困惑したようだった。

 

「男とか女とか、少なくとも俺たちはそんなの気にしていないぞ!

だから、なんでも教えてくれ!」


 俺はすぐさま、シアにそう頼みこんだ。

だって俺らは貴族の政治事情はこれっぽっちも知らない。

 男女なんかいまは正直どうだっていい。


 いま重要なことは一つ。

 

 シアは王女だということ。


 どれほど無能呼ばわりされていても、脳筋冒険者の俺たちよりも政治経済に詳しくないはずがない。


 いま、この領地の人々が怪我をしている。

俺たちだけではどうしようもできない。それに、きっとこのままだとこの領地は破綻してしまう。


 それだけで、彼女に頼む価値は大いにあった。


 ……だが、まったく話す気はないみたいで、ずっと顔を下げている。


 なので俺は、半ば強引に彼女の細い腕を掴んだ。


「え、あ、あの……!?」


 そのまま政務室へ連れていく。

 

「ここの資料、なんでもいいから漁ってくれ。

それで、俺たちが何をすべきか、教えてくれ!」


 シアに部屋の惨事を見せつけつつ、俺は自信満々にそう頼んだ。


 すると、恐るおそるシアが書類の山に近づくと、資料を一枚一枚見始める。

 読んでるのか疑うくらいのペースで資料を読んでいく。


 5秒もしないうちに次。また次。


「あれ、読んでんのか……?」

「さあ……」


 ポカンとした俺はエルバスに聞くが、こいつも信じられないらしい。

 そしてシアは資料をめくるたびに、小さく何かを呟いていた。


「これなら……」


 ぺらり。


「ここが原因……?」


 ぺらり。


「なら、いけるかも……」


 そう言った彼女は俺らの方を見た。

少し汗ばんでいて、緊張しているのがわかる。

 

 シアが話し出すまで、俺たちはゆっくりと彼女を待った。


「魔物の討伐は現時点で必要ありません。効率がとても悪いです」

「必要ない? そうなのか?」

「ええ、問題はもっと根本的にあります」


 資料から顔を上げたシア姫は、俺を見て――。


「穀物類の税収をなくしましょう」


 はっきりと、そう言った。

読んでいただきありがとうございます。

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