第七章~霊力2700の怪異~
その日の依頼は、深刻さがいつものものと違った。
依頼主は自治体の道路管理課で、何でも高速を通す為に
延線上にある廃墟を撤去しようとした際、そこに怪異が現れたらしい。
そこで何人もの霊能力者に頼んでみたのだが、軒並み命を落とし
最後の頼みの綱としてやっとT霊界探偵事務所に辿り着いたと言うのだ。
青いカットソーのみぎゃ子が言う。
「そんなの、最初からウチに頼めば良かったんじゃん。
ウチより強い霊能力探偵事務所なんて、他に無いんでしょ、Tさん?」
サングラスの大男が答える。
「まぁ、オレが知る限り、ここらじゃオレが最強の霊能力者だ。
他の地域は知らんがな。しかしまぁ、嫉妬とか商売敵として、
ココの良くない噂がいっぱい流れてるからな。
口コミサイトとかで確認してから発注する場合、
最後に回る事も珍しくない。」
「へぇ~、そうなんだ?どんな事が書かれてるの?」
「あり得ねぇ噂だよ。足が臭いだの、宗教勧誘されるだの、
最近ではお前が入ってからは、色仕掛けで多額の示談金を
支払わされたなんてのもあるぜ。」
「えぇ~、アタシに対してのもあるの!?
やんなっちゃうなぁ~ほんと(汗)」
依頼主が口を挟む。
「えぇ、まぁ私どもも、ココは最後にしようと考えていました。
が、あまりに多くの被害が出て、最後の砦にまで手を出さなければ
ならないほどに追い詰められてしまっているのです・・・。」
Tさんが言う。
「よし、わかった。ただし今回の件を解決したら、
ちゃんと良い口コミを書いてくれよ。」
こうして、二人は山奥にある廃墟へと向かったのだった。
車を降りて山道を30分ほど歩いた所に、その廃墟はあった。
かつては隔離された精神病棟だったような建物だ。
老朽化が進み所々が崩れかかっており、足場は非常に悪い。
Tさんが言う。
「怪異が目撃されたのは、2階の廊下奥だな。
今まで殺された霊能力者達の遺体も回収されていないと聞く。
彼らの魂がまた怪異となっている可能性もある。
何にせよ今回は、気を引き締めて行くぞ。」
一階は乱雑に荒らされた残置物に気を付けながらも難なく進む事が出来、
やがて二階へと続く階段が現れた。
少し霊気のようなものが漏れて来ている感覚がある。
Tさんが言う。
「ここまで漂って来るとは、やはり今までの小物とは違うようだな。
常に初手の急な攻撃に対して防御態勢を取れるようにしておけ。」
みぎゃ子は、より一層気を引き締めた。
二階に上がると漏れ出て来る霊気を辿ると廊下の奥に、
ドス黒い存在がいた。
それは今までの怪異とは違った存在感を放っている。
Tさんが言った。
「霊力2900と言った所か。
オレが今まで戦った中で最強クラスのヤツと同格だ。
オレが5500、みぎゃ子が3900だから、
普通に戦えばまず負ける事は無い。
だが今回の戦いでは、今までのようにコチラからの
一方的な攻撃で終わるものじゃない。
いくらか、コチラもダメージを受ける事になるだろう。
これからより強力な怪異が現れる中で、良い練習相手かもな。」
二人を認識すると、怪異はコチラへ黒い霧のような靄を発して来た。
「フシュルルル~!!」
避けようとした二人だったが、霧状の靄では避けようが無く、
体にそれを浴びてしまう。
途端に体中の力が抜けて、ガクンと膝から崩れ落ちてしまった。
Tさんが力無く呟く。
「しまった・・神経ガスのようなものか、抗えんぞ、コレは。」
みぎゃ子が呟く。
「普通にピンチくない?コレ。」
怪異は依然として、形としては捉えられないような霧状の姿のまま、
二人目掛けてスゥーっと移動して来た。
そして二人に向かって今度は、ドロドロとしたヘドロのようなものを
吐き出して来た。
Tさんとみぎゃ子が叫ぶ。
「ぐわぁ!コレは・・霊力の発露を妨げる泥か!!」
「ヤバい・・ヤバいのに、身体が動かない・・・」
怪異が更に攻撃を加えようとした瞬間、ミシミシっと音がした。
次の瞬間、二人はあっと言う間に落下し、一階へと落ちた。
長年の経年劣化の中で腐った床が二人の体重で落ちたのだ。
落下の衝撃はヒドく体を痛めつけたものの、
受けた霊障がフッと軽くなった。
上から覗き込み、コチラへ飛び込んで来ようとしている怪異に向かい
Tさんは渾身の霊力を込めて一撃を放った。
「破ァーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
眩い光が怪異を包み、やがて少しずつ崩れながら消えて行く。
その中に一瞬、何人かの霊能力者らしき影があった。
「アイツ、喰ってやがったのか、今までの霊能力者達を。」
Tさんがそう言い、静かに手を合わせ冥福を祈った。
かくして、霊力的には二人を下回るものの、今までの怪異と比べると
別格に強かった相手との戦いを終えた二人は、痛む体をいたわりつつ、
帰路へと向かった。
事務所に戻ってから、Tさんが言った。
「今後、こう言った厄介な怪異が増えて来るとなると、オレとお前の
他に比して強い霊力でさえ敵わない戦いを強いられるかも知れない。
そうなる前にオレ達自身がもっと強くなるか、より強い仲間が欲しい。
とは言っても霊力を上げるというのは生半可な事では無いし、
少なくともここらでオレ以上の霊力を持ったヤツの話は聞かねぇ。
どうするか・・。」
Tさんの言葉は、事務所の中に静かに響き、
みぎゃ子も静かに言葉を噛みしめた。
今回の戦いは二人に大きな問いを投げかけるものとなったのだった。




