Episode -009【Outbreak of war】
仮面の男の言葉に息を飲むベクター。そんなベクターを見て、仮面の男が笑い出した。
「ひゃっはっはっは!! 何、間に受けてんだよ。嘘に決まってるだろ。ほんと、ベクターは人の言葉を信じやすいなぁ。そんなんやから逆に騙しがいがなかったんやで。なあ、ベクター」
そう言って、男が仮面を外す。その顔はベクターも見た事がある顔であった。
「右近っ!!」
「ちゃう、ちゃう。右近やあらへんって、unicornから聞いたんやろ?」
その言葉を聞いて、右近のステータスを確認するベクター。しかし其処にある名前も「右近」となっていた。
「どういう事だ!?」
「あれ? どうした? unicornsの話が信じられないのか?」
「一体、何がどうなってんだよっ!? 右近っ!?」
「可哀想な奴だな。仕方ねえな、俺のステータスを良く見ておけよ」
右近の言葉通りに、右近のステータスを再度確認するベクター。するとステータス画面にノイズの様な物が走り始め、其処に表記されていた文字が変わり始めた。そして新たに表れた文字を読み始めるベクター。
「ランスフィールド……」
「どうだ? ベクター? これが俺の力だ。別に誰かに知られて困るような物じゃないからな」
そしてベクターがランスフィールドの方を向くと、顔や姿まで変わっている事に気付き驚いた。
「お前は一体っ!?」
「誰だろうな? 言っておくが、この姿も俺本来の姿じゃない。ステータスに二つ名が書いてないだろ? まあ、そんな事は良いか。ベクター、クロノからの伝言だ。俺達の仲間になれ。モンスタースレイヤーとNPCが戦った所で、どちらが勝つかなんて分かりきった事だろ?」
「この世界にモンスタースレイヤーだけの国を創るって話かっ!? お前達は、元の世界に戻ろうとは思わないのか?」
「あんな世界に戻ってどうする? 糞みたいな給料で働かされて無能な上司には頭を下げたり、やってられるかよ。それに年寄りが増えた所為で、俺達の年金なんてこの先どうなるかも分からない。それに比べて、こっちはそんな事に困る事はない。ここなら力だけで何でもやっていける。それなのに元の世界に戻ろうとするお前達の方が、どうかしてるんじゃないのか?」
「家族や友達に二度と会えなくなってもかっ!?」
「そんなのはリア充達の奴等の言い分さ」
「本当に、それで良いのかよっ!?」
「ったく。駄目だな、こりゃ。良いか、ベクター。無理に仲間になれとは言わない、だが俺達の邪魔はするなよ」
そして立ち去ろうとするランスフィールド。
そんなランスフィールドは、最後に一言残していった。
「ベクター、良く覚えとけ。テスト・ユーザーの全てが、元の世界に戻りたいと思っている訳じゃないんだからな」
そして森の中へと消えていくランスフィールド。
「待て、右近っ!!」
去っていくランスフィールドを追う事も出来ないでいるベクター。
(くそっ!! 俺は一体どうしたら良いんだっ!?)
ローゼンハルトの事があってから、ワンダー・クロニクルの世界で起こっている事を調べていたベクター。そして色々な所を見て回った結果。ローゼンハルトの身に起こった事まではいかないまでも、テスト・ユーザー同士の小さないざこざは起こっていた。その中でベクターは、「クロノ」の名前に辿り着いた。しかし今回、unicornやランスフィールドから聞いた「戦争」という言葉に繋がる様な出来事や雰囲気を見たり感じたりはしていなかった。あまりにも唐突に、そして元の世界では場面越しのニュースでしか見た事がない「戦争」という事態に。ベクターは戸惑っていた、そして何より事の大きさが「重大」とは頭で理解出来ても感情としてしっかりと捉えられていなかった。
(日本って本当に平和なんだな、戦争を知らない世代か……)
王都ランヘンベルグの帰路につくベクター。街の近くまで戻った頃、街が異様な雰囲気で飲み込まれている事に気が付いた。
(何だ? どうしたんだ?)
急いで街に戻るベクター、其処で目にした状況にベクターは言葉をなくした。
王都と言われる程、綺麗で厳格な街並みが見るも無残に崩れていた。それは文字通り建物の壁が崩れていたのであった。それは一軒や二軒ではなく、いくつもの建物が壊されていた。そして顔や体から血を流し倒れこむ人々。そして今まで目にした事がない状態で倒れている人達も居た。
(ど、どうなってんだ……? うっ!!)
建物の陰に行き、もどし始めるベクター。それが治ってから、もう一度街の方に視線を向けた。
(腸が……)
顔色を悪くするベクターの元に、unicornが現れた。
「ベクターさんっ!!」
「あんたは、unicorn……。これは一体、どうなってるんだ? あの人達に何があったんだ?」
「時間が無いので、手短に言います。戦争です、今戦争が起こっているんです」
「戦争? 昨日の話の感じじゃあ、まだって感じだっただろ?」
「そんな風に思うのは、日本人の私達だからでしょう。私も、今回の件に関わるまで戦争に対して何か緩衝材があるような状態でしたから。とにかく今はここから逃げて下さい」
「逃げろ? 俺に怪我してる人達を置いて逃げろって言うのかよ!? あんたはっ!?」
「この現状を見ただけで、吐きだすような今の貴方に何が出来るんですかっ!? 今はとにかく逃げて下さい」
その言葉を残して、怪我人の元へと走っていくunicorn。そんなunicornの背中を、ただ黙って見る事しか出来ないベクター。
(情けねぇ……)
unicornの言葉通りに、ランヘンベルグから立ち去るベクター。そんなベクターは剛羅の森にあるオベリスクの所で横になっていた。隣に佇むオベリスクを眺めるベクター。
「あんたは、一体どんな凄え事してきたんだ? 俺みたいな情けない野郎とは違ったんだろうな……。俺には直接関係無いって言えば関係無いが、普通ほっとけねぇだろ……。でも……、今の俺に何が出来るんだ……。くそっ……」
自分の情けなさに涙を流すベクターにオベリスクは静かに佇んだまま、それを見守っている様であった。




