Episode -010【Among the vortex】
「How many roads must a man walk down. Before you call him a man?
Yes, 'n' how many seas must a white dove sail. Before she sleeps in the sand?」
木々が鬱蒼と生えた丘で、男の歌う声が聞こえる。
大きな音の中で、その青い髪をした男は遠くの方を見ていた。
「Yes, 'n' how many times must the cannon balls fly. Before they're forever banned?」
男が歌う度に、遠くで一人、また一人と人が倒れていく。
「The answer, my friend, is blowin' in the wind, The answer is blowin' in the wind……」
男が歌うのをやめた時、その男に声を掛ける人物が居た。
「アッシュ」
声を掛けられて、アッシュと呼ばれた男が後ろを振り返る。そこには高々と生えた草を掻き分けて、男が立っていた。その男は腰に刀を提げていた。
「終わりか?」
アッシュが、刀を提げた男に声を掛ける。
「ああ」
アッシュの言葉に、男が言葉少なに答えた。それを聞いてアッシュは、手に持っていた少し変わった形をした弓を背中に背負い立ち上がる。そして二人は丘を降り始めた。
「お前歌ってると、いつか見付かるぞ」
隣で歩くアッシュに声を掛ける男。
「癖みたいなもんだから仕方ないさ」
「癖って、余計に駄目だろ」
男の言葉に笑って応えるアッシュ。
「それよりも他の戦況はどうなんだ? 斎弦?」
「ゴッテスヴルフは陥落、ノイエグラーデも危ないな」
「そうかぁ」
「俺達も、そろそろ他の所に移った方が良いな」
「傭兵業って、もっとこう、楽な感じだと思ってたんだけどなぁ……」
「まぁ、何処に行っても食うに困る事は無いんだから良いんじゃねぇか?」
「お前は、そればっかだよな。それで、次は何処に行くつもりなんだ?」
「今回の報酬で、結構余裕も出来たから。少し外れた場所で、ゆっくりしながら考えようぜ」
ーーロスカスタの王都ランヘンベルグでの襲撃……。いや、開戦以来。パラストブルク地方では各地で多くの戦争が起き出していった。その速さは尋常ではない程のスピードで起こっていた。
一体、誰が?
何処の国が王都ランヘンベルグを襲ったのかも、把握する時間もなく各地で争いが起こり始め。その開戦理由が全て、イディア王国の後継者を巡ってであった。そして、その戦火は今やパラストブルク地方を越え、他の地方にまで及ぼうとしていたのだった。
そして自分の不甲斐なさで沈んでいたベクターは今、unicornに協力しながら戦火の中を走っていた。
「はぁ、はぁ」
廃墟と化したゲルトブルクの瓦礫の中を、人目を避けながら走り抜けるベクター。
ベクターは、先の道を右に曲がり建物の影の中へと消えていく。その後方では未だに戦火の音が聞こえていた。
「unicorn!!」
建物の中に入るなり、叫ぶベクター。
「どうだった?」
緊張した面持ちでunicornがベクターに話し掛けた。
それにベクターは首を横に振り返事をした。
「ダメだっ!! 何処も自分の国の事ばかりで、俺の話なんか聞きやしねぇ……」
「そうか……」
「ここも危ねぇ、一度戻ろう」
「分かった」
そして、急いで建物から出て行く二人。
二人がゲルトブルクの外れの方に行くと、馬が二頭、柵に繋がれて佇んでいた。二人は柵に結んである手綱を解き、急いで馬に乗り。駆けて行った。
「unicorn、お前の方はどうだったんだ?」
平原の中を馬で駆けながら、ベクターがunicornに話し掛ける。
「こっちも駄目だ」
「そうか……」
何かを思った感じのベクターが返事を返す。そんなベクターに気付き、unicornが声を掛けてきた。
「どうした?」
「前に言ったが、俺は早く奴を見つけてぶちのめしたいんだよ」
「お前の亡くなったフレンドの事か……?」
「ああ……」
そう言って、ローゼンハルトの事を思い出すベクター。
しばらく二人が馬を走らせていると、遠くに小屋が見えてきた。
「陽も暮れ始めた、今日はあそこで休もう」
unicornがベクターに声を掛けと、それにベクターは頷き応えた。
小屋に近づくと二人は馬を降り、手綱を小屋に設けてある柵に結ぶ。
二人は小屋に入ると、そこにはテーブルと椅子があった。
椅子に座るなり話し始める二人。
「これからどうする?」
「そうだな……」
そう言って、考え込むunicorn。
しばらくして、unicornが話し始めた。
「今はまだ、ロスカスタに反旗を翻す国は多くないが。このままいくと、それも怪しい気がする」
「そうだな」
「だから、俺はロスカスタの軍の前線に行こうと思う」
「おい!! それじゃあ!?ーー」
ベクターの言葉を遮り、unicornが話を続けた。
「分かっている。お前がクロノを早く見つけ出したい気持ちは、よく分かってる」
「だったらっ!?」
「しかし俺達テスト・ユーザーが引き金を引いた戦争で、この世界の人達が苦しんでいる。それにーー」
unicornの言葉を遮り、今度はベクターが話をした。
「今じゃ、傭兵として他のテスト・ユーザー供も、この戦争に参加してきている事か?……」
「ああ……」
そして、項垂れるunicorn。
それを見てベクターが声を掛けた。
「それで、俺にも前線に来いって事か?」
ベクターの言葉を聞いて、顔を上げunicornが答える。
「いや」
「!? どういう事だ?」
「ベクターには悪いが、今まで通り各国に行って。この戦争が早期に終わるように、働きかけてくれ」
「分かったよ。……ただ、クロノの事も探すがな」
「お前、一人で両方をこなすのは無理だ!! 出来たとしても時間が掛かってしまうぞ」
「俺、一人ならな」
そして、笑うベクター。
「どういう事だ?」
「俺の知り合いに協力を頼んでみるつもりだ」
「その知り合いというのは、信用できるのか?」
「安心しろ。この戦争の影響下に居る者達じゃない」
「分かった」
二人が話し終わり、一息つこうとした時。
外で物音が聞こえてきた。
「誰かに聞かれたか?」
気配を消し、周囲を警戒するunicornとベクター。
すると外から、人声が聞こえてきた。
「良い所に小屋があって良かったな、アッシュ?」
「おい。馬が居るって事は、ここに持ち主が居るんじゃないのか?」
「それは頼み込んだら、大丈夫だろ」
そして、小屋のドアが開く。




