Episode -008【The purpose of the Chrono】
向かい合うベクターに笑顔を向けるunicornが、先程の言葉を訂正して続けた。
「目を付けられるというよりは、もう目を付けられてますけどね」
その言葉を聞いて驚くベクター。
「俺がっ!? いつからっ!?」
「いつからなのかは分からないですし、クロノにとって良い意味かも悪い意味かも分かりませんけどね。貴方がクロノの事を探っている事くらいは、知られているでしょうね」
「そんなっ!? これでも注意を払っていたつもりだぞっ!?」
「情報屋・右近」
「何故、右近の事を知っている!?」
「実の名は、ランスフィールド。情報屋でもなければ関西人でもないですよ。あれは、アインツヴァイン傭兵団の一人です」
「そんなっ!? それなら何故、俺の事を放っておく?」
「自分の命を狙っていようといまいと、自分の役に立つかどうか見極めているって所じゃないですかね? クロノが私に対してやっているように」
「どういう事だ? クロノは一体何をしようとしている? そしてアンタは何者なんだ?」
「クロノはモンスタースレイヤーだけの国を創ろうとしているんです。その目的は良いとしても、それを創る経緯も理由も良いものではないですが。そして私は、そんなクロノと当初ここで一緒に行動をしていた人物。今の様になる前のクロノと」
「モンスタースレイヤーだけの国だとっ!?」
「そうです。皆が元の世界に戻ろうと考えている中、クロノだけは違った事を考えていたって事です」
「そんな事を考える前の奴を、アンタは知っているって事か?」
「ただ口に出さなかっただけかもしれませんが、今の様な事をする前のクロノを見てきました」
「なるほど。でも国なんて、そんな簡単に創れないだろ!?」
「創るんじゃなく、乗っ取るとしたら?」
「どういう事だっ!?」
「今、この国では後継者が誰になるかという話で持ちきりなのは知ってますよね?」
「知ってるさ。だからと言って、王族や貴族でもないモンスタースレイヤーが後継者になれすはずもないだろ?」
「私達が住んでいた元の世界でも、歴史上それが可能だった事が一つあります」
「それは、何なんだ?」
「戦争です」
「戦争だと……?」
「ベクターさん、気を付けて下さい。殆どの人が気が付いてはいませんが、戦争への火種はすでに起き始めています。残念な事に私は、それを防ぐ事が出来ませんでした。これから先、此処の住人と私達テスト・ユーザーとを巻き込んだ戦争が起きます。私は、その戦火を出来るだけ小さく、そして早期解決に向け動くつもりです」
突然のunicornの言葉に、何も言えないでいるベクター。そんなベクターに、unicornが最後にこう告げた。
「私と同じ二つ名持ちという事は、ベクターさんもベクターさんにしかない力を持っているという事ですよね? 最近まで、私は何故この力を得たのか分かっていませんでしたが。多分、これから起きる事態に備えてだったのだと思います。また機会があれば何処かで出会うかもしれませんね。それじゃあ、また」
そしてベクターを残して去って行くunicorn、ベクターを襲っていた男達もunicornの後を付いて行った。
(戦争だと……? この世界で戦争が起こるって言うのかよ……?)
呆然としたまま、取っていた宿に戻るベクター。王都ランヘンベルグには幾つかの宿屋が存在したが、ベクターはその中でも街の西側にある宿屋モースモルイに宿を取っていた。部屋に戻り、ベッドに横になるベクター。
(話が唐突すぎて、訳分かんねえよ……)
そして自分の手を見つめ、unicornの言葉を思い出すベクター。
「俺にしかない力か……」
あれは、いつからだったんだろう?
気が付けば俺のステータスに「鉄騎」の肩書き、つまり二つ名が現れていたのは。初めは気になっていたが、俺はある事に気が付いた。それは二つ名のあるテスト・ユーザーや、二つ名のないテスト・ユーザーが居る事を。そして二つ名を持っている者の方が遥かに少なかった事も。その事もあってか、周りのテスト・ユーザーも俺の事を二つ名で呼ぶようになった。多分これは、あの力を手に入れてからなんだろう。
そんな事を考えていた時、ベクターが居る部屋のドアを誰かがノックしてきた。
「誰だ?」
ベクターの言葉にドアの向こう側の人物は返事をしなかったが、ドアの下の隙間からメモの様な物を差し入れてきた。急いでドアを開けるベクター、しかし其処にはもう誰も居なかった。それを確認したベクターは下にあるメモを拾った。
「”明日の正午、剛羅の森で待つ。” だと? 誰だ、一体?」
次の日、街の外れに在る剛羅の森に向かうベクター。その森はゴブリンやハウンドウルフなど一般的なモンスターであっても、体が大きい事で有名な森であった。そんなモンスター達を倒しながら、先を進んで行くベクター。
「デカいだけあって、HPも攻撃力も半端ないな。全く」
そして先を進んで行くと、背の高い塔の様な石が存在する広がった場所に辿り着いたベクター。其処には謎の仮面をした男が一人立っていた。
「待ってましたよ、ベクターさん」
仮面の男がベクターに話し掛けてくる。
「てめぇ、一体何者だ!?」
そう言って身構えるベクター。
「待ってください、今日は争う為に呼んだのではないのですから。今日、貴方を此処に呼んだのはクロノ様からの伝言を伝える為です」
「クロノだとっ!?」
「その前に一つだけ。ベクターさんは、これが何だかご存知ですか?」
そう言って、隣にある背の高い石に手をやる仮面の男。男はベクターの返事を待たずに話を続けた。
「これはオベリスク。過去の偉大な王の偉業や功績などを記した石碑です」
「それが何だって言うんだ?」
「問題はこのオベリスクに記された王の事です」
「問題だと?」
「このオベリスクに記された王は子孫を作らずに、この世を去りました。それは子宝に恵まれなかった訳でも、王や王妃の体に問題があった訳でもありません」
「何が言いたい?」
「王は自ら子孫を残さなかったのです、妃もとろうとしなかったとか。何故だと思います、ベクターさん?」
「俺が知った事か」
「何故なら、この王は。元は、この世界の住人ではなかったからですよ」
「っ!? どういう事だ?」
「合衆国国家・イディア王国の建国の祖。王国ロスカスタの15代の王である、この男は我々と同じモンスタースレイヤーだったのです」
「っ!?」
「その名は、クライン・ス・ドヴェイン。我らが主、クロノ様の生き別れたお父様です」




