Episode -003【For the first time of death】
〈清風の洞窟〉とは、文字通り洞窟内に爽やかな風が吹いている為に名付けられた洞窟である。ベクターとローゼンハルトは〈古の鞄『ディメンジョン・バッグ』〉のクエストを行うべく、今その洞窟に来ていた。
ローゼンハルトの長い髪を、洞窟に流れる風が触れていく。
「うぅん。やっぱり、ここはいつ来ても気持ち良いねぇ」
満足そうな顔で歩くローゼンハルト。
それを見るベクター。
「お前さ、良い加減。髪の毛切ったらどうなんだ?」
ベクターに言われて、毛先を摘み。自分の顔の前まで持ってくるローゼンハルト。ローゼンハルトの髪の毛は、ベクターが口に出したくなるくらい長かった。その長さは、後ろ姿だけで見れば女性かと思えるぐらいに長く。後ろ髪にいたっては、ローゼンハルトの背中辺りまで伸びていた。
「この世界、ゲームのくせして。髪の毛とか爪とか、本当の世界の様に伸びるだろ? そういう仕様なのか、街にも床屋とかもあるんだし。これ済ましたら、髪の毛切れよ」
自分の髪の毛を眺めながら、ベクターの話を聞くローゼンハルト。
「そうなんだけど。リアルに比べたら、まだ短い方だし。別に良いよ」
「嘘だろっ!? お前、リアルでどんだけ毛ぇ長いんだよ!?」
その話を聞いて、ベクターの方に背中を向けるローゼンハルト。そして自分の腰辺りに手を持っていった。
「えぇっと、このくらいかな?」
それを見て、驚くベクター。
「マジかよっ!? 確かお前、俺と歳そんなに変わらなかっただろ!? 仕事で支障ねぇのかよ?」
「特に無いね」
「お前の仕事って、一体何なんだよ?」
「普通に会社員だけど」
「良く何も言われなくて済んでるよな」
「他の皆も同じくらいの長さだからかな?」
「どんな職場なんだよ……」
そして二人は話をしながら、洞窟を奥へと進んで行った。
ーー
「おーーい!! 弓兵1号、2号」
建物内に声が響く。
その声に大きな木箱を運んでいる二人が反応する。
『誰が弓兵じゃい!?』
その声に、二人を呼んだ人物が階段から下りてきた。
「ほんっと、関西人って。良い感じにツッコンでくるな」
「縁、俺とこいつを一緒にすんな」
「誰が、こいつじゃ!! お前の所為でキャラもろ被りとかって、ヤスハラに言われんねや!!」
「ああ、大阪人はうるさぁて困るわぁ。誰かロビンの口にチャック付けてくれやぁ」
「出た出た、神戸人の変なセレブ感出すとこ。嫌やわぁ」
「ハハハッ!! 本当に漫才みたいな事するんだな」
『漫才ちゃうわい!!』
荷物を降ろして、ソファに座るロビンとウィルヘルム。その向かい側にある椅子に座る、縁。
「それで何やねん? 今、引っ越しの準備で忙しいねん。ってか、お前も色々とヤスハラに頼まれとるやろ?」
ウィルヘルムの言葉を聞いて、困ったような顔をする縁。
「それでなんだよ。お前等、ヤスハラ見なかったか?」
「ヤスハラなら、外に出てったぞ」
「どうせ、またベクターの所にでも行ってんねやろ」
「やっぱ、そうかぁ……」
「それが、どないしてん?」
ロビンの話を聞いて、ポケットから数枚の紙を出して二人に見せる縁。
その紙に書いてある内容を読む二人。
「そうか、そうか」
そう言いながら立ち上がるウィルヘルム。
「触らぬ紙に祟りなしって言うさかいになぁ」
同じく立ち上がるロビン。その二人を、ただ呆然と見る縁。
「たまにはええ事言うな、ロビン」
「せやろ?」
「お前等、何の話してんだ?」
「俺等は何も見てへん」
「そうや。俺等が見たんは、ヤスハラの無理難題に苦しんどる縁の姿だけや」
「え……?」
「って、事やから」
「そう、そう」
『ほな、さいなら』
そう言って木箱をまた運び始め、早足で逃げていくウィルヘルムとロビン。その光景を見て、自分の現状に気付く縁。
「あの関西コンビめぇ!!」
ーー
遭遇するモンスターを次から次へと倒し、先に進むベクターとローゼンハルト。
「出てくるモンスター、今まで通りだけど。本当にこの先に、素材なんかあるのか?」
「まあ、お荷物問題の改善だからね。普通のゲームで言えば、無料ダウンロードのクエストみたいな所でしょ。クエストの難易度も低いし」
「なるほどな」
二人がある程度洞窟を進んで行くと、以前そこには無かった宝箱があるのが分かった。
「ほら! あったじゃん」
「ほんとだ」
そして宝箱からアイテムを取り出す、二人。
「見事に宝箱が二つあって、良かったね」
「そこはゲームだからだろ」
宝箱にあるアイテムを全て取り終えた二人。
「それじゃあ、帰るか」
「そうだね。皆に引っ越しの準備とか色々と任せっぱなしにしてるから、早く帰ってあげないと」
「それって、お前の創ったギルドの事か?」
「そ。暇な時に覗きに来てよ」
「そうだな。最近は、お前以外の奴等と会ってねぇからな」
「それじゃあ、急いで帰ろう!!」
そして歩き出すローゼンハルト。
ベクターは、その後を付いて行った。
洞窟の出口へと、しばらく歩いていると。先を歩くローゼンハルトが転がるようにして、倒れた。
「おい、何やってんだよ? ヤスハラ」
ベクターがそう呼び掛けても、いつもの返しがなく黙ったままで倒れているローゼンハルト。
「おい? ヤスハラ?」
ローゼンハルトの元に寄り、うつ伏せで倒れているローゼンハルトを引き起こすベクター。
「何やってんだよ? 悪い冗談はよせよ」
それでも反応しないローゼンハルト。
「おい? お……」
そんなローゼンハルトにようやく気付くベクター。
ローゼンハルトのお腹辺りには鋭利な刃物で斬られた様な、深い傷があった。そして、そこから大量に流れ出てくるローゼンハルトの血。
「おい!! ヤスハラ!! おい!!」
その声にローゼンハルトが目を覚ました。
「ごめん、ベクター……。やられちゃったよ……」
「やられたって、どういう事だよ!?」
辺りを警戒するベクター。
「気を付けて……、ここに誰か居るみたいだから……。大丈夫、俺メイジだから……」
「分かった、お前は回復に専念してろ」
そしてローゼンハルトを横にして、剣と盾を手に取るベクター。
「ああ、全く。先にお前から始末しようとしたのに、メイジ野郎が盾になるとはなぁ」
そして物陰から男が出てきた。
「誰だ、お前っ!?」
男に対して武器を構えるベクター。
「誰って、お前達と同じテスト・ユーザーに決まってるだろ」
「俺達と同じテスト・ユーザーだと……」
「ああ、そうさ」
「同じテスト・ユーザーなのに、何でこんな事するんだ!? この世界で死んだら、どうなるか分からないんだぞ!?」
「はあ!? そんな事、俺には関係無いね。そこのメイジ野郎と俺は赤の他人同士だからな」
「お前なぁ!!」
「そんな事よりも、後ろのメイジ野郎を心配しなくて良いのかよ」
「何だと!?」
そして後ろを振り返るベクター。
そこには先程と同じ状態で血を流しながら倒れるローゼンハルトが横たわっていた。
「おい!? ヤスハラ!? 回復はどうしたんだよ!? ヤスハラ!!」
そう言って、ローゼンハルトに駆け寄って行くベクター。
「おい!! ヤスハラ!! しっかりしろよ、ヤスハラ!!」
「まさか、本当だったとはな」
「何がだっ!?」
ベクターが男を睨みつける。
そんなベクターに男は異様な形をした剣を見せ、答えた。
「この武器で攻撃された傷は、何をやっても癒える事がないんだよ」




