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不死の旋律  作者: kooy
【神罰の光芒】から100年後

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第25話 【獣人編】獅子族の咆哮

 街レオサの中央広場。


 建物の扉が開いた。

 その先から、一頭の獅子が姿を現す。

 大剣を握り、大盾を構えたリルだった。

 その視線の先には、人質にされた獅子族たち。

 その中には――娘のリラ。

「リラ……!」

「父様……!」

 リラの声を聞いた瞬間、リルの身体が動いた。

「……待っていろガ」

 大盾を前へ突き出す。

「……今、助けるガ」

 リルが走り出した。


「撃てぇぇぇぇぇッ!!」

 インラルトの叫び声とともに、魔道銃が一斉に火を噴いた。

 パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 無数の魔弾が、リルへと殺到する。


 リルは大盾を正面に構えたまま、走り続けた。

「ぬおおおおおおおおおおおッ!!」

 盾に魔弾が次々と弾かれ、火花が散る。


 「ヤツを止めろ!」

 インラルトが叫ぶ。

「撃て! 撃ち続けろ!」


 リルの突進は止まらない。

「……化け物か!」

 人質の前にいた魔道銃部隊が思わず後退る。


 その隙をリルは見逃さなかった。一気に距離を詰める。

 そして――敵陣へと飛び込んだ。

「ぬぁッ!!」

 大盾を叩きつけるように振り抜いた。

 ズガァンッ!!

「ぐあっ!」

「うわぁぁぁ!」

 大盾に弾き飛ばされた兵士たちが、次々と地面へ転がっていく。


 リルは兵士たちを盾で押し退けながら進み、ついに人質の前へ辿り着いた。

「リラ!」

「父様!」

 リルは大剣を振り上げた。

 ガキィンッ!

 リラたちを拘束していた鎖が断ち切られる。

「建物の中へ、走るガ!」

 リルがリラたちを背に立ちはだかる。

「でも、父様は……」

「ワレは後から行くガ!」

 リルは周囲の人間兵を睨みつける。

「早く行くガァッ!」

「は、はい!」

 リラたちはよろめきながらも走り、建物の中へ駆け込んでいく。

 建物からラムたちが出迎えるのが見えた。


 リルは、ようやく息を吐いた。

 そして、ゆっくりと振り返る。

 その視線の先に、一人の男がいた。

 馬上から冷ややかに見下ろす男——インラルト。


「よくもワレの仲間たちを……」

 リルの目が細くなる。

「貴様が……」

 大剣を握り直す。

「この街を襲い……」

 一歩。

「仲間を殺し……」

 また一歩。

「卑怯な人間……」

 リルの牙が剥き出しになる。


「許さんガァァァァァッ!!」

 リルがインラルトへ向かって走り出した。


「止めろ!」

 インラルトが叫ぶ。

 その前に重装騎士が並ぶ。


 リルは、大剣を振り上げる。

「邪魔をするなガァァァッ!!」

 ズンッ!!

 振り下ろされた大剣が大地を叩き割った。

 衝撃で周囲の重装騎士たちがよろめく。

 そのままリルは、重装騎士たちを突き破った。

 兵士たちの間に恐怖が広がっていく。


「な、何をしている!」

 インラルトの怒声が響く。

「止めろ!」


 一人の男が、リルの前へと躍り出た。

「……ここから先へは行かせない」

 剣を構えたドルヴィヒだった。

 リルが足を止める。

「ヌシか……。そこを退け!」

「それはできない」

 ドルヴィヒは静かに答えた。

「私は、閣下を守る」

 ドルヴィヒは剣を握り直した。


「ならば――」

 ドサッ。

 リルは、身を守る大盾を捨てた。

 両手で大剣を強く握り直す。


 先ほどまでとは違う。

 構えが低い。

 そして――消えた。

「なっ!」

 ドルヴィヒの目の前に、リルが迫る。

「ガァァァァッ!!」

 大剣が横薙ぎに振り抜かれた。

 ――速い。

 先ほどよりも、明らかに速い。

 ドルヴィヒは咄嗟に剣を立てた。

 ガキィィィンッ!!

「ぐっ……!」

 受け止めた瞬間、腕が痺れる。

 そのまま身体ごと押し飛ばされた。

「くっ……!」

 ドルヴィヒは地面を転がるが、すぐに立ち上がった。

 手が震えている。


 まだ剣は握れる。

「……まだだ」

 ドルヴィヒは再びリルを見据えた。


 その時だった。

「撃てぇぇぇぇぇッ!!」

 後方から叫び声が響いた。


「なっ――!」

 ドルヴィヒが振り返る。

 魔道銃部隊が銃を構える。

 リルの背後には、まだ大勢の人間兵がいる。

「撃つな!」

 ドルヴィヒが叫ぶ。

「味方を巻き込むぞ!」


 インラルトは構わなかった。

「構わん。撃てー!」

 魔道銃が一斉に火を噴く。

 無数の魔弾が飛び交う。


 リルは大剣を振り回しながら前へ進む。

 魔弾は身体を貫いた。

「ぐっ……!」

 肩。

 腹。

 脚。

 胸。

 何十発もの魔弾が、リルの身体へ突き刺さる。

 それでも、リルは倒れなかった。

「……まだだガ」

 血を流しながら、一歩。

 また一歩。

 インラルトへ近づいていく。

「な、何故だ……!」

 インラルトの顔から余裕が消える。


「ヌシは……どこまで卑怯な男だガ」

 リルは血を吐き出しながら、インラルトを激しく睨む。

「兵を捨て駒にし、高みで見物か……! 覚悟があるなら自ら剣を執るガァッ!!」


 その瞬間だった。

 横から、一頭の獣人が飛び出した。

「ラム!?」

 彼女は迷うことなく、リルの胸へと飛び込んだ。

「どうして……」

 リルの目が見開かれる。

 ラムは震えながら、それでもリルを見上げた。

「死ぬときは……一緒だガ」

「……ラム」


「……な、何を世迷言をガタガタと……!」

 インラルトは引きつった顔で吐き捨て、馬上から叫んだ。

「撃て! 撃てぇぇぇぇぇッ!!」

 再び無数の銃声が響き渡った。


 魔弾がリルとラムへ殺到する。

「――ッ!」

 リルがラムを抱き締めた。

 ラムの身体から力が抜けていく。

「ラム……?」

 返事がない。

 リルの腕の中で、ラムの命が消えていく。

「……ラム?」

 リルの声が震える。

 そして。

 ゆっくりと顔を上げた。

 その目に映ったのは。

 それを嘲笑う人間たちだった。

「……お前らー!」

 低い声が漏れる。

 大地が、僅かに震えた。


 魔弾で穴だらけになったリルの身体から、黒い霧のようなものが溢れ始める。


「な、何だ……?」

 兵士たちが後づさる。

 ドルヴィヒも目を見開いた。

「……まさか」

 ドルヴィヒの脳裏に、かつて見た魔獣の姿が浮かんだ。

「魔獣化……しているのか?」


 レオサの空気が変わった。

 瓦礫の隙間。

 崩れた建物。

 大地。

 街に漂っていた禍々しい魔素が、ゆっくりとリルへ集まっていく。


「グ……」

 リルの身体が震える。

「ガ……」

 筋肉が膨れ上がる。

 全身を覆う毛が逆立つ。

「ガァ……」

 骨が軋む音がする。

 リルの身体が、さらに大きく膨れ上がる。

「ガァァァァァァァァァァァッ!!」

 咆哮がレオサを、大地を揺らした。

 人間兵たちが耳を塞ぐ。

「ひっ……!」

「何なんだ、あれは!」


 リルの身体を、黒い毛が覆っていく。

 その姿は、もはや獣人ではなかった。

 巨大な魔獣。

 赤く光る瞳。

 鋭い牙。

 そして――。

 人間軍への、純粋な殺意。

「……ひ」

 インラルトが馬ごと後ずさる。

 魔獣の瞳が、ゆっくりと彼を捉えた。


「……あ」

 インラルトの足が震える。

 逃げなければ。

 そう思う。

 だが。

 身体が動かない。

 魔獣が、一歩。

 踏み出した。

 ズンッ。

 大地が揺れる。


「ひぃっ……!」

 インラルトが尻餅をつく。

 その前へ。

 一人の男が立った。

 ドルヴィヒだった。

「閣下!」

 ドルヴィヒは剣を構える。

 だが。

 目の前の存在を見て、理解していた。

 勝てない。

 それでも。

 退くわけにはいかなかった。

「……私が、ベルンシュタイン伯爵を守る」


 魔獣が唸る。

「グルルルル……」

 次の瞬間。

「ガァァァァァァッ!!」

 巨体が跳んだ。


「くっ!」

 ドルヴィヒは剣を振り上げる。

――ズガァンッ!!

 剣が、砕けた。

「な……」

 そのまま。

 ドルヴィヒの身体が宙を舞う。

「ぐぁぁぁぁッ!!」

 何度も地面を跳ね、人間兵の隊列へと突っ込んでいく。

「ドルヴィヒ!」

 インラルトが叫ぶ。


 ドルヴィヒはよろめきながら立ち上がる。

 右腕は、力なく垂れ下がり、口から血が流れている。

「……まだ……」

 だが、ドルヴィヒは気を失うようにその場に倒れた。


「魔道銃を向けろ!」

 インラルトが叫ぶ。

 兵士たちが一斉に銃口を向ける。

「撃てぇぇぇぇぇッ!!」

 パンッ! パンッ! パンッ!

 無数の魔弾が獣へ飛んでいく。


 無数の魔弾を浴びても、魔獣は止まらない。

 むしろ、その身体はさらに膨らんでいく。


 ゆっくりと。

 インラルトへ歩いていく。

「ひ……」

 インラルトは馬から落ち、這うように後退する。

「来るな……」

「来るなぁぁぁぁぁッ!!」


 その時。

 混乱する陣の中を、黒曜の骸骨とエルフが歩いてくる。

 

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