↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の旋律  作者: kooy
【神罰の光芒】から100年後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/27

第24話 【獣人編】網の目の虐殺

 ドォォォォォンッ!!


 レオサの北側から、再び轟音が響いた。

 大地が大きく揺れる。


 獅子族たちは、崩れ落ちる街並みを前に立ち尽くしていた。

 黒煙と激しい炎に包まれる瓦礫の下から、仲間の声が聞こえる。

「……何だガ」

「街の北が……!」

 リルは拳を握りしめた。

 つい先ほどまで退けたと思っていた人間軍は、まだ引き上げてなどいなかった。

「全員、南へ退くガ!」

 リルの声が響く。

「街の北側から離れるガ! 負傷者を優先するガ!」

 獅子族たちは互いに肩を貸しながら、南へ向かって走り始めた。


 その頭上を、禍々しい黒煙が覆っていく。

 リルは、ふと鼻をひくつかせた。

「何だガ、この臭い……」

 焦げた建物の臭いとは違う。

 鼻の奥にまとわりつくような、濁った魔素の臭いだった。


     ◇


 一方、人間軍の本陣。

 インラルトは、先のレオサを見つめていた。

 魔道大砲の砲撃によって、獅子族たちは街の南へ避難していく。

「……順調だ」

 インラルトが呟く。


 だが、まだ兵を動かさない。

 獅子族たちが南へ集まるのを、静かに待っていた。


 やがて。

「そろそろだな」

 インラルトは魔道兵へ視線を向ける。

「砲撃を止めろ」

「はっ!」

 魔道兵が砲撃を止める。

 静寂が戻った。

 レオサの北側には、砲撃の余韻を示す黒煙が立ち上っている。


「魔道銃部隊、準備をしろ――」

 インラルトが立ち上がった。

「兵を入れるぞ」

 人間軍の兵士たちが、一斉に動き始める。


     ◇


 逃れた獅子族たちは、街の中央の広場に集まっていた。

「街の北側は……もう駄目ガ」

「……仲間がまだ瓦礫の下にいるガ!」

「た、助けに戻るガ!」

 獅子族たちが動揺する。

 リルは周囲を見渡した。

 手負いの戦士たちにも、死線を超える気概はまだ残っている。


 だが、このまま戦い続ければ、全員が持たない。

 それでも――。

 リルには、まだ確かな希望があった。

 ルシェたちが、必ず援軍を連れてやってくる。

 それまで、この街を死守すればいい。

 リルは大剣を力強く握り直した。

「希望を捨てるな! 援軍が来るまで、ここを守るガ」

 その言葉に、獅子族たちが顔を上げる。

「そうだガ!」

「ルシェ殿たちが来るまで持ちこたえるガ!」

 獅子族たちが、互いに頷いた。


 その時だった。

「敵襲ー!」

 街の北側から叫び声が上がった。

 リルが振り返る。

 煙の向こうから。

 人間の臭いを感じる。

「な……!」

 獅子族たちの顔から血の気が引く。

「街の中に入ってきたガか」


     ◇


 レオサの北側。


「構えぇぇぇ!」

 魔道銃が一斉に持ち上げられた。

「撃てぇぇぇ!」


 パンッ! パンッ! パンッ!


 「ぐあっ!」

 乾いた音が街中に響き渡り、戦士たちの悲痛な叫びが上がる。

 大楯を構えて抵抗する獅子族を、人間軍は包囲するように取り囲み、隙間から容赦なく魔道銃で撃ち抜いていく。

「盾に鋼を仕込もうと、正面以外は隙だらけだな」

 インラルトは冷ややかに笑っていた。


 そして。

 人間軍は、建物の中を、瓦礫の中を一つずつ確認していた。

「生存者を確認!」

「構うな、撃て!」

 パンッ!

 瓦礫の下から聞こえていた声が消えた。

「……!」


「女と子供は生かして捕らえろ!」


 指示を飛ばしながらも、インラルトは少からず焦りを覚えていた。

「何故だ……。なぜ獅子族どもは『古代の魔道具』を使わんのだ!」


 インラルトは街の中央へ視線を投げた。

「ドルヴィヒよ。前に言っていた、戦意を失わせる音色とはどのようなものだった?」

 ドルヴィヒは、先の戦いで聞いた旋律を思い出した。

 低く。

 静かで。

 不思議な音だった。

「弦楽器のようでした」

「弦楽器?」

「はい。ですが、普通の楽器よりもずっと低い音でした」

 インラルトが考え込む。

「ならば、相当に大きな楽器だな」

「古代の魔道具が、楽器の形をしていると?」

「可能性はある」

 そこへ、執事が駆け寄ってきた。

「旦那様」

「どうした?」

「街の捜索を進めておりますが、それらしい物はまだ見つかっておりません」

「そうか」

 インラルトは、軍を街の中心へ移動させる。


「何処にあるのだ……」


     ◇


 レオサの中央広場にある、集会のための大きな建物。避難した獅子族たちは、その建物の中へ逃げ込んでいた。


 パンッ!


 乾いた銃声が響き、建物の壁に魔弾があたる。

「う……」

 女たちが恐怖で声を潜めた。


 人間軍は、すでに建物を完全に包囲していた。

 リルは大剣の柄を強く握りしめた。

「これは……戦いではない……」

 人間軍のやり方は、ただの虐殺だった。

 戦士だけでなく、武器を持てぬ者、負傷して動けぬ者、戦意を失った者まで、見つけ次第容赦なく命を奪っていく。


「リル!」

 背後からラムの悲痛な声が飛ぶ。振り返るリルに、ラムは青ざめた顔で訴えた。

「娘のリラが……リラがいないの……!」

「何だと……」

 その時だった。

「この女たちを殺されたくなければ、投降しろ!」

 リルたちは、建物の隙間から外を見る。

 そこには、頭に魔道銃を突きつけられ、鎖に繋がれた獅子族の女たちがいた。二人とも、負傷兵の手当にあたっていたところを捕らえられた者たちだった。


 リルの目が見開かれる。

「リラ……!」

「父様……!」

 人質の中にいた娘が弱々しく呟く。すかさず人間兵がその髪を掴み、強引に引き寄せた。

「動くな!」


 リルの全身が、激しい怒り、そして抑えきれない憎しみで震えた。

「……卑怯者が」

「ハハハ! 獣人相手に卑怯も何もなかろう!」

 馬上から見下ろすインラルトが、歪んだ笑みを浮かべている。


 リルの握りしめた拳から、鋭い爪が皮膚を裂き、血が滴り落ちた。

「リル……」

 ラムが背後から声をかける。

「リラを……」

「分かっているガ」

 リルは静かに答えると、大剣と大盾を構えた。

「リル牙将!ワレも行くガ!」

「時間を稼ぐのは、一人でいいガ」

 案じる仲間たちを制し、リルは振り向かず、妻へ告げた。

「ラム。レラは……必ず取り戻すガ」


 リルは一人、建物の扉を開け、外へと歩み出た。

 ズラリと並んだ人間軍の銃口が一斉に彼へ向けられる。

 だが、その歩みは微塵も揺るがない。


「ワレの娘を――」

 腹の底から絞り出すような、低く重い声。

「返してもらうガァァァァァッ!!」


 大盾を掲げ、魂の叫びとともにリルが人間軍へ突撃した。

 その瞬間、レオサの街に再び無数の銃声が轟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。