第22話 【獣人編】牙と剣
魔道銃の掃射が続いていた。
獅子族たちは大楯を構え、じりじりと前へ進んでいく。鋼を仕込んだ大盾へ次々と魔弾が叩きつけられる。
ガンッ!ガンッ!
鈍い音が連続して響いた。
大盾は耐えている。
だが――。
衝撃までは消せない。痺れる腕。軋む関節。重圧に足が止まりそうになる。
それでも、獅子族たちは前へ泥臭く歩みを進めた。
「もう少しガ!」
リルが叫ぶ。
「踏ん張るガー!」
「おおおおおっ!」
地を這うような雄叫びが上がった。
魔道銃部隊が後列へ下がり、交代した次列が一斉に引き金を引く。
再び魔弾が放たれ、轟音が草原に激しく響き渡った。
それでも――。
獅子族の歩みは、決して止まらない。
「なに……?」
ドルヴィヒは目を細めた。
魔道銃による攻撃を受けながら、ここまで接近してくる。
「先の戦いで、学んだのか……!」
口元が歪む。
「面白いではないか!」
やがて。
獅子族の先頭が、人間軍へ届いた。
大楯が魔道銃を構える兵士へ叩きつけられる。
「ぐあっ!」
兵士が吹き飛んだ。
ドサリッ!
その瞬間、獅子族が一斉に大楯を投げ捨てた。
朝霧の中で剥き出しになった大剣が、鋭い殺意を込めて鈍く光る。
「行くガァァァ!」
大地を踏み鳴らし、獅子族が突っ込んだ。
陣形を崩された魔道銃部隊の兵士たちが、蜘蛛の子を散らすように本陣へ下がっていく。逃げ惑う彼らに、ドルヴィヒは一瞥もくれなかった。元よりインラルトの差し向けた兵など、どうでもよかったのだ。
「そうだ……それでいい。戦とは剣と剣のぶつかり合いよ!」
昂ぶる歓喜を抑えつけるように、鋭い号令を飛ばした。
「剣士隊、迎え撃て!」
人間軍の剣士たちが一斉に抜剣する。
両軍が激突する。
ガキィンッ!
そして、剣と剣がぶつかり合う。
だが――。
「なっ……!」
人間の剣士が目を見開く。
獅子族の大剣を受け止めた剣が、腕ごと強烈に押し込まれていく。
「ぐっ……!」
次の瞬間。
ドォンッ!
凄まじい衝撃音とともに、剣士の身体が地面へ叩きつけられた。
斬撃というより、打撃。
獅子族の膂力は、それほどまでに強かった。
「一人で相手をするな!」
混乱を制するように、ドルヴィヒの声が通り抜ける。
「獣人一人に対して、三人で当たれ!」
「はっ!」
訓練された人間軍が即座に陣を組み直す。
一人が正面から獅子族の注意を引きつけ、残る二人が左右から斬り込んでいく。
獅子族が大剣を振り抜く。
それをかわした二人が、同時に踏み込んだ。
「ぐっ……!」
獅子族の硬い毛皮と肉に刃が食い込む。
致命傷にはならない。
だが、確実に体力を削っていく。
「そのまま押せ!」
ドルヴィヒが叫ぶ。
獅子族は、一人ひとりが強い。
人間軍が三人で一人を囲んでも、簡単には倒れない。
それでも人間軍は、一人が倒れればすぐに別の兵士が穴を埋めた。
人間軍は数で対抗していた。
「押せぇ!」
人間軍の声が響く。
戦場は、少しずつ人間軍へ傾き始めていた。
その時だった。
「第二陣、参戦するガー!」
リルの声が街に向かって響いた。
街の中から、さらに獅子族の戦士たちが飛び出してくる。
その数、およそ百。
全員が大剣を手にしていた。
「ガォおおっ!」
「正面だけじゃねぇガ! 左右へ広がるガー!」
駆け込みざま、リルが大剣を掲げて叫ぶ。
「おおっ!」
戦士たちが二手に分かれ、怒涛の勢いで左右へ展開する。
人間軍の剣士たちが焦りの表情で振り返った。
「第二陣だと!? ぐっ、側面からも来るぞ!」
ドルヴィヒは笑った。
「まだ隠していたか」
戦場を見渡す。
獅子族は一人ひとりが強い。
だが――。それだけではない。
獅子族たちの動きが変わった。こちらの動きを見ながら戦っている。
ドルヴィヒの目が細くなる。
「ほう……」
戦いながら、こちらの戦術に対応している。
「さすがは、戦闘民族……。面白い」
ドルヴィヒは剣を抜いた。
そして、自ら戦場へ踏み込む。
「ジークフリート男爵を守れ!」
騎士たちが声を上げる。
「構わん」
馬から降り、剣を抜いた。
「この戦い……楽しませてもらおう」
ドルヴィヒの視線の先。
一際大きな獅子族の獣人がいた。
周囲の戦士たちへ指示を飛ばし、自らも大剣を振るっている。
「……あれが将か」
ドルヴィヒは歩き出した。
そして――。
「そこの獣人!」
声が戦場に響いた。
リルが振り返る。
「俺はドルヴィヒ・ヴァン・ジークフリートだ!」
リルの眉が動く。
「……ワシは街レオサのリル牙将!」
ドルヴィヒは剣を構えた。
「お前が、この獅子族を率いているのだな」
「そうだガ」
リルも大剣を構える。
「ならば――」
ドルヴィヒが笑った。
「一騎打ちといこうではないか!」
周囲の獅子族たちがリルを見る。
リルは一歩前へ出た。
「場を開けるガ」
獅子族たちが道を開く。
リルは大剣を握り直した。
「いいだろう。一騎打ちガァ!」
戦場に、二人だけ空間ができた。
霧がゆっくりと晴れていく。
ドルヴィヒが剣先を向ける。
「獅子族の力……見せてもらおう」
リルが低く唸る。
「人間如きが、生意気に……」
次の瞬間。
二人が同時に踏み込んだ。
ガキィィンッ!
大剣と剣が激突する。
ドルヴィヒの身体がわずかに後ろへ流れた。
だが。
「……なるほど」
受け止めた刃から、痺れるような衝撃が肩まで突き抜ける。腕は激しく震えていたが、ドルヴィヒの顔には狂おしいほどの歓喜が浮かんでいた。
「これが、獅子族か」
リルが大剣を振り上げ、振り下ろす。
「ガァー!」
ドルヴィヒが横へ跳ぶ。
ドーン!と地面が砕けた。
その一撃を見て、ドルヴィヒの笑みが深くなる。
「素晴らしい!」
そして。
人間と獣人。
互いの誇りを懸けた戦いが始まった。




