↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の旋律  作者: kooy
【神罰の光芒】から100年後

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/27

第20話 【獣人編】新たな同盟

 王城都市バルレオニス。

 王の間には、ベイルとギベルトが獅子族の兵士に囲まれて立っていた。


「父上。戻りましたガ」

 グス王子が頭を下げる。

 レグ王は、その顔を見ただけで表情を緩めた。

「よく戻ったガ、グス」

 短いやり取りだったが、親子の間にある信頼は、それだけで伝わった。


 グス王子から、これまでの経緯が語られていく。

 人間軍との交渉。

 そして、ベイルから告げられた人間側の事情。


「我々トルト領は、王国に逆らえば領地を失います」

 ベイルは静かに言った。

「現在、南方領土拡大を指揮しているのは、インラルト・フォン・ベルンシュタイン伯爵。王国の新王派です。私たちが抵抗すれば、トルト領は没収され、ベルンシュタイン領として組み込まれるでしょう」


 王の間が静まった。

 人間同士の権力争い。

 それが、獣人たちの暮らす土地にまで影を落としている。


 ベイルは続けた。

「このままでは、獣人族も、人間も、ただ戦いに巻き込まれるだけです」

 レグ王は腕を組んだ。

 しばらく考えたあと、口を開く。

「ならば——トルトを、独立した一つの『国』となせばよかろう」

「……え?」

 ベイルが目を見開いた。

「王国に従わねばならぬ理由がなくなればいいガ。獣人族とトルトが友好国になれば、我々は共に生きられる」

 レグ王は笑った。

「それで、何か問題があるガ?」


 ベイルは答えられなかった。

 人間と獣人。

 十年前から、融和の道を探してきた。

 だが――。

「友好国になる」

 その言葉は、ベイルが思っていた以上に重かった。そんな形で、共に生きる道があるとは考えていなかった。


 その時。

 部屋の隅に立っていたルシェが、静かに顔を上げた。

「……そうする」

 短い言葉だった。

 フェルディルも頷く。

「その関係を、エルフ族も支援します」


 ベイルは二人を見つめた。

 そして、ゆっくりと頭を下げた。

「……分かりました。私も、共に戦います」


 レグ王が立ち上がった。

「ならば決まりガ」

 その声が王の間に響いた。

「次なる目標はレオサ死守。人間軍の好きにはさせん、即刻援軍を向かわせるガ!」


 その場にいた獅子族の将たちが一斉に動き始める。

 書状が用意され、伝令が走る。

 王城都市は、静かに戦支度へと変わっていった。


     ◇


 翌日。

 重々しい音を立てて、王城の大門が開かれた。

 鎧を打つ金属音と力強い足音を響かせ、獅子族の兵士たちが次々と城外へ出ていく。

 先頭を歩くのはグス王子。

 そのすぐ後ろには、ルシェ、フェルディル、琥珀。

 さらにその後方を、獅子族の戦士たちが隙なく固めていた。


 そして――。


 その後ろには、人間軍の姿があった。

 馬上に構えるベイルとギベルト。

 その後方には整然と隊列を組む騎士隊、さらに魔道銃を携えた兵士や魔導士たちが、獅子族とは明らかに異なる鎧を叩かせて続いていく。


 琥珀が、隣を歩くルシェを改めて見つめる。

 黒い骸骨。

 その背に揺れる、巨大な棺。


 獅子族の兵士たちは、その姿を伝え聞いている。

 かつて勇者だった存在。

 伝説に語られる英雄。


 そして――人間軍の兵士たちもまた、出発前にその正体を知らされていた。

 かつての勇者、ルーテェ。

 五十年前に起きた『勇者の呪い』。

 百年前に大陸を覆った『神罰の光芒』。

 その二つの出来事に関わる存在が、今、目の前を歩いている。

 魔道銃を握る兵士の手に、わずかな震えが走る。

 それでも――誰も、足を止めなかった。

 馬上のベイルもただ前を見据え、その隣でギベルトも沈黙を保ったまま戦道を進んでいった。


 やがて一行は、広い草原へ出た。

 遠くから、土煙が上がっている。


「……来たみたいですね、ルシェ様」

 フェルディルが呟いた。

 土煙の向こうから現れたのは、虎族の軍勢だった。

 先頭に立つのは虎鉄。すぐ後ろに虎尾と赤虎。

 その背後には、族長の呼びかけに応じて集まった、二百人の虎族の戦士たちが続いていた。

 獅子族の兵士たちが足を止める。


 虎尾の鋭い眼光が、獅子族の背後にひかえる人間軍を射抜いた。

 虎族の戦士たちから、低い唸り声が漏れる。

「何故、人間も一緒ト?」

 虎尾の声には、隠しきれない警戒と重い威圧感が籠もっていた。

 赤虎が琥珀を見る。

「敵じゃないト」

 琥珀は一歩前へ出ると、強い眼差しで言い切った。

「今は、共に戦う仲間ト」

「仲間、だと……?」

 虎尾の視線がベイルへ移る。その重い沈黙を破ったのは、ルシェだった。

 黒い骸骨が、静かに一歩進み出る。

 その背に背負った巨大な棺が、微かな音を立てた。

 ルシェは虎尾と正面から向き合うと、ゆっくりと、だが深く頷いた。

 虎尾の息が詰まる。


 続いてフェルディルが歩み寄り、静かに語りかける。

 ベイルが人間の王国に反旗を翻したこと。トルト領を守るため、獅子族や自分たちと共に戦う決意を固めたこと――。

 虎尾は目を閉じ、その間を吹き抜ける風が、両軍の兵士たちの緊張を揉みほぐしていく。

 やがて虎尾は目を開くと、ベイルを見据えたまま、深く頷いた。

「分かったト」

 その言葉に、背後の虎族たちのピリついた空気が一気に和らいだ。

 赤虎が不敵な笑みを浮かべ、牙を覗かせる。

「獅子族どころか、人間とまで肩を並べて戦うことになるとはな……。クク、悪くないト!」

「遊びじゃないト!」

 琥珀が睨みつける。

「分かってるト」

 その言葉に、虎尾が小さく笑った。


 異なる種族の兵士たちが、同じ方向へ歩き始める。

 その先に待つのは、非情な侵攻を進める人間軍。

 けれど。

 この日、まだ誰も知らなかった。

 これから始まる戦いが、獣人族と人間の関係を変えるだけではないことを。

 百年前から続く世界の歪みが、また一つ、大きく動き始めていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。