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不死の旋律  作者: kooy
【神罰の光芒】から100年後

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第17話 【獣人編】獅子族の王城都市

 同じ頃、獅子族の王城都市バルレオニス。

 開かれた街並みには、商人たちが行き交う大通りや立ち並ぶ住居、槌音が響く鍛冶場や武具店が広がっていた。だが、街全体を囲う外壁の類いは一切存在しない。

『城壁を築くのは、己の弱さを晒すことと同じだ』

 それは、獅子族が代々受け継いできた気概と誇りの表れだった。


 都市の中央には、獅子族の王レグが暮らす巨大な砦がそびえている。

 石造りの厚い壁。

 高く築かれた見張り台。

 王の居城であると同時に、いざという時には獅子族を守る軍事拠点にもなる、堅牢な砦だった。


 ――その最奥に位置する、砦の王の間。

 巨石を積み上げて作られた広大な空間には、重苦しい静寂と獅子族特有の圧倒的な威圧感が満ちていた。だが、一段高く据えられた重厚な王座に身を預ける獅子王レグの表情には、拭い去れぬ陰りが落ちている。

 一ヶ月前――。人間領に最も近い街ハプラが、人間軍の突如として放った猛攻によって落とされた。その時、勇猛で民からの信頼も厚かったレグの息子、グラ王子が援軍として向かったものの、そのまま帰らぬ人となったのだ。

 レグはハプラの報告書を握る手に力を込める。

「……人間どもめ」

 低く漏れた声には、抑えきれない怒りが滲んでいた。

 それでも王として、怒りだけに身を任せるわけにはいかない。

 ハプラの現状。

 人間軍の規模。

 そして――次に狙われる街。

 レグは報告書を睨みながら、今後の戦況を読み解こうとしていた。


 その時――。

 王の間の扉が開いた。

 そして、従者が足音を忍ばせて歩み寄る。

「レグ王。リル牙将より使者が参りましたガ」

 従者が深く頭を下げる。

「街レオサのリル……」

 レグは顔を上げた。

 リル牙将。獅子族でも屈指の武人であり、レグ自身がその実力を認める男だった。幾度もの戦いを共にし、レグが安心して背中を預けられる数少ない存在でもある。

 レグは王座から身を乗り出した。

「本人ではないのガ?」

「はい。リル牙将は来ておりませんガ、こちらを書状として預かっております」

 従者が一通の書状を差し出す。

 レグはすぐに受け取った。封を切り、目を通す。

 その内容に、レグの眉が動いた。


 ――街レオサが、人間軍に襲われた。

「……ハプラに続き、レオサまでもか……!」

 ハプラ。

 そして、レオサ。

 人間領に近い街から、順に狙われている。

「人間軍は……次に街レオサを狙ったのか」

 レグは低く呟いた。


 だが、書状にはそれだけではない。

 レオサを襲った人間軍から、街を救った者たち。

 アンデッド。

 そして、エルフ。

 さらに。

 虎族との間にも、何らかの行き違いが生じていることが記されていた。

「……これは、どういうことガ」

 レグは書状を握ったまま顔を上げる。


「この使者は……誰ガ?」

 従者が僅かに躊躇した。

「リル牙将の兵が書状を携えて来たのですが……」

「言ってみるガ」

「……その傍らに、同行者として怪しげな一行がついて参りまして」

「何……同行者ガ?」

「は……エルフとアンデッド、そして虎族の者たちですガ」

 レグの目が細くなった。

「……この大事な時に、随分と奇妙な使者だガ」

「はっ……」

 レグはもう一度、書状へ目を落とした。

 そして。

「……会うガ」

 顔を上げる。

「通せ!」

「はっ!」

 従者が深く頭を下げ、王の間を後にした。


 やがて。

 王の間の扉が開いた。

 最初に入ってきたのは、白銀の髪を持つエルフ。

 その後に続くのは、深緑のローブを纏った黒曜の骸骨。背には重厚な木の棺を背負っている。

 そして、その隣には三人の虎族。

 レグは、黒曜の骸骨から目を離せなかった。

(……ただのアンデッドじゃない)

 本能がそう告げていた。決して相対してはならない、圧倒的で異様な風格がそこには漂っていた。


「お目通りありがとうございます。レグ王」

 白銀の髪のエルフが一歩前へ出る。

「私はエルフ族、四大賢者が一人、フェルディルです」

 深く頭を下げる。

「そして、こちらは私たちエルフ族の守護者――ルシェ様です」

 ルシェも静かに頷いた。

「ウ、ウチは琥珀ト」

 虎族の少女が一歩前へ出る。

「虎族族長、虎鉄の娘ト!」

 少し緊張している。

 それでも、必死に胸を張った。

「ウチたちは、親父に頼まれて来たト!」

 レグは僅かに苦笑した。だが、すぐに黒曜の骸骨へ視線を戻す。

「して……」

 レグは問い掛けた。

「ルシェ殿は、何用でワレの砦へ参られたガ?」

 フェルディルは、静かに微笑む。やはり、この王は分かっている。

 この中で、ルシェがただ同行しているだけの存在ではないことを。


「私とルシェ様は、虎族の集落――ホトンへ参りました」

 フェルディルは、隣に立つ琥珀へ視線を向けた。

「そこで、虎族族長の虎鉄殿から、この娘とともに獅子族へ向かってほしいと託されたのです」

「……虎族族長から?」

「はい」

 フェルディルはレグを見つめる。

「虎鉄殿のもとへ、獅子族から交戦の意志があるという話が伝わっていました」

「何ガ……?」

「虎族を服従させるつもりなのか。あるいは、戦うつもりなのか。その真意を確かめてほしい――と」

 琥珀が続ける。

「親父は、獅子族と戦うつもりなんてないト。だから、ウチたちは確かめに来たト」


「……」

 レグの表情が変わった。

「ワレは、そんな命令を出しておらんガ」

 琥珀が頷く。

「一ヶ月ほど前に、獅子族の者が二人、親父のところへ来たト」

「……二人?」

 レグの眉が動いた。

「そいつらは、何と言っていたガ?」

「王からの伝言だと言っていたト」

「ワレからの……」

 レグは腕を組み、しばらく考え込んだ。

 自分は命じていない。

 牙将たちにも、そのような命令を出した覚えはない。

 ならば。

「その二人は、何者ガ……」

 レグにも答えは出なかった。

「……一ヶ月前、か」

 レグの脳裏に、ハプラの惨状が蘇る。

 グラが命を落とした、あの日。

「ハプラが襲われたのも……一ヶ月前ガ」

「ハプラ?」

 フェルディルが僅かに眉を動かした。

「人間領に最も近い、獅子族の街だガ」

 レグは苦々しく答える。

「一ヶ月前、人間軍に襲われた。ワレの息子、グラも援軍に向かい……そこで命を落としたガ」

「……」

 フェルディルの表情が変わった。

「そうでしたか……」

 その時、フェルディルが口を開いた。

「一つ、気になることがあります」

「何ガ?」

「虎族へ二人の獅子族が現れた時期です」

 フェルディルは静かにレグを見る。

「およそ一ヶ月前――ハプラが襲われた時期と重なりますね」

「……!」

 レグの目が見開かれた。

「ハプラ……。そして、レオサ……」

レグは二つの街を思い浮かべた。

「人間軍は、ワレら獅子族の注意をレオサへ引きつけている……?」

 レグはゆっくりと拳を握った。

「そしてその間に、虎族へ偽りの伝言を……」

 レグの目が鋭くなる。

「まさか……ワレら獅子族と虎族が争えば、さらに都合がいいと考えているのガか?」

「その可能性はあると思います」

 フェルディルが答えた。

「獅子族と虎族が互いに疑い、争えば――人間軍にとっては、都合がいいでしょう」

「……」

 レグは答えなかった。

 ただ、拳を強く握り締める。

 ――怒り。そして、それ以上に獅子族の誇りを踏みにじられたことへの憤りが、その顔に浮かんでいた。


「なら……」

 琥珀が口を開き、まっすぐレグを見つめた。

「ウチら虎族は、獅子族と争わないト。むしろ――。獅子族に協力するト」

 レグが琥珀を見る。

「琥珀殿……」


 そして、琥珀は続ける。

「虎尾と赤虎は一度戻るト。そして、親父――虎鉄に、このことを伝えるト。きっと、他の長たちも了承するト」

「琥珀……」

 虎尾も頷いた。


 レグは立ち上がった。

 そして、琥珀たちへ深く頭を下げる。

「虎族の協力が得られるのは、ありがたいガ」

 王自らが頭を下げたことに、琥珀たちは目を見開いた。

「レグ王、頭を上げるト!」

 レグは顔を上げる。

 その眼差しには、先ほどまでの怒りとは違う強い意志が宿っていた。

「獅子族と虎族。ともに、この地を守るガ」

 琥珀は笑った。

「分かったト!」

 そして――。

 獅子族の従者と虎尾、赤虎は、虎族の集落へ戻るため王の間を後にした。


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