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違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第7章 イェリコ~エルサレム編
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第59話 ねえ、寒空の贅沢ってどうおもう?

 松明を焚いて暗くなった通りをエスコートするオスマンの衛兵。やがて高級そうな宿の前に着くと門を叩き「高貴な方々をお連れした」と大きな声をかける。

 夜間外出禁止なのだからこんな時間のチェックイン客などいないにも関わらず主人は門を開け「これはこれは、さぞお疲れでしょう」と中に招いてくれた。

 衛兵たちが食事とハマムの件を主人に伝え「では召喚者の方々、よい旅を」と言って去っていく。主人は微妙な笑顔。きっと厨房も風呂も営業終了していたのだろう。


 その証拠に主人は「お食事の前にハマムへ行かれてはどうでしょう」と提案してきた。おそらく食事の支度に時間がかかるのだろう。営業時間外なのに。

 ―――結局、関係ないこの主人に無理な要求の尻拭いをさせてしまった...


「自分で要求したのだからそんな顔しないでください。白井さんは悪い顔のままでいてくださいよ。僕たちがおねだりしたみたいじゃないですか」


 赤坂は不意に人の良さそうな顔をする白井に、傍若無人に振舞っておいて善人ぶるなと釘を刺した。白井はそれを聞いて確かにと得心して精一杯悪い顔をする。


「じゃあ、先にハマムにしようかな。で、一度に何人まで入れるの?」


「生憎なのですが、お二人までしか…」


「あっ、そう。三人は無理なのか。じゃあ仕方ないか」


 白井の尊大ムーブはせいぜいがその程度。理不尽な権力には抗うが腰の低い人間にそれ以上頭を下げさせることなどできなかった。悪い顔はカウンターなのである。

 4人で相談して、緑川・赤坂が同時、次に白井、最後に青山の順で入ることに。

 白井と青山は使用人にそれぞれの部屋に案内される。さすが賓客扱いされているだけあって、閂<かんぬき>の付いた扉があり、ベッドはないが床はふかふかの絨毯が敷き詰められていて、暖房なのか金色の火鉢が置かれている。ニッチには調度品が飾られ、透かし彫りの入ったオイルランプが模様のついた光を放っている。


 白井が部屋で緑川たちがハマムから戻って来るのを待っていると、しばらくして扉がノックされる。「はい」と返事をすると、扉が開き、ツヤッツヤの緑川とピッカピカで妙な笑顔が張り付いている赤坂が入室してくる。―――あれってあれか?


「つるつるになった?」

「はい、つるっつるです」

「スースーする?」

「はい。めっちゃスースーします!棒の上のところが!」


 白井は嬉しそうな赤坂を見て「それ全部君の手柄だからね。ありがとうね」と道案内と身元を証明してくれたお礼を言う。


「ハマムで緑川さんにもさんざん感謝されましたけど、誰がどうとかじゃなくて、みんなで乗り切ったんですよ。で、青山さんは?」


「ああ、寝てるんじゃないかな、疲れているみたいだから。おれがハマムから出たら起こして、食事の後で施術してもらえるように頼んでみるよ」


「一緒に入ればいいじゃないですか。二人分の施術台あったし」


「この時代のこの地域じゃ、それはできないんだよ。彼女、私たちには言わないけれど、知らないところでいろいろと苦労していると思う。弱い者に厳しい社会だから」


 緑川がしんみりそう言うと白井は「おれたちが守るしかないよね」と死海で護衛の許可が降りる前に、湖畔でさみしそうにしていた横顔を思い出してそう言った。

 「でも戦闘だと一番強いのは彼女ですけどね」と緑川が言い、三人で笑った。


 白井がハマムでスベスベになった後で案内された食事会場は高級宿の屋上。

 まるでビアガーデン。寒いけど。

 ここもふかふかの絨毯が敷かれ例の火鉢が置いてあり、使用人にショールを掛けて貰えばそこそこ温かい。わざわざ寒い場所で暖かくして食べるのが贅沢なのだろう。

 使用人さんは銀盆と銀の水差しを持ってきて手を洗わせてくれる。


 「具合どうですか?少し眠れました?」白井が青山に訊ねる。

 「ちょっと寝不足だったみたいで。おかげで元気になりましたよ!」青山はそう言って、両手でガッツポーズを作る。―――どこか無理してる感じがするけど…


 運ばれてくる料理はさすが高級宿という感じのもの。手間が掛けられている。

 まずはマハシーというズッキーニの中にスパイスの効いた挽肉と米が入っているもの。わざわざくり抜いて詰めてある。ナイフフォークの代わりにナンみたいなやつを千切って掴む。もちろん右手のみ使用。

 ピラウというサフランの黄色に染められたバターライス。炭水化物×炭水化物になるけれど、これもナンみたいなやつに乗せて食べたほうが食べやすい。

 そしてそしてケバブ。転移前の世界では、あの軽トラを改造したケバブ屋がこんなに旨いものを提供していたのかと思うと、一度でも食べてみればよかったと思った。

 食後はドライフルーツとナッツ、そして濃くて苦いコーヒー。ピスタチオやアーモンドが小皿にあるが、塩味はないのかと思いきやちゃんと塩味がついていて「なんか物凄く懐かしいね」と4人で感動していた。


 食事が済んだら青山はハマムに向かい、野郎どもはめいめいの部屋に。

 部屋に戻る前、白井が宿の主人にガザ行きのキャラバンとの折衝はどこに行けばいいのか尋ねると、彼が仲介人(ワスタ)になってくれるという。

 とはいえ翌朝の出発は無理なので、明日の昼に商隊長と交渉をして明後日の朝に出発するよう段取りをすることになった。

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