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違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第7章 イェリコ~エルサレム編
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第55話 ねえ、偽物の邪眼ってどうおもう?

 寝付けない夜を過ごした4人は空腹で目を覚ます。瞬時に昨夜の子供たちの顔を思い浮かべるが、やれることはやったのだしと誰もがどうしようもなさに蓋をする。

 荷物を持って個室の区画を出て仲間と顔を合わせると、誰もが同じように赤い目をしていて笑い合って安心する。―――みんな足りてないことはわかってるんだな。


 門のところにラバを連れたおじさんがいる。その傍らに馬に乗った守備隊の護衛がいる。鞍から火縄銃を下げ、腰には曲刀。いかにもな兵隊さん。

 おじさんと一緒にラバに荷物を括りつけていると、昨夜の子供が数人寄って来た。

 ある子は笑顔で。ある子は真顔で。ある子は「困った?」と言っている。

 4人とも涙腺の蛇口が自動水栓になりかけたが、ぐっと我慢して「大丈夫だよ」と返事をする。そのとき守備隊の一人が足元にいた子供を「邪魔だ!」と蹴り飛ばし子供はその場に倒れた。―――あの野郎!

 白井が飛び出すより先に兵隊に襲い掛かる影があった。青山でも緑川でもない、赤坂だった。彼の目の高さにある兵隊の腿にグーパンチを入れて「その子がなにをしたっていうんだ!」とまじギレしていた。殴られた兵隊は曲刀を抜き、赤坂に斬りかからんばかりだったが緑川が立ち塞がった。


「ごめん緑川さん、青山さん、赤坂くんを頼む!」


 そう言って白井は門の上の部屋に駆けだした。―――やばいやばいやばいやばい!


 守備隊の詰め所には誰もいなかった。宿の主人のところへ行き緊急事態だと言って守備隊が寝ている部屋へ案内してもらい、昨日の役人を見つけて叩き起こす。


「おい!頼む!助けてくれ!行き違いがあっておれの仲間とあんたの部下が揉めてるんだ!お願いだ殺させるな!頼むよ!」


 役人は慌てて飛び起きて白井と一緒に門のところまで行くと、一触即発だった雰囲気は終了していた。

 そこで見た光景は、驚いた顔で騎乗している護衛A、刀を手にして地面で仰向けに伸びている護衛B、赤坂の隣で険しい顔をする緑川、鼻血を出して泣いている赤坂、そして鞭を持っている牙を剥いたメスポメラニアン。あと、茫然とする子供数名。


 白井は一番近くにいる護衛Aから事情を聴く。

 まず護衛Bが曲刀を抜いて馬上から赤坂に斬りかかる格好になる。

 二人の間に緑川が割って入る。―――うん、そこまでは見た。

 緑川が赤坂をぶん殴る。―――え、なんで? ああ、お仕置き的な?

 青山の鞭が護衛Bの馬の尻を引っ叩く。―――え、なんで? え?

 馬が立ち上がり護衛Bが落馬して気を失う。―――え? ああ、うん。


「えーと、隊長さん、いろいろと本当にすまない。正式に謝罪をさせて欲しい」


「本人があの状態では事情がわかりません。ひとまず詰め所でお話しましょうか」


「おい、クソガキ。おまえも来い」白井は赤坂を連れて隊長と詰め所に向かう。

部屋に入り、まずは赤坂が土下座で「申し訳ありませんでした」と謝罪をする。

 とはいえ言葉が通じないので白井が「彼は我々の言葉で謝罪をしています」と伝える。

 赤坂が床に額を擦り付ける姿を見て、隊長さんも意は汲んでくれたようだ。


「隊長さん、彼はまだ子供なんだ。この世界に一人で放り出されて辛い目にも遭ったと聞いた。だから、子供が虐げられる痛みをおれたちより感じてしまって、自分を抑えることができなかったんだと思う。だからって彼のしたことが間違っているのは、おれたち全員わかっている。だから誠意を示したいんだ」


「ほーう、誠意とは?」


 「おい、袋出せ」白井はそう言って赤坂に真珠の袋を渡すように言う。

 そして袋の中から大きい真珠を1粒取り出して「これはあなたの分だ」と言って隊長に直接手渡しする。

 次に中ぐらいのを1粒机に置き「これは昨日払わなかった護衛料」、そして小さいのを1粒取り出し「これは迷惑をかけた護衛の彼に」と言って机に置いた。

 「それから、こいつが狂った原因はこれだ」と言って邪眼を机に置く。


「これに魅入られたんだ。だから馬鹿な真似をした。これは処分してくれ」


「ナ、ナザール…」


 砂漠の民とオスマンの文化圏の違いに気付いていない白井だったが、邪眼の呼び名が違っても効果があることを知った。―――ナザール?アル・アインじゃないの?


 守備隊の隊長は邪眼を手に取りしげしげと眺めた後「これはなんだ?」と口をへの字に曲げて言う。「邪眼は偽物でも人の心を狂わせるってことだと思います」と白井は赤坂に向けてそう言った。隊長は「フン」と言ってさも興味なさそうな顔をしながら邪眼をポケットに仕舞い込んだ。―――なんだよ、おまえも中二病なのかよ。


「どうですか隊長。我々の誠意は伝わりましたかね。もし伝わったのであれば新しい護衛を用意して頂きたいのですが、ソレで足りますよね?」


「ああ、伝わったよ。すぐに代わりの護衛を手配をするので門のところでお待ちを」


 白井は赤坂を連れて二人が待つ門に戻る。道すがら赤坂の肩に手を回して謝る。


「ごめんな、悪者みたいに扱っちゃって。他にやり方わかんなくてさ。あとこれ、邪眼も真珠も大放出で本当にごめん」


「いえ、助けてくれてありがとうございます。白井さんが話し合いをしてくれなきゃ、僕は… 殺されていても仕方なかったです…」


「悔しいよな。おれもめちゃくちゃ悔しいよ」

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