第4話 ねえ、大陸に到着ってどうおもう?
キヨウの港から船に乗り大陸にそのまま行くものだと思っていたら、タイシューという島の南端へ上陸し陸路を北上、北端の港でまた船に乗って朝鮮半島の南の港へ。
甲板で海を眺めながら、緑川は白井に問い掛ける。路銀節約のためとはいえ、昨晩相部屋になったことが少々腑に落ちなかったようだった。
「どうして青山さんの気持ちに応えてあげないんですか?僕のことは気にせず二人でよろしくやってくれていいんですよ?」
「いや、懐かれているのは嬉しいんですが、どう接していいのか…、いままで人付き合いは避けてきていたので正直わけわかんなくて…」
困惑している白井を見て緑川は、あっちも面倒そうだけど、こっちはこっちで面倒だと思いこれ以上二人の関係に首を突っ込むのをやめた。
そうこうしているうちに朝鮮半島南端の港町、プサン(釜山)に到着した。
簡素な民家が点在する港町。17世紀のアジアらしい雰囲気に「大陸まで中世のフランスもどきじゃなくて良かったです」と緑川は安堵した。
ドラゴンについて聞き込みをすると、ハンソン(漢城)なら何か情報があるのではないかとのこと。御伽噺の類もなく精霊についても全く情報は得られなかった。
食堂に入り昼食を摂りながら地図を広げ、明日からの移動に備えてきょうは馬を調達して支度を整え早めに休むことに決めた。
さっそく馬を買いに行くと、軍人に怒られると渋られたがどうにか頼み込んで農家から小型馬を3頭買い付けた。
翌朝、日の出とともに出発。緑川の話ではハンソンの街まで辿り着くのにポニーの足を休めながらだと丸一日かかるとのことだった。
それなりに整備された街道を行き、途中でテグ、テジョンの街でドラゴンや精霊について聞き込みをするものの芳しい情報は得られなかった。
―――詰んで…ないよね?
「それにしても白井さんがいてくれてよかったです。街の人、あれ韓国語ですよね?」
「ええ。17世紀頃の朝鮮半島そのままですね。白井さんはきっと世界中の言葉が理解できるのでしょう。僕たちだけでは食事を摂ることすらままなりませんね」
青山と緑川が白井の言語スキルを褒めたたえたが、本人は精霊の加護のおかげなだけで自分の手柄ではないと複雑な心境だった。
三人は日暮れ前にハンソンの街に到着した。宿の手配をしながら聞き込みをすると、王様なら何か知っているかもしれないとのことだったので、明日宮殿へ行くことにした。
夕食時、海外旅行について確認したところ、白井も青山も経験がなく「卒業旅行で初海外のつもりでした」と青山は言う。
緑川にしてもグアムとサイパンにしか行ったことがなく、精霊の加護がなければ富士の樹海で遭難してたかもと彼は笑ってキムチを頬張った。
その食べっぷりに今夜の寝屁は凄まじいだろうなと白井は個室に安堵した。
翌朝、街の北にある昌徳宮へ行き、ドラゴン討伐のための召喚者であると告げ、王様への謁見を申し込むと「王は公務で多忙なため領議政がお相手をする」とのことで案内人の後について少し東の議政府へ赴くことに。
白井が「ヨンイジョンて誰?」と尋ねると「総理大臣みたいな役職ですね」と緑川。
外国の政治体制についても当たり前に解説できる社会の精霊、すごく便利だなと白井は感心した。
議政府に着き出迎えてくれたのは青い着物を着て黒い帽子を被ったおじいさん。
「よくぞ参られた召喚者殿。世界のためにドラゴンを倒してくれるそうで、王国民に代わり感謝申し上げる」
「ありがとうございます。それでそのドラゴンの棲む島を探しているのですが」
「それでしたら明で討伐隊を編成しているという噂がありますのでベイジン(北京)へ向かわれるのが良いかと」
緑川にベイジン行きを報告し、おじいさんにお礼を言って議政府を後にした。
議政府を出て、この日はピョンヤン(平壌)まで行って泊り、明日は川を越えて中国へ入ることにして三人は小型馬に跨り午前中のうちにハンソンを出発。
17世紀だからか異世界だからか南北境界線はなくピョンヤンへは夕方到着した。
韓国の様子となんら変わりはなく、食べ物も建物もほとんど同じだった。
また早起きしてピョンヤンから北西に向かい、鴨緑江という川を渡る。本来なら相当でかい川なのだろうけれどこの世界ではそれほどでもない。渡し船に小型馬ごと乗り込みスイスイだった。
鴨緑江を渡れば明、つまり中国だ。
ここから北上して後に後金の首都となるシェンヤン(瀋陽)を目指す。
少し早い昼休憩をダンドン(丹東)で摂っていると「そういえば魔物出ませんでしたね」と青山が言う。「そういえば大陸には出るって言われてましたね」と緑川。
―――これ絶対フラグじゃん…、思ってたけど言わなかったのに…
ダンドンからシェンヤンまでは山岳地帯の谷間を縫うように進む。ところどころ階段状の急斜面になり小型馬を降りて手綱を引きながら歩きで進む。ここで小型馬を潰すわけにはいかない。
山を降りて谷間の平地の田園を進むと蛇行する大きな川に差し掛かる。太子河という川。
橋も見当たらないし渡し船もいない。どうにか渡渉できそうな場所を探していると、白井は暗い川底からゆらゆらと浮上する白く煌めくナニカを目にした。
―――うわああああ…、やばいやばいやばいやばいやばいやばいいいい!!




