第45話 ねえ、欲深い護衛ってどうおもう?
ジャウフの街に入り護衛たちに引継ぎはしてもらえるのか白井が尋ねると、彼らは「無論紹介はするが、我々では交渉はできない」と申し訳なさそうに言った。
白井が緑川にその旨を伝えると、青山や赤坂にも聞こえるように状況説明がある。
「ここを仕切っている部族は長らくこのオアシスを拠点に根を張ってきたいわば古参の部族です。これまでの遊牧民たちとは違い、非常にプライドが高く欲深いところがあるので、高圧的な相手との交渉になると思ってください。期待していますよ」
―――うへえ、めんどくせえ。あんまりだったら適当なハッタリかまそう…
「それから赤坂くん。これからが邪眼の真価を発揮するときです。真珠を渡すときわざと邪眼を取り出して見せて、間違えたと言って普通の真珠を渡してください」
緑川は邪眼の使い道を赤坂に伝授した。それがどんな結果を生むのか赤坂には想像できなかったが、正真正銘の『邪眼の使い手』として気合入りまくりだった。
「あの、わたしは?わたしにはなにか役割がありますか?」と青山が尋ねると「白井さんの手を握ってあげててください」と緑川は意味深に笑った。
そして一行は護衛の案内で宿に向かう。護衛達は宿の主人に声を掛け、彼の案内で中庭にある石造りの広間に。
主人はそのまま交渉の見届け人として部屋の脇に残った。
豪華なクッションに身体を預けて待っていると、いかつい顔をした男たちが入って来た。―――なるほど、視線がすでに高圧的というか馬鹿にしている感じがする。
「なぜ女がいるんだ?」
不機嫌を通り越して恫喝するように男が言う。
ぎゅっと青山に手を握られ白井は事前に緑川から聞いていた口上を述べる。
「本来は彼女が君たちと契約するところだけど、言葉がわからないから僕が通訳兼事務方として君たちと交渉する。彼女の機嫌を損ねたら両足に縄をつけられて二頭の馬に身体を引き裂かれるからね。そのぐらいの人だよ。いちゃダメかい?」
―――あれ?なんかまた余計なことを勝手に言っちゃったよ。馬ってなんだよ。
いかつい男は「そ、そういうことなら仕方ないな」と青山の同席を許した。
引継ぎの前にコーヒーという名の地獄の拷問がある。今回は人数分出されたのでみんなでそれを飲みながらルートや荷物の確認が始まる。明日の護衛たちは終始「ふふん」といった顔で聞いている。内容の確認が済むと代金の交渉に入る。明日の護衛たちは緑川の言っていた通り値踏みするような目を向けて欲深い交渉を始めた。
「ハファルの連中は、随分と親切な値で引き受けたようだが、まあここら先の道は、彼らの”お散歩”とはわけが違う。我々の剣と知識が必要なら、相応の敬意を示してもらわねばならんのだが。フフッ」
―――なにを言うかと思ったら小物感すげえな。どう言ってやろうか…
白井が反撃の狼煙のための薪を頭の中で組み上げていると、きょうの護衛が口を挟んで来た。
「彼らは旅の途中でグールを打ち倒したという。聞けばムガルで悪霊を滅し、ジーンまで退けた聖人たちだ。彼らを護ることは誇りと名誉に値すると思うが」
「ジーンを退けただと?ハハハ。聖人などではなく大ぼら吹きではないのか?」
―――いや、確かにジーン云々は緑川さんが囁いた急場凌ぎのデッチ上げだけど…
「まあまあ、聖人かどうかはさておき、皆さんとは旅を共にするわけですから信頼関係が必要でしょう?頭ごなしに拒否するつもりもありませんから、護衛にどれだけ必要なのかおっしゃってください。払えそうなら払いますから」
白井はいったん相手方に下駄を預けることにした。脅し文句が浮かばないから。
「そうだなあ、彼らの護衛が中サイズの真珠一粒であるなら、我々は二粒といったところか。あ、いや、立派な聖人様を護るのだから三粒は必要になるかな」
破格の護衛代金にきょうの護衛たちが「なっ…」と発して絶句した。
白井はパーティの三人に「中ぐらいの三粒寄越せって言ってます」と伝えると「馬鹿な!」と赤坂が立ち上がろうとする。それを緑川が制し「想定内です。ではまず邪眼のお披露目をしてください。奴らによく見えるように取り出してくださいよ」と赤坂に耳打ちをする。
当代随一の邪眼使いを自負する赤坂は、徐に真珠の入った革袋を取り出す。が邪眼は既に彼の掌中に収められており、まるでマジックショーのような振る舞いで革袋の中から取り出したテイで邪眼を明日の護衛たちに見せつける。「あれ、これじゃないか」と引っ込めるも二度三度と同じ仕草で袋から無限に邪眼を取り出して見せる。
「ア、ア、アル… アイン…」
「の、の、の、の、呪われる… ひぃっ」
三流真珠加工技師である白井の拵えた邪眼は、明日の護衛たちに対して想像以上の効果を発揮し、護衛の代金は赤坂が持っている真珠の中で一番小さな一粒で済んだ。
そして思わぬ波及効果としてきょうの護衛たちにまで恐れられてしまう。
白井が例の「あなたは私の顔を白くしてくれた」と名誉を守られた礼を述べると「ええ、そうですね、真っ白でさあね」「いやいやほんと驚きの白さったらありゃしない」と漂白剤を褒めるようなことを言って逃げるように退散してしまった。
部屋に残ったビビリ散らかす明日の護衛たちと夕食を共にする。一緒に塩を腹にとかいうやつ。昨夜と同じ大皿に山盛りの米、その上に煮込んだ羊か山羊の肉のワンプレートを皆で手で食べ、邪眼使いを使役する青山にビビりながら契約は完了。
彼らが去った後でお茶を頂きながら緑川から邪眼の効果を聞けば、相手からの嫉妬が呪いになり金品や命を奪われると信じられているとのことだった。彼らの不遜な態度がバイアスとなって自分たちに跳ね返って来た、そんな感じらしかった。




