第44話 ねえ、反省と改善ってどうおもう?
ハファル・アル・バーティンのキャラバンサライ。
夕食を終えた白井が岩でできた洞窟のような部屋で休んでいると「あの、みなさん、もう寝てしまいましたか?」と緑川の声が中庭に面したテラスを通って届く。
「まだ起きてますよ」と白井はテラスに向かって返事をする。テラスでは護衛たちが休んでいるが日本語の会話なので警戒はされていない。ボソボソとしたトーンだし。
「他の皆さんはどうですかね」と緑川の声があり、白井が伝言ゲームよろしく隣の区画の青山に「青山さんもう寝ちゃいました?」と尋ねると「いいえ、起きてますよ」と。続けて「赤坂くんはどうかな」と問いかけてしばらく待つと青山から「起きてます」と返事があった。同じようなやり取りで緑川の部屋に集まることに。
緑川の部屋というか区画に4人が集まると、酷く疲れた顔で緑川が口を開く。
「きょう生き延びてここに辿り着けたのは、単なる幸運です。あんなデタラメな戦闘、次に同じことが起きたら誰か死んでしまうかもしれない。だから反省と改善をするために集まってもらいました。私だって大いに反省をする必要がある」
「そうですね。悪霊と聞いてナメていました。シンモやチュレルが『言葉』でどうにかなったからイケると思ってしまって。皆さんを危険に晒してすみませんでした」
「ぼ、僕も、役に立ちたいと思って… タイミングも考えずに矢を撃ってしまったし、もう少しで白井さんに当たっていたし。皆さんに迷惑をかけてごめんなさい」
「わたし… わたしも、魔物を一撃で殺せる武器を持っていたほうが良かったかもしれません!刃物は苦手だけど、がんばって使えるようになります!」
―――いやいや、青山さんはそのままでいいだろ。武神にでもなるつもりか。
「一番反省しなければならないのは私です。伝承の怪異には攻略法があるのですから、それを瞬時に皆さんに知らせなければならなかった。皆さんとは言葉の壁がないわけですから。怪しい場所に差し掛かった場合、その先にどんな脅威があってどう対処すべきか必ず知らせます。まあ、チベットの件があるので私の加護も完璧ではないですが」
各々が反省を口にし、戦闘時における改善点を話し合った。そしてフォーメーションっぽいものも確認し合った。基本的には『逃げる』が最優先ではあるが、逃げられない場合は基本的な各々の役割を決め、攻撃の順番や敵との位置関係を確認した。
そして最後に緑川から青山にお願いのような進言があった。
「もしも、あなた以外の、白井さん、赤坂くん、私が同時に危険な状態になったとき、迷わずきょうのように白井さんを助けてあげてください。きっとそれがあなたの加護の力を引き出して良い結果を生むことになるでしょうから」
「えっ、わかりました… わかりましたけど、わたし二人を見捨てたりしないですからね!」
「ええ。知っていますよ。あなたがそんな人じゃないことぐらい」
グールとの死闘からずっと思い詰めたような表情だった緑川がようやく笑った。
話し合いは終わり、それぞれの部屋に戻って仮眠に近い短い睡眠を摂る。
新しい護衛たちに起こされ、まだ星が見えている夜と朝が混ざり合う時間に一行は出発する。この日の移動はかなりの強行軍になるそうだ。
街を出て西へ進む。群青色の空が白み始めると、後ろから昇りつつある太陽が砂丘の陰から白と淡いオレンジのグラデーションを赤っぽい砂の地平線の上に映し出す。とても上品で綺麗な自然が見せる風景だった。昨夜の反省会を経て一皮剥けた一行を祝福しているようだと白井は思った。
―――慢心はない。僕はまだ何者でもないんだ。
空がすっかりコバルトブルーに染まり日差しが強くなってきた頃、砂丘が連続する砂漠の真っただ中でロングシエスタが始まる。辺り一面は砂漠で岩陰もないので、護衛たちはラクダを座らせて支柱を建て鞍と支柱に黒い布を渡して日陰を作る。その中で休めと言われ、ラクダを背凭れにして休憩する。昨夜はあまり睡眠時間がとれなかったので4人は多少の寝苦しさを感じつつも昼寝をする。3時間ほど寝たら誰も彼も自然と目を覚まし、護衛から例のクソ甘いプルーンみたいなやつ、デーツを貰い水で流し込む。
天幕の陰が伸び始めた頃に再び移動を開始し、いつものペースでラクダに揺られていたが、途中で護衛の合図が入りラクダたちは脚を早める。思っていたより進みが遅かったようだ。大きなストライドのテンポに合わせリズミカルに下から突き上げる鞍の動きに合わせて腰を浮かせるような動きをする緑川を真似してみると、随分と乗りやすくなった。脹脛が強張るけれど、無軌道に揺れるよりマシだった。
やがて地面に岩が混じり始め、そのうち砂はほとんど消えて岩が剥き出しになる。
太陽が地平線に触れると、夕焼けの余韻もないままそのままスーッと消えてしまう。そうして空が濃紺に染まった直後に、この日の目的地、城塞都市ジャウフに到着する。
門番は白井の召喚者パスでいつもの如くだったが、護衛たちは緊張していた。




