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違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第5章 西インド~クエート編
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第41話 ねえ、邪眼の効果ってどうおもう?

 冷水の工場見学を終えた一行は、茶屋でその冷えた水をもらい休憩していた。

 白井と緑川は視線だけでやり取りし、どちらが赤坂に旅費の工面をしてくれるようお願いするのか熱い攻防を繰り広げていた。具体的な説明ができない白井は途中から目を逸らし、緑川が腹を括るのを待った。そして緑川は腹を括る。彼自身のために。


「康平くん、相談なのだけど……」


「お金でしょ?白井さんの話だと部族ごとに支払いが必要みたいですね」


「えっ、あの、いいの?」


「いいもなにも、三人とも全然お金ないじゃないですか。僕一人じゃここから先に進めないし、皆さんとここで暮らすわけにもいかないし。僕が出すしかないじゃないですか。いい大人が高校生におべんちゃら使うのも見ていて痛々しいんですよ!」


 三人は赤坂を上手く乗せているつもりが全部バレていたと知り恥じた。それはもう耳まで赤くして俯くしかない程に己を恥じた。が、反省も改善にも至らない。

 これで心を入れ替えられるようであれば、生成AIのサジェストに従い商業主義テンプレートを採用し、SNSを上手く活用して交流を深め、書いたものやアカウント自体がもう少し世間に受け入れられていたのかもしれない。

 しかしながら赤坂も含め、ここに集いしポンコツたちにはそれができない。

 他人が面白いかどうかではなく自分が面白いかどうかを常に問うてきてしまっているのだ。ある部分においてその徹底した利己主義の発露は、列車内の鯖ずしの酸っぱい匂いと同じなのである。鯖ずしの匂いがバターやクリームの匂いになることはないのだ。


 「じゃあ、お金作るんで白井さん通訳お願いします」と赤坂は言って、昨夜訪れた部族長の家に向かう。そこで赤坂はバンダレ・アッバースの商人、ホセインから巻き上げた証文を渡す。すると部族長は「確かに」と言って、部下たちに真珠を持って来させた。

 じゃらじゃらと如何にもな音を立てる革袋を受け取ると「これ、手数料」と小さな真珠の粒を部族長に手渡した。彼は一旦断ったものの赤坂に強引に手渡され、ものすごく感謝しながら受け取った。―――真珠ってそんなに価値があるの?


「しかし、それを持ち歩くのは危険だぞ。アニザやシャマルは全部寄越せと言うかもしれん。我々のラフィークと別れた後では守ろうにも守れないしな」


 部族長の警告を白井が赤坂に伝えると彼は顔をしかめたが、間髪入れず緑川が「いい案があります」と不敵に笑う。そして白井に「この村で真珠の加工をしている場所がないか訊いてください」と言い、部族長に加工小屋の場所を教えて貰い家を出る。

 道すがら、これから何をするのか緑川に訊ねる。


「砂漠の民には邪眼(アル・アイン)を恐れる風習があります。そもそも真珠だって彼らにしてみれば海の中の得体の知れないものなんですが取引価値があるので扱っています。真珠の中に目玉が一つ入っているだけで袋には触れられなくなります」


「じゃ、邪眼… アル・アイン…」


 赤坂の反応は尋常ではなかった。まさにクリティカルヒットだった。


 港に近い浜辺に簡素な土塗の小屋があり、そこで真珠の加工を行っていた。

 真珠に穴を開けたいのだけどと作業員のおじさんに言うと「穴を開けるのか?正気か?」とおじさんが嫌がるので、だったら道具だけ貸してくれと言って白井が加工することに。白井が真珠に向けて錐のような工具で穴を開けてみると、ペキッと嫌な音がして穴と共に薄いヒビが放射状に入ってしまった。

 やっちまった!と思った白井は緑川と赤坂の顔を交互に見ると「お手柄です。完璧ですよ」と緑川は褒めてくれた。


 壊れかけの真珠を持って小屋を後にし、次に船を作っている小屋に向かう。

 いくつか並ぶうち石油のような臭いがする一つに入り、鍋でぐつぐつ煮えている黒い汁を少し分けてくれと白井が相談すると、船大工のおじさんは別に構わないというので、落ちていた細い棒の先に黒い汁をつけ、真珠の穴に一滴入れる。

 すると毛細管現象なのかヒビの中にも黒い汁が回り込み、誰がどう見ても『邪眼』の真珠が出来上がる。―――なにこれ、気持ち悪い…綺麗な真珠だったのに…

 黒い汁の熱が冷めた邪眼を赤坂に渡すと、「これが邪眼……」と彼は打ち震える喜びを隠しきれず「こ、これ、もう一個、いや、もう二個必要じゃないですか?」と緑川におねだりしたが「邪眼はおでこか左目に1つが相場ですよ。真珠は大切な路銀です」と真面目に諫めていた。


 晴れて邪眼持ちとなった赤坂の機嫌は大気圏を突き抜け、三人に旅の物資をどんどん買い与えていた。肌を守るためと、薔薇水や香油を買ってもらった青山は「康平くんチョロすぎる。クフフ」と一番悪い顔をしていた。


 夕食は野営地で地元の若者が用意してくれたタイのような魚の炊き込みご飯が振舞われ、かつて知ったる三人に倣い、赤坂も小骨やうろこをペペッと吐き出して、食っているのか吐き出しているのかよくわからない食事に笑いが絶えなかった。


「みなさん、今朝は酷いこと言ってすみませんでした。やっぱり皆さんと力を合わせないと先に進めないことがよくわかりました。一緒にいてくれてありがとう」


 赤坂は邪眼を握りしめ、三人に協力していくことを誓った。

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