第40話 ねえ、太陽熱蒸留ってどうおもう?
部族長の家に招かれた4人。白井はまず村の人たちが野営する場所を設営してくれたことに対し「何もしてあげられないが」と前置きをして礼を述べた。
すると部族長は「既に召喚者からは十分すぎる恩恵を受けている」と言う。
「それって、以前にこの村に召喚者が来て何かをしていったということですか?」
「ああそうだ。数年前にこの村に立ち寄った女の召喚者が、井戸水がしょっぱい、ぬるいと言って、飲み水の作り方とそれを冷やす方法を授けてくださったのじゃ」
「あっ、だから先ほど冷たい水を分けてくれたのですね。あれは川の水ではないと」
「今夜はもう暗くて見えないだろうから、明日その目でよく見るといい。我々はその水のおかげで病気もせずにこうして長生きをすることができている」
部族長の話では野営地のすぐ近くに、その水を作る施設と、水を冷やす施設があるという。野営地の焚火の灯りでは見えなかったが陽が上ればすぐにわかるらしい。
おそらく科学の加護を持つ先輩召喚者が、水の事で恩恵を与えて召喚者そのものを好意的に受け入れてくれていると三人に白井が説明をすると「では、ついでにラクダの手配を」と緑川が彼に交渉するように言う。とても気楽な感じにその役を押し付けてくる。
―――もうちょっとタイミングってものがあるんじゃないのか…
「あのう、僕たちはその先人を追って旅をしているわけですが、これより先に進むにはラクダなどの手配が必要になるのですが、どなたにお願いすれば…?」
「それならば我らバニー・ウトゥブが護衛も引き受けよう。水の恵みの恩返しとして。して、どこまで行かれるつもか?」
部族長の問いに白井は答えられず緑川に視線を投げると「死海まで」と言われそのまま伝えると部族長は困った顔になる。―――なにか良くない土地なのかな。魚が棲めない湖だってことは知ってるけど。
「死海までの道のりは他の部族の領内を進むことになる。特にアニザやシャマルに対して”穏やかではない”行軍と見なされるであろう。護衛とは部族ごとに交渉してもらう他ないだろう。金はかかるがそれでもよいか?」
死海がどうのというのではなく部族の縄張りを横断することが問題であり、それは金で解決できそうだと知った白井は「ああ、お金で済むなら」とそこまで言いかけて赤坂を見ると「なんですか、また金ですか」という目を向けてきたが曖昧に微笑んで部族長に「仕方ないですね。引き継ぎで目的地を目指すことにします」といって、序盤の護衛兼ガイドをグラインのバニー・ウトゥブ族の人たちにお願いした。
人間に戻ったとはいえ船酔いのダメージは残っているだろうから明日は旅の準備に充て、次の日の早朝に出発することになり、白井たちは部族長の家を後にして、星空が瞬く野営地に戻りぐっすり眠った。
翌朝、目が覚めて身支度を整え、まずは真水の生成工場を見に行こうと野営地を出発する。それはすぐ近くにあり、よく日の当たる場所にいくつも動物の皮のようなものが地面に張られている。「やはり蒸留装置でしたか」と緑川は予想が当たったようだ。
女性たちが海から海水を桶で汲んで来て、皮を捲り地中に埋まっている桶のようなものに流し込んでいる。桶の中央には壷のような器が置かれる。海水の注入が終わったら皮を戻して四辺に石を置いて砂で隙間を埋めピンと張る。最後に小さめの石を皮の中央に乗せてすり鉢状にする。
「なるほど。太陽熱で蒸留して真水を作るんですね。単純だけどこの地域の日差しなら効率も良さそうです」
緑川が「ご名答」と言って赤坂にサムアップを送ると「ま、小学生レベルですけどね」と彼は鼻を鳴らした。その態度に青山は「すごいすごい。頼りになるなー」と手を叩いていたが、これは後で金を払ってもらう布石だと白井は見抜いていた。
次に水を冷やす施設を見に行く。蒸留装置がある場所より少し高い丘の上。海から風が吹きつけている。木陰には大きな素焼きの壷がたくさん置いてある。
またしても緑川が「やはり蒸発冷却でしたか」と言う。白井と青山はいつものこととして慣れていたので緑川の後出し解説には心が乱されない。
さっきの蒸留された水の入った壷を持った女性がやってくる。その後ろから、海から濡れた砂を籠のようなものに入れた女性がやってくる。
女性の一人が大きな壷の中に砂を入れ、もう一人が水の壷を中に入れると、二人で壷と壷の隙間から砂を入れていく。隙間がないようにしているのか念入りに砂を詰め、最後に水の入った壷に木の蓋をして作業終了。
「なるほど。染み出した水分が乾燥するときの気化熱で中の温度を下げるわけか」
赤坂は左手をバキュンの形にして顎に添えて考察を述べる。呼応するように緑川がバキュンを彼に向けて「正解」と滑舌良く褒める。青山は「うわー!わかっちゃうんだねえ」と褒め、「もう赤坂くんが科学の加護持ってるようなものだね」と白井も乗っかる。
生き汚い大人たちの包囲網の中にいることに絶頂の赤坂は気付かない。




