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違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第5章 西インド~クエート編
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第34話 ねえ、砂漠の悪霊ってどうおもう?

 不気味な足の形を指摘されたチュレルの白く透き通る肌は、まるで泥ように黒く変色し干上がった地面のようにカサカサとひび割れ始める。

 ツヤツヤだった長い黒髪も獣の毛のようにゴワゴワと逆立ち顔面を覆い始める。

 そして口元からは長く黒い舌が、まるで爬虫類のように伸びてチロチロしている。

 ―――うわ、なにこいつ、気持ち悪っ!

 本来の姿となったチュレルが白井に襲い掛かろうとしたが、彼は横に飛んで避ける。


「き、気持ち悪いんだよ!寄ってくんなどっか行け!化け物のくせに色気出してんじゃねえよ!」


 誘惑作戦が失敗したチュレルはなりふり構わず白井に掴みかかる。カサカサにひび割れた彼女の腕を払い除け、白井は少し距離を取って再び罵倒でなんとかしようと試みる。


「失せろ!おまえみたいなの、すげえ迷惑なんだよ。とっとと化け物の国に帰れ!」


 この「帰れ」の一言にチュレルの動きが止まる。白井はどの言葉が効いたのか逡巡し「失せろ」「迷惑」「化け物」「帰れ」と単語を投げつけ観察すると「帰れ」に反応していることを理解する。そして「帰れ」と連呼し、鞍上の仲間たちからも帰れコール(日本語)の実際には役に立たない援護が沸き起こる。が、チュレルは消滅しない。


「お前もしかして帰る場所はないんじゃね?だったら消えろ。帰れないんだから」


 チュレルにとってそれがトドメだった。存在を維持できなくなったそれは砂煙となって夜の砂漠に散っていった。―――この世界、レベルアップとかないのかな。


 砂漠に静寂が訪れたとき、護衛たちが白井の前に傅き「我が主、砂漠の悪霊を退けた貴方こそ聖者であると確信します。旅が終わり離れようとも貴方への畏敬、この命が尽きるまで我らが心に…」と恭しく首を垂れるのであった。

 再びラクダに乗って、ようやく目的地であるジャイサルメールの城門に到着すると、我らが聖者さまからの「召喚者なんす」という金言で門番は一行を街の中に入ることを許可した。


 護衛たちが宿と食事の手配をしてくれた。悪霊退散の祝杯を彼らと上げたくて誘ってみたが「聖者様、祝杯はラハリ・バンダル到着後に」と鉄の掟っぽい感じに断れてしまった。そんなわけで召喚者4人だけで遅い夕食を摂ることに。


 マトンを煮込んだ赤いカレー。見た目も匂いも激辛。食べれ見れば案の定激辛。

 護衛たちが焼いてくれたのと同じ茶色いナン、豆の炒め物、あと飲むヨーグルト。これらを4人はヒイヒイ言いながら胃袋に収める。

 食べながら緑川が赤坂にどんな小説を書いていたのか尋ねると、始めは「言いたくないです」と秘密にしていたが、三人がそれぞれ聞いている方が恥ずかしくなるようなプロットを開陳したおかげか「探偵もののミステリーです」と白状した。

 赤坂の小説のプロットとて聞いている方が恥ずかしくなるものであった。


 翌朝は前日と同じく日が昇る前にジャイサルメールを出発し、日が高くなってくる頃に長い長い休憩を挟み、太陽が正面に回り込み始める頃に出発。

 少し進むと砂漠の乾いた風から、アラビア海の湿った海風に変わる。

 キヨウを出てから久しぶりの海が目前に迫っている。辺りは暗くなっていたがマングローブの茂みの壁の向こうにオレンジの灯りがぼんやり見えた。

 茂みの間の一本道を通り抜ければ、そこがインドの旅の終点である、ラハリ・バンダルの港町であった。


 部族の掟なのかここまで頑なに食事を共にしてこなかった護衛の戦士たちと、ようやく一緒に夕食を摂ることになり、海沿いのテラスのようなところに敷かれた絨毯の上に8人で輪になって、よくわからない魚のグリルやスパイスの効いた肉などを分け合って食べる。ほとんど下処理のない魚は本当に食べにくかった。

 白井たちは何度も「野盗から命を懸けて守ってくれてありがとう」と礼を言い、戦士たちは「聖者様のおかげで悪霊に連れ去られないで済んだ」と感謝された。

 食事の後、皆でチャイを飲んでいるときに緑川に促され、契約金の精算をする。取り決めた金は赤坂が用意してくれたが、4人はそれぞれ自分の財布から心ばかりの感謝の金を追加して護衛に渡す。


「あなたたちがいなければ、僕たちはこの海を見ることができなかったでしょう。心から感謝しています、ありがとう」


「貴方たちをここへ送り届け、共に食卓を囲み、いま我らの誇りは完遂された」


 護衛たちとの間に生まれたものは対等の友情ではなかったが、それでも召喚者4人はそれに近しい絆を感じ、護衛の彼らもまた単なる守護対象以上の存在であることを感じていた。

 実のところ彼らは赤坂に対して最も警戒すべき庇護対象だと思っていたのだが、隊列の足手まといにならないように必死でラクダの背にしがみついてきた彼のことを見直していた。「君はもう戦士だ」と赤坂の隣に座る護衛がそう声を掛けて手を差し出すと「僕のお金なんだから、本当の我が主は僕なんだからね」と笑って握り返した。


 こうしてチベットから山を降り、インドの平原、砂漠を越えて、科学の加護を持つ召喚者との合流を目指し、一行は『地中海』の『塔』に向かうのだった。

 それがどこなのか誰も知らないのだけど。

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