↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第5章 西インド~クエート編
PR
36/66

第32話 ねえ、砂漠の酷暑ってどうおもう?

 ここからは砂漠の旅本番だと言わんばかりに日の出前に出発の準備を始める護衛たち。召喚者たちもコーヒー豆のような目をしながら身支度を整える。

 そんな中、一行の我が主である白井はまだ目覚めない。それは我が主特権ではなく、昨晩至近距離で青山に微笑まれ、悶々として寝付けなかったからだ。赤坂とジアンの熱いベーゼを目撃して以来、白井の中にトラウマを屠る感情が芽生え始めていることに本人も気付いていない。


 「我が主、起きてください、我が主」


 いい加減起こさないと全員に迷惑がかかると思った青山が白井の肩を揺すると「んんん」と小さく呻いて白井は目を覚ますと「だらしない主《あるじ》ですね」と赤坂の厭味が跳ぶ。

 白井は状況を把握し跳ね起きて急いで支度を整える。護衛たちはカースト至上主義であるため、どんなに自堕落な主でも誓った忠誠は守る。厭味も言わない。


 予定より出発が少し遅れたが一行はタル砂漠の横断に突入する。

 出発してすぐ護衛たちが刀の柄に手を掛け緊張しているのが見てとれる。「何に警戒しているんですか?」と白井が問うと「ライオンやヒョウが動く時間」と護衛は教えてくれた。まじで命懸けの護衛なんだと白井は強面たちに畏敬の念を抱いた。

 とはいえ会話はフラグにならず日が登り始めると砂丘は朝日で真っ赤に染まる。

 小さい地球の自然が織り成す圧倒的な光景に4人は感嘆の声を漏らす。


 しばらくすると正面から強めの風が吹きつけてくるので、全員ターバンで顔を隠す。突撃してくる砂粒が痛い。

 日が高く上る頃には40度を超える気温になり、昼には早いがしばらく休憩を取ることに。護衛が大き目の岩へ案内してくれて、日陰に入ると少しは熱さも和らいだ。

 昼食は塩気のある茶色のナンと、ナッツとドライフルーツ、あと飲むヨーグルトみたいなものを護衛たちが用意してくれた。それらをモソモソ食べているうちにタープみたいなものを広げてくれて、出発までしばらくの間日陰で寝て休むよう言われる。


 日向に出れば相変わらずの灼熱地獄だったがそろそろ移動を開始するということで、再びラクダに乗って出発する。

 小型馬での移動の際はそれぞれが割と近くにいて会話もできたが、ラクダの場合はちょっと距離があって声を張らないと話ができない。さらに砂は舞ってくるし口は乾くしで暑さに耐えながら黙ったまま進む。だんだんと意識が朦朧としてくる。


 熱せられた砂が空気を揺らめかせ、歪んだ透明フィルターをかけたような光景が広がる。大きな湖のようなものまで見える。夏にアスファルトに水溜まりのようなものを見たことはあるがその比じゃない。めちゃめちゃでかい。

「あれ、湖じゃないですよね?」と白井が緑川に尋ねると「蜃気楼ですねきっと。僕からは何も見えません」と否定される。

 この会話は何度か繰り返され、そのうち緑川は「僕には牛久大仏が見えます」とか「大きな餃子が焼けていますね」と妄言を口にするようになった。


 陽が傾き始め照り付ける太陽からの熱は多少和らいだものの、足元の砂からの熱は地上高3mであっても届いており昼間と体感温度は変わらない。召喚者の4人はしばらく前から黙ったままラクダのこぶの一部となっていた。

 コブとなった4人が人間に戻ったのは日が沈み、空に名残惜しそうなオレンジと闇を運ぶ紺色とが入れ替わる美しい宵のグラデーションを見せた後、360度の大パノラマで上映されるプラネタリウムのような満点の星空が輝き始めた時だった。

 いち早く正気に戻った青山が「わあー!」と感嘆の声を挙げ、残りの三人も「おお」とか「すげえ」とか口々にしながら正気に戻る。

 白く輝く月と満点の星々の明かりは目が慣れてくれば相当明るい。野盗や獣に「餌はここですよ」と知らせる松明は不要なのである。


 砂丘を上るとしばらく先にオレンジの光がぽつりぽつりと見え始めた。どうやらあれが目的地であるジャイサルメールの灯りらしい。緑川解説員の情報。

 だがそれは安堵の合図ではなく警戒の印。護衛であるラージプートの戦士たちは、刀の柄に手をかけ砂丘の死角に目を光らせる。街に近い砂丘はバカラトと呼ばれる野盗集団による襲撃ポイントだからだ。


 異様な緊張感を察した白井が護衛に「なにか出るんですか?」と尋ねると彼は「なにがあっても必ず守ります」と余計な心配をかけまいと脅威の元については言わなかったが、残念なことにその気遣いは無駄になる。側面から野盗集団が現れたから。

 砂丘を下るラクダは加速ができない。そこを狙われている。

 護衛の合図でラクダたちは勝手に密集陣形になる。そして護衛の一人が大声を挙げながら野盗たちが来る方向へと少し離れる。


 「大丈夫ですかねえ…」と不安そうな青山に「命を懸けて守るって誓ってくれたから、きっとなんとかしてくれますよ」と精一杯安心させる言葉をかける白井。そんな青山の手にはいつの間に取り出したのか革の鞭がトグロを巻いて出番を待っていた。

 ―――やる気まんまんじゃねえか。あんたジョーンズ博士か!


 どうにか砂丘を降り切りラクダたちは加速する。召喚者たちは手綱ごと必死でコブにしがみついて落ちないように耐える。

 

―――いざとなったら腰刀で戦うのかな…、諦めてくれないかな…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。