第31話 ねえ、ガンギマリってどうおもう?
早朝、アジメール出発前にターバンを巻いてマチェーテみたいな刀を持った強面のインド人護衛4人と昨夜の皺の男が集合場所に待機していた。
「パーティーリーダーはあんたでいいのかな?」と白井は皺の男に訊かれる。
緑川に「僕がリーダーなんですか?」と確認すると「言葉がわかるのは白井さんだけですから」と彼は参謀役に徹する宣言をする。
皺の男に自分がリーダーだと白井が言うと、強面の1人が前に進み出て宣言する。
「主君よ、我らは貴方の塩を食した。我ら4人の命はこの瞬間から貴方のものです。我らが最後の1人になるまで、貴方の髪の毛一本にも指を触れさせはしない!」
―――えー、なにこれ重いんだけど…この人たち死んじゃうの?
すると今度は別の強面が白い布を取り出し、また別の強面が鈍く黄金色に光る盃を布の下に構え、4人目がすり鉢から怪しい液体を白い布に注ぐ。
絶対やべえ液体の入った盃を差し出された白井が緑川に目で合図すると、彼は小さく首を横に振った。白井は盃を差し出した強面に「宗教上の理由で頂けません」と召喚前の日本では絶対防御の理由でお断りすると「さすがは我が主!」と褒められた。
―――いや、まじでなんなのこの人たち。我が主やめて。
兄弟の契りみたいな儀式が終わり、ようやく昼の目的地であるジョードプルに向けて出発する。強面たちも小型馬に乗りパーティの四方を囲むように先導、伴走する。
移動しながら「さっきの杯なんだったんですか?」と緑川に白井が尋ねると「アヘンです。幻覚作用はありませんが、我々では馬に乗っていられないでしょうね」と笑って教えてくれた。
「笑いごとじゃないですよ。あの人たちキマっちゃってるんですか?」
「いえ、そんなことはないと思いますよ。彼らにとってエネドリみたいなものです」
「まじっすか。やべえなインド人」
とっとこポニ太郎たちは涼しいうちに歩を進め、日が高くなる頃に目的地でありサムとのお別れの地、ジョードプルに到着。ここまで襲撃はなし。我が主は無事。
昼食を摂る前に小型馬とお別れをする。召喚者たちが食事をしている間に護衛達たちが小型馬とラクダの交換手続きをしてくれる。
「ドンキー…元気でね…」酷い名付けをしたくせに青山は寂しがっていた。
白井も緑川も小型馬への未練よりもラクダに騎乗する興奮が勝っていたが、赤坂は動物の背に乗るのはもう嫌だ砂漠を越えたら馬車を買おうとこぼしていた。
昼食後、護衛たちがラハリ・バンダルまでの相棒となるラクダを連れてくる。
白井たちが遠目で見ていたときは「あ、ひとこぶなんだ」ぐらいに思っていたのだが、間近まで連れて来られたときには「でけえ…」とか「うわぁ(無理)」とか「あわわわ…」といった感想に変わっていた。
実際こぶの上に乗せられた鞍は180cm近い緑川の頭より高く2m程度だった。
護衛たちがラクダに合図すると脚を畳んでスワンボートのような格好になる。が、中に乗り込むのではなく天井に登る感じなので、そうはいっても護衛のアシストを受けつつ不格好によじ登るしかない。4人が鞍に収まると護衛が再び合図をしてラクダたちは立ち上がる。鞍上はめっちゃ揺れる。「うわああ」と赤坂の悲鳴が聞こえる。
ひとこぶラクダの鞍上からの眺めは地上高3m程度。ざっくり住宅の2階の床。
半ベソの赤坂を筆頭に男性陣は生唾を飲み込み身体を強張らせたが、青山一人だけが「わー!すごーい!たっかーい!」と大はしゃぎ。いつものこと。
そして「よろしくね!ジャーク!」と命名したのもいつものこと。
―――彼女はどうしてあんなにスラングに詳しいんだ。凌辱の加護なのか?
パーティの姿勢が落ち着いたところでラクダ隊はいよいよ砂漠に向け出発。
馬のように安定しておらず、前後左右に揺れる揺れる。誰も彼も「うわっ」とか「キャッ」とか小さな叫び声を挙げながら進む。
しばらく進んだところで白井はこの揺れに身体を預ければいいのでは?と思い、上半身の力を抜いてみると案外スムーズに乗れるようになった。白井式駱駝騎乗法を三人に伝えると皆コツを掴んだようで楽に乗れるようになったみたいだった。
「さすが我が主」と緑川にからかわれたが、嫌な気分はしなかった。
日が落ちる前、池のような水溜まりに到着すると護衛に今夜はここで野営をすると告げられる。それは我が主から下々のパーティーメンバーに伝えられる。
護衛たちはラクダに積んだ荷物を壁のように配置して陣地を作り、焚火を熾す。
そして粉を混ぜてパンパン叩き焼く。別の護衛はなにかを煮込んでいる。
しばらくして「我が主、どうぞ」と茶色っぽいナンと豆のスープを提供される。
皆で食べ始めると「我が主、バター合いますね」とか「我が主、このにんにくディップ死ぬほど辛いです」とか「これ全部、僕のお金ですからね。奢りじゃないですから」などなど我が主である白井の元に民衆の声が届く。
食事を済ませる頃にはだいぶ冷えてきたので、就寝時は皆で火の回りに集まって毛布に包まって眠る。焚火がなければ死ぬる。
頭同士がそこそこの至近距離にある青山が白井の方へ顔を向けて「我が主、キャンプみたいで楽しいですね」と笑った。白井の脳はジジジと焼けた。




