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違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第二部 二つの塔のようなもの 第1章 チベット~ネパール・北インド編
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第29話 ねえ、少年の旅路ってどうおもう?

 情けない懐事情を知られ「最低の大人」と罵られた三人。ふつうなら「うぅ」なんて呻き声を上げて口ごもるところだが、アーグラで垢と共に一切の虚栄心も擦り落としてきた彼らは一味違った。


 「だからなに?」という青山のカウンターパンチが少年にヒット。

 直後に「もっと稼げるよ」と緑川の甘い誘惑が内耳を貫く。

 白井に至っては「そっちの彼女!この子のこと本当に好きなの?」と全てを焼き尽くすナパーム弾を投下する。ただしそれは白井の賭けだった。

 

 不意に真意を尋ねられた若い女性は困惑してか返事をすることができない。

 白井は賭けに勝った。さっきの違和感、言葉にならない彼女の声を聞いたから。

 少年はいまにも崩れそうな自尊心をどうにか中二病という添え木で支えているが、おそらく彼女の愛情が出会った頃より薄れつつあったことを自覚していたせいか、彼から問い直すことはできなかった。縋るような視線を女性に向けるだけ。

 そして青山が「わたしも、なんとなく彼女の気持ちがわかる」とトドメを刺した。


 面倒くさい少年の糊塗された自尊心は脆くも崩れ去り、白井たちは少年のこれまでの旅の話を聞き出した。


 少年の名前は、赤坂康平(あかさかこうへい)。15歳。高校一年生だった。

 彼も多分に漏れずweb小説の投稿者で、モニターが光ってこの世界に召喚された。

 言葉もわからず路銀を渡された彼はムシサの市場で食料を買い、街道を歩いてすぐにハマーに辿り着き、なんとなく小さな日本であることに気が付く。

 野宿をしながらワニナまで行き、それまでに安く仕入れた物品を転売して利ザヤを稼ぎ始める。とはいえそれでは然程儲からなかったそうだ。

 転機は不穏な形で訪れる。

 彼の父親は日本人だが母親は韓国人だそう。マヒノルの言葉は通じなかったが、韓国語は理解できた。ワニナに出入りする怪しい男たちから御禁制品を召喚者特権で密輸するようなことを持ち掛けられ、それで一財を築いたそうだ。


 「君、すごい根性据わってるね。いやあ、見直したよ」と緑川が褒めると「怖かったですよ、でもお金のことしか考えないようにしていたら平気でした」と赤坂は抑揚なく言う。


 投資のためキヨウの港で交易について調べていると、大陸の方が儲かりそうだということで韓国へ渡る。

 マヒノルとは様子が違うことに気付き、プサン(釜山)で現在も傍らにいるチョウとハンの兄弟を護衛として雇う。二人は赤坂に実の弟のように接した。

「ちょっと生意気だけどかわいい」「すぐ泣くけどそこがいい」二人の愛情は本当に家族のそれのようだった。―――悪い子ではないんだろうな。

 そしてピョンヤンで、赤坂が恋人だと言っていた若い女性、ジアンと出会う。

 彼女は貧しい農村の子で複雑な家庭環境の元で暮らしていた。みすぼらしい身なりでガリガリに痩せ細った彼女を赤坂がなぜ旅の仲間に加えたかといえば、彼女は韓国語は当然として漢語も少しできたからだ。先で商売をするための先行投資のつもりだった。

 ところが彼女は赤坂と旅を共にし、まともな食事を摂ることでみるみる美しい少女になっていく。思春期真っただ中の中二病が「ご主人様」に近い呼び方をしてくる美少女に入れあげないわけがない。ラノベの鈍感主人公なんざクソ喰らえだと言わんばかりにベッタリなのである。そしてそこがチョウ・ハン兄弟にしても弟分として見た赤坂の微笑ましいところだった。


 果たして中国で商隊を編成し行商取引を大きくさせ、傭兵団を組織して旅を続ける一行だったが、金や物資を盗み出す輩が後を絶たず、セイド(成都)で商隊を解散させ為替手形の取引に転じる。

 赤坂の元に残ったのは、チョウ・ハン兄弟とジアンという初期メンバーとなり、インディゴ取引が盛んだということで、ここバヤーナに滞在しているとのことだった。

 そこまで赤坂が話終わると「どうして一緒にいるって言ってくれないんだ」と半ベソで訊いた。ジアン本人ではなく白井に。そしてその説明は青山がする。


「ねえ、君がジアンちゃんと出会ったとき、彼女は何歳だったの?」


「僕と同じ年だって言ってたから15歳です」


「いまの彼女、15歳に見える?」


 赤坂が赤くなった目をジアンに向けると、彼の目に映るのは青山より少し年上なお姉さんだった。そして赤坂は小さく震える自分の掌をじっと見つめている。


「ジアンさん、心の準備はできたみたいだから、彼に本心を言ってあげて」


 白井がそう水を向けると、ジアンは「うん。ありがとう」と礼を言って赤坂の手を引いて少し離れたところで、二人でゆっくり話をした。


 白井はまるで4人の仲を引き裂いたようだと今更ながら少し罪悪感を覚えた。

 もし自分がどこかの地点で、誰かの進言で青山や緑川と別れるようなことになれば、その者を恨むかもしれないと。自分のやったことは正しいのか自信がなくなってしまっていた。

 そんな面持ちで離れた二人に目をやると、赤坂がジアンに全力で抱き着いてわんわん泣いているのが見えた。号泣っぷりにジアンも困った様子で顔をこちらに向けている。

 するとチョウ・ハン兄弟が「最後に思い出を作ってやれ」とジアンに声を掛けると、胸元にある赤坂の顔を両手でそっと包み、ジアンは彼と熱いベーゼを交わした。


 「キャー!」と青山から歓喜の雄叫びがあがる。

 白井の罪悪感は霧散した。―――が、ガキが… い、一丁前に!!!

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