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違世界ダイジェスト  作者: ながずぼん
第二部 二つの塔のようなもの 第1章 チベット~ネパール・北インド編
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第25話 ねえ、宿酔の臭いってどうおもう?

 ドゥリケルから先は比較的整備された街道で、低い山を抜けていくと辺りは熱帯のジャングルと化す。藪から虎が襲い掛かってくるような鬱蒼とした密林である。

 

 完全に山岳地帯が終わり平原入口のヘトウダの街で昼の休憩をする。

 ここでは山羊の肉のカレーを食べる。ナンではなくパラパラの米のカレーライス。

 黒胡椒と山椒が効いた変わった味で、口の中が辛いというより痺れる。

 「遂にカレーの文化圏まで到達しましたね」と緑川は感慨深そうにハフハフしていると、青山も「カレーライスが食べられると思いませんでした」とハフハフする。

 カレーには尋常ではない量のニンニクも入っているらしく、口を開けば誰も彼も吐く息が黄色く見えるぐらいに臭気を撒き散らしている。


 食事を終えて食堂を出ようとすると、ドゥリケルの街で見かけた行商人に声を掛けられる。テッカテカの顔をしたおじさん。


「おまえさんがた、この先の死の森へ入るなら油を塗っとけよ」


「死の森って… で、油ってなんですか?」


 聞けばこの先のジャングルには蚊がいっぱいいて刺されると死ぬらしい。

 油とはマスタードオイルのことらしく、肌が出ているところはもちろん、服の下にも塗ったほうがいいそうだ。

 それを緑川に伝えると「マラリアですね。蚊が媒介となって人を死に至らしめる疫病です。きっとマスタードオイルが虫よけになるのでしょう」と解説してくれた。

 「せっかく温泉でさっぱりしたけど油塗らないと死ぬみたい」と青山に言うと「まあ、死ぬよりはよっぽどマシですね」と仕方なしに納得している様子だった。


 行商人に油はどこで売っているのか尋ねると「ここに」と言ってひょうたんの器を取り出した。―――商魂逞しいなあ、おっさんよ。

 その場で三人分購入して皆で身体に塗る。余った分は服の上からもべとべと塗った。

 三人ともニンニクとマスタードのツンとした臭いの入り混じった二日酔いのおっさんみたいな臭気を放ち、顔がテカテカになった。テカテカくさいマンの爆誕。

 テカテカくさいレディが顔をしかめて「次の温泉はどこなんですかねえ」とつぶやくと「明日には公衆浴場に入れると思いますよ」とテカテカくさいガイが安心材料を提示してくれた。―――蚊に刺されるのは嫌だけど何日もこのままなのは辛い…


 すっかり準備を整えた一行はポニーに跨り、死の森であるテライ平原のジャングルを駆け抜ける。鬱蒼としたジャングルの道をポニーたちは軽快に駆け抜け、テカテカフォームチェンジが効いたのか誰も刺されることなく通過することができた。


 やがて日が傾き始める頃、国境の街、ビルガンジに到着。

 ムガル帝国の国境検問所でも例によって例の如くシュビビと通過してしまう。

 ―――召喚者って持ち込み禁止されてる物品を密輸し放題じゃね?

 夕暮れが迫っていたが、ポニーの脚で距離を稼ぐべく先を急ぐ。

 赤く染まる地平線にガジュマルの影が伸びる平原を飛ばして飛ばして、日が落ちる頃にこの日の目的地、モティハリという街に到着。


 レンガ造りの宿を取ると食事は市場で買い出して自炊だと言われ、夕食のために外に出る。その前にがんばったポニーたちに水と飼い葉を与える。


 食堂に行くと「召喚者だと告げてください」と緑川に言われ、主人にそう言うと中庭に案内されて綺麗なゴサを敷いてくれた。


「我々はカースト外なのですが、どうやら賓客扱いをしてくれたようです。とにかくカーストありきなので、どこでも身分を示す必要があります」


 緑川はそう言ってゴザに胡坐で座り、二人も続いて座る。

 注文したわけでもないのに料理が運ばれてくる。豆のスープとナンみたいなパンと野菜の炒め煮。ナンみたいなパンからすごくいい匂いがする。

 「これ、塗ってあるのバターですよね!」青山が嬉しそうに匂いを嗅いでいる。

 「このバターが賓客の証でもあります。さあいただきましょう」緑川がそう言って、白井と青山が両手でパンを千切ろうとすると「左手は使っちゃダメです!」と緑川が慌てて窘める。―――ああ、なんだっけ、穢れてんだっけか左手。

 右手だけでパンを千切るのに四苦八苦しながら三人は食事を終える。

 店を出る際に、スパイスの香るチマキのようなものを主人に渡された。処遇に困っているとそれは店が正式にもてなした証だと緑川が教えてくれた。


 宿に戻る道すがら、明日は風呂に入るために早朝に出発すると緑川に言われ、部屋に入って眠ろうとしたが暑いのと身体がべたべたして白井は上手く寝付けなかった。


 翌朝、日の出と共に出発し、一路ムガル帝国の首都であるアーグラを目指す。

 街道はよく整備されており、ポニーたちも走りやすそうだった。

 日が高く上り始める頃にアーグラに到着。ここからは都市間の移動になるからと、軽い綿の服に着替えるため服を買う。そしてお待ちかねの公衆浴場(ハマム)へ。


 厳格に男女の接触を避けているようで午前中は男性のみ、女性は午後のみだと入口で青山の入館を断れた。

 口を尖らせて「待ってます」と言う彼女が気の毒で「召喚者なんだけど」と必殺ワードを口にすると、同時に入れる高級ハマムへ行くよう言われた。

 ―――ま、まさかとは思うけど、こ、混浴とかじゃないよね?

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